Side:アインス
グランセル城の地下深くで行われた決戦は無事に終わったらしい……あの時、私とエステルの魂が共鳴して私の全盛期以上の圧倒的な力を発揮
出来た訳だが、よもやこんな事になるとは予想外だったかな?
「此れは予想しろってのが無理じゃない?」
「だよな、やっぱり。」
あの戦いの後、私は半実体化する事が可能になった……半実体化した時の姿は騎士服だ。戦闘装備と言うのは少し違うと思うからな。――しかし
其れ以上に予想外だったのは――
――シュン!
人格を交代すると、容姿も私のモノになってしまう事だな……人格交代の時に肉体も変化すると言うのは予兆はあったが、まさか完全に私になって
しまう日が来るとは思わなかったよ。
「うん、僕はもう何を見ても驚かない……心算だったんだけど、何で人格を交代すると容姿がアインスになるだけじゃなくて服まで変わるのさ?
しかもその服、あの時のとは違うし。」
「トロイメライと戦った時の私が着ていたのは戦闘装備で、今着ているのは騎士服だ……但し、服の赤い部分は元居た世界では青紫だったがな。
そしてどうして服まで変わってしまうのか、其れは私にも分からん。この世にはまだ科学では解明出来ない謎が数多く残っているのさ。」
「しりんのとーとかあーてぃふぁくととか?」
「レヴィ……うん、其の通りだよ。そう言った謎を解き明かそうと活動してるのがアルバ教授みたいな人なんだ。」
しかしまぁ、私の意見を言うのに一々人格交代しなくても良くなったのは便利だな?言いたい事があれば半実体化すればいいだけだし。
其れに、人格交代時に私の姿になるのならば全盛期とは行かずとも最低でもヴィータと同等位の力を発揮する事は出来る筈だからな……この状態
であればロランスにも負けないだろうさ。
さて、そろそろ行こうか?クーデター事件は終息し、予定通り女王生誕祭が行われるし、私達も遊撃士協会で、な。
夜天宿した太陽の娘 軌跡82
『空の軌跡First Chapter Evolution』
ホテルから一歩外に出ると、予想通りグランセルは街全体が大賑わいのお祭り騒ぎだ――リシャールによるクーデターが失敗に終わって城が本来
の持ち主の元に戻った上での女王生誕祭なのだから当然か。
グランセル城の前には多くの人が集まり、空中庭園から姿を見せたアリシア女王が民衆に手を振っている……その少し後ろにはクローゼの姿もな。
更にその後ろにはシードとユリア……だけでなくモルガンの姿も――軍のお偉いさんだから女王陛下の後に控えているのだろうが、此度のクーデタ
ー事件でマッタク持って力にならなかったアイツが普通に居るのはなんか納得出来ん。
シードはレイストン要塞で私達を逃がしてくれたし、ユリアは親衛隊を率いてエルベ離宮解放作戦の時に力を貸してくれたが、モルガンはなぁ?リシ
ャールが罪を償って出所したら、是非とも軍に復帰して将軍を目指して欲しいモノだな。
アリシア女王とクローゼの姿を見た後は遊撃士協会に。
「エステル・ブライト、ヨシュア・ブライト、そしてアインス・ブライト。
エイドスと遊撃士紋章において此処に三名を正遊撃士に任命する……此処からが本番だぞ?」
「「「はい!」」」
其処で晴れて私達は正遊撃士になったのだが……よもや私の分まで正遊撃士の資格証と遊撃士手帳が用意されてるとは思わなかったが、昨夜
私の写真を撮っていたのは此の為だったのか。
と言うかエステルと兼用で良くないか?
「人格交代すると容姿が全く変わってしまうんだからそうも行かんだろう?例えばエステルが寝坊してお前さんの姿で仕事を受けるとなった時、資格
証と手帳の写真がエステルのモノしかなかったら面倒な事にあるからな。
其れを防ぐための処置だ。」
「確かにアタシとアインスって全然見た目が違うモンね……背もアインスの方が全然高くて、私だけじゃなくてヨシュアよりも高いし、其れ以上に胸が
凄いから。
シェラ姉より全然デカいでしょアレ?……長い事アインスと人格交代してから元に戻ったら肩凝りそうな気がするわ。」
「じゅさつすんぞ、そくせきほるすたいーん!」
誰がホルスタインか。
否まぁ、そう言われても仕方ないかも知れないが……夜天の魔導書の制作者は如何して私の容姿を此れに設定したのか?顔は兎も角、身体は絶
対に制作者の好みだろ?――悲報、夜天の魔導書の制作者は巨乳好きだった。歴史研究家が知ったらブチキレそうな事実だな。
カシウスから直々に正遊撃士に任命された私達は少し街を見て回ったのだが、まさかクローゼが制服姿でホテルに居るとは思わなかったよ……女
王生誕祭に来ていたジルとハンスに会いに来たとの事だったが、王女殿下が堂々と城を抜け出すとは、中々にやんちゃな所もあるみたいだな。
其処で人格交代をしたら、ジルもハンスも滅茶苦茶驚いていた……まぁ、ルーアンの時は髪の色が変わるだけだったから、見た目が完全に変われ
ば其れは驚くよな。
序に、エステルに戻った状態で半実体化したらもっと驚いて居た――と同時に、半実体化した状態の私に触れる事は出来ないが、私から触れる事
は出来ると言う事も分かった。クローゼは半実体化した私に触れる事は出来なかったが、私からクローゼに触れる事は出来たからな。
……拝啓我が主、私は如何やら異世界でスタンド化してしまったみたいです。
その後もグランセル市街を見て回った……リベール通信の本社を訪れた時には、ナイアルとドロシーには滅茶苦茶感謝されて、期せずしてランチを
御馳走になったのだが、これまたナイアルの財布がサンダーボルトを喰らう結果になったのだった……今回はレヴィが前回を上回る一五杯のお代
わりをしたから当然だがな。
そんな感じで市街を見て回った今は、グランセルのマーケットの直ぐ近くにある広場で休憩中だ……エステルもヨシュアも自分が正遊撃になった事
が信じられないと言った感じだが、今回の一件でカシウスは軍に復帰する事になったから、その分も頑張らないとと思っているようだな。
クーデター事件の混乱も完全に収まった訳ではないから、確かに頑張らねばだ。
が、其れは其れとして今回の事件、色々と謎が多い事件だったな?オーリオールもゴスペルも、結局最後まで詳細は分からずだったからな。
「そうよねぇ……あ、でも黒のオーブメントを父さんに送った『K』って人がクルツさんだったのは判明したのよね。」
「まさか、父さん本人から調査依頼をされてたなんてね。
ただ、クルツさんの記憶が曖昧なのが少し気になるけど。」
「確かに……大佐も何だかそんな感じだったわよね。」
いや、其れだけでなくドルンとダルモアの記憶もだ……人の記憶と言うのは意外と曖昧なモノになるのだが、其れは時が経てばの話であって、そん
なに遠くない過去の記憶が曖昧になると言うのは早々あるモノではない。
まして、記憶が曖昧になっている人物が、何らかの形で此度のクーデター事件に拘わりを持っていたと言うのは最早偶然とは考えられん……何者
かによって記憶を操作されていると考えるべきだろうな。
だとすれば、リシャールの更に裏に黒幕が居る事になるのだが……正体の分からない相手を幾ら考えても仕方ないからな――私達の前に現れた
その時にブチノメシテやれば良いだけだ。
「取り敢えず事件は解決できたし、父さんも帰って来た事だし、あとは……」
「あの夜交わした約束の話だね……」
――ボン!!
って、此処でエステルが爆発したが、当然と言えば当然か……あの夜、エステルは己の想いをヨシュアに告げる決意をしたのだからな。
そんな事は露知らずのヨシュアは自分の事を話そうとしたのだが、エステルが一気にまくし立てて阻止し、そしてレヴィを引き連れてアイスを買いに
行ってしまったとさ……はぁ、こんな調子で本当にヨシュアに思いを伝える事が出来るのか少し心配になって来たぞ。
――――――
Side:ヨシュア
エステル……マッタク何時も慌ただしいな君は。だけど、そんな君だからこそ『人形』だった僕が心を取り戻す事が出来たのかも知れない――否、そ
れだけじゃなく、そんな君だからこそ僕は……
「いやぁ……若い人は羨ましいですね?」
「!!!」
アルバ教授……!
「こんにちはヨシュア君。
如何やら王都でも色々活躍できたみたいですね?――そうそう、武術大会の決勝戦は私も見に行ったんですよ。王都の遊撃士さん達と一緒に応
援した甲斐がありました。」
「…………」
「はて、如何しましたヨシュア君?気分でも悪いのですか?」
「……そうですね、あまり良い気分ではありません。」
正直な事を言うと、初めて会った時から強烈な違和感がありました……貴方が近くに居ると何故か震えが止まらなかった……其れだけなら、僕が
貴方に潜在的な苦手要素を感じていたと言う事で済ませる事が出来ましたが、其れだけじゃ説明が付かない。
各地で起きた事件と記憶を失ってしまった人達……貴方は調査と称して事件が起こった地方に必ずいた、そうタイミングが良すぎる程に!
リベール各地で起きた事件の全ての黒幕は、貴方だったんですねアルバ教授!
「クク……記憶と認識を操作されながら大したモノだ……流石は私が造っただけはある――では、暗示を解くとしようか?」
――パチン!
「………!!!???」
此れは、思い出した!全て思い出した!!アルバ教授……いや、貴方は――結社『ウロボロス』の七人の『アンギス』の一人、『白面』のワイスマン
……!!
あ、貴方がこの事件を裏で!!
「お察しの通り。お陰様で漸く『輪』に至る『門』をこじ開ける事が出来た。
此れで計画の第一段階は終了だ……本当にご苦労だったね、執行者№ⅩⅢ『漆黒の牙』ヨシュア・アストレイ。」
ゲオルグ・ワイスマン……仕事に失敗した僕を今更始末しに来たのかと思ったけど、如何やらそうじゃなかったらしい――否、僕を始末しに来たのだ
と言う方がむしろ良かったのかも知れない。
ワイスマンの口から語られたのは、この上ない絶望だった。
僕は彼の暗示で、無意識の内にブライト家の……父さんのスパイをさせられていたなんて――そして其れが、今回の計画を成功させるに至る事に
なるだなんて……!!
「おめでとうヨシュア。此れで君は『結社』から自由の身だ。
此れからは自分が裏切り続けてきた大切な家族と共に、素知らぬ顔で暮らして行くと良い……尊敬できる父親と、そう、何よりも大切な少女と愛
おしい少女と一緒にね。」
「え……あ……あぁ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
僕は……僕はなんて事をしてしまったんだ……自覚していなかったとは言え、僕は今回の計画に加担していた――そして其れだけじゃなく、父さん
とエステルを裏切っていた……僕は、僕は……僕は一体如何すれば良いんだ?――エステル……!
――――――
Side:アインス
長蛇の列に並んだ挙げ句、漸くアイスを買う事が出来た……私達のアイスは私の好物のキャラメルリボンとエステルの好物のチョコミントのダブルと
なり、レヴィはチョコレートとストロベリーのダブル……うん、お子様だ。
で、ヨシュアはモカとバニラのダブル……中々に渋いチョイスだが、確かにこう言うのがヨシュアの好みだろうな――アイスを買ってヨシュアの元に戻
る途中でアルバ教授に会ったのだが、『研究に色々と進展があった』との事で上機嫌だった。
その後、ヨシュアと合流してアイスを堪能し、夜は今回の事件を解決した人物全員が城に招かれて晩餐会を楽しんだ――七面鳥のローストのもも肉
をレヴィが一口で平らげて見せたが、此れもまぁ無礼講の席でのワイルドな一発と言う事で良しとしておくか。
……まぁ、城の高級酒を飲み干しかねない勢いだったシェラザードは、私が表に出てヨシュアと共に止めたがな――正遊撃士が酔っぱらって女王陛
下や王女殿下に不埒な振る舞いをしたと言うのは完全アウトだからな。
で、晩餐会後は夫々に部屋が割り当てられ、私達はシェラザードと同じ部屋なのだが……何ともエステルが落ち着かんな?――晩餐会後、ヨシュア
に『空中庭園で待ってる』と言われた事が大きいな此れは。
あの夜と同じ絶好なシチュエーションだからな……だが、だからこそ断言するぞエステル――此処でお前の想いをぶつければ、ヨシュアは絶対にOK
してくれるとな!!
だから、迷わず行けよ!行けば分かるさ!!ありがとー!其れじゃ行くぞ!1!2!!3!!!
「「ダーーーー!!」」
「何それ?」
「少しばかり気合を入れてみた、其れだけだ。」
「あっそ……しかし、アインスってそんな姿だったのね……確かに胸は私以上だわ。」
爆乳通り越して魔乳レベルだからな私は……ってどうでも良いんだよそんな事は。
で、やって来た空中庭園――その一角にはハーモニカを演奏するヨシュアの姿が……其れは『星の在り処』だったか?相変わらず惚れ惚れする程
の見事な演奏だ。
そのハーモニカのメロディにピアノの伴奏を合わせてクローゼの歌を加えたらミリオンセラーは間違い無いだろうな。
「やっぱりその曲なんだ?」
「吹き収めにと思ってね……エステル、約束を果たさせて欲しい――僕の過去を話したいんだ。」
「……うん。」
っと、此れは私は奥に引っ込んでいた方が良いか?
「否、アインスにも聞いて欲しい……きっと、そうじゃないと意味がないから。」
「そうか……了解した。」
「聞かせてヨシュア、貴方の過去を。」
「うん……昔、ある所に一人の男の子が居ました。
男の子は大切な人達と一緒に、毎日幸せに暮らしていました……しかし、ある事が切っ掛けでその男の子の心は壊れてしまいました。
言葉と感情を失った男の子の前に、一人の魔法使いが現れてこう言いました、『私がその子の心を治してあげよう』と。
魔法使いによって新たな心を手に入れた男の子は、その代償に人殺しに作り替えられてしまいました……男の子は言われるまま、毎日の様に人
を殺し続け、何時しか『漆黒の牙』と呼ばれ、恐れられるようになっていました。」
「……え?」
その男の子は、ヨシュアの事か……此れが真実だとすると、五年前に私が感じたモノは、気のせいではなかったと言う事か……
「五年前、男の子は魔法使いにある遊撃士の暗殺を命じられました。
でもその標的は強過ぎて、男の子は簡単に撃退されてしまいました――仕事に失敗し、魔法使いの手下に始末されそうになっていた男の子は…
…その、自分が暗殺しようとしていた遊撃士によって逆に救われる事になったのです。」
「……其れが、五年前にカシウスがお前を連れて来た真実か……」
「えっと……流石にちょっと理解が追い付かないんだけど……冗談とかでは、ないのよね。」
間違いなく真実だろうな。ヨシュアはこんな時に冗談を言う奴ではないしね。
其れに、覚えているかエステル?五年前にヨシュアと初めて会った時、私が何かヨシュアに違和感を覚えていた事を……あの時は気のせいだと思
っていた事が、そうではなかった――其れが、今の話を真実だと物語っているんだ。
「そう言えば……あの時は詳しく教えてくれなかったけど、アインスは何に気付いたの?」
「……血の臭いだよ。」
「!!」
「……君には、随分と早い段階でバレてたのかな、アインス。」
「いや、流石にあの時はお前がエステルと殆ど同じ年頃だった事と、お前が傷だらけだった事で、そのせいで血の臭いがするのかと思って居た。同
時にエステルと歳の変わらない少年が人を殺める事などないと、その可能性を頭から否定した……だが、アレは矢張り長い年月で染み付いたモノ
だったんだな……?」
「うん……あの日から今まで、僕は君達を騙していたんだ……此の汚れ切った手で、其れでも何食わぬ顔で平和で幸せな日々を送っていたんだ。
本当なら、そんな事をする資格なんて無いのに……」
「其れは違う!!」
「「!!」」
エステル……そうだよな、黙って居られる筈がないよな。
「ヨシュアの過去、確かに驚いたけど、ヨシュアはその魔法使いの言いなりになる様にされてたんでしょ?一度でも自分の意思で誰かを殺したの?
違うわよね?例えは違うかもしれないけど、ヨシュアはその魔法使いの力で、自分がやってる事が悪い事だなんて思わないようにされてたんじゃ
ないの!?」
「エステル……でも、僕は……」
「其れであの日、父さんに返り討ちにされてウチに来た!そして其れからヨシュアはやっと普通の生活に戻れたのよ?魔法使いによって歪められた
日からやっと!!
心が壊れたって、きっと凄くショックな事があったんだと思う……でも、其処に漬け込んでヨシュアを人殺しの道具にして利用するだけ利用して、失
敗したら殺そうとする……そんな奴に良い様に使われてたヨシュアが、やっと手に入れた平和で幸せな日々を送って何が悪いってのよ!!」
「エステル……君ならそう言うと思った……君なら僕の過去を聞いてもきっと拒否しないって、そう思っていたよ。」
エステルはそう言う奴だからな。
それにしても、私利私欲で他者を利用するか……その魔法使いは、私を闇の書に作り替えた輩と同じ位に唾棄すべき存在だな?……若し、会う機
会があれば、デアボリック・スターライト・ブレイカーぶちかましてやろうか?
「だからエステル、君に此れを貰って欲しいんだ。」
「此れ……大切なハーモニカじゃない!」
「大切なモノだからこそ、君に貰って欲しいんだ……僕にはもう必要のないモノだから。
君達……特にエステル、君と出会ったあの日から、僕は毎日が夢を見ているみたいだった……本来なら許される筈もない温かく優しい夢。
でも、夢は何時か醒めるモノ……僕は、もう現実に戻らなきゃいけないから……だから、僕は今この時から君の前から居なくなる……知ってしまっ
たんだ……今回のクーデター事件の真の黒幕は、その魔法使いだって。
だとしたら、僕は此れ以上君達を、皆を、何よりもエステルを巻き込みたくないから……最後に、話が出来て良かった。」
「ふ……ふざけないでよ!夢だなんて、言わないでよ!まるで、今までの事が本当じゃなかったみたいじゃない……!!
魔法使いが今回の黒幕?だから、此れ以上一緒に居たら余計に巻き込む?……其れが如何したって言うのよ!その魔法使いが今回の事以上
にトンデモナイ事をしようとしてるってんならアタシとアインスも一緒にやるわよ!!
……アタシを見て!アタシの目を見てよヨシュア!!アタシはずっとヨシュアの事を見て来たわ!良い所も悪い所も知ってる!
ヨシュアが何かに苦しみながら必死に頑張ってた事も知ってる……そんなヨシュアを、アタシは好きになったんだから!!」
「え、エステル?」
殆ど勢いに任せてだが、自分の偽らざる思いをぶつけたか……流石のヨシュアも驚いているな。
「一人で行くなんてダメだからね!アタシを置いて消えちゃうなんて……絶対に許さないんだからぁ!!!」
――グイ……!!
っと、ヨシュアがエステルを引き寄せたと思ったら、少し強引だがキスをしたか……此れは参ったな?マッタク持って予想外だったから深層心理に引
っ込む事が出来な――って、口の中に何か!?
「!!なに、今の!?」
「……即効性の睡眠誘導剤だよ。副作用はないから安心して。」
「あ……安心出来るかこの大馬鹿者がーーー!!ファーストキスが睡眠誘導剤味とか最悪過ぎるわ!エステルに謝れ!!」
「アインス……怒るとこ、其処じゃないと思うわ……でも、どうして、ヨシュア……」
此処で眠らせてその間に行方をくらます心算か……不味いな、エステルの意識はそろそろ限界か――ドレだけ即効性があるんだこの睡眠薬は。
えぇい、仕方ない!
――シュン!
「アインス……君に変わったのか?エステルは……」
「限界が来て落ちたよ……」
「そうか……君には睡眠薬も効かないのかな?」
「エステルと完全融合した状態ならば効かないだろうが……残念な事にそうではないらしい。エステルよりも少しばかり効きが鈍いみたいだがな。
……だがヨシュア、お前は本当にそれで良いと思って居るのか?エステルの前から居なくなるのが最善だと本当に思って居るのか?」
不味いな、足に力が入らなくなってきた……ドレだけ強力なんだ此れは……!
「少なくとも僕が居なくなればエステルに危害が及ぶ事は無くなる……其れだけで充分だ。」
「ふざ……けるな!
確かに……そうかも知れないが……エステルの中には、お前が自分の前から居なくなって……しまった悲しみが、ずっと残るんだぞ……私が、偉
そうな事を言えた立場ではないがな……だが、私には半年と言う制限時間が最初から……あったし、其れは最早如何する……事も出来ない、事
だった……でも、お前はそうじゃないだろう……本当に、エステルの前から去るしか選択肢は……ないのか?」
「……確かに、他に選択肢もあったのかも知れないけど、今の僕にはこれ以外の方法は思い付かない。
自分でも最低だと思うよ……大切な女の子からこうして逃げ出す事しか出来ないんだから……だけど、エステルは太陽みたいに眩しかったから。
眩しすぎたから……僕みたいな日陰の存在が其れに影を射す事は出来ないから……」
クソ……ダメだもう全身に力が入らん……限界か……!!!
「さよなら、僕のエステル。初めて会ったその時から、君の事が好きだった。」
待て、行くな!行かないでくれヨシュア!!エステルの太陽の笑顔はお前が居てこそなんだ……お前が居なくなったらエステルは、もう二度と太陽
の笑顔を浮かべる事は出来なくなってしまう!
エステルから、太陽の笑顔を失くさないでくれ……ヨシュア…………
First Chapter END
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