Side:アインス


私が意識を失っていた間にクローゼが回復アーツを使ってくれた事で怪我は治ったが、それでもまだ痛みは僅かに残っているか……まぁ、其れも直
に消えるだろうがな。
と言うか、この痛みに関してはロランスとの戦いでのダメージと言うよりも私が少しばかり無理な動きをした事の影響だろうな……エステルが確り鍛
えている事+今回の旅で更に身体が強くなった事で私が表に出て派手に動いても大分大丈夫にはなって来たが、ロランスレベルと本気で戦うと反
動は未だ大きいみたいだ……が、今回の事で其れも次は大丈夫だろう――今回の事で身体が慣れただろうからね。クローゼが回復してくれたお陰
で、本来ならば時間を掛けて慣らすべき所を即慣らす事が出来たのだろうがな。
さてと、私の意識は戻ったがエステルの意識はまだ起きないか……私が起こしても良いが、此処は王子様の声で起きた方が良いだろうな。
心配性の王子様が、さっきからエステルの名を呼んでいるからね……しかし、身体の主導権がない状態で意識だけが起きていると言うのも妙な感
覚だな。



「エステル!!」

「あれ……ヨシュア……?」

「よ……良かった本当に。君が無事で……!」

「もー!こっちにきたらぶったおれててくろーぜがあーつでかいふくしてたからビックリしたんだぞーー!!」

「レヴィも……あ、そうよ!女王様は!?お城は如何なってるの!?」



意識を失う前にアリシア女王とクローゼの無事は確認したが、城が如何なってるかまでは分からないが、ヨシュアとレヴィが此処に居ると言う事は少
なくともカノーネ達は退けたと言う事だろう。



「まったく、相変わらずじっとしてられない娘ねアンタは!大丈夫、陛下はご無事よ!グランセル城ももう心配ないわ!」



この声は……



「「シェラ姉!!(シェラザード!!)」」

「気持ちがシンクロすると声がハモるのは相変わらずみたいね……聞き取り辛い事この上ないわ。」



其れはまぁ、仕方ない……んだが、さっきロランスに啖呵切った時は私の口調で統一されていたような気がするな?其れと、ホンの一瞬だが全盛期
の力を取り戻した様にも感じた……アレは何だったのだろうか?
エステルの成長に比例する形で、戻って来ているとでも言うのか全盛期の力が?……まさか、流石にそんな事がある筈がないか。










夜天宿した太陽の娘 軌跡79
『クーデター事件の終息と大佐の思惑』









何故此処にシェラザードが居るのか気になったが、如何やらロレントからヴァレリア湖に出て、其処から湖を突っ切ってグランセルまでやって来たら
しいな……流石の行動力には脱帽だ。エステルの姉貴分なだけあるな。
だが、城にやって来たのはシェラザードだけでなく、アガット、ジン、オリビエ、果てはティータにラッセル博士までやって来ているらしい……何でも、ク
ローゼがエルベ離宮でナイアルに『王族と女官長と親衛隊長しか知らない城内部への隠し通路』を教えていたらしく、ナイアルが其れを遊撃士協会
にリークしてくれたおかげで情報部に気付かれる事なく城内へ奇襲をかける事が出来たとの事だ。
更にそれだけでなく、遊撃士協会の呼びかけに応えて、本来王都を守護して来た一般兵士達や、戦う力を持たない民間人までもが城の解放に力を
貸してくれた……か。

ふ、お前は情報部を組織して可成り綿密に計画を遂行して来たみたいだが、リベールを心から愛する人々の想いを超える事は出来なかったみたい
だなリシャールよ。
アガットとジンが居る上に、王都警護を担当していた一般兵が決起したとなれば如何に情報部の精鋭と言っても只では済まないだろう……特にアガ
ットに狙われた奴には合掌だ。
峰打ちだったとしても、あのバカでかい剣にぶっ飛ばされたら骨の一本や二本は覚悟せなばならないだろうからな。

と、此処まで聞けばリベールの危機は去ったように聞こえるのだが、実はまだ終わってない……最後の危機、リシャールが残っているからな。



「もうリベール王国は大丈夫です。どうかご安心を……」

「待ってシェラ姉!未だ危機はお城の地下に残ってるの!!」



ロランスも『宝物庫から地下に向かえ』と言っていたからな……この城の地下に、リシャールの目的がある訳だ。

其れでだ、クローゼの案内で宝物庫に向かうと、其処には地下に降りる為のエレベーターが存在していた……クローゼが『何時の間にこんな物を』
と言ってたのを見るに、此れはリシャールが最近作ったモノなのだろうね。
そのエレベーターを使って私達も地下に……クローゼには地上に残って欲しかったのだが、『私にも王女として最後まで見届ける義務があります』と
言われては何も言えんな。



「ねぇ、くろーぜ。ここってふだんはたちいりきんしくいきなんだよね?」

「そうですが、それが如何かしましたかレヴィちゃん?」

「そんなところにこんなえれべーたーをつくってるって、りしゃーるがしろをせんきょしたのってこれがもくてきなのかな?」



アホの子なのに鋭いなレヴィ?多分その予想は大当たりだ。
いや、此れまで私達が各地で遭遇した事件や、此度のクーデターでさえも、全ては王城の地下深くに封じられていた『オーリオール』を手に入れる為
の布石に過ぎなかったのだろうな。


そして、エレベーターで降りた先に現れたのは何とも不思議な場所だな?此処は……



「ヨシュア、此れって……」

「恐らくは、古代ゼムリア文明の遺跡だよ……此処に古代の至宝、『オーリオール』が眠っているんだ。」



古代ゼムリア文明の遺跡か……教授が聞いたら狂喜乱舞しそうだが、『オーリオール』が眠る此の場所に、リシャールは居ると言う訳か――!
此処に来る邪魔者を予想してか、遺跡内部には機械兵が配置されていたが、そんな物は障害にもならん……と言うか、相手が機械だと言うのなら
ば、レヴィが全力の一撃をぶちかませば即刻ショートして行動不能だからな。……矢張り機械に過度の電流は毒でしかないな。
そして、遂に最深部に辿り着き――



「矢張り君達か……」

「リシャール大佐!!」

「女王陛下の命により、貴方の計画を止めに来たわ!」



その場所に、リシャールは居た。
観念しろリシャール。情報部は既に抑えた……残るはお前だけだ。お前の実力は可成りの物だろうが、しかしロランスよりは下だろう……ならば、こ
の面子でお前を取り押さえる事は造作もない事だぞ。



「ふふ、少し遅かったようだな?
 既にゴスペルは起動させた。後はオーリオールの封印が解けるのを待つのみだ。」



何だと!?……クソ、意識を失っていた時間だけ遅かったか……!!だが何故だ、何故こんな事をするんだリシャール!国を護るべき軍人のお前
が至宝の力を手に入れて一体何をしようとしている!!



「私も思った事だけど、アインスも言ってるわ!『軍人の大佐が、至宝の力を手に入れて何をしようとしているのか』って!」

「知れた事……リベール王国を守る。只それだけだ。」



……はい?



「な、何を言ってるの?」

「十年前、アインス君に『国の平和を維持するには如何すればいい』と聞いた事を覚えているかな?」

「え、えぇ覚えてるわ。」



其れは勿論私も覚えている。そして、その為の方法を幾つか提示した事もな……それが今回の事に何か関係があるのだろうか?



「あの時から私は『この国の恒久平和を実現する為には如何すれば良いか』と言う事を考えていた……そして一つの答えに辿り着いたのだ。
 国の恒久平和の為に必要なのは、他の国に対する抑止力となるモノが必要不可欠であると――ならば、その抑止力となるモノは一体何か?其れ
 を考えた時に真っ先に浮かんだのが『人』と、そして『人知の及ばない力』だった。
 人の力は時として兵器の力を凌駕する……百日戦役の時も、カシウス・ブライトと言う『人の力』が兵器を凌駕して反攻作戦を展開出来た……其の
 英雄が軍を去ってしまった事はこの国にとって大きな痛手と言えるだろう。
 だがしかし、幸運な事に彼の遺伝子を受け継いだ者が存在していた……そう、君だエステル君。そして、君の中に居るアインス君もまた、彼の魂を
 君と共に受け継いでいると言っても良い。更に予想外にもう一人彼の魂を継いだ者、ヨシュア君まで現れてくれた――そうした君達は私の予想以
 上の事をしてくれた。
 君達は行く先々で様々な事件に係わり、そして解決に助力して来たが、オカシイと思った事は無いか?君達の行く先々で『まるで狙ったかの様に
 事件が起きた』と言う事に。」



言われてみれば、確かに妙だな?ロレントでの市長邸の強盗に始まり、ボースでの空賊事件、ルーアンでのダルモアの一件、ツァイスでの中央工
房襲撃からのラッセル博士誘拐、そして王都でのクーデター……今回の旅の行く先々で事件に巻き込まれて来たな?其れこそ『タイミングが良すぎ
る』位に。……まさか!!



「まさか……そんな!!」

「大佐……だとしたら、貴方は……!」

「そう、君達が一連の事件に関わったのは偶然ではない……情報部を使って君達の次の行き先を掴み、其処で事件を起こさせたのだ。君達ならば
 必ず介入すると思ってね。
 ……尤も、この王都での事は計画の範囲だったが、ルーアンで王女殿下も巻き込む事になってしまったのは予定外ではあったがね。
 だが、君達は、エステル君とアインス君、そしてヨシュア君は全ての事件で中心的な役割を果たして解決に導いた……ロレントでの強盗事件を解
 決したと聞いた時に、『此れならば』と予感し、そしてボースでの空賊事件の時に私の想いは確信に変わった……『カシウス・ブライトの魂を受け継
 ぐ者達ならば、この国の他国に対する抑止力となり得る』とね。
 そして、抑止力の一つである『人』は、此度のクーデターの首謀者である私を君達が鎮圧する事で完成する……私が君達に敗北し、そして拘束さ
 れれば、メディアは其れを報道し、同時にクーデター事件を解決に導いた存在として君達の事は国内外に発信される事になるだろう。
 仮に、実名報道がなされなくとも、『僅か一六歳の少年・少女が中心となって国を巻き込んだクーデター事件を解決し、首謀者を捕らえた』と言うの
 は国内以上に、国外にとって衝撃的な情報となるだろう――『リベールには軍事クーデターを鎮圧してしまう十代の若者が存在する』とね。
 此れは一代限りの情報に見えて、意外と後年まで効果が残る情報だ……一度でも『リベールに下手に手を出したら火傷では済まない痛手を被る
 可能性がある』と思わせれば、諸外国はおいそれとリベールに手出しをする事は出来まい。
 此れが兵器であれば、より強い兵器の開発合戦に発展するのだろうが、『人』の場合はそうは行くまい……勿論、人為的に優秀な人材を育て上げ
 る事は可能だが、人を育てるのは兵器を開発するよりも時間が掛かる――故に、国家を象徴とする『人』の存在は、兵器以上の抑止力になる。
 事実、カシウスさんは軍から退いた今でも、帝国や共和国では最重要人物としてマークされている訳だからね。」

「ほへ~~?どゆこと~~?」

「ごめん大佐、ちょっとストップ。レヴィが脳味噌オーバーヒートしてるから。」



アホの子には情報量が多過ぎたな。
しかし、まぁお前なりに十年前に私が行った事を考えての事だった訳か――確かに、象徴たる『人』を作ると言うのは悪くない方法だ。戦乱期のベル
カでも『覇王』と『聖王』と言う象徴が居たおかげで戦火が拡大しなかった時期が確かに存在していのだからね。
だが、私達をその象徴にすると言うのは、つまりお前を捕縛する必要がある訳で……そうなったらお前は……!!



「ねぇ大佐……アタシもあんまり頭は良くないけど、でも大佐の言った事は何となくだけど分かった……でも、アタシ達が大佐の望む存在になるには
 大佐を捕まえる必要があるのよね?アインスも言ってるんだけど。
 でもアタシ達が大佐を捕まえたとして、大佐は如何なっちゃうのよ!!クーデターだなんて、絶対に!!」

「……酌量の余地はあるまい。国家反逆罪、国家転覆罪で死刑は免れないだろう。
 だが、この国の未来の為ならば、私の命など喜んで捧げよう!私一人の命でこの国の平和が永く保たれると言うのならば寧ろ本望だ!!
 そして、『人』と同等に抑止力となる『人知の及ばない力』がこの『オーリオール』だ!
 太古の昔に封印されたアーティファクトに秘められた力は未知数にして無限……君達とオーリオール、この二つがこの国に永き平和を齎してくれる
 と私は確信している――故に此れだけの事をした……私は、何かオカシイ事をしているだろうか?」



其れも覚悟の上か……だが、敢えて言おう!!


「「この馬鹿野郎!!」」


はい、ハモりました。


「「お前の言う事は分からないでもない……だが、己の命をコストにして国の未来を守る等、思い上がりも大概にしろ!真に国の事を思うのならば私
  を象徴とする為の生贄になるのではなく、私と共に未来を歩む道を模索しろ!
  お前もまた、カシウスの魂を受け継いだ者の一人だろう?……十年前の戦争の時、お前もまたカシウスの『反攻作戦』に参加していたのだから。
  オーリオールがどんなモノかは知らないが……どうしてそんな物に手を出し、己の命を懸ける前に私に手紙で教えてくれなかったんだ?友だと思
  っていたのは、私だけか?
  もしも手紙で教えてくれていたら、私だって別の形で協力で来たかも知れないんだぞ……!!」」


が、今回も口調が私のモノで統一されているな……って、如何したレヴィ?



「えすてるが、いっしゅんクロハネになった。」

「確かに一瞬、エステルの姿じゃなくなったわよね……」

「ロランス少尉の時にもなりましたが……若しかして、アレが本来のアインスさん?」



え……一瞬本来の私の姿になってたのか?……一体何が起きていると言うのか――まさか、私の魂とエステルの身体が此れまでよりもより同調し
て来ていると言うのだろうか?



「大佐、一つだけ教えてください……貴方は如何して此の場所を知っていたんですか?」



っと、此処でヨシュアが斬り込んだ。
此処がアリシア女王ですら知り得なかった場所である事、宝物庫から真下にエレベーターを掘って行けば此処に辿り着けると言う考古学的専門知
識が必要な考察を普通の人が出来る筈がない事、ラッセル博士ですら特定できなかった黒のオーブメント『ゴスペル』の用途を何時何処で知り得た
のかを聞いた……リシャールの答えは『答える義理はない』と言うモノだったが、ヨシュアは其れを『違う』とバッサリ斬り捨てた。



「貴方は、僕の質問に答える事が出来ないんだ!
 ただ……貴方は何故か、此の場所に『オーリオール』という巨大な力が眠っていると確信していた。そして、その黒いオーブメントを使えば其れが
 手に入ると思い込んだ!!
 だけど、何故そう考えるようになったのかその切っ掛けが思い出せない、そうなんでしょう?――それに、抑止力としての『人』があれば、『人知を
 超えた存在』までは必要ない筈なんだ!
 貴方も其れは分かって居た筈なのに、でも何時からか『人知を超えた力』も求めるようになってしまった……でも、それが何時からだったからすら
 覚えていない!だから、貴方は僕の質問に答えられないんだ!!」

「え?……あ……」



其れはつまり、ルーアンでのダルモアや、カプア一家のドルンと同じ状態だと言う事だな……だが、そうなると今回のクーデターにはリシャールでは
ない『誰か』の存在がある筈だ。
リシャールがオーリオールを求めるように仕向けた『何者かの存在』がな。



――キュゴォォォォォォォォ!!!



「な、なにこの光!!」

「此れは、ゴスペルによる導力停止現象!」



此れは、ゴスペルの導力停止現象!……と言う事は、此れでオーリオールの封印が――



『オーリオール封印機構の第一結界の消滅を確認。デバイスタワーの起動を確認。』



解かれたみたいだな。
アナウンスと同時に巨大な石柱が一本、二本……合計四本か。リシャール、此れは一体!!



「大佐、アインスが『此れは一体』って!アタシも思ってるけど!!」

「分からない……こんな事態は想定して……」

「そーてーしてないんかーい!」



うん、ナイス突っ込みだレヴィ。



『環の守護者の封印解除を確認。環の守護者『トロイメライ』、起動。』



そして、部屋の奥から壁をぶち破って何かが現れたが……コイツはロボット兵器か?3mはあるだろう巨躯に、二つの自立ユニットを備えたコイツが
『環の守護者』……なのか?



「ブ、ブサイク……」



いや、突っ込む所は其処じゃないだろエステル!確かに私も『守護者を名乗るにしてはブサイクだな』と思ったけどね?――だが、アナライズで能力
を解析してみたが、コイツ其の物は大した相手ではない。
浮遊ユニットも、夫々が物理耐性とアーツ耐性を持っているみたいだが、物理耐性があるのはアーツに弱く、アーツ耐性があるのは物理に弱いみた
いだから……速攻でぶちのめすだけだ!!



《アインス……》

《恐らくは、此れが最後の戦いだ……出し惜しみせずに全力で行くぞエステル!!》

《……モチの、ロンよ!!》



良い返事だ。
『環の守護者』こと、トロイメライ……永き封印から解放されて早々にスマナイが、今度は封印ではなく破壊させて貰うぞ?お前の様な存在は、今の
リベールには必要ないからな。
どれ程昔から存在してるのかは知らんが、再起動した今日がお前の引退式だ――スクラップにしてやるから、覚悟しておくんだな。











 To Be Continued… 





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