Side:アインス


ツァイスに到着早々、大きな地震に見舞われた訳だが、幸いにして人的被害がない事を確認したので、ギルドにやって来た訳だ――サングラスの男の事は気になるが、今は先ずキリカから話を聞くのが先決だね。



「こんにちは!お久しぶりです、キリカさん!」

「絶妙なタイミングでの到着ね。発着場ではさぞ驚いたでしょう。」

「相変わらず、何でもお見通しなのね。」



本当に何でもお見通しみたいだなキリカは。
エステルがオリビエとシュテルの事を紹介しようとしたが、既にオリビエとシュテルの事も知っている様だったからな……一体キリカの情報網はどうなっているのか小一時間ほど問い詰めたい感じだ。……問い詰めても答えは得られないだろうがな。
会う前から名前を憶えてくれていたと言う事に、オリビエは感激して何時もの調子で『即興の歌を~~』と言ったのだが、キリカは其れを無視して『貴女達に頼みたい依頼があるの』と言って来た……あのオリビエ節をガン無視するとは、流石だな。



「依頼って、ジャンさんが言いかけてた事ね?ツァイスで何かあったの!?」

「調べて欲しいのは他でもない……先程起こった地震についてなの。」

「地震を……調べる?」

「其れは、街の被害状況を聞いて回るとか、そう言う事か?」

「震源、地震の規模を示すマグニチュード、最大震度、地震による津波の有無……被害状況以外で調べるとしたら此れ位ですね。」

「其処までは必要ないのだけれど……」

「あのー?キリカさーん?貴女の為に即興の曲を……」

「奏でたいのなら、上の休憩所でどうぞご自由に。」



ガン無視されてもオリビエは諦めずに、キリカに振り向いて貰おうと頑張ったが、キリカは見事な塩対応でオリビエを完全に撃退してしまったか。世界広しと言えど、オリビエを完全に封殺出来るのはキリカ位だろうね。
武術大会後に出会ったミュラーは、物理的にオリビエを封殺出来るだろうが、オリビエ節までは封じられていなかったからね。









夜天宿した太陽の娘 軌跡94
『ツァイスでの仕事は地震の調査?』









改めてキリカの話を聞くと、如何やらここ最近、ツァイス全域で地震が多発しているとの事で、実際に三日前にもヴォルフ砦で同じ様な地震が起きたらしい――尤も、その時はツァイス市では揺れは全く感じなかったとの事だが。

「……だとしたら妙だな?」

「妙って、如何言う事?」

「見たm「此れを見て下さいエステル。」……シュテル君、被せて来るのは酷くないかな!?」

「其れについては謝罪しましょうオリビエ。ですが、貴方が口を開くと余計な事を口にして話が進まなくなる可能性があるので、此処は私が説明させて頂きます。」

「酷い!」

「酷くありません。
 さて、エステル。この地図で見る限り、ヴォルフ砦とツァイス市はそう遠くないのですが……この距離で先程の様な地震が発生したのであれば、震源の深さにも因りますがツァイス市にも少なからず揺れが発生している筈なのです。」



そう、シュテルの言うように、ヴォルフ砦で先程の地震と同規模の地震が起きたと言うのであれば、ツァイスでも身体に感じる揺れが起きた筈なんだが、ツァイス市では揺れを観測しなかったと言うのが妙なんだ。
震度1位ならば、分からないかも知れないが……先程の地震の揺れと同程度であるのならば、此方に影響がないのは有り得ん。
キリカも『地震は自然現象だし、人間が如何こう出来るモノではないけれど、何となく嫌な予感がする』と言っているしな……キリカほどの勘が冴える人物が『嫌な予感がする』と言うのは、無視は出来まい。



「キリカさん……分かったわ!アタシやってみる!!」

「勿論、私も一緒にやるぞ?」

「悪いわねエステル、アインス。結社の調査班には関係のない案件なのに。」

「いや、其れこそ関係ないよキリカ……其れに、ルーアンでの幽霊騒動も結果的には結社が係わっていた事を考えると、今回の事も全く無関係と斬り捨てる事は出来ないからな。
 意外な所から蛇の尾を掴む事が出来るかも知れん。」

「どんな小さな事でも見逃さずに調査する!これ、遊撃士の鉄則!!」

「ふふ、確かに其の通りね。
 街での聞き込みはマードック工房長にお願い出来たから、其方は省いてくれて構わないわ――今回の地震の特異性を重く見たのは、私達だけではないのよ。」



街での聞き込みはマードックに既に頼んでいたのか……相変わらずの手際の良さに脱帽だよ。
今回の一件に関しては、既にアガットが調査に乗り出しているらしいが、人手が足りないらしい……ならば、私達が動かないと言う選択肢はあり得ないよな相棒?



「当然でしょ、もう一人のアタシ!」

「……遊戯王ですか?」

「アインスに教えて貰ったのよ。」

「……いい加減誰か僕の相手をしておくれ~~。寂しくて死んじゃいそうだ~~。」



人格交代で容姿も変わると言えば遊戯だからね。……そう言う意味では、高町なのはにシュテルが宿って二重人格になっても面白いかも知れないな?表の人格は天真爛漫で、裏の人格は冷静沈着な理論派と言うのも中々イケてる感じだ。
其れとオリビエ、お前は寂しくて死ぬ魂ではないだろうに……構って欲しいのならば、もっとマシな嘘を吐くんだな。



「酷いぞアインス君!こうなったら、即興の歌を!!赤青黄色、紫の、の~、の~、拳に宿った、どった~、どった~……」

「……何やらバグっている様ですが?」

「ほっとけ、どうせすぐ直る。」

「そうね、無視してやる事やりましょう。」



うん、エステルも大分スルースキルが磨かれているみたいだな。――時には本気で大事になるからなスルースキルは。なので、身に付けておくに越した事はないな。


其れでは、ツァイス中央工房に向かうとするか。








――――――








中央工房には既に話が通っていたらしく、特に面倒な手続きをせずに中に入る事が出来たな――マッタク持って、キリカの根回しの良さには頭が上がらんよ。彼女程のキレ者は、古代ベルカでも見た事がないからね。
其のお陰で、カペルのある部屋まで来れた訳だから、此れは本格的にキリカにお礼の品を送るべきかも知れんな。



「おぉ、エステルにアインスか!」

「お久しぶり、ラッセル博士。」

「無沙汰にしているな博士……連絡の一つも入れずに、失礼をした。」

その部屋にいたラッセル博士に挨拶したら、『連絡の一つもよこさんで』と言われてしまった……ル・ロックルでの合宿があったとは言え、一応の連絡は入れておくべきだったかもだな。
『ティータの奴もひどく心配していたぞ?』と言われては、余計にだ。



「そっか、ごめんね……」

「ティータは、今どこに?家に居るのか?」

「いや、今あの子はトラット平原に向かっとるよ。」

「「トラット平原?」」


ハモッたが、ティータがトラスト平原に居ると言う事は、若しかしてティータまで地震の調査を手伝ってくれていると言うのか?……だとしたら感心この上ない事だ。年端も行かない少女が、今回の事を重大な案件と見て自ら動いていると言う事だからね。

其れは其れとして、ラッセル博士は『アガットのおかげで漸く状況が見えてきた』と前置きしてから今回の地震に関しての見解を述べてくれたのだけれど、其れを聞くと余計にオカシイな?
今回の地震はツァイス地方にだけ限定されていて、しかも局地的に揺れているらしい――そして、其れだけではなく徐々に規模が大きくなっているらしいと言うのは其れだけで只の地震でない事は明らかだって言えるな。
ラッセル博士も、『此のまま放っておくと恐ろしい事になるような気がするのじゃよ……』と言っているしな。
確かに私もそう思うが、だからと言ってその直後に、まさかの新兵器である『七耀脈測定器』が登場した……名前から察するに、地下に存在する巨大な七耀石の鉱脈の流れを測定するモノかな?



「うむ、其の通りじゃよアインス!
 此れはあくまでも七耀脈の流れを観測する為のモノじゃが、その流れを調べればきっと何かが解ける筈じゃ!
 そこでじゃ!この七耀脈測定器をツァイス地方の各ポイントに設置して、七耀脈の流れを感知・測定するんじゃよ!
 そうして得た測定数値を外付けのアンテナで此の演算導力器カペルに順次転送し計算させる!其れを常時行う事でツァイス全体の七耀脈の流れをリアルタイムに分析しようと言う事なんじゃ!」



う~む、此れはまさかの理論ラッシュだったな?私とシュテルは何とか付いて行けているが、エステルとオリビエは頭の上に大量の『?』が召喚されているみたいだね。
其れで、私達は何をすれば良いんだラッセル博士?



「今、アガットとティータに測定器の設置を急いでもらっとるが、全ての作業が終わらんと必要なデータは取れんのじゃよ。
 残るはあと一つ……コイツをレイストン要塞前に設置するだけで完了なんじゃが……」

「つまり、私達に装置を持ってレイストン要塞まで行って来いと言う事だな?」

「端的に言えばの♪」



だが、そう言う事であるのならば是非もない……レイストン要塞に向かわせて貰うよ。――あそこには余り良い思い出はないが、しかし必要であるのならば、訪れないと言う選択肢はないからな。








――――――








レイストン要塞にも話は通っていたらしく、すんなりと中に入る事が出来た……アレだけの策を講じて侵入したのが噓だったのではないかと思ってしまうレベルだったよ。
『装置の件は司令部から聞いているから好きな様にやってくれ』と言われて、装置の設置を行っているのだが……



「あ、アレ?何で動かないのか?え~っと、此処は~~……」

「だ、大丈夫なのかいエステル君?」

「も、モチのロンよ!こんな物は根性で……」

「どうにもなりませんよ?」

「むしろ機械が根性で如何にかなるのであれば、設備屋や修理屋は必要ないからな。」

ラッセル博士に頼まれた装置の設置にエステルは悪戦苦闘しているな……とは言っても、私もラッセル博士の説明書を見ても全く分からないんだけれどね?と言うか、説明書に専門家しか分からない専用用語を使わないでくれ。
頭脳レベルで言ったら此の場に居る誰よりも高いであろうシュテルですら、頭の上に『?』を浮かべているからな。
此のままでは埒が明かないと思っていたのだが、其処にシードが現われて作業を手伝ってくれた。
声を掛けて来た時に、エステルがあの時の事で『助けてくれてありがとう』と礼を言ったのだが、シードは『君達には色々と迷惑を掛けてしまった』と言って申し訳なさそうだったけれど、エステルが笑顔で手を振ると、其れ以上は何も言わずに、そして今こうして手伝ってくれている。
まぁ、結果としてシードとオリビエとシュテルで装置の設置を行っており、私とエステルは蚊帳の外なのだけれどね。



「ははは、やってるようだな?
 シードは王国軍きってのオーバルアーツ使いだ。オーブメントの扱いなら、お前さん達よりも安心だろうよ。」

「と、父さん!」

「カシウス!」

如何して此処に……って、そうか、カシウスは軍に復帰したんだったな?だとしたら、作戦本部であるレイストン要塞に居たとしても何ら不思議はない訳だ。
ふふ、軍服姿もイケてるじゃないか?何と言うかこう、若者には出せない渋さと言うか、中年男性の魅力が引き出されていると言うか……一言で言ってしまえば、ダンディだな。



「おぉ、見る目があるじゃないかアインス。だが、一言で言ってしまえばダンディならば、二言で言うとどうなる?」

「ふぅむ……超・ダンディだな。」

「成程。」

「何を愉快な漫才をしてるのよ父さんもアインスも……でも良かった、元気そうで。」

「今の所はな。其れよりも……ルーアンで蛇が現れたそうだな?」

「「!!」」


流石はカシウス、既にその情報は掴んでいたか。
『俺が動ければいいんだが』と言っていたが、王国軍は未だにクーデター事件のごたごたで暫く身動きが取れず、身喰らう蛇の調査に関してはギルドに頼らざるを得ない状況との事らしい……まぁ、確かにカシウスが動ければ、其れに勝るものはないからな。
……まさかとは思うが、身喰らう蛇はカシウスが軍に復帰し、そのせいで暫く動く事が出来なくなる事まで見越してリシャールにクーデター事件を起こさせたとか言わないだろうな?だとしたら、余りにも先を読み過ぎだろうに。



「連中ならば其れ位はやっても不思議はない……だからこそ、お前も気を付けた方が良いぞアインス。」

「私がか?」

「そうだ。その半実体化したお前には、俺ですら触れる事は出来ず、今の所触れる事が出来るのはエステルだけだろう。
 お前に触れる事は出来ないのに、お前から触れる事は出来ると言うのは、言ってしまえば一方的に攻撃出来ると言う事だが、連中が其れを知ったら、触れる事の出来ないお前に触れられるようになる何かを作り出すかも知れん。
 そうなれば、現状無敵状態であるお前のアドバンテージは一気に無くなってしまうからな。」



そう言う事か。
確かに、あの変態仮面には色々と手の内を曝してしまったから、この状態の私に触れる事が出来るようになる何かを開発される可能性は充分にあるし、そんなモノが出来てしまったら、此の半実体化は有利ではなく一気に不利になる――この状態の私がダメージを受けたら、同じダメージがエステルにフィードバックしてしまうのだからな。
まぁ、そんな事になったその時は、私が引っ込むか人格交代するか、或はユニゾンするかで対処出来るが……一方的に攻撃出来るアドバンテージが無くなると言うのは痛いな。

そんな事を話している間に装置の取り付けは終わり、街に戻るだけなのだが、その前にカシウスから『シードはクーデター時の活躍で昇格して中佐になったんだ』と聞かされた。


「「おめでとう、シード中佐。」」

「レヴィが世話になった人物が昇格と言うのは、私としても嬉しいモノがありますね。おめでとうございます。」



シードは少しばかり照れ臭そうだったが、彼ほどの人物ならばもっと上に行ける筈だ――何れはカシウスの右腕になってくれる事だろう。……それにしても、結社の調査を軍がギルドに頼らなければならないとは、モルガン将軍では考えられん事だ。
軍と遊撃士、その双方を知るカシウスが軍に復帰したからこその事かもしれないな。



「其れじゃ、改めて行くね。」

「待ていエステル!もう一つだけ言っておく!
 ……改めて、すまなかった。ヨシュアの事をお前に言っていなかったのは、前にも言ったが俺のエゴだ。結果的にお前を傷付ける事になって、悪かったと思ってる。」

「ううん。アタシこそ、お城では父さんの気持ちも考えずに酷い事言ってゴメンね……あの時、アタシは自分の事しか見えてなかったから。
 でも、今ならちゃんと分かるんだ……だって、父さんにそんな事言える訳がないの。
 当然よ、家族だもん。大好きな家族が何時か居なくなっちゃうだなんて……そんな事、絶対に考えたくないモノ。」

「私は、居なくなる側だったが、其れでもその気持ちは分かる……家族と離れ離れになる等、考えたくはないからな。」

「エステル、アインス……はは、覚悟はしていたんだがな。
 アイツが居なくなった事が、思ったよりも堪えたらしい……エステル、アインス如何か頼んだぞ。ヨシュアを、あの馬鹿息子を連れ戻してくれ。」

「うん……」

「是非もないさ。」

家出した弟の事を探さずに、連れ戻そうともしない姉は存在しないからな……必ず連れ戻して見せるさ。ドレだけの闇に潜もうとも、太陽の光から完全に逃げ切る事は出来ないからね。










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