Side:アインス


ゴスペルの導力停止現象が起きた直後に現れたロボット兵器、トロイメライ――エステルの言うようにブサイク極まりないだけでなく、遥か昔の古代
ゼムリア文明の時代からオーリオールを守護して来たにしてはアナライズで解析したステータスは大した事がない。
左右の浮遊自立ユニットも、一方は物理耐性、もう一方はアーツ耐性を備えているみたいだが、特性さえ分かってしまえば幾らでも対処法はあるか
らな……さて、お前なら如何チーム分けをするエステル?



《そうね……アーツ耐性の方にはレヴィをぶつけて、物理耐性はクローゼとシェラ姉に任せてアタシ達とヨシュアで本体を叩く!ってのは如何?》

《ふ、百点満点だ!それじゃあ、それを皆に伝えて一気に行こうか!》

《うん!》
「アインスがアナライズで解析したら、浮遊ユニットの右側は物理耐性があって、左のにはアーツ耐性があるらしいの!
 でも物理耐性はアーツに、アーツ耐性は物理に弱いから、左の奴はレヴィが、右のはクローゼとシェラ姉がお願い!!アタシとアインス、それとヨシ
 ュアで本体を叩くから!!」

「エステル……確かに其れが最善策かも知れないね。」

「あらあら、中々に考えてるじゃない?
 勢い任せで碌に考えてなかった頃から比べるとまるで別人ね……やっぱり貴女、間違いなく先生の娘よエステル。」

「よっしゃー!このブサイクロボット、僕がやっつけてやるからかくごしろー!!」

「レヴィちゃん……リベール王国王女として許可します。思い切りやっちゃって下さい。」



クローゼ、お前とっても良い笑顔でこの上なく恐ろしい事を言ってくれたな?レヴィに『思い切りやれ』と言うのはつまり、有るかどうかがそもそも疑問
かも知れないが、アホの子のリミッターを解除すると言う事だからな……この時点でトロイメライ終了のお知らせだな。
リシャールは、自分の予期せぬ事態に茫然自失と言った感じだが、リシャールの事はコイツをぶち倒してからだな……しかし、如何にも胸騒ぎがして
仕方ないな?……トロイメライ、本当にアナライズで解析した通りの能力だけであればいいのだがな。









夜天宿した太陽の娘 軌跡80
『王都地下の最深部~蘇る祝福~』









No Side


現れたオーリオールの守護者『トロイメライ』。
その巨躯と、物理耐性を備えた浮遊ユニットとアーツ耐性を備えた浮遊ユニットと言うのは可也難敵に思えるだろうが、アインスがアナライズで解析
したステータスはロランスよりも遥かに下であり、そうであれば此の面子が負ける相手ではない。


「うおりゃー!!ぶっとべー!!」

「シェラザードさん!」

「OK、準備は出来てるわクローディア殿下!」


アーツ耐性を持つ浮遊ユニットはレヴィが持ち前のパワーで圧倒し、物理耐性を持つ浮遊ユニットはクローゼとシェラザードがアーツの波状攻撃で完
封していた――特にクローゼとシェラザードは駆動時間の短いアーツを交互に発動して反撃の隙を与えないと言う見事な連携でね。
そしてトロイメライ本体は……


「遅い!!」

「せぇの!爆裂金剛撃!!」


エステルとヨシュアのコンビが圧倒していた――正しくは、アインスがエステルのサポートもしてる訳だけどね。
ヨシュアが縦横無尽に絶影を仕掛けてトロイメライの動きを封じると同時に、エステルがアインスのアーツサポートを受けたクラフトをぶちかますと言う
スピードとパワーの連携でトロイメライを略完封状態なのだ。
此れだけでも既に十分なのだが――


「ふ、メインイベントに仲間外れと言うのは些か冷たくないかいエステル君?」

「初めて会った時は口だけは達者なヒヨッコだと思ってたが、やるじゃねぇか!嫌いじゃないぜ、お前みたいな奴はな!!」

「流石は旦那の子達だぜ!」

「お姉ちゃん、お兄ちゃん……私も一緒に!!」


そこにオリビエ、アガット、ジン、そしてティータまでもが参戦!!――と同時に、城の上で情報部を相手にしてたアガット達が此処まで来たと言う事
は上の方は略片付いたと言う事なのだろう。
其処からは正に一方的!
ジンがレヴィの助太刀に入り、オリビエは導力銃とアーツで双方の支援を行い、ティータは導力砲で目一杯の攻撃を行い、アガットはエステル達と共
に本体への苛烈な攻撃を行う。
そして、この猛攻に浮遊ユニットは遂に沈黙し、残るは本体のみだ。


《エステル、クローゼに特大の水属性のアーツを頼んでくれ!》

「クローゼ、アインスが特大の水属性のアーツを頼むって!!」

「了解です……はぁぁぁぁ……てや!!」


その本体にクローゼが最上級の水属性アーツをぶちかます……精密機械に水漏れは厳禁なので、水属性アーツでショートでもさせようと言うのだろ
うか?……ただ、此れを喰らったトロイメライはそんなに効いた感じではないが。


《アインス……あんまり利いてないみたいだけど?》

《そうだな……だが、今のはトロイメライに決定的なダメージを与える事が目的ではない。――クローゼのアーツを喰らったトロイメライはどんなだ?》

《え?其れは濡れて……って、そう言う事か!》
「レヴィ、思い切りでかいのぶちかまして!!」


アインスからヒントを貰ったエステルは如何言う事かに気付き、レヴィにデカいのを一発要求する!


「おっけー!いっくぞー!パワーきょくげーん!雷神滅殺極光斬!!」


そしてレヴィが必殺の一撃をぶちかますと、その一撃を喰らったトロイメライは激しい火花放電を起こして機能を停止……水属性アーツだけでは決定
打にならずとも、ずぶ濡れになった所に電気をぶちかませば流石に効果抜群だったみたいだ。正に電気伝導率がアップし、レヴィの攻撃力がアップ
と言った感じだろう。
煙が出てるのを見る以上、此れで沈黙したはずだが……


『索敵モード終了……ジェノサイドモードに移行します。』


そんなアナウンスが聞こえたと同時に、トロイメライは再起動し、そして変形して、浮遊ユニットだったモノが合体して新たな腕となる……此れこそが
トロイメライの真の姿であり、オーリオールの守護者としての力を開放した姿なのだ。


《此れは……アナライズで解析したが、コイツは先程の比ではないぞ!ロランスには及ばないが、それでも私達の誰よりも高いステータスだ!!》

《其れってアインスよりも?》

《お前の身体を借りてる現状では、1ポイントだけ負けるな。》

《何それめっちゃ悔しいんですけど。》

《うん、私も悔しい。》


其の力は先程とは比べ物にならないものだろう。
変形した直後に腹部のガトリングを連射し、巨大な両腕のクローで容赦ない攻撃を行って来るのだ――其れだけならば対処には苦労しない面々だ
が、トロイメライがリミッターを解除して発動した超高範囲攻撃には流石に対処出来なかった。
事前のミサイル攻撃はアインスがアースウォールを張る事で無効化したが、その直後に放たれた攻撃にはアースウォールを張る間がなく、全員がシ
ャレにならないダメージを負ってしまった――頑丈さが売りのアガットとジンが此の一撃で戦闘不能ギリギリまで追い込まれてしまったのだから一体
ドレだけの威力だったのかは推して知るべきだろう。

そしてそんなエステル達にトドメを刺そうとトロイメライが迫ってくるが……


「此処から先は通さん!!」


その前にリシャールが躍り出た。
刀を抜刀してトロイメライを睨みつける……予想外の事態に呆然としてしまったリシャールだが、運良くトロイメライの超広範囲攻撃の射程範囲外に
居た事で難を逃れ、エステル達の危機を目の当たりにして再起動したみたいである。


「大佐……!!」

「君達は逃げたまえ!――そうだ、私はエステル君とアインス君に無限の可能性を見出したのであって、この様な力を必要とは思って居なかった。
 何故こんな力を求めてしまったのか、其れは分からないが……この力が私の望んだ物でない事だけは理解出来る……ならば、この力を開放して
 しまった者のせめてもの務めとして私が此れを破壊する!」


如何やらリシャールは目を覚ましたようだが、しかしエステル達を一撃で戦闘不能に追い込むだけの力を持っているトロイメライにたった一人で挑む
と言うのは無謀極まりないだろう。
加えてトロイメライは、エステル達に大ダメージを与えた超広範囲攻撃の準備をしているのだ――発動前に破壊出来れば大丈夫だろうが、そうでな
ければ今度こそ全滅は免れないだろう。


《アインス……このままじゃ!!》

《あぁ……拙いな。アースウォールで無効にしても、先程の様に間髪入れずに次の攻撃が今度こそ……
 だが……だからと言って諦められるか!!諦めなければ未来が見えるんだ!!》

《そうよね……アタシもこんな所で諦めたくないわ!!》


と、此処でアインスとエステルの心が完全共鳴!!そして――



――カッ!!



「「この程度で私達を倒そうとは烏滸がましいな。」」


エステルの身体が光ったと思った次の瞬間、光りが治まった其処に居たのはエステルではなかった。
長い銀髪に赤い瞳、黒を基調とした衣装、腕や足に巻かれた革製のベルト、顔と腕に現れた不思議な赤い紋様、そして背に現れた三対六枚の黒い
翼が特徴的な女性――嘗て『闇の書の意思』と呼ばれていた頃のアインスの姿がそこにあった。

その女性は今正に攻撃を行おうとしているトロイメライに右手を向けると……


「「失せろ。」」


其処から闇色のエネルギー弾を放ってトロイメライを吹き飛ばして攻撃を強制終了させる――その攻撃は、アーツよりも遥かに強烈な一撃であった
のは間違い無いだろう。
第一形態の時ですらクローゼの最上級水属性アーツが決定打にならなかったと言うのに、今の一撃は真の姿となったトロイメライを吹き飛ばして見
せたのだから。


「「まさか、此処で全盛期の力を取り戻すとは……いや、エステルの力もプラスされているから全盛期以上か――そして、人格は完全に統合されてる
  みたいだな。」」


声こそエステルとアインスの二重音声だが、その口調はアインスで固定されているのを見る限り、恐らくはこの女性はアインスでありエステルなのだ
ろう――ロランス戦と、先程リシャールを一喝した際に口調がアインスで統一され、その姿も一瞬アインスのモノになったのは未間違いではなかった
と言う訳だ。

もとより前兆らしきものは有ったと言えるかもしれない。最近は人格交代をした際、目付きが普段のエステルよりも鋭くなったり、身長もエステルより
高くなったりしていた……人格交代が身体にも影響を及ぼし始めていたのだ。
そしてエステルとアインスの気持ちが共鳴した際に起きた二度の容姿の完全変化――其れを経て、危機的状況にエステルとアインスの気持ちが完
全共鳴した事で、この姿になったのだろう。


「エス……テル?いや、アインス……なの?」

「「ヨシュア……今の私はエステルでもあってアインスでもあり、そして同時にその何方でもないと言えるな。
  この身はアインスの全盛期のモノだが、そのベースになっているのはエステルの身体であり、人格もアインスのモノになっているが、しかしエステ
  ルのモノがマッタクゼロとは言い難いからね……なに、安心しろヨシュア、此れは恐らく一時的なモノ――コイツを倒せば、元のエステルに戻る筈
  だ。多分な。」」


ヨシュアが困惑するのも無理が無いだろう……いや、ヨシュアだけでなくこの場に居る全員が予想だにしてなかった事態に脳ミソがフリーズしてるみ
たいである。


「おー!クロハネだー!」


……レヴィは何時も通りだが。と言うか、さっきの攻撃で大ダメージを受けた筈なのにこうしてすぐ復活するとか、流石はアホの子、ギャグ補正による
超回復でも備えてるのかも知れない――何それ怖いわ。


「「レヴィ、元気なのは良いが其れは最早空元気に過ぎん……コイツは私がやるから、お前は皆を守ってやってくれ。其れ位は出来るだろう?」」

「うん!それくらいならいまの僕でもできるぞ!!やっちゃうぞー!!」

「「頼むぞ?コイツの解体には、少しばかり時間がかかりそうだからな。」」


そのレヴィに仲間達の事を任せると、女性――アインスはトロイメライに向き直りその闘気を一気に開放する!!
瞬間、アインスの身体は闇色と太陽の色が混じった闘気のオーラに包まれ、そして其れだけでなくオーラに収まり切らなかった闘気が飽和状態とな
ってその周囲に火花放電を発生させている……其の力は、全盛期のアインスを凌駕していると言っても過言ではない。
全盛期のアインスの力にエステルの力を加算したのではなく、全盛期のアインスの力をエステルの力で乗算したのかも知れない……全盛期のアイ
ンスの戦闘力が三百万で、今のエステルの戦闘力が仮に千だとしたらこのアインスの戦闘力は三十億、大分ぶっ飛んだ数値である。


「「さて、お前はコイツを一人で何とかする心算だったみたいだが、ある意味でお前のおかげでこの力を取り戻す事が出来たとも言えるな大佐、礼を
  言うぞ。
  だが、未だ終わりではない……コイツを破壊するのに力を貸してくれるか?」」

「!……勿論だ。此の私の力で良ければ幾らでも貸そうじゃないか!」


アインスはこの事態に驚いてるリシャールに声を掛けると、『トロイメライを破壊するのに協力しろ』と言い、リシャールもまた其れを承諾――アインス
の時は『リシャール』と呼んでいたのに対し、今は『大佐』と呼んでいるのを見ると、エステルの人格は確かに其処に存在している様だ。

それはさて置き、此れは此処に最強のタッグが誕生したと言っても過言ではないだろう――全盛期以上の力を取り戻したアインスと、剣聖の剣を受
け継いだリシャールのコンビは、其れこそカシウスとロランスがタッグを組まない限り倒せないかもだ。


「「一体何百年ぶりに起動したのかは分からんが……お前の再起動日は、私の復活祭にさせて貰うぞ。」」


手にした棒術具をトロイメライに向け、アインスはそう告げる……と、同時に吹き飛ばされたトロイメライも漸く起き上がって各機関をフル稼働させ、本
体から蒸気が上がる。


「アインス君、何か作戦は?」

「「ない。徹底的に暴れてあれを破壊する、其れだけだ。」」

「成程……だが、時にはそう言う戦いもありかもしれないな。」


リシャールもまた刀を構えて戦闘態勢を整える――最終決戦の第二幕にして最終幕の幕が今、静かに上がろうとしていた……











 To Be Continued… 





キャラクター設定