Side:アインス
ブルブランは取り逃してしまったが、其れでもヨシュアが結社に戻っていないと言う事と、ブルブラン以外の執行者がリベールに来ていると言う情報を得る事は出来た。
なので、ジャンに報告に来たのだが……
「戻って来たか。」
「おかえりなさーい♪」
ギルドで私達を待っていたのはナイアルとドロシーだった。――何故此処に?と聞くのは野暮だろうな?……大方、ルーアンの市長選挙の取材をしていたらルーアンで起きている事件の事を知って、その詳細を聞きにギルドにやって来たと言う所か。
「エステル、アインス、何方様ですかこの愉快な凸凹漫才コンビの風格が漂うお二人は?」
「シュテル……凸凹漫才コンビって幾ら何でも。いや、確かにボケのドロシーと突っ込みのナイアルで良い感じのコンビになるかもしれないけどね?」
「否定出来んのが悲しいな。」
シュテルが真顔で一発かましてくれたが、其処からエステルがナイアルとドロシーの対応に追われていたジャンにナイアルとドローを『リベール通信の記者で、此れまで何度も事件解決に力を貸してくれた恩人だ』と紹介し、クローゼとオリビエも『今回の事件の調査を手伝ってくれた協力者』と紹介した。
まぁ、ジャンはクローゼの事は知っていてもオリビエとは初対面だから、こうしてちゃんと紹介しておいた方が良いな。
「あなた達がナイアルとドロシーでしたか……レヴィから話は聞いています。シュテル・ザ・デストラクターと申します。以後お見知りおきを。」
そして、最後にナイアルとドロシーにシュテルが自己紹介をして、此れでメンバー紹介はお終いだな。
「ねぇ、ジャンさん……今回の事件のあらましと結果報告、此処にいるみんなに聞いて貰っても良いかしら?
皆も……巻き込む事になっちゃうけど、其れでも良かったら知っておいて欲しいの……今、このリベールで何が起きようとしているのかを。」
エステルがこんな事を言ったが、此の場に居る全員が『巻き込まれる』だなんて思ってはいないさ……クローゼはこの国の姫殿下として、ナイアルは真実を民衆に伝える報道者として、今回の事に向き合う覚悟があるからな。……ドロシーとオリビエは、良く分からないけどね。
其れを聞いたジャンも、『まぁ良いか。早速始めて貰おうか』と言ってくれたからな……リベールに渦巻く陰謀、多くの人に知らせるべきではない事だが、知っておくべき者には知らせておくべきだね。
夜天宿した太陽の娘 軌跡93
『ルーアンの次はツァイスに行こうか』
エステルの報告を聞いたジャンは、今回の事が実は途轍もなく大きな事態だった事に少し驚き、ナイアルはブルブランの正体に驚いていたな?
ナイアルの話によると、ブルブランは矢張り『怪盗B』と名乗っている有名な盗賊らしいな?……自ら出した謎を全て解いた場合には、盗品を返却すると言うのは律儀なのか何なのか良く分からんが。
「所詮は自己陶酔型人間の単なるアピールだろうが……何て軽く見ていた俺が浅はかだったぜ……クソ。」
「あー……いや、其の通りなんだけどね?」
「まぁ、確かに……彼には別の目的があったようだが……」
「えぇ、新型の『ゴスペル』の実験……ですね。」
いや、そうじゃないだろクローゼ?
新型のゴスペルの実験はあくまで序であって、ブルブランの本当の目的はお前だからな?……もしも私達が居なくて、クローゼが独自に幽霊騒動を調べていてブルブランと出会った可能性があると言う事を考えると、恐ろし過ぎてゾッとする事すら出来んな。
「そう言えば、新型じゃない方の、クーデターで使われたゴスペルは結局どうなったんだ?」
「其れでしたら、王国軍が回収した後、カシウスさんが保管役を務めて下さっています。
また、折を見てラッセル博士に詳しい解析をお願いするとの事でした。」
「なら、新型の事も知らせた方が良いかも知れないな。」
尤も、カシウスならば既に新型のゴスペルの事も把握しているかも知れないが、一応な。
取り敢えず、ブルブランが直々に終結宣言をしたのだから、今後ルーアンで幽霊騒動が起きる事はないだろうが……ブルブランは、結社の計画は始まったばかりだとも言っていた。
幽霊事件は解決したかもしれないが、其れ以上の事が此れから先リベールで起こる可能性は極めて高いと言う事になるな。
「アインスの言う通り、リベール各地で何かが起きる可能性は高いと思うの……だからその、ジャンさん、ルーアンを任された正遊撃士が無責任だとは思うんだけど……アタシ、他の地方への調査をしに行ったらダメかしら!?
其の、他の街に居るシェラ姉達にも今回の事を伝えたいし、結社への対策が手薄になってる王都の様子も気になるの……も、勿論、ルーアンを放ったらかしにするって訳じゃないんだけど……」
「何言ってんだエステル君!寧ろこの際、片付いたルーアンは放ったらかしにして良いよ!
君はその分、色んな所へどんどん攻めて行くべきだ!」
エステルの申し出に、ジャンは渋るどころか『ドンドン行け』と言ってくれただけでなく、『行き先が決まってないならツァイスに行ってみないか?』とも薦めてくれた……確かに、ツァイスにはラッセル博士が居るから、新型ゴスペルの事を伝えるために今一番言っておくべき場所かもしれんな。
尤も、他にもツァイスに行った方が良い理由があったようだが、ジャンは『キリカから直接聞いた方が良い』と言って詳細は話してはくれなかった……私とエステル以外には話さない方が良いと判断したのだろうな。
「分かったよジャン、私とエステルはツァイスに向かう事にする。」
「私も同行しますよ、エステル、アインス。理のマテリアルたる私の思考能力と殲滅の力、其れはきっと役に立つと思いますので。」
「そうね……一緒に来てシュテル。レヴィも何だかんだで凄い子だったし、貴女も凄い力を持ってるみたいだから是非その力を貸して欲しいわ!」
シュテルの同行は此れで決定。
だが、そうなると王都をどうするかだ……ロレントはシェラザード、ボースはアガット、ツァイスは私とエステルとシュテルが担当だが、王都だけは担当者が居ない――よもやオリビエに任せる事は出来んからな。
「でしたら、手が回っていない王都グランセルへは、代わりに私が様子を見に行くと言うのは如何でしょうか?」
「「クローゼ?」」
思わずエステルとハモってしまったが、まさか此処でクローゼが王都担当に名乗りを上げるとは思わなかったが、クローゼはクローゼで『結社の脅威からリベール王国を守る為にも、協会の方々をサポートする力はもっとあっても良い』と考えての事だったみたいだ……リベールを守る事を第一に考えての事とは、お前はもう立派に次代のリベール国王としての器を備えていると思うよクローゼ。
「王都には、リベール王国女王アリシア陛下が居られます。
現状を知れば、陛下は必ずお力をお貸しくださるはずです……僭越ながら、その伝令役ならば私でも務められると思いますので。」
「いや、お前以上の適任は居ないよクローゼ……他の者から聞かされたならいざ知らず、孫娘からの情報となればアリシア女王は間違いなく力を貸してくれる筈だ。」
「アインス、その心は?」
「孫の頼みを断るお婆ちゃんは存在しない。」
「うん、納得。」
アリシア女王陛下ならば、クローゼ以外から齎された情報であっても力を貸してくれるだろうが、矢張り孫娘からの直々の情報と言うのは別格だからね……より信憑性を感じてくれる事だろう。――実際にクローゼが結社の人物と相対したと言うのも大きな要素にはなるだろうがね。
「其れは良いんだがクローゼ、お前学園の授業は?」
「実は……今朝、学園長に休学届を出しちゃいました。ジルもハンス君もそうしろって♡」
マジか!?
だが、裏を返せばハンスもジルも、クローゼは今回の一件にトコトン関わって真相を追及するべきだと思った訳だな……マッタク、アイツ等は本当に良い奴等だ。エステルとクローゼ、そして今此処には居ないヨシュアの一生の友人になるのは間違いないだろうな。
「よぉーし!そんじゃ、俺等もそろそろ取材に戻るとすっか!」
「ナイアル!」
「分かってるって。こんなヤバいネタ、おいそれと記事に出来るかよ。
でもまぁ、お前さん達とはギブアンドテイクな仲だしな……其れっぽいニュースが入ったらすぐに連絡してやっからな……!」
「あぁ、感謝しているよナイアル。」
「だからその……まぁ、頑張れ!!」
ナイアルもナイアルで取材に戻って行ったが、其れらしいニュースが入ったらすぐに連絡すると言って、エステルの背を叩いて行ってしまった……地味に叩かれた背中が痛い。叩かれたのはエステルでも、痛みを共有するのは精神は二つでも身体は一つだからだな。
だが、その後でドロシーが言うには、ナイアルはナイアルでカシウスからヨシュアの事を聞かされてショックを受けてたらしく、エステルの力になれる事は何かないかと考えていたらしい……マッタク、ナイスガイだなナイアルは。
「大丈夫!皆応援してるから、『ふぁいとおー』だよ、エステルちゃん!」
「うん、ありがとう……」
此れだけのエールを貰ったら、其れに応えないのは嘘だな……あぁ、応えるさ!――結社の計画とやらが何かは知らないし、ヨシュアが今どこで何をしてるのかも分からないが、私達が諦めない限り、結社の計画は阻止するしヨシュアも必ず見つけ出して家に連れ帰る、其れだけだ!
「其れでは気合が充実した所で、アレを行きましょうアインス。燃える闘魂のアレを。」
「そうだな、景気付けに一発行っておくか!其れでは皆さんご一緒に!行くぞー!1!2!!3!!!ダーーーー!!!!」
「「「「「ダー!!!」」」」」
決まったな!
気合も充実した所で、ツァイスに向かうとするか!
――――――
Side:ケビン
俺の仕事を達成する為には、結社の連中――特に執行者を何とかせなアカンと思って、闇から仕留めるチャンスを伺ってたんやけど、完璧に気配は消していた筈なのに気付くって、ドンだけのバケモンやねんアイツ等?
正直な所、酔っ払いの集団が居らんかったら、俺は物言わぬ屍になってたやろな。……寿命が縮むかと思ったわ。
「如何やら、命拾いをしたようだな?」
「ふ……エイドスに感謝するが良い。」
やかましいわアホたれ……言われんでも感謝しまくりやっちゅーねん。
せやけどアイツ等、正直俺一人の手で如何にか出来る相手とちゃうな?ぶっちゃけ俺の手には余るわ……アイツ等を如何にかするには俺以外の力が必要になる――となると、少しばかり其の力を貸して貰うで遊撃士さん?
特に、エステルちゃんとアインスちゃんは、立ち回り次第では結社の横っ腹に風穴開けてくれるかも知れへんからな……ったく、普通に他者を利用する思考が出来る自分に嫌気がするわホンマに。
けど、俺は今の生き方に後悔はない……こうして、あらゆるモノを利用して外法を狩る事こそが、俺の使命みたいなもんやからな。
――――――
Side:アインス
ルーアンから飛行船に乗って、やって来ました工房都市ツァイス!リベールでも特に技術が発展したこの街は、リベールの最先端技術が集まっていると言っても過言ではあるまいな。
「成程、此処はまた独特の雰囲気が漂う街だね?あの一際大きな建物は何だい?」
「あれは……ツァイスの中央工房ね。
リベール王国の導力技術の研究を一身に担っている開発機関なのよ……って言うか、シュテルは兎も角、何でアンタがこっちにいる訳?」
うん、それな。如何してお前が此処にいるオリビエ?
「ふ、何を異な事を言うのかねアインス君。
君達がツァイスに赴くとあって、僕が行かない理由が何処にあると言うのか……君はこのツァイスに何があるのか忘れたのかい?
そう、ツァイスと言えばエルモ温泉!湯煙に包まれた、魅惑の男女混浴露天風呂!」
成程、其れが目的か……なら、取り敢えず死ね。
――ズドォォォォン!!!
「のわぁぁ!?行き成り何をするんだねアインス君!!」
「いや、脳内花畑になっている自由人に一発喝を入れてやろうかと思ってね……マッタク、よく避けたな?」
「アインス君、僕を殺す心算かい!?」
「まさか、本気で殺す心算なら、直射砲ではなくお前の頭を鷲掴みにして、其処にエアロスパークをぶちかましているよ……其れでもお前は死にそうにないがな。」
「あ~~~……確かにオリビエって殺しても死にそうにないわよね。父さんの本気の一撃喰らってもケロッとしてそうだわ。
其れよりも、とにかく先ずはギルドよね。キリカさんに挨拶しなくちゃ。」
そうだな、さっさと行くとしよう。
「そうですね、時間は有限ですので先を急ぎましょう。
時にキリカとは、ルーアンの受付のジャンが仰っていた『キリカ嬢』の事でしょうか?」
「其れは僕も気になったね?名前からして東方の女性のようだが、どんなご婦人なんだい?」
ギルドに向かうとなった所で、シュテルとオリビエがキリカについて聞いて来たので、エステルが『すっごい美人な、すっごい出来るツァイス支部の受付さん。変な気起こしたら絶対に痛い目見るわよ?』と説明していた……後半はオリビエへの警告だろうね。
其れを聞いて『其れを聞いて益々興味が湧いて来たよ』と言うオリビエも如何かと思うが……まぁ、キリカがオリビエにどうなると言う事もないだろうから問題なしだろうが。
では、改めて――
――ズン!!!
「「え?」」
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
一瞬揺れたと思ったら、その直後に立ってられない程の激しい揺れが……とは言っても、私は宙に浮いてるのでエステルが感じてる揺れを感じているに過ぎないが。
「な、何なの此の揺れ!?」
「こ、此れはまさか……キリカさんの怒り!?キリカさん、こえぇ!!」
「んな、訳あるか!」
「物理干渉する怒りとは、キリカと言うのも凄い人ですね。」
「お前も乗るなシュテル!」
発着場の職員が『地震』だと説明していたが、地震とは珍しいな?……暫くして揺れは止まったが、滅多に起きない地震が起きるとは、何か良くない事の前触れではないと良いのだが。
此の世界に来て十年経つが、地震など片手の指で数えるほどしか経験していないからね。
《エステル、ギルドに行く前に街の様子を見ておこう。結構大きな揺れだったから、何かしらの被害が出ているかも知れない。》
《うん、アタシも街の事が心配だったから。》
エステルも同じ考えだったか。
発着場から街に出て、一通り街を見て回ってみたが、目立った被害はなかったみたいだな……屋台の商品が揺れで落ちて割れてしまったと言った被害はあったが、怪我人が出た感じではなかったからな。
「そうね、良かったわ。」
「怪我人が居ないのは幸いだったな……ん?」
「あれ?」
妙な気配がしたのだが、エステルも気付いたみたいだな?……その気配がする方を見てみると、建物の屋根の上に黒服を纏ってサングラスを掛けた大柄の男の姿が。
体格的にはジンに勝るとも劣らない感じだが、どうにも嫌な感じがするな?私の思い過ごしなら良いのだが……
その後、オリビエとシュテルが追い付いたので、あの男の事をエステルが聞こうとして指を指した時には、男の姿はもうなかった……時間にして十秒にも満たない間に、建物の屋根から居なくなるとは、少なくとも身体能力はトンデモナイ事は間違いないだろうね。
「あれ?」
「何だい?どうかしたのかい?若しかして面白いモノでもあったのかい?」
「其れとも怪しいモノでも見つけましたか?」
「あ~……何でもないわ。って言うか、シュテルまた凄い事になってるみたいなんだけど?」
「おや?」
『『『『『『『『『『にゃお~~~ん。』』』』』』』』』』
そしてシュテルは猫を引き連れて来たか……如何してシュテルはこうも猫に好かれるのか、マッタク持って分からんな。
何にせよ、ギルドにだ。キリカならば今回の地震の事も既に知っているどころか、オリビエとシュテルそして私が半実体化出来るようになったと言う事まで把握していそうだから、何か有益な情報を聞く事が出来るかも知れないしね。
だが、其れとは別に先程の男の事は気に止めておいた方が良さそうだ……千年を生きて来た私の勘が言っている。あの男は決して無視出来る存在ではないとな……!
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