Side:アインス
ん……朝か?昨日は確か空中庭園でヨシュアの過去を聞いて……そして……そうだ、ヨシュアは何処だ!?オイ、起きろエステル!!
「…………」
「此れは、相当に深い眠りについているな?」
ヨシュアが使った睡眠誘導剤の効果恐るべし……こうして目を覚ましてしまった私も大概だと思うが、この感じではエステルは目を覚ましそうにない
から少しばかり荒っぽくいくか!!
起きろエステル!!
――メリィ!!
一方的に触れる事を利用して寝腐れてるエステルに渾身のスコーピオンデスロック!!ガッチリ腰を落としたスコーピオンデスロックは、逆エビの腰
折に加えて両足を極められるダメージも追加した大技だから流石に効くだろうな。
「にゃぁぁぁ!?痛い、痛いわよ!アインス!!」
「実を言うと技を掛けてる私も痛いんだが、目が覚めたか?」
「覚めた、覚めたから!!」
「おはようエステル。」
「お、おはようアインス……てか起こすなら、もう少しマイルドに出来ない?」
「頬を叩く位では起きそうになかったのでな……スコーピオンデスロックよりも足四の字の方が良かったか?……一度ガッチリ極まった足四の字か
らも逃げる事は出来んがな。」
「どっちにしてもダメージがハンパないわよ……其れよりも嫌な夢を見ちゃったんだけど、ヨシュアは何処?」
え?……まさかお前、昨日の夜の事を覚えていないのか?
ショックで記憶が飛んでしまったのかと思ったが、ヨシュアのハーモニカがベッドにあるのを見て慌てて部屋を出て空中庭園に向かったが、もうヨシュ
アは其処には居ないだろう……アイツは行ってしまったからな。
しかしまぁ、半実体化した状態だと自分で動かずともエステルが動けば自動的に引っ張られると言うのは奇妙な感覚だな……2m以上離れる事もな
いしな?……如何やら私は近接型のスタンドになったらしいです、我が主。
夜天宿した太陽の娘 軌跡83
『新たな始まり~空の軌跡SC~』
空中庭園に向かい、其処で人影を見付けたエステルは、其れがヨシュアだと思って声を掛けたが、その人影はヨシュアではなくカシウスだった。
相手がカシウスだったと知ったエステルは、ヨシュアが居なくなった事を伝えようとしたのだが……其れより前に、カシウスは『ヨシュアは行ってしまっ
た様だな。』と言って来た。
「え?」
「……こうなる事を予想して居た様な口ぶりだな?」
「アイツが書置きを残していたからな……大体の事は分かっている。」
「分かってるって、何の事?……何か知ってるの、父さん?」
「…………《身喰らう蛇》。そう名乗っている連中がいる。」
エステルの問いに少し考えた後、カシウスは語り始めた。
《身喰らう蛇》と名乗る、盟主と呼ばれる頭領に導かれ、世界を闇から動かそうとする謎の組織が存在し、国内外で起こる不穏な事件の奥底には、
必ず連中の影が蠢いており、その身喰らう蛇がリベール国内で何らかの目的を遂行しようとしている事。
そしてリシャールが起こしたクーデター事件も、裏で操っていたのは身喰らう蛇の人間だったであろう事……だとしたら、トンデモない組織なのだが、
逆に言うとクーデターの首謀者である筈のリシャールが記憶の一部を失っているのも納得だ。
身喰らう蛇の一員に記憶操作をされたと考える事が出来るからな。
「そして、嘗てこの結社に……ヨシュアは属していたんだ。」
「「!!」」
だが、其れ以上に驚いたのはその結社にヨシュアが属していたと言う事だ……昨夜、ヨシュアが話していたのは、結社の一員として活動していた時
の事だったのだな。
更に衝撃は其れで終わらず、ヨシュアはカシウスの養子になった五年前、『結社と言う過去が、何らかの形で自分に接触して来た時には、此処から
姿を消す』と誓っていた事だ。
「男には譲れない一線が有る……簡単に割り切れないかも知れないが……」
「知ってたんだ……父さんは、何時かヨシュアがアタシ達の前から居なくなっちゃうって、知ってたんだ……」
「知らなかったのは私達だけか……そして、あんな形でのお別れとは、中々に最悪だな。」
「そーだぞ!さいあくだー!」
って、何処から現れたレヴィ!!
「おきたらよしゅあがいないからさがしてたら、えすてるとクロハネがここにくるのをみたからおいかけてきたらとんでもないこときいちゃったもんね!
おいこらちょびひげ!えすてるとクロハネだけなかまはずれにするなんてひどいぞ!なかまはずれよくない!!」
レヴィ、其れは間違ってないんだが、今回は其れで済む問題ではないからな?
「……エステル、アインス……すまん。」
「……父さんの馬鹿!!」
「事情は分からなくもないが……此れだけは言っておくぞカシウス?お前もヨシュアも中々に最低だ。」
矢張り知っていたのに何も話してくれなかったのがショックだったのかエステルはその場から駆け出し、そしてショックを受けたまま飛空艇の発着場
に向かって其処からロレント行きの便に乗ってしまった……一緒にレヴィも乗って来たがな。
そして、ロレントに向かう飛空艇で、緑の髪の男に声を掛けられたのだが……何だろう、この男は主と同じ話し方をするので何か親近感が湧くな?
「みどりのかみ……ほーれんそーみたいだなー♪」
「ビタミンと鉄分が豊富で、茹でで良し、炒めてよしの野菜です~♪……って、誰がホウレン草やねん!!」
「それじゃー、れたす!」
「レタスの食物繊維は野菜の中では最低クラス!『レタス○○分の食物繊維』は実は大した事ないんやで?って、レタスともちゃうわ!!」
うん、レヴィとの漫才は面白いな。
だが、エステルには其れを楽しんでいる余裕はなく、ロレントに到着するや否や一直線に家に向かい、そしてヨシュアの部屋に入ったのだが、其処
にヨシュアが要る筈もなく、此処で漸く現実を受け入れ、ヨシュアが自分の前から居なくなった事が夢ではないと認識したか。
「分かってた……分かってたわよ、ヨシュアは軽い気持ちでこんな事をする人じゃないから……だから、此処でお終いなんだって……」
「……諦めるのか?」
「え?」
確かにヨシュアは私達の前から居なくなってしまい、そして何処に行ったのかも分からない……だが、それで『此処でお終いだ』と言って諦めるのか
お前は?
私の知っているエステルは、そんなに諦めの良い奴では無かったと思うのだがな?……ヨシュアが居なくなり、手掛かりもないと言うのは殆どチェッ
クメイトなのだが、お前ならばこんな状況でも強引に活路を開くのではないかと思うのだが、そう思って居たのは私だけか?
「アインス……」
「チェックメイトは敗北寸前だが、だがまだ負けた訳ではない。
相手フィールドに攻撃力3000のモンスターが3体存在し、自分フィールドはがら空きで、光の護封剣の効果も切れて手札も0となれば絶望的な
状況だが、ドローカードが天よりの宝札だったら其処からの逆転は可能だ。
ドローした6枚のカードの中に『青眼の白龍』が3枚、『融合』、『アルティメット・バースト』が揃っていれば十分逆転できるからな。」
「ふんさい!ぎょくさい!だいかっさーい!!」
「そうよね……この程度で諦めるなんてアタシらしくないわ!
地の果てまで探し回って絶対にヨシュアを見付けて見せる!!そんでもって一発殴って、ちゃんとキスして貰うんだから!!ファーストキスが睡眠
誘導剤味とか無いわ流石に!!」
「おー!えすてるふっかつだーー!!」
うん、アレは普通にないな。ファーストキスはレモン味と言うが、睡眠誘導剤味はないだろ……やり直しのファーストキスは是非ともハチミツを頼みた
いな。
そして、その後カシウスとシェラザードが家に到着した……如何して此処に居るのかと思ったが、飛空艇で会った緑髪の男が遊撃士協会に連絡して
くれたらしい。
「すまんなエステル……ヨシュアの事を忘れろと言うのは、俺のエゴだ。
お前さんの気持ちを全く考えてなかったな、俺もヨシュアも……お前の気持ちはよく分かった――だからヨシュアを、あのバカ息子を連れ戻してくれ
るか?」
「うん、勿論よ父さん。ヨシュアは必ずアタシが見つけ出すから。」
「頼んだぞ……」
……ふ、カシウスもあぁは言っていたが、矢張り一人の親としてヨシュアの事は心配だった訳か――だが、心配には及ばん。私とエステルが、必ずヨ
シュアを見付けて此処に引っ張って来るさ。
と、気合を入れていたんだが、此処で予想外の事態が。
レヴィにアミタからの通信が入って、レヴィはエルトリアに帰る事になった――余りにも唐突な事だったのが、『此の世界の座標は分かったから、専
用の移動装置さえ出来れば自由に行き来出来る』との事……ならば、次は王やシュテルと一緒にだな――短い間だったが、楽しかったよレヴィ。
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其れから一カ月後、私達はル・ロックルの訓練場に居た。
カシウスの提案で、此処で行われる遊撃士の強化合宿に参加しているのだが、この合宿に参加したのは正解だったな?教官はクルツで、そして共
に参加したアネラスは可成りの実力者だったからね……此れは、地力を引き上げるのには有効な合宿だ。
特に、私とエステルの新たな状態を使いこなす為にもな。
「く……まだ浅いか……!」
「中々やるねエステルちゃん……でも、この辺で一気に決めるよ!」
只今、エステルとアネラスで絶賛模擬戦の真最中。
アネラスが息も吐かせぬ怒涛のラッシュを仕掛けて来たが、エステルは其れを冷静に、かつ的確に捌いている……まぁ、今の状態ならば此れ位は
容易いだろう。今のエステルは、動体視力、反応速度、その他全てのステータスが大幅に上昇している状態だからな。
《エステル、アネラスはそろそろ決める為に大技を出して来る筈だ。》
《やっぱりそうよね?……でも、大技の前後には必ず隙が出来るから、其処を突く!》
其の通りだ。
そして予想通り大技を放って来たアネラスだったが、エステルはマトリックスもビックリの回避で其れを躱すと、格闘ゲームで回避行動にキャンセル
を掛けたんじゃないかと思うような動きで反撃の一撃を放ったか……ガードキャンセルは兎も角、回避キャンセルとかぶっ壊れシステムだな。
「超爆裂金剛撃!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
反撃の一発は炎属性と地属性のアーツを付与した金剛撃……特に状態異常は引き起こさないが、インパクトの瞬間に爆発が起きるので通常の金
剛撃よりも攻撃範囲が広いのが特徴だな。
「あ!ごめんアネラスさん!大丈夫!?」
「大丈夫だよエステルちゃん……まさか、あんな回避の仕方をするなんて思わなかったけど。
でも、グランセルの武術大会で見た時よりも確実に強くなってると思うよ?――しかもエステルちゃん自身が強くなっただけじゃなく、その金髪にな
った状態は、より強くなってる気がする。」
「これはね、ユニゾンって言うの。」
私とエステルの新たな状態、其れはユニゾンだ。
私が半実体化出来るようになったので、『半実体化した私をエステルに融合したら強化出来るのではないか?』と考えてやってみたら、見事に大当
たりだった訳だ。
更に、ユニゾンすると我が主がそうだったように、エステルの髪は金色になって目は蒼く変化したからな……だが、ユニゾンが出来てこそ私の本領と
言えるから、成功したのは素直に嬉しいな。
因みに、ユニゾン中も私は半実体化出来るのだが、その際には30cmほどの大きさでの実体化になるみたいだな?……こんな所まで主とユニゾンし
た時と同じとはね。
「そう言えばエステルちゃん、この合宿中ずっとその姿で居る気がするんだけど?」
「此れも訓練の内なの。
アインスが言うには、『寝る時以外は可能な限りユニゾン状態を維持してユニゾン状態に体を慣れさせるんだ』って事らしいわ。」
ドラゴンボールの悟空がやっていた事だが、強化状態に体を慣れさせると言うのは大事な事だからな。
ユニゾン状態のエステルの力は通常状態の約十倍と言った所だが、其れだけの強化をすると言う事は身体に掛かる負担も大きくなるから、身体を
鍛えると同時に、その負荷に身体を慣れさせておく必要があるからね。
最初の頃は、数時間ユニゾン状態を維持するので精一杯だったのが、最近は本当に寝る時以外はユニゾン状態を維持出来るようになって来ている
から、この合宿が終わる頃にはグランセル城の地下で変身した『完全人格融合状態』に自由になる事が出来るかも知れないな。
その後、クルツが今の模擬戦の総評を行って今日の訓練は終了――ではなく、クルツから新たな戦術オーブメントを受け取った上で、近くの要塞で
の訓練が行われた。
新たな戦術オーブメントは此れまでのクォーツは使えなくなる代わりに、より強力なアーツが使えるようになるモノらしい……まぁ、セピスだけは沢山
あるので、クォーツは幾らでも作れるから此れまでのクォーツが使えなくなっても問題はないけどな。
だが、其れ以上に驚いたのは、この新たな戦術オーブメントならば、ロランスが使った見た事もないアーツ……シルバーソーンも使えると言う事だ。
あの時は発動前に相殺したが、アレが決まって居たら可成りヤバかった筈だ……其れだけのアーツが使える様になると言うのならば、アーツクラフ
トも更に幅が広がるからね。
そして、要塞での訓練は中々にハードだった。
色々な仕掛けが施されており、其れを一つずつ解いて行って最後に待ち受けていたのはクルツとの模擬戦だったからな……クルツの実力は高かっ
たが、カシウスには及ばないので攻撃を捌くのはそれ程苦労はしなかったのだが、独特の方術で自身の防御力を引き上げて来るのがとても厄介と
言わざるを得まい……重ね掛けする事で防御力を極限まで上げて、ユニゾン状態のエステルの一撃を喰らっても略ノーダメージってオカシイだろ?
とは言え、上昇するのは物理防御だけだったみたいで、アーツぶちかましてやったら意外とアッサリだったがな……この模擬戦は、物理防御だけが
上昇した相手を如何倒すかと言う課題もあったみたいだな。
「えっと……アネラスさん、生きてる?」
「ぎ、ギリギリで。」
引き攣った笑みを浮かべながらもサムズアップしてる辺り、まだ余裕はありそうだな。
だが、この要塞での訓練もまた私達の血肉となった事は間違い無いだろうさ――此れだけ色々な仕掛けを体験すれば、実戦の場で似た状況に陥
った場合に即対応が出来るだろうからな。
だけどまぁ、今日の訓練は一段とハードだったからエステルも相当に疲れてるみたいだな?……其れでも、ユニゾン状態は維持してるのだから大し
たモノだと思うがな。
取り敢えず、シャワーを浴びて一息吐くとするか。
――――――
Side:???
「まさか、お前さんからコンタクトが有るとは思わなかったが、俺達を使って何をしようってんだ?」
「貴方達には僕の足になって欲しいだけです……其れ以上の事は望みませんから。――其れに、ある意味で自由に動ける貴方達は僕にとってもと
ても有難い存在だから。」
「あくまでもドライな関係って訳ね。良いぜ、こっちとしても断る理由は無いからな。」
ありがとうございます、キールさん、ドルンさん。
「……お前、それで良いのかよ?」
「ジョゼット?」
「ぼ、僕は知ってるんだぞ!お前、あのノーテンキ娘が好きなんだろ!?其れをほっぽってこんなことして良いのかよ!エイドスも黙ってないと思う
ぞこんな事は!!」
好き、だからこそだよ。
エステルは僕の太陽だからこそ、其処に影を落としたくない……闇の道を行くのは僕だけで充分だからね。
「お前、馬鹿だよ……ノーテンキ娘に少し同情するよ。」
「?」
何で君がエステルに同情するのかは分からないけど、此れは僕が選んだ道だから後悔はしない……エステルの身に危険が及ぶくらいなら、僕はエ
ステルの前から消えてでも結社を、教授を討つ。
そして、自分の過去が迫って来た時に君から逃げる事しが出来なかった、卑怯で弱虫な僕が出来る事はせめてこれ位しかないから。――教授と結
社は、必ず僕が何とかするから、君は平和な日々を生きてエステル。……其れが、僕の唯一の願いだから。
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