Side:ヨシュア


絶体絶命の状況で現れた長い銀髪と黒衣、そして背中の六枚の羽根が特徴的な女性――エステルとアインスが一時的に完全に融合したとの事だ
ったけれど、今の彼女からは凄まじい力を感じる。
いや、実際に今の彼女の力は凄まじいって言える……一撃、たった一撃でトロイメライの巨体を吹き飛ばしてしまったのだから……しかもさっきの攻
撃はアーツと言うよりもレヴィが使っている『魔法』に近い感じがした……まさか、あの姿になった事でアーツじゃない魔法も使用出来る様になったっ
て言うのか?



「それにしても、クロハネのやつさっきのいちげきてかげんしたのかな?」

「はぁ、冗談言ってんじゃねぇぞレヴィ!手加減した一撃であの巨体があんなに吹っ飛ぶかってんだ!!」

「え~~~?でも、ぜんせーきのちからをとりもどしたクロハネって、僕達のなかでいちばん強いおーさまが『あの時の奴は我を瞬殺しよったわ』って
 いってたし、やみのしょだったころはパンチいっぱつででっかいせんかんふんさいしてたんだよ?」

「其れはまた何とも……ですが、アレは私達では想像もつかない高度な文明を持っていたと言う古代ゼムリア文明が作り出した兵器――なら、現存
 するどんな物質よりも頑丈な物で作られている可能性は否定できませんよレヴィちゃん。」

「どんなぶしつよりもがんじょー?」

「とっても堅くて、スッゴク強いって事です。」

「おー、なるほど!!」



レヴィ、君って奴はホントにどんな時でも変わらないね……本当だったら緊迫するべき所なのに、君が居るだけでそんな空気は一瞬でなくなってし
まうよ――エステルとレヴィが割と仲良かったのは、何方も徹底的に前向きで明るいからなのかも。
其れは兎も角として、今の状況はアインスと大佐がトロイメライと対峙している状態……あの二人ならトロイメライにも勝てるかも知れないけど、不安
要素としてはアインスのアノ状態がドレだけ続くのかって言う事だね……『この戦いが終われば元に戻る』って言っていたけど、其れよりも前に元に
戻ってしまう可能性もある。
そうなったら一気に状況は此方が不利になる……元に戻ったら、恐らくだけどあの姿になる前のダメージを負った状態のエステルになると思うから。
アインスと大佐がトロイメライと戦ってる間に、僕達も態勢を整えておかないとだね。









夜天宿した太陽の娘 軌跡81
『深淵での決戦~Starlight Breaker~』









No Side


アインスとリシャールは変形したトロイメライに夫々武器を構えて対峙し、トロイメライもまたアインスとリシャールと向き合う……頭部の一部が点滅し
ているのはアインスとリシャールの力を解析しているのかも知れない。


「「しかし、さっきの一撃でも壊れないとは呆れた頑丈さだなコイツは……さっきのは一撃で戦艦も沈めるのだがな?」」

「……其れが本当だとしたら相当に厄介な相手と言う事になるが……だが、無敵の兵器など存在しない。そんなモノが存在してしまったら、もしも其
 れが暴走してしまった時に止める手段が無くなってしまうからね。」

「「まぁ、そうだが……一撃で倒せないのならば倒れるまで攻撃するだけの事だ。如何に頑丈でも、耐久力の限界はあるからな。」」

「私達の体力が尽きるのが先か、其れとも向こうが壊れるのが先か……あまり分の良い勝負とは言えないが、今は其れをやるしかあるまい。」

「「そう言う事だ……行くぞ。」」


先に動いたのはアインスとリシャール。
先手必勝と言う言葉があるが、実は戦いにおいて先に動くのはあまり得策ではない――先に動くと言う事は其れだけ相手に自分の情報を与える事
になってしまうからだ。

だが、其れはあくまでもサシの勝負での話であり、相手が一体で此方が複数ならばその限りではないと言えるだろう……相手が一体に対して此方
が複数であるのならば与えてしまう情報はその中の一人になるから、他のメンバーは情報を渡す事なく動けるのだ。

左右に散開したアインスとリシャールはトロイメライを挟み撃ちにする形で攻撃し、アインスはトロイメライの右手を、リシャールは左手を攻撃する。
それに対してトロイメライは腕を振り回して応戦するが、リシャールは其れをバックジャンプで回避し、アインスは片手で止める……そして受け止めた
だけでなく、其のままトロイメライを片手でぶん投げる!!


「「穿て……ブラッディダガー!!」」


更に追撃に無数の闇色と太陽色の魔力刃を発射!!ぶん投げられたトロイメライの上方向から容赦なく発射された魔力刃の数は推定でも千ちょっ
とはあるだろう。
決まれば必殺かも知れないが、トロイメライは先程エステル達をほぼ壊滅させた攻撃で魔力刃を相殺し、更に腹部のガトリングを発射して反撃してく
る……因みにこのガトリングは第一形態では頭部であった部分だ。此れが頭部とか、其れは確かにブサイクであろう。

しかしそのガトリングの攻撃も、アインスは棒術具を、リシャールは刀を回転させて完全に防ぎ切る――棒状の物体を高速回転させて疑似的な盾に
すると言うのは創作の世界での事ではなく、一流の実力者ならば可能な事らしい。
そしてただ防御するだけでなく、アインスは棒術具で弾丸を絡め取っていたらしく、絡め取った弾丸を棒術具に乗せ、そしてフルスイングでトロイメラ
イに打ち返す!と同時にリシャールが瞬足の居合で斬り込みトロイメライのガトリングに傷を付ける……其れは決して決定打とは言えない一撃だが
精密な構造のガトリングにとっては大問題だ。
砲身が回転する事で高速連射を可能にしているガトリングは僅かな傷でも砲身の回転運動を行う事が出来なくなってしまうのだから――そして、実
際に動作不良が起きたのか、トロイメライはガトリングを引っ込めると、代わりにエネルギー砲を放てる砲身を腹部に展開する。
その新たな砲塔から強烈なビームを放つ!!


「「……この程度で倒せると思って居るのか?随分と甘く見られたモノだな。」」


が、そのビームもアインスが手をかざして止め、そして吸収してしまった……掴めない筈のビームを止めると言う事だけでも大概だが、其れだけでは
なく吸収するとはマッタク持ってトンデモない事この上ない。――吸収に関しては、闇の書だった頃の蒐集能力の応用かも知れないが。
取り敢えず、先ずは有利に戦いを進めている様だ。


そして其れは同時にヨシュア達が態勢を整える為の時間も充分にあると言う事だ。


「クソッタレ……身体が言う事聞きゃ、直ぐにでも参加してぇところだが……回復系アーツでも完全回復には程遠いぜ――タダ見てるとか冗談じゃね
 ぇぞ……何とかならねぇのかよ?」

「何とかなります、今なら。此れは発動までに時間が掛かるのですが、アインスさんとリシャール大佐がトロイメライを抑えてくれている今ならば使え
 ます。」

「……クローゼ、お願い!!」

「お任せ下さいヨシュアさん。
 光よ、その輝きで傷つきし翼達を癒せ。リヒトクライス……!」


此処でクローゼが己が使える、回復系のアーツをも越えたアウスレーゼ家に伝わる秘術とも言える回復技『リヒトクライス』を発動して仲間達の傷を
癒して体力を回復する。
その圧倒的な回復能力はアーツとは比べ物にならないほどに大きく上回っており、更にクローゼのリヒトクライスは治癒と体力回復に加え、死者の
蘇生をも可能にしていると言う極チート性能なのだ。
そして、リヒトクライスの力をここまで引き出したのはアウスレーゼ家の始祖とされているセレスト・D・アウスレーゼだけだと言われている。
つまりクローゼは、史上二人目となる完全なリヒトクライスに開眼した人物と言う事になる訳だ。……クローゼは若しかしたら、アウスレーゼ家の始祖
の魂が転生した存在なのかもしれないな。

だが、此れによりヨシュア達は完全回復を果たし、リヒトクライスの光が収まると同時に、ヨシュアはトロイメライへ向けて鋭く斬り込んだ!


「遅い!!」

「「ヨシュア!?お前、身体は大丈夫なのか!?」」

「クローゼが回復してくれた!
 それに僕だけじゃなくて、クローゼ本人も、レヴィやシェラさん達も完全に回復した、……此処からは僕達も一緒に戦う!」

「さっさと終わらせるわよ!」

「射撃でのサポートは任せてくれたまえ!」

「回復と補助は私が行います!」

「此のデカブツが、今度はさっきみたいにゃ行かねぇぞ!!」

「それー!私だって頑張るんだから!!」

「一番の年長者として、此処は踏ん張らんとな!」

「よっしゃー!おもいきりあばれるぞクロハネーー!!」


いや、ヨシュアだけでなくシェラザードが鞭でトロイメライの腕を絡め取り、オリビエは導力銃の精密射撃で関節部にダメージを与え、クローゼは強化
系アーツと回復系アーツをメインに補助を行いながら、隙を見て攻撃系アーツでトロイメライの攻撃を足止めし、アガットは持ち前のパワーと重剣でト
ロイメライの物理攻撃を受け止め、ティータは導力砲の広範囲攻撃で複数の部位にダメージを与え、ジンは無駄のない格闘を叩き込んで装甲に少し
ずつダメージを叩き込み、レヴィはブレイバーモードのバルニフィカスでトロイメライをホームラン!!アホの子のパワーは矢張り半端ではない。


「はぁ!!」


更に吹き飛ばされたトロイメライと交差するように、リシャールが居合を放ち、その一撃でビーム砲の砲身を切り飛ばす……全身の装甲は頑丈であ
っても武装の頑丈さは並である様だ。
いや、武装だけでなくトロイメライ本体の装甲にも、此の場の全戦力を注ぎ込んだ攻撃によって亀裂が入り始めていた――特に、アインスの炎の魔
法とクローゼの水属性のアーツを交互に喰らわせた効果は大きいだろう。
如何に頑丈な物質でも急激な温度変化を何度も起こしたら、その急激な温度の変化に物体の元素の収縮と膨張のスピードが付いて行けずに破損
するのだ……使用したばかりのフライパンを水に突っ込んだら罅が入ったと言うのは決して大袈裟な話ではないのである。


『ギ……ギギ……』


だが、トロイメライも輪の守護者として此処を通す事は出来ないのか、先程一行を全滅寸前まで追い込んだ超広域攻撃を再び放つ!その威力は先
程放たれたモノよりも上――この波状攻撃によってアインス達の脅威度が上がり、機体のリミッターが外れたのかも知れない。


「「……無駄だ。」」


だが、その攻撃もアインスが指を鳴らしただけで直撃する前に止まってしまった……いや、止まっただけでなく――


「「トラップ発動『マジック・シリンダー』!」」


その攻撃がトロイメライに向かって其のまま撃ち返された!
アインスは指を鳴らしただけでトロイメライの攻撃の指向性を操作して、逆に打ち返したのである……完全なるカウンター故に防御は出来ず、此のカ
ウンターを喰らったトロイメライは遂に装甲の一部が砕け散り、内部が露わになる。


「「此処が決める時か……最大の一撃を叩き込んで終わらせる!皆、十秒だけ時間を稼いでくれ!」」

「十秒だね……任せて!」

「おー、すっごいのかます心算だなクロハネ!よっしゃー、僕もがんばるぞ!ブサイクロボットかかってこーい!!」


此処が決め時と思ったアインスは、最大の一撃を叩き込むべく、ヨシュア達に十秒だけ時間を稼いでくれと言うと、飛び上がりそして棒術具の先にエ
ネルギーを集束させていく……己の放った魔法、クローゼが使ったアーツ、トロイメライの攻撃等によってこの空間に散らばったエネルギーの残滓を
残さずにだ。


「此れは……この空間に満ちたエネルギーを彼女が集めているのか!」


其れに気付いたリシャールは流石に慧眼だと言うべきか。――そして、棒術具の先に集束するエネルギー球はドンドン大きくなって行き、既に直径
10m程の大きさになっている。
此れこそがアインスの切り札にして、アインスが元居た世界の小さな勇者が編み出した不敗の奥義!!


「「今またお前の力を借りるぞ小さき勇者よ。
  咎人達に滅びの光を。星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ!貫け!閃光!スターライト……ブレイカーーーー!!」」


その名は『スターライトブレイカー』。
オリジナルとは違って桜色ではないが、闇色と太陽色の混じった強大なエネルギー波が放たれトロイメライを呑み込んで行く……両腕でガードする
トロイメライだが、結界を貫き、絶対防御すら貫通するこの一撃を止める事は出来ず、ガードに使っていた両腕は融解し、そして阻むモノが無くなった
エネルギー波はトロイメライの装甲を貫き、中枢の機関部を完全に破壊して機能を停止させた。
アインスの宣言通り、トロイメライは再起動したこの日が引退の日になったのだった。








――――――








Side:ヨシュア


なんて威力だ今の一撃は……アレは、エネルギーの集束量によってはトロイメライどころか、下手をしたら国を一つ――いや、やろうと思えば世界そ
のモノを破壊する事だって可能な技じゃないか……!
アインスは強いとは思っていたけれど、まさかあれ程の技を持っていただなんて……絶対に敵には回したくないな。



「「終わった、か……」」



――シュゥゥゥン……



ん?アインスが光に包まれて……エステルの姿に戻った!?――だけなら未だしも、倒れそうになってるって!!く……間に合うか!!



「ヤレヤレ、行き成り大きな力を使うから身体の方が付いて行けなくなるんだ。」



と思ったら何者かが現れてエステルの身体を支えた……って、父さん!?



「カシウスさん!?」

「せんせーい、やっぱり無事だったんですね?」

「あのチョビヒゲおやじダレ?」

「レヴィちゃん、あの人はですね……」

「ち、チョビヒゲ親父っておま……リベールを救った英雄も、コイツに掛かっちゃ形無しだなオッサンよぉ?てか、来るのがオッせぇんだよ!!」

「よう、旦那。やっぱりアンタも来たか。」

「ただいま!」



ただいま!じゃないよマッタク……一体エステルがドレだけ父さんの心配したと思ってるのさ?……僕も其れなりには心配してたけど、父さんだった
ら絶対に大丈夫だとは思ってたからさ。――でも、エステルは口では色々言いながらも本気で『父さんにもしもの事があったら』って心配してたんだ。
後でエステルに謝っときなよ?……って、其れよりもエステルは大丈夫?



「エステルが目を覚ましたらな……心配要らん、力を使い果たして眠ってるだけだ……まぁ、エステルなら半日も寝てれば回復するだろ。
 こんな事を言ったらエステルとアインスに怒られるかもしれんが、元々エステルは元気印で疲れ知らずだったし、限界超えて遊んだとしても一晩寝
 れば翌日には全回復していたからなぁ?……そして、アインスが現れてからは其れがより顕著になった気がするからなぁ?下手すれば二時間位
 で目を覚ますかもしれん。」

「……其の通りだとしたら恐るべき回復力だね。」

でも、エステルが無事ならば良かった……さてと、輪の守護者も倒したし、此れで今回の件は一件落着かな?……結局オーリオールが何なのかは
分からずじまいだったけどね。



「リシャール……俺の子供達に着目したのは悪くないが、此れは流石にやり過ぎだぞ?
 確かに此れだけの事件を解決に導いた立役者と言うのはリベール周辺の諸外国にとって良い牽制にはなるが、クーデターが起こったと言うのはリ
 ベール内部が不安定であるのかと言う情報をも齎す事になる――となれば最悪の場合、其れを好機ととらえて攻めてくる輩が居ないとも限らんだ
 ろうに。
 お前の国を思う気持ちは痛いほど分かるが、少しばかり事を急いてしまった様だな?」

「カシウスさん……そうで、あるのかも知れません。私は、貴方が軍から去った事で焦ってしまったのかも知れない……」

「俺はお前ならば大丈夫だと思って軍を辞めたのだが、其れが却ってお前に負担になってしまっていたか……だが、お前が自身の足で立ち、お前と
 同じ志を持つ仲間を信じていれば、こんな事にはならなかったかも知れん。
 本来ならばクーデターの首謀者は死刑なのだが……今回の事は国を思っての事故、私が陛下に温情処置を求めてやる。己の過ちと向き合い、そ
 して自分に何が足りなかったのかよく考えてみると良い。
 そして罪を償った暁には、今度こそ己の理想を実現してみろリシャール。お前ならば出来る筈だ。」

「カシウスさん……そう、ですね。」



リシャール大佐も、父さんに言われて自分のした事を悔いる事が出来たみたいだ。――大佐の処置については、僕とエスエルとアインスの連名で嘆
願書を出す事も考えた方が良いかも知れないね。
大佐のやった事は許される事じゃないけど、でもそれはリベールを思っての事だったんだから……死刑だけは絶対に回避しないとだからね。



「では、お祖母様に私から提言しておきますね?」

「クローゼ……そうだ、君が居たんだったね。」

クローゼが言ってくれれば僕達の嘆願書は必要ないかな……いや、そもそもにしてアリシア女王なら大佐のクーデターの真相を知ったら極刑にする
筈がないか。
本当に此れで一件落着!……傍から見ればそうなんだろうけど、この事件はまだ終わってない――だって、この事件の本当の黒幕は捕まっていな
いのだから。

僕なりに飛空艇襲撃事件に端を発する、リベール全土を巻き込んだ一連の事件を色々と考えて漸く辿り着く事が出来た……リベールで起きた一連
の事件の本当の黒幕は、ドルンさんでも、ダルモア市長でも、リシャール大佐でもなく、貴方だったんですね?
























アルバ教授……!!










 To Be Continued… 





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