Side:アインス


ブルブランによって動きを封じられながらも、クローゼは屈する事無く『心だけは決して縛られない……私が私である限り、絶対に』と言い放ったか…
…その気高さは、リベールの次期国王に相応しいと言えるな。
その目に宿る力は気高く、そして強い……私もクローゼのその姿に惹かれた訳だが。



「そう、その目だよクローディア姫!!」



そのクローゼを見たブルブランが何か言っているが……色々大丈夫かコイツは?見た目の怪しさは勿論だが、何と言うか性格とか人格にも難がある
だろう絶対に?
取り敢えず、バインドで拘束しておくか。



――バシュン!!



「む……人が話しをしている時に攻撃してくるとは、些か無粋ではないかな?」

「ふん、避けておいてよく言う。
 其れと、お前の様な変人の言う事に耳を貸してやる義理も義務もないのでな……なのでさっさと大人しく捕まれ、お縄になれ。其れとも、縄よりチェ
 ーンの方が好みか?
 どの道お前では私には勝てん。大人しく捕まった方が身のためだと思うが?」

「ふむ……確かに直接的な戦闘力では勝てぬだろうが、宿主の少女の動きが制限されてる以上、肉弾戦では射程限界があり、魔法とやらも無限に
 使えるモノではないと見た。
 つまり、勝てずとも負けない戦いは出来る故、捕まる義理も義務も其れこそ皆無!」



先程の僅かな攻防で、魔法の弱点も見切るとは、『執行者』の名は伊達ではないと言う事か……厄介な奴だ。
だが、此の状況で『負けない戦い』をされてしまうと、不利になるのは此方か……ならば、此処は奴の捕縛ではなく、奴から少しでも情報を引き出す
事にするか。

「ふ、魔法は無限に使えるモノではないと見抜くとは中々やるじゃないかブルブラン……その慧眼に敬意を表して、先程中断させてしまった話を改め
 て最初から、心行くまですると良い。」

「ほう?……では、お言葉に甘えて。」



って、乗るのかお前は!
まぁ、コイツの話から、何か情報が得られる事に期待しよう。









夜天宿した太陽の娘 軌跡92
『怪盗紳士と愛の狩人と事件の後と』









「そう!その目だよクローディア姫!
 怪盗とは美の崇拝者!気高きモノに惹かれずにはいられない!そして姫!貴女は、その気高さ故に美しい!最早貴女には、私から逃れる術など
 ありはしない!」


《アインス、本当に最初からやり直したわよコイツ。》

《律儀と言うべきなのか、残念な実力者と言うべきか判断に迷うな。》

『改めて最初から』とは言ったが、まさか本当に最初からやり直すとは思わなかったぞ……しかも、取り立てて有益な情報があった訳ではないと来て
いるからな?言わせてしまった事を少し後悔している。
まぁ、クローゼが気高くて美しいという意見にだけは完全同意ではあるが……お前から逃れる術は存在しないと言うのは間違いだ。何故なら、クロー
ゼには、既に私が居るのだからね――私が居る限り、お前にはクローゼに指一本触れさせはしないさ。



「フフフ……」



と、此処で笑い声……この声は、オリビエか?……普通に歩いて来たが、そうかオリビエとシュテルは距離が離れていたからブルブランに動きを封じ
られなかったのか。
自由に動ける人間が二人も居れば、ブルブランも捕まえられるか?



「……確かに、姫殿下の美しさを認めるにやぶさかではない。」



と思っていたら、な~にか言い始めたぞオリビエは?



「だが、残念ながら君は、余りにも初歩的な勘違いをしているようだね?」

「何!?」

「彼女の美しさは、君のちっぽけな美学等で計れるモノではないのさ……顔を洗って出直して来たまえ!」

「おお……なんたる暴言!如何なる理由で我が美学を貶めると言うのか!返答次第では只では済まさんぞ!!」



そして何か始まったぞ?



「ならば問おう!『美』とはなんぞや!?」

「何かと思えば馬鹿馬鹿しい!
 『美』とは気高さ!遥か高みで輝く事!!」

「笑止!!真の『美』……其れは、愛!!」

「何っ!?」

「愛するが故に人は美を感じる!愛なき美など、虚しい幻に過ぎない……気高き者も、卑しき者も、愛があれば皆美しいのさ。」

「くっ、小賢しい事を!
 だが、愛こそ虚ろにして幻想!人の感情など経ずとも、美は美として成立しうる!
 そう!高き峰の頂に咲く花が、人の目に触れずとも美しい様に!!」

「フ……」

「クク……」

「フフフフ……」

「クククク……」

「「ハハハハハ……」」



なんだ今の?そしてなんだコイツ等?
『白い影』の正体を探っていく中で、『オリビエではないか?』と思った事もあったが、其れはあながち間違いではなかったみたいだね……オリビエと
ブルブラン、コイツ等同類項だ間違いなく。



「まさか、こんな所で美を巡る好敵手に出会えるとは……貴殿、名前を何と言う?」

「オリビエ・レンハイム。愛を求めて彷徨する、漂泊の詩人にして狩人さ♡」

「良いだろう!貴殿に敬意を表して、今宵は此れで立ち去るとしよう!」



なに!?逃がすか、サークルバインド!!



「ふ、魔法とはアーツよりも強力な攻撃方法と見たが、攻撃の予兆が見えてしまうのが弱点だ!アーツと違い、発動を潰される事はないようだが、攻
 撃が来ると分かっているのならば躱すのは容易!……尤も、我等執行者に限れば、の話ではあるが。」



コイツ……矢張り侮れん実力を持って居るか。
ブルブランが言うには、『この地での実験は既に成功している。念願の姫君との拝謁が叶い、好敵手とも出会えた今、此処に留まり続ける理由はな
い』との事……まぁ、確かに己の目的が果たされた以上は、此処に留まる意味はないか。



「ま、待ちなさいブルブラン!アンタにはまだ聞きたい事が!!ヨシュアは、ヨシュアは今どこに居るの!?」

「《漆黒の牙》か……記憶を取り戻したと聞いているが、何処で如何している事やら。
 まぁ……彼については後々聞ける機会もあるだろう。そろそろ頼執行者達も、このリベールに来て活動を始めているだろうからな。
 計画はまだ始まったばかりだ……精々気を抜かぬが良かろう……さらばだ、諸君。」



エステルがブルブランにヨシュアの居場所を聞いたが、ブルブランは知らないらしい……と言う事は、結社もヨシュアの行方は掴めていないと言う事に
なるな――ブルブランからヨシュアの情報を得る事は出来なかったか。
だが、ヨシュアの情報は得る事は出来なかったが、他の執行者がリベールに来ていると言うのは貴重な情報だ――何処に執行者が現れるのか、そ
れは分からないが、其れらしきモノが現れたら其処で叩き潰してけば『計画』とやらを頓挫させる事が出来るかも知れないからな。



「でもアインス、アイツ等はとっても強いわ。」

「あぁ、そうだな……そして、私も今回は手の内を曝しすぎたよ。」

ユニゾンは兎も角、半実体化状態での攻撃は晒すべきではなかったかも知れないな……ブルブランが結社に今回得たデータを持ち帰って、半実体
化した私を如何にか出来る何かを開発されたら目も当てられんからな。
此れは、その時の事を考えて私も対抗手段を考えねばだ……取り敢えず、イミテーションにはなるが、騎士達の獲物を再現してみるか。半実体化し
た私が使えるだけでなく、私が表に出ている状態と、ユニゾン状態――いっそ通常状態のエステルでも使えるようにしてみるか。
レヴァンティンとグラーフアイゼンは、其れ程戦闘スタイルに影響は与えないだろうが、クラールヴィントは使いようによっては可成りの有効武器にな
るかも知れん……補助的な使い方が多かったクラールヴィントだが、アレを攻撃に使ったら若しかしたら大化けするかもだな。








――――――








Side:エステル


ブルブランが去った翌朝、アタシはハンス君と旧校舎に『立ち入り禁止』のテープを張る作業していた……スクラップになった人馬兵はそのままだけど
ね。



「しかし、おっそろしいな……こんな怪物が俺達の近くで暴れてただなんて。
 ……遊撃士って大変だな――こんな化け物とも戦ったりしなきゃならないなんてさ……自慢じゃないが、俺だったら速攻で逃げ出してるぜ!!」

「うん、それは本当に自慢じゃないわね。」

怪盗紳士ブルブラン……結社の《執行者》……おかしな奴だったけど、アイツの強さは多分本物だ――結社には、あんな実力者がきっと未だ居るん
だわ。
その結社が、アタシ達のリベール王国を脅かそうとしている……そんな闇の組織に、ヨシュアは居たんだ――でも、アイツはヨシュアの行方を知らな
かった……ヨシュアは結社には戻ってないって事よね?



《当然だろうエステル?お前が知るヨシュアは、悪事に手を貸す様な奴だったか?違うだろう?》

《アインス…そうね、そうよね。》

そうだ、ヨシュアが悪事に加担する筈がない……でも、だったら尚更、如何してヨシュアはアタシ達の所に戻ってこないの?如何してヨシュアは、アタ
シを残して……如何して、何でなのよヨシュア……!!



《其れは秘密のあっこちゃんだな。》

《ぶふぉ!!?》

《以外に嵌ったみたいだな?》

《ゆ、油断してたボディにクリティカルヒットしたわ……!!》

《大成功!……とは別に、ハンスがお前を呼んでるぞ?》

《マジかい!!》

「あ……えっと、ハンス君、何の話だっけ?」

「いや、色々と大変だなぁって。
 それで、その……大変ついででさ……アイツ、行方不明なんだってな。あ、いや詳しい事は全然知らないんだけどさ。」

「いや、此方こそ黙っていて悪かったなハンス。」



って、其処はアンタが返すのかいアインス!
でも、心配しないでハンス君。ヨシュアは自分から居なくなっただけで、家出みたいなモノだから――其れ以外の事は、正直アタシも知らないの。ヨシ
ュアの居場所も手掛かりも、居なくなった理由さえ……何にも分からないんだ。



《唯一分かっている事は、ヨシュアはお前の事が好きで、お前もまたヨシュアの事が好きだと言う事位だな――相思相愛故に起きた悲劇か……こう
 言っては何だが、劇のあおりとかに使えそうな気がするのは私だけか?》

《アインス、オリビエみたいな事言わないでくれる?》

《オリビエと一緒にされるのは、なんだかとっても負けた気分だなぁ……だが、本当にアイツは今どこで何をしているのやらだ――ドロシー辺りが撮っ
 た写真に偶然写り込んだりしてくれれば良い手掛かりになるのだがな。》

《そりゃ、流石に希望的観測が過ぎるっしょ。》



「こう言うの、俺が言うまでもないと思うけど……」

「ハンス君?」

えっと、如何したのかしら?



「俺、ヨシュアとは妙に気が合ってさ……少しの間だったけど、アイツとは本当に色んな話が出来たんだよ。
 世間話だけじゃなくて、結構プライベートな事とかもさ――ヨシュアだって、エステルの家に来てからの事なんかを結構話してくれたんだぜ?」

「え?そうなの?」

「其れは、少し意外だな?」

「あの時のエステルはこうだったとか、この時のエステルはああだったとか、心温まるエピソードをうんざりするほど聞かせて貰ったよ……」

「えぇ!?」

ちょ、ヨシュア、一体なにをハンス君に話したってのよ!?
まさか、アレは話してないわよね?ミストヴァルトに『主』を捕まえるために一人で行った時の事とか、シェラ姉の授業の時に自信満々に答えて、其れ
が間違いだった事とか!!



《オムライス作ろうとしてフライパンがファイヤーは絶対話してるだろうな。あと、カレーが大噴火。……何でカレーを作ろうとして富士山大噴火になる
 のか謎だ。我が主が見たら本気でブチキレる案件だなあれは。》

《アレで、カレーは強火で火に掛けてはいけないと学習したわ。》

カレーは弱火でコトコトよね。
さて、其れからもハンス君はヨシュアとの事を話してくれたんだけど、ハンス君がヨシュアに『ロレントに来る以前の事』を聞いたら、『その瞬間に、ホン
の一瞬だけど、瞳が黒く濁って感情がプツリと切れた音がした』か……ロレントに来る前のヨシュアは、結社の一員だった訳だから、その事は話せな
いわよね流石に。



「ヨシュアが居なくなったのは、その辺りが原因なんだろ?」

「多分……」

「と言うか、ほぼ確実にな……」

「そっか。
 ……夜、寝る前にさ、その日あった事を話したりするだろ?劇の練習キツかったとか、今日のランチは旨かったとか……そんな他愛ない話を、アイ
 ツは、本当に眩しそうな顔して聞いてるんだよ。
 まるで……手の届かない宝物を眺めているような……それでいて、自分には手が届かないのが当然だと納得してるような、そんな表情で……」

「ヨシュア……」

届かないだなんて、ホント馬鹿なんだから……一体、ヨシュアの過去に一体何があったって言うの?
そんなの、アタシには如何だっていい事なのに!!



「……そうだよな!!
 過去が何だって?そんなもん……全然マッタク関係ねぇよ!アイツにも、俺達と同じ様に心から笑ったり!恋をしたり!馬鹿やったりする権利があ
 る!……だろ?」

「ハンス……うん、お前は今とても良い事を言った。お前の言う通りだよ、一つの間違いもなくな。」



ハンス君、確かにアインスが言うようにその通りよ!ヨシュアにだって、アタシ達が普通に感じてる事を普通に感じる権利はあるんだから!
ヨシュアの過去がどんなモノであっても、だからと言ってアタシ達が普通だと思ってる事を出来ない理由にはならないわ!……其れなのに、最初から
『ダメだ』って諦めてるなんて、バカヨシュア!アタシだけじゃなく、アンタにはアンタの事を慕ってくれてる人が居るんだからね?



「だからさ、そんな顔してないでさっさとヨシュアを連れ戻してきてくれよな?」

「あはは……うん、そうだね。」

ありがとうハンス君。
今回の一件で、執行者がトンデモナイ奴だって分かってらしくもなく尻込みしちゃったみたいだけど、ハンス君のおかげで気合が入ったわ!アタシは
誰が相手でも迷わない!ヨシュアに会う為なら、なんだってしてやるわ!!








――――――








Side:ハンス


今回の事で少しばかり落ち込んでたみたいだが、何とか復活できたみたいで良かったぜ……頑張れよエステル、其れとアインスさん。
皆待ってるんだからな?そしてまた、無事にアイツと会えたら、もう二度とあんな顔させないでやってくれ。



「じゃあまたね、ジル!ハンス君!!」

「一晩だけだが世話になった……其れとハンス、思春期故に仕方ない事ではあるのだと思うが、女の尻を追うのは程々にな。」

「んな!?俺はそんな事してねーって!!」

「はは、冗談だ♪」



アインスさんは、何て言うか大人の女性の余裕って言うのか、そんな感じがあるんだけど、こう言う事を行き成り言って来るから心臓に悪いぜ……で
も、そのアインスさんとエステルのコンビだからこそ、ヨシュアの事を任せられるぜ。
頼んだぞ?
今のアイツに、そんな事をしてやれるのは、万物を照らす太陽でありながら、宵闇の夜天を内包したお前だけなんだからな、エステル!!










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