Side:アインス


グランセル城のテラスにはロランスが居て、そして戦闘と言う事になり、私とロランスの間には一触即発の空気が流れている――ともすれば、私とロ
ランスの闘気がぶつかり合ってスパークを起こしている感じだ。
だが、其れは其れとして戦う前にお前に聞きたい事がある。



「この期に及んでなんだ?俺が答えられる事などそうないぞ?」

「何、お前達の目的云々ではなく極めて個人的な事さ……ロランス、お前はヨシュアの知り合いか?
 テレサ先生や孤児院の子供達の証言を鑑みるに、孤児院の火災の際にテレサ先生達を助けたのはお前だろう――が、ヨシュアは『銀髪の男』と
 言うのを聞いて、何か思い当たる事があるようだった。
 学園祭の時には、其の男を探してその場から居なくなってしまった位だからな。」

「……その問いに関しては、まぁ知り合いだと言えるだろう。尤も奴は、俺の事を『銀髪の知り合いがいた』程度にしか覚えて居ないだろうがな。」

「ふむ……ならば次の問いだ。お前は学園祭の劇『白き花のマドリガル』を鑑賞してくれていたみたいだが……もう最大限ぶっちゃけて聞くんだがヨ
 シュアのセシリア姫は如何だった?
 かなり出来は良かったと思うんだが。」

《いや、アンタは何を聞いてんのよ?》

「アインスさん、其れ今此処で聞きますか??」

「いや、戦いが終わった後だと結果はどっちに転んでも聞く事は出来ないだろうからなぁと思って……それで、如何だったロランス?『答える義理は
 ない』と言うのはなしで頼む。」

「……非常に不本意ではあるが少しばかり見惚れてしまった。そして、嘗ての恋人の事を思い出した……事前に男だと言う情報を知っていなければ
 女性と言われても信じるだろう。
 敢えて難を言うのならば、もう少し高い声で演技をした方が良かったがな。」

「って、普通に答えるんですか!?」

《普通に答えたわよコイツ!!》



うん、自分で振っておいて言うのもなんだが、答えてくれるとはな……問答無用で攻撃してくるかと思ったが、如何やらこの程度の事ならば付き合
ってくれる位はしてくれるらしい。

「その感想、ヨシュアに伝えておくぞ。一文一句間違えずにな。」

「伝えなくて良い……さて、茶番は此処までにして掛かって来い。悪いが、相手が女だと言って手加減は出来んぞ。」

「手加減などしないのが正解だ。」

寧ろ手加減をして勝てると思わぬ事だ……そして勿論、私も全力を出すぞ?私も全力を出さなければお前には勝てないだろうからな――お互いに
本気を出さねば勝負にならないと言うも、偶には良いモノだと思うがな!
取り敢えず、武術大会で勝ちを譲られた屈辱、其れを晴らさせて貰うぞ。










夜天宿した太陽の娘 軌跡78
『女王宮での戦い~最強vs最強~』









No Side


問答を終えたアインスとロランスは互いに得物を構えて向かい合う――クローゼもレイピアを抜いて戦闘に参加しようとしていたのだが、其れはアイ
ンスが手で制した。


「エステルにも言った事だが、お前では瞬殺されて終わりだクローゼ。アーツでの援護もコイツはさせてはくれまい……アーツを駆動した瞬間にオー
 ブメントを破壊する位はするだろうからな。
 悪いがコイツを相手にお前を守りながら戦うのは困難なのでな……私が全力を出せるように、お前は大人しくしていてくれ。大丈夫、私は負けん。
 お前が、私の勝利を祈ってくれているのならばな。」

「アインスさん……分かりました、ご武運を。」


本音を言えば、クローゼも祖母であるアリシアを助ける為に自分も何かをしたいだろう……クローゼ自身、学生レベルではあるとは言えフェンシング
の大会で優勝する位の腕前があり、更にアーツに関しては一級品なので、相手がプロであってもソコソコ戦う事は出来るのだから。
だが、其れだけの力を持っているからこそ、相手との力量差も推し量る事が出来た……アインスに言われずとも、ロランスには自分では到底敵わな
い事位は分かって居た……其れでもアリシアの為に何かしたかったのだ。
だが、其処でアインスが待ったを掛けた――其れも、『お前では瞬殺だ』と言ってだ。……分かっていた事を第三者に口にされると言うのは意外と効
くモノで、クローゼの戦意を一気に削ったのだ。
其れだけならば、事実を突きつけて戦意を削いだだけなのだが、『お前が私の勝利を祈ってくれれば私は負けない』と言うのが、クローゼが退いた
理由と言えるかもだ。
一緒に戦う事は出来ずとも、アインスの勝利を祈るくらいならば今のクローゼにも出来る事――クローゼは今自分に出来る事をする選択をしたって
訳である。

其処から、アインスとロランスは再び無言で睨み合い……


「「…………………」」



――【推奨BGM:『銀の意思』(空の軌跡FCEV)】



動いたのは同時!!
互いに一足飛びで間合いを詰めると、互いに武器を振り棒術具と不思議な形の剣での鍔迫り合い状態に!!鍔迫り合いになってる場所から火花
が散っているのは未間違いではないだろう。


「俺の剣を受け止めるとは、その棒術具は一体何で出来ている?此の剣は鋼鉄すらバターの様に斬るのだがな?」

「普通の棒術具だよ。但し、強化系アーツを重ね掛けして強度をダイヤモンドと同じ位に上げているけれどな!!」


力比べは略互角で、互いに相手を押す形で一度間合いを離すと、アインスは拳に炎を纏って殴り掛かりロランスは其れを剣でガードし、逆にカウン
ターのアーツを発動!
駆動時間はなかった筈だが、先程の鍔迫り合いの時に既にアーツを駆動していたのだろう。
アインスの頭上からは発動したアーツから、無数の剣が降り注ぐ……此れを喰らったら大ダメージは確実だろう。


「小賢しい!!」


だが、アインスは指を鳴らしてその剣を全て破壊する。
勿論ただ指を鳴らしただけでなく、所謂『指パッチン』でエアロストームを発動して、アーツの剣を相殺して見せたのだ。迎撃の仕方も中々にスタイリ
ッシュである。


「この程度の小細工、通用すると思ってか?」

「ふ、ホンの小手調べだ。」


其処から再び切り結び、其処からは剣術と棒術の応酬だ。
アガットの重剣程ではないが巨大な剣を軽々振るうロランスに対し、アインスは棒術の円運動を使った動きで対抗し、ロランスの攻撃を受けるだけじ
ゃなく、時には弾いてからの一撃を繰り出す。


「気に入らん、実に気に入らんなロランス?貴様、武術大会の時は実力の半分も出して居なかっただろう?」

「侮った事は謝ろう……この力、間違いなく本物だ。
 恐らくはエステル・ブライトもお前には劣るとは言えども相当な実力の持ち主なのだろうな。そうでなくては、お前も力を発揮する事は出来ないだろ
 からな……エステル・ブライトが強いからこそ、お前も其の力を発揮出来るのだろう。」

「ふ、正解だ!私が全力で力を揮えるように、エステルの身体は相当に鍛えられているさ!」

「成程、納得だ!」


ロランスは力任せに剣を振り抜いてアインスをバルコニーから部屋の中に吹き飛ばす!――ドアを突き破って部屋の中にぶっ飛ばされたら、大ダメ
ージは避けられないだろう。


「今のは中々に効いたぞロランス!」


しかし直ぐにアインスは部屋から飛び出してロランスに飛び掛かる!……流石にノーダメージとは行かなかったようで、額から出血しているが。
棒術で剣をカチ上げると、がら空きになったボディに、炎を纏った拳でのボディブローを叩き込み、其処から炎を纏った肘打ちを落とし、回し蹴りで蹴
り飛ばす!!
其れを喰らったロランスが、今度はテラスの壁に叩きつけられる。


「火達磨になりたいのか?」

「ふ、掛かって来い。」

「行くぞ。」


其処からまたしても超高速のクロスレンジでの攻防が展開される……常人ではアインスとロランスが一体何をやっているのかすら把握不可能な超
高次元バトルだ。
アインスの棒術がロランスの頬を掠め、ロランスの剣技でアインスの髪が数本飛ぶ……正に超一流同士のスーパーバトルが繰り広げられていると
言っても過言ではないだろう。


「おぉぉぉ……喰らいやがれぇ!!」

「絶!!」


アインスが手に宿した炎で前方を薙ぎ払えば、ロランスは剣圧でその炎を鎮火する――が、そこをアインスが強襲して、飛び膝蹴り→飛び後回し蹴
り→回転踵落としのコンボを叩き込む!
並の相手ならばKO確実のコンボなのだが……


「良い攻撃だった……俺に決定的な一撃を入れた奴など、何年振りだろうな……!」


回転踵落としを喰らいながらもロランスはアインスの足を掴み、其のまま一本背負いの要領でアインスを投げてテラスに叩きつける……如何にエス
テルの身体が頑丈とは言え、石造りのテラスに叩きつけられたら堪ったモノではないだろう。ちゃんと受け身を取ったとしても、石の床に叩き付けら
れてはダメージはゼロには出来ないのだ。
ロランスはアインスの足を持ったまま、今度は逆に投げて叩きつけ、そしてまた逆に叩きつけようとした所でアインスが動き、頭上で体を入れ替える
と、ロランスの頭の上で鞍馬運動した後に、両足をロランスの首に引っ掛け、そしてバック転の要領で投げ飛ばす……実に見事なフランケンシュタイ
ナーである。

投げ飛ばされたロランスは、空中でバランスを取ると、着地と同時に剣を高速で振って衝撃波を飛ばす……アーツではなく、純粋に剣圧を飛ばした
のだろう。
それに対しアインスも捻糸棍を放って衝撃波――零ストームを相殺する。

余りにも凄まじい攻防に、クローゼもアリシアも言葉を発せないのは仕方ないだろう……もう、完全に別次元の戦いなのだから。


《いったー!!幾らアタシが頑丈でも、石の床に叩きつけられたら痛いわよ!!》

《受け身を取ったとは言え、流石にな……この感じだと、肩の骨に罅でも入ってるかも知れん……状況は、あまり良くないな。》


だがしかし、アインスの方は先程の投げで結構なダメージを受けていたらしく、実は結構ギリギリの様だ……回復系のアーツを使えば治せるのだろ
うが、如何に無詠唱・無駆動でアーツを使えるとは言え、この激闘の中で攻撃系でないアーツを使う暇はないと言うのが現実だ。
加えて、未だに頭からの出血が止まっていないのも問題だ。血を流した状態で激しく動いていたら其れだけで一気に体力が持って行かれてしまうと
言うモノなのだから。


《如何するのよ?》

《次で決める。》


此のまま長引けば不利と判断したアインスは、此処で勝負に出る事にした。


「埒が明かんなロランス……派手に血を流している分だけ私が不利かも知れんが、この血はいずれ止まる。そうなれば、私の不利はなくなる。
 そして其処から互いに決定打を欠いた千日組手だ……其れは、お互いに良い事ではないんじゃないか?
 私は少しでも早くアリシア女王を保護してリシャールを追いたい。お前も、今は私だけが相手だが戦いが長引けばヨシュアとレヴィが此処に駆け付
 ける……私一人とならば互角でも、其処にヨシュアとレヴィが加わったら果たして如何かな?
 知り合いだと言うのならばヨシュアにはある程度対処出来るだろうが、レヴィはお前の手にも余るかも知れんぞ?……正直、アイツのパワーは私
 の比ではない。
 やろうと思えば……多分パンチ一発でこの城を粉々に出来るんじゃないかと思うからな。
 だから、次で終わりにしようじゃないか……お互いの、今使える最高にして最強の技をぶつけてな。」

「其れは何と恐ろしい奴も居たモノだが……良いだろう、お前の誘いに乗ってやる。」


言葉巧みにロランスを誘導――と言う訳ではないだろう。ロランスはアインスの思惑を呼んだ上で乗ってきた感じだ。……千年を生きていたアインス
の思考を読むとか、ロランスも中々にハンパない感じである。


「「…………」」


互いに闘気を高めて、必殺の一撃を放つ準備をする……そして高まった闘気によってアインスの周りには稲妻のようなオーラが、ロランスの周りに
には炎の様なオーラが現れている。
そして――


「行くぞ……滅殺金剛獄滅撃!!」

「俺の修羅を越えられるか……焼き尽くせ、鬼炎斬!!」


最大の一撃が炸裂して激しくスパークする!!
因みに、エステルが現時点で使える最強技は『桜花無双撃』なのだが、アインスが使える最強技は金剛撃を独自にアレンジしまくったこの『滅殺金
剛獄滅撃』なのだ。
一撃で相手を気絶させる金剛撃に、炎、水、時、幻の属性を付与し、更にインパクトの瞬間にその属性での攻撃が炸裂すると言うトンでも技だ。そし
て喰らった相手は気絶するだけでなく、火傷、凍結、遅延、混乱を喰らうと言うおまけ付きだ。

滅殺金剛獄滅撃と鬼炎斬は暫く互角の押し合いをしていたが、やがて――



――バガァァァァァン!!



「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


鬼炎斬が押し切る形で決着が付いた……押し負けたアインスは吹き飛ばれ、テラスの角にある花器にぶつかり、其のまま動かなくなってしまった。
もしも、此れが本来のアインスの身体であったのならばこうはならなかっただろう……だが、今の身体は如何に鍛えているとは言え、生身の人間で
あるエステルの身体な上、ダメージを負っていたので必殺の一撃も本来の威力が出せずに押し負けてしまったのだ。


「アインスさん!!」

「アインスさん、確りして下さい!!」

「陛下、王女、此れ以上騒がれるな。死ぬようなケガではない。」


直ぐにアインスにクローゼとアリシアが駆け寄って安否を確認する……息はしているので、死んではいないのだろう。――尤も、未だに銀髪のままな
ので、アインスの意識が落ちたと言う訳ではないだろうが。


「貴方……その瞳、何て深い色をしているのかしら……まだ若いのに、大層苦労をして来たようですね。」

「女王よ……貴女に俺を憐れむ資格などない。『ハーメル』の名を知っている貴女には……」


其処でアリシアはロランスから何かを感じた様だが、ロランスはアリシアの言葉を切って捨て、そして剣を向ける。


「アリシア女王とクローゼから離れろ……」


しかし、その剣はアインスが棒術で制する。
満身創痍だが、その瞳に宿る闘気は未だに衰えてはいない……寧ろ、今はより燃えていると言っても良いだろう。手負いの虎の極限の闘争本能と
言うモノが覚醒した感じだ。


「「アリシア女王も、リベールも絶対に守る……貴様等に、私達のリベールを滅茶苦茶にされて堪るか……!!」」


此処で二重音声になった――エステルも同じ気持ちだったこそなのだろうが、此れまでは二重音声になってもエステルとアインスの口調はバラバラ
だったのが、今回はアインスで統一されている。
だけでなく、一瞬……ホンの一瞬だが、アインスの姿が『銀髪のエステル』から、『黒衣を纏った赤眼銀髪の女性』の姿――本来のアインスの姿にな
ったのだ。


「「「!?」」」


此れにはロランスですら驚いたが一瞬の事だったので、目の錯覚と言う事にしたようである……二重人格だからと言って、人格交代時に容姿までも
が別人に変わるなんて事は無いからな。


「アインス・ブライト、そしてエステル・ブライト……お前達ならば何れ父を越える時も来るだろう。
 そしてこの状況においても決して諦めないその姿勢は見事だ……何よりも、俺自身が数年ぶりに本気を出す事が出来た――それに敬意を表して
 良い事を教えてやろう。
 大佐を止めたいのならば、宝物庫から城の地下へ急いだ方が良いだろう。」


其れを見たロランスは、一瞬驚くも直ぐに不敵な笑みを浮かべ『大佐を止めたければ城の地下へ迎え』と告げて来た。――自分と互角に遣り合った
アインスに対する、報奨と言った所だろう。


「まさか、オーリオールはこの城の地下にあると言うんですか!?」

「最早手遅れだろうが……急げば少しは被害を食い止めるかも知れん――では、さらばだ。」


其れでけ言うと、ロランスはテラスの縁に立って、其処から真っ逆さまにダイブ!!――城の最上部から生身でのダイブは自殺行為でしかないのだ
が、グランセル城の此のテラスの下はヴァレリア湖なので飛び降りても死ぬ事は無いだろう。
尤も、飛び降りた次の瞬間にはその姿は消えていたので、ヴァレリア湖に着水する以外の方法で此処から消えたのだろうが。


「城の地下か……直ぐにでも行きたいが、スマン少し休む……出来れば、休んでいる間に回復系のアーツを掛けてくれると助かるなクローゼ?」

「はい、そうしますねアインスさん。」


本来ならば直ぐに地下に向かうべきなのだろうが、此処でアインス……と言うよりはエステルの身体に限界が来て、少しばかり休む事にした様だ。
尚、エステルの精神は啖呵を切った直後に失神してたりする……主人格が沈黙した状態でよく此処まで持ったもんだわ。

其のままアインスも意識を手放し、その頭はクローゼの膝に上に……美少女が美少女を膝枕するってのは、物凄く絵になるわな。








――――――








Side:ヨシュア


情報部の特務兵は中々の手練れだけど、今なら夜の闇が僕に味方してくれるから敵じゃないな……気配を消し、闇に乗じて倒すのは僕の十八番だ
からね。
まぁ、其れをフル活用しても、この人数を相手にするのは厳しかったかもしれないけど、レヴィが一緒ならその限りじゃないね。



「あ~っはっは~~!!すごいぞ!強いぞ!!かっこいーぞーーー!!!くらえかのーね!!雷刃封殺爆滅剣!!!」

「たわらば!!!」


圧倒的なパワーで、一撃で数人の特務兵を戦闘不能にしただけじゃなく、僕が絶影で怯ませたカノーネ大尉に必殺の一撃を叩きこんで戦闘不能に
しちゃったからね。
でも、此れで邪魔者は片付けた……レヴィ、僕達も女王宮に向かおう!



「よっしゃー!まってろよ、じょおーさま!いまから僕達がいくからな~~!!とつげきだーーーー!!」

「突撃、なのかな?」

アインスは勿論、エステルだって余程の相手じゃない限り女王宮内に敵が居たとしても大丈夫だとは思うけれど、何だろう嫌な予感がする……僕の
予感は良く当たるんだけど、今回に限っては外れて欲しいかな。
如何か、無事で居てエステル……!











 To Be Continued… 





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