Side:アインス


ハードな訓練を終え、シャワーを浴びて一息吐こうかと思って居たのだが、エステルはベッドに突っ伏して速攻でバタンキューだ……底なしの体力を
誇るエステルが此処までなるのだから、本当にハードな訓練だったよ。まぁ、ユニゾンしていたのも影響しているだろうがね。

だが、其れは其れとして、部屋に戻る前に管理人の女性が聞かせてくれた、『リベールでクーデター事件が起こっていた時に、エレボニア帝国で遊
撃士を標的にした大規模な襲撃事件が起こっていた』と言うのは気になるな?
しかも、その事件では帝国にあった遊撃士協会支部が、ほぼ壊滅してしまったと言うのだから相当なモノだろう……犯人は『ジェスター猟兵団』との
事だが、何とも怪しげな集団のようだな?



「猟兵団……なんかヤバそうよね?……でも、遊撃士協会がほぼ壊滅状態にされるだなんて……何者なのかしら?」

「さてな……だが、自ら『道化師』を名乗ってると言うのは、中々に曲者が集まった一団なのかも知れん。」

「管理人さんも言ってたけど、リベールとエレボニアで嫌な事件が重なちゃったわよね……帝国の遊撃士協会が壊滅かぁ……リベールは大丈夫か
 なぁ?」

「大丈夫にするのが、私達遊撃士の仕事だろう?」

「アインス、確かにそうよね!」



国を守るのは本来王国軍の仕事だが、ハッキリ言ってその軍のトップであるモルガン将軍が全く持って頼りにならんからな?リシャールが刑期を終
えて軍に復帰するか、シードが今よりも権限のある地位に就くまでは、私達遊撃士がリベールを守らねばなるまい。カシウスが軍に復帰したとは言
え、行き成り軍の全てを改善するのは流石に不可能だろうからね。
と言うか、各地の関所に居る兵士は割と優秀な気がするが、レイストン要塞の兵士が不安だ……シードの手引きがあったとは言え、私達がアッサリ
とラッセル博士を救出して脱出出来たと言うのは、大失態と言わざるを得ないからな。

「さて、今日は疲れただろうからもう寝ようか?明日もきっと、厳しい訓練が待っているだろうからな。」

「うん……お休み、アインス。」

「お休み、エステル。」

ふふ、直ぐに寝てしまったか……眠っているエステルの髪を撫でてやると、我が主に同じ事をしていたのを思い出すな。……さて、私も寝るか。
エステルの疲労は私にも伝わってくるからね。……明日に備えて寝ておくに越した事はないか。

しかし、リベールとエレボニアで同時期に起きた大きな事件か……同時期に起きたのは果たして偶然なのだろうか?……もしや、どちらの事件の背
後にも『身喰らう蛇』が?……いや、流石に其れは考え過ぎか……









夜天宿した太陽の娘 軌跡84
『襲撃!推理!そして真実は!!』









――ドン!ドン!!



「ふぇ!?」

「何だ!?」

気持ち良く眠っていたと思ったら、ドアが激しくノックされ、そしてアネラスが入って来た――何事かと思ったのだが、『何者かが、此の宿舎を襲撃し
てきたみたい』との事。
今はクルツが対応しているらしいが、如何に彼の実力が高いとは言え一人では多勢に無勢だからな、私達も援護せねばだ。



「そうよね!ユニゾンは?」

「いや、まだ回復しきっていないから今回は通常状態で行く!お前の強化よりも、半実体化した私で手数を増やす。」

「OK!相手が何人いるか分からないなら、質より量ね!」



今のお前と私のコンビなら、質も量も確保出来るけどね。
下の階に降りると、クルツは交戦直後だったのか、少しばかり意気が上がり、そして左腕に怪我をしているみたいだな?本人は『掠り傷だ』と言って
いるが、決して浅い傷ではないだろう。
方術で物理防御を底上げ出来るクルツに手傷を負わせるとは、中々に侮れない相手みたいだな?襲撃者は何者だ?



「あの格好は、恐らく猟兵の一派だろう。」

「猟兵!?」

「まさか!」

「いや、此処は遊撃士協会直轄の訓練施設だ。帝国での件もある。彼等の標的になったとしても不自然ではない。」

「皆、気を付けて!」



猟兵の襲撃とは、エレボニアでの一件を聞いたその日に襲われるとは、マッタク持ってタイミングが良いと言うべきか判断に迷うが……エステル、窓
の外から来るぞ!



――ガシャァァァァァァァァン!!



「ふはははは!覚悟しな、遊撃士さんよ!」

「来たわね!!」



窓を武器で破壊して入って来るとは、中々に激しい登場の仕方だが……選んだ窓が悪かったな?よりにもよって、私達が最も近くに居る窓から入っ
て来るとは、この間抜けめ。
来て早々で悪いが、お帰り願うぞ?

「オ~~~……オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

近距離型のスタンドらしく、パンチのラッシュで先制攻撃だ……『無駄無駄!』の方が良かったかな?
私のパンチのラッシュだけでなく、エステルも棒術での猛ラッシュを仕掛けて窓から入って来た猟兵を攻め立てるが、私とアインスの同時攻撃を受け
ても倒れないとは中々の防御タクティクスだが、其れ以上に頑丈だ。私の拳も二~三発入ってる筈なのに、こうして立っていられるのだからな?
私のパンチは一発で骨を砕く……其れがボディに炸裂しているのだから内蔵が破裂していてもオカシク無いのだが、此れは防弾チョッキの様なモノ
を中に着込んでるのかも知れないな。

だがしかし、襲撃して来たと言う割には、この猟兵からは殺気を感じないな?此方に害をなす心算で来たのならば、殺気を感じるモノだが、全く其れ
を感じないと言うのは妙な話だ。



「あばよ、遊撃士のお嬢ちゃん!悔しけりゃ追って来な!」



そして、私達の攻撃をやり過ごしてから、あからさまな挑発をしてから撤退……プロの猟兵がやる事とは思えんな?相手が此の挑発に乗ったとして
も、一人ではなく仲間を引き連れて追って行ったら逆に窮地になりかねないのだから。
……若しかして、この猟兵は……



「こいつ!」

「エステルちゃん!?」

「クルツさんの傷の手当てをお願い!その間はアタシが喰い止めるから!」

「ちょ!待って、エステルちゃーん!!」



エステルは猟兵を追って飛び出して行ったか……まぁ、私も其れに引っ張られてる訳だけどな。
普通ならば、たった一人で追うと言うのは愚策極まりないのだが、私達の場合は二人で一人だからさほど問題はあるまい――ヤバそうな状況にな
ったら、人格交代してディバインバスターぶちかませば大抵何とかなるからな。



「アレはヤバいでしょ?やろうと思えば山も吹っ飛ばせるんじゃないの?」

「出来るだろうな。ディバインバスターは、一部では『桜色のかめはめ波』とも言われてるからな。……限界まで気を集めた悟空の元気玉と、限界ま
 で魔力を集めた彼女のスターライト・ブレイカーだったら何方が強いのか、ちょっと検証したい。」

「その検証、世界滅びない?」

「否定出来ないのが悲しいな。……まぁ、其れ以前にサイヤ人と互角に遣り合えるかもしれないあの子が恐ろしんだけれどね。」

そんな事を話しながら森の中を進んで……追い付いたぞ猟兵?



「マジで挑発に乗ってくるとはな……少し修業が足りないんじゃないか?」

「お生憎様!此れでも戦闘能力は、教官のお墨付きが出てるんだから!」

「そうかい、そいつはスゲーや。だがな……」

「状況判断を誤ると、こう言う痛い目に遇うんだよ。」



だが、追い付いた所で背後からの襲撃を受けてエステルはダウンしてしまったか……とは言え、私は全然健在だから普通に戦えるんだけれどな。
さぁ、如何する猟兵諸君?……いや、○○○○と○○○?



「お前、気付いてたのか!?」

「襲って来た時に殺気を感じなかったし、私の存在に驚いて居なかったからね。
 ……まぁ、其れは良いさ。お前達の事はエステルには黙っておくよ。大事なのは、目を覚ましたエステルがどう行動するか、だろ?」

「はぁ、バレバレだったって訳かい?此の子じゃなくてアネラスの方を誘導した方が良かったかねぇ?」



如何だろうな?
アネラスを誘導していても、宿舎に残った私は気付いたと思うぞ?……まぁ、此れから起こる事に関しては、私は暫し目を閉じて耳を塞いでおくから
手早く済ませてくれ。その間に、私もエステルにどう対応するかを考えておくからな。



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・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



そして、数時間後。エステルは森の中で目を覚まし、そして自分の無事を確認すると直ぐに宿舎に戻って皆の無事を確認しに行ったが、其処に広が
っていたのは絶望的な光景だった。
折れたクルツの槍に、大量の血痕……此れだけを見たら、クルツが猟兵にやられてしまったように見えるだろうな。
実際にエステルも、『自分が突っ走ったからだ』と後悔しているからね……だが、エステル此れはお前一人のせいじゃない。お前と共に居ながら、伏
兵の存在に気付く事が出来なかった私にも責任はある。
だから、自分を責めるな……責任の半分は私にもあるから、此処は一緒に何時もの様に現場検証から始めないか?ヨシュアも、常々そう言ってた
だろう?



「……そうね、先ずは現場検証から!!」

「現場検証は大事だからな。」

そうして現場検証をした結果、壊れてたのは破られた窓と外部通信用の通信機だけ……あの血痕は激戦を連想させるが、其れらしき形跡はない。
さて、此れ等の事から如何推理するエステル?



「戦った跡がないのは、皆が猟兵に連れて行かれたからだと思う。
 そして、これまでも人質を連れた犯人は、あまり遠くには行かずに一箇所に拠点を構える事が多かったわ――この近くでそんな場所が有るとした
 ら、其れは此処!」

「グリムゼル小要塞、と言う訳か。」

ふむ、悪くない推理だな。まぁ、この答えに辿り着くヒントは多数残されていたがな……エステルには言って無いが、あの血痕は血ではなく赤いイン
クだったからね。まぁ、よりリアルな血痕にする為に、インクに砂鉄を混ぜて『血の臭い』を再現する徹底っぷりだが。



「やっぱりいたー!エステルちゃん!アインスさん!」

「アネラス。」

「アネラスさん!」



此処でアネラスが合流したか。
如何やら彼女もまたエステル同様、猟兵にやられはしたものの何もされず、宿舎に戻ってから此処が怪しいとの考えに至ってやって来たらしい。
『壁に貼ってた地図は、此処だけ破られていた』とは……其れは気付かなかったが、私はエステルから2mを越えて離れる事が出来ないから、気付
く事が出来ないのも仕方ないよな、うん。



「「ま、まさか……」」



だが、如何やら二人とも答えに辿り着いたようだな。
其れでは、グリムゼル小要塞に突入するとしようか!!







で、要塞内に突入したのだが、如何やら此処は野生の魔獣の住処にもなっているらしく、其れなりに魔獣との戦闘を行う羽目になったんだが、取り
あえず余裕だった。
エステルとアネラスの実力ならば如何と言う事がない相手だし、私のパンチのラッシュ、ダッシュフックからのアッパー等の体術で楽勝だからな。
半ばスタンド化している今、矢張り『オラオラ』は外せない攻撃方法だ。

そんな訳で要塞の一番奥まで辿り着いたのだが……



「ガハハ!よくぞ此処まで辿り着けたなぁ?褒めてやるぜ小娘共!」



其処に居たのは、昨日宿舎を襲った猟兵と、エステルを気絶させた伏兵、そして彼等のリーダーと思われる猟兵……あのリーダーの正体は恐らく彼
だろうな。



「そ、それより、管理人さんは無事なのよね?」

「ほう?こんな時でも人質の安否確認を怠らないとは……だが、お前達三人で俺達三人を倒せるかな?
 何なら、宿舎に戻って応援でも呼んで来るか?」

「逆に聞くが、お前達三人で私に勝てると思って居るのか?私にお前達の攻撃は効かないが、私の攻撃はお前達には有効……つまり、一方的に
 フルボッコにする事も出来るんだが?
 いっその事、ブラッディダガーで全員壁に磔にしてやっても良いんだぞ?」

「エステルちゃん、アインスさんが大分バイオレンス。」

「アインス、其れは流石にヤバいから。
 でも、宿舎に戻る必要は無いわ……アンタ達が破壊した通信機器は使い物にならないモノ!でも、其処が失敗だったわね!
 一定時間毎の定期連絡が途絶えれば、其れが訓練場に異変が起きたって合図になるのよ!
 此処に援軍が到着するのも時間の問題なんだから!」



ふ、其れを覚えていたか、感心感心。まぁ、基本的な事だから覚えていなかったら大問題だ……準遊撃になったばかりのエステルだったら、絶対に
忘れて居かも知れんが――其れを考えると、本当に良く成長したな。



「それでも私達の力を試したいと言うのならば……」

「全力でぶつからせて貰います!猟兵の……」

「クルツ先輩!!」

「……ふ、ご名答。此れで最終訓練も完了だ」



此処で猟兵のリーダーがヘルメットを脱いでネタばらし。
そしてクルツだけでなく、グラッツとカルナも正体を明かしてな……エステルとアネラスは『騙された~』と少しばかりむくれていたが、此れは『訓練生
に危機的状況を体験させる趣向でもある』と言われては何も言えんだろう。
実際に今回の事で学ぶ事は多かったからね。



「尤も、アインスにはバレてたみたいだけどね?」

「あんですって!?そうなのアインス!?」

「機能の襲撃の時からオカシイとは思って居たが、お前が気絶させられた後でな……生憎と私の意識はあったのでね。だから、私も一芝居打ったと
 言う訳さ。」

「アインス~~……アンタ、知ってるなら教えなさいよ!!」

「いや、教えたら訓練にならないからな?」

「なら、アタシとアネラスさんが気付いた時点で言えば良いでしょうが!この、この!!!」

「いりゃいいりゃい、ひっぴゃるな。(痛い痛い、引っ張るな。)」

エステルに思い切り頬を伸ばされてしまった……半実体化した状態では、基本的に私から触れる事は出来ても、私に触れる事は出来ないが、エス
テルだけは半実体化した私に触れる事が出来るんだよなぁ?
此れも、彼女が私の宿主だからかも知れないな。



「今回は訓練だったが、今後は現実にこう言う事件に遭遇する事があると思う。
 だが……君達なら大丈夫だ。どんな困難も超えて行けると信じているよ!
 では改めて……アネラス・エルフィード!」

「あ……はい!」

「エステル・ブライト、並びにアインス・ブライト!」

「「はい!」」

「此れをもって、本訓練場における総合強化訓練の全課程を終了する!
 さぁ、胸を張って帰国すると良い!君達の故郷、リベール王国へ――!」



此れにてル・ロックルでの訓練は全て終了して、久しぶりのリベールにか……だが、リベールに戻ってからが本当の始まりだ。ヨシュアを探す為の旅
のな。
エステルがこの訓練に参加したのは、ヨシュアを見つける旅に出る為の実力をその身に付ける事が目的だったのだからね……その結果、エステル
の実力は大幅に上がり、同時に私の力も底上げされ、ユニゾン状態も略丸一日維持出来るようになったからな。

「エステル、地の果てまで探してでもヨシュアを連れ帰るぞ。」

「言われずともその心算よアインス!絶対に見つけ出して、そんでもって乙女のファーストキスを睡眠誘導剤味にした責任は絶対に取らせるわ!」



ヨシュアはエステルの前から居なくなる以上の重罪を犯しているからなぁ……ファーストキスが睡眠誘導剤味は流石にないだろう?『ファーストキス
はレモン味』と言う幻想を抱いていたエステルにお詫びして訂正しなさいと言った感じだからな。



「お詫びは兎も角、訂正って?」

「ん~~……セカンドキスはステーキソース味!」

「逆に嫌だわ其れ!!」



レアのサーロインを引き立てる、黒コショウとニンニクの利いたフォンドボー仕立てのステーキソース味……うん、微塵もときめかないな此れは。寧ろ
トラウマになるかも知れん……焼き肉食べた後にキスしたらこんな感じになるかもな。
まぁ、悪ふざけは此れ位にして、お前の事は絶対に連れ戻すぞヨシュア……エステルが太陽の笑顔を浮かべる事が出来るのは、太陽の光を受ける
存在である、月であるお前が居ればこそだからね。








――――――








Side:シェラザード


さて、そろそろあの子達が訓練場から帰ってくる時間ね?――先生の姉弟子としては、強化訓練でドレだけ腕を上げたのかが楽しみなんだけど、ア
ンタは如何思ってるのかしら?



「……ま、アイツならアインス共々強くなってくるだろうよ。ついついヨシュアの方に注目しちまうが、エステルの潜在能力の高さはハンパねぇからな。
 後十年も経ったら、あのオッサン超えるんじゃねぇか?アインスも居るしよ。」

「其れは否定出来ないわねぇ♪」

エステルの潜在能力の高さと、アインスの底知れぬ実力は先生も認めてる事だしね……ホント、将来が楽しみで仕方ないわ。
……そう言えば、あの子が正遊撃士になったお祝いってしてなかったわね?……姉弟子が妹弟子のお祝いをしないなんてのはあり得ないから、新
しい服でもプレゼントしようかしら?
エステルってば素材は良いから磨けば光ると思うのよね~?……そうと決まれば、あの子に似合いそうな服を見繕って上げようじゃない!今こそ原
石のアンタを、宝石に研磨してあげるから、覚悟してなさいよエステル!!












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