Side:アインス


エルベ離宮を飛び出し、一路グランセル城に向かっている真っ最中だ――空を飛んで行くのが最も効率が良いのかも知れないが、そうなると私はク
ローゼを、レヴィはヨシュアを連れているから、対空迎撃攻撃をされたら防御しようがない故に、地上を行くのがベターな選択と言う訳だ。
とにかく急がねば……アリシア女王は、絶対に助けないければだからな。



「兎に角、特務兵に見つからないように行こう。こんな所で戦闘になって余計な時間をかける訳には行かないからね。」

「あぁ、分かって居る……ってオイ、何だアレは?」

特務兵に見つからないようにと言った矢先に現れたのは情報部の飛空艇!……なのだが何だか様子がオカシイな?
何やらフラフラと覚束ない飛び方をしているし、其れに気のせいか此方に向かって来てないか!?いや、間違いなく此方に向かって来ている!!総
員退避ーーーー!!



――ガッシャーン!!



私はクローゼを抱えて回避し、ヨシュアとレヴィも持ち前の身軽さで回避したが、飛空艇は其のまま街道脇の樹林帯に突っ込んで停止した……これ
だけ派手に突っ込んで、少なくとも外側には傷一つ付いていないとは、どれだけ頑丈なんだ軍仕様の飛空艇は……いっその事、乗ってる連中をKO
して飛空艇を乗っ取るのも在りかもしれん。と言うか、そっちの方が絶対にグランセル城には今よりも早く着くからな。
如何思うヨシュア?



「……確かに、其れも一つの手だね。相手の人数にもよるけど、君が表に出てるなら多分瞬殺出来るだろうし、少なくとも体力は温存出来る筈だ。」

「よっしゃー!それじゃー、ひくーてーごーだつだ!!」

「強奪……まぁ、間違ってはいませんね。」



飛空艇を強奪して城に乗り込むなど、どっちが悪役か分からんな。
だが次の瞬間、何処かで聞いた声が聞こえたかと思ったら、後部ハッチが開きどこかで見た顔が……お前は!!

「ジョゼット・カプア!!」

「お前は、あの時の脳天気娘――の中に居るアインスとか言う奴!!」



情報部の飛空艇から降りて来たのは、空賊事件を引き起こしたカプア一家の末っ子のジョゼット……何故コイツが情報部の飛空艇に?いや、コイツ
だけじゃなく、他の面子も一緒なのか?
ふむ、だが此れは逆に嬉しい誤算と言えるかもしれんな?相手が情報部でないのならば、平和的に飛空艇を使う事が出来るかも知れないからね。









夜天宿した太陽の娘 軌跡77
『予想外の援軍?いざグランセル城に!』









情報部の飛空艇から現れたジョゼットに、エステルが『カプア一家も情報部の仲間だったのね!』と言っていたので、そうなのか聞いてみたところ全
然違うとの事……寧ろ彼女達も情報部に嵌められたとの事。
だったら何で情報部の飛空艇にと言う話になるのだが、収監されていたレイストン要塞から王都に連れて来られてた所で情報部の間で何かトラブ
ルが起きたらしく、そのドタバタに乗じて飛空艇を奪って逃げ出して来たとの事らしい……いや、トラブルに乗じて囚人に逃げられるとか間抜けじゃ済
まないぞ情報部よ。



「おーいジョゼット!飛べそうだから、中に戻れってよ!」

「はーい!」



む、アレだけ派手に墜落したのに飛べるのか……本気で軍仕様の飛空艇の外装甲は何で出来ているのか?そして、エンジン部はドレだけの対シ
ョック構造がなされているのかだな。
だが、飛べると言うのならば其れを使わない手は無い!

「ジョゼット!私達をこの船に乗せてくれ!!」

「へ?」

「アリシア女王陛下が情報部の人質になっているんだ!此のままじゃ女王陛下の命が危ない!」

「私からもお願いします!如何か、貴女達の船に私達を乗せて下さい!!」

「え?え?えぇ!?女王様が人質って、てかこのジェニス王立学園の生徒さん誰だよ?……スッゴク悔しいけど、やっぱり変装じゃ本物には及ばな
 いか……」



変装が本物に及ばないのは当然だろう……そもそもにしてお前とクローゼではモノが違うからな?お前も確かに『美少女』にカテゴリーされるとは思
うが、クローゼは『美少女のランク』が違う。そう、それはオシリスとオベリスクがラーを超えられない『神のランク』の如くにな。
そして、クローゼが誰だとの事だが……聞いて驚け、このジェニス王立学園の生徒に見える美少女の名は『クローディア・フォン・アウスレーゼ』!!
アリシア女王陛下の孫娘にして、リベール王国の王女殿下にあらせられるぞ!!



「え、嘘でしょ!?」

「アインス!」

「アインスさん、其れは……!」

「こんな状況なんだ、使えるものは何だって使うさ、其れこそ王女殿下の名もな。――こう言う言い方は好きではないが、権力を盾にするのも時とし
 て必要になると言う事さ。」

其れに、お前の正体を明かす事は悪い事ではないと思うぞ?
『王女殿下の頼みを聞いて助太刀した』となれば、情報部に嵌められて犯罪者に仕立て上げられたコイツ等を、無罪放免とはいかずとも恩赦で減刑
する事は出来るかも知れないからな。



「何やってるんだジョゼット!んな所で騒いで内でさっさと乗れ!
 お前等も、人の命がかかってる時にのんびりしてる場合かよ!――何よりも、王女殿下の頼みとあったら断る事なんざ出来ねぇからな!連れて行
 ってやるよ、グランセル城にな!」

「あ、ありがとうございます!!」

「~~~!!もう、王女様の頼みだから!お前の為じゃないからな銀髪女!!」

「ぎんぱつおんなじゃなくてクロハネ――じゃなくてあいんすだぞ!ヒトのなまえはちゃんとおぼえないとダメだって王様がいってたぞーー!!」

「お前誰だよ!ボースの時は居なかったよね?」

「僕はレヴィ・ザ・スラッシャー!!強くてすごくてカッコいい!雷刃の襲撃者とは僕の事だー!!」

「青髪で一人称が『僕』って、キャラが被ってるじゃないか!!」



ドルンの計らいで船に乗せて貰える事になった――クローゼの立場を明かした事が決定打になったのは間違い無いだろう。王女殿下の頼みを断る
事は出来ないからな。
其れと、其処の青髪僕っ娘コンビは漫才をしないようにね。
それは兎も角として、お前は王女からの恩赦も期待しているのだろうドルン?



「まぁ、其れがねぇって言ったら嘘になるが……リベールの女王には色々迷惑掛けちまったらしいからな、せめてもの罪滅ぼしって奴よ。――何より
 も、王女殿下の必死さが本物だったからな。」

「あの、本当にありがとうございます。何とお礼を言っていいか……」

「ダッハッハッ!!気にしないでくれや王女殿下……さっきも言ったがコイツは俺が出来るせめてもの罪滅ぼしだからよ。」



ドルン・カプア……中々に好感が持てる男だな。
それにしても『迷惑を掛けたらしい』とは、矢張りドルンは空賊事件の事は覚えていないようだな――私達に叩きのめされた後はまるで別人の様だ
ったが、あの凶悪で冷酷なドルンは誰かによってマインドコントロールされていた状態だったのだろうな。
ドルン自身も『飛行船を襲わなければならない気持ちと、襲撃のやり方は何故か頭に残ってるが、何処でその情報を知ったのか、それを実行したの
か何一つ覚えていない』と言っているからな。
……改めて、空賊事件とダルモアの一件は、『真犯人が何も覚えていない』と言う点が一致する――とすれば、情報部にはマインドコントロール、或
は暗示に長けた人物が居る事になるな?……っと、見えたぞグランセル城が!!



「で、どの辺に下ろして欲しいんだ?こっちとしちゃ、軍人がうようよいる様な場所は御免こうむりたいんだが……」

「そうですね……では、出来るだけグランセル城に近い場所に……」

「待て!」

城の様子がなんか変だぞ?……城門が開いている!?



「まさか!」

「だが、アノ見張りの兵士達も居ない。如何考えたってオカシイだろう?……城内でも、何か異変が起きてるんじゃないか?」

「……そう考えるのが妥当だね。僕達も急いだ方が良さそうだ――すみません、至急近場に着陸を!」

「「着陸などしなくていい!」わ!!」

む、ハモったが、お前も同じ気持ちと言う事かエステル……十年も同じ身体で過ごしていると、考え方と言うのも中々に似通って来るモノがあるみた
いだな。


「「このまま真っ直ぐ、グランセル城の中庭をすり抜けろ!(て!)」」

「そんな……危ないよ!!」

「確かに危険かもしれないが、其れはあくまでも一般人の話……私達遊撃士にとって飛行中の飛空艇から城の中庭に着地する等は造作もない事
 だ――と言うか、カシウスだったらこの倍の高度、速度から飛び降りる位はするだろうから、私達も此れ位は出来ねばカシウスを越える事は出来
 ないからな。
 それともう一つ良い事を教えてやる、目的を達成する為には『無理を通して道理を蹴っ飛ばす』位の気概がなければ目的を達成する事は出来ん。
 時には無茶と思える選択をする事も必要だと言う事を覚えておけジョゼット。」

「あ……うん。……何だよコイツ、脳天気娘と違ってカッコいいじゃん。



ジョゼットが言っていた事は後半は良く聞こえなかったが、兎に角中庭から城に突入する!
私はクローゼを抱え、ヨシュアとレヴィも準備完了――そして、中庭に差し掛かったところで飛空艇のブリッジから飛び出し、中庭にダイブ!レヴィは
飛行魔法を使い、ヨシュアも見事な三点着地たが、私は頭からほぼ垂直に飛び降り、そして中庭の木の枝に膝を引っ掻け、そして其処から反転して
中庭に着地……審査員、得点は?



「もんくなしの10てんまんてーん!!」

「凄く、ドキドキしました。」



十点満点とは金メダルレベルだが……先ずは女王宮へ急がねば――



「こっちにも侵入者です!」

「あなた達まで……!!」



と言う所で面倒なのに見つかったな……お前かカノーネ!
私達ならば負ける相手ではないが、部下も引き連れてとなると簡単には行かないだろう……だが、だからと言って見逃してくれるような相手ではな
いからな――やるしかないか。



「アインス、此処は僕に任せて!」

「ヨシュア?」

「見て、女王宮には特務兵が居ない……入り口の見張りさえ置けない位に情報部にとって良くない事がグランセル城の中で起こってるんだ。
 此れはチャンスだよアインス、クローゼ!君達は先に行って陛下のお傍に居てあげて……此処を片付けたら僕も直ぐ行くから!」

「よっしゃー!ぼくもやるぞ!よーは、こいつらぶっとばせばいんだろ?……ふっふっふ、僕の強さをみせてやるからかくごしろ!さー、えんりょしない
 でかかってこーい!!」



『掛かって来い』と言いつつ、自ら掛かって行くレヴィよ……まぁ、此の場はヨシュアとレヴィに任せておくか。正直な話、ヨシュアとレヴィの『超超速コ
ンビ』の動きはカノーネ達には捉える事は出来ないだろうからな。最低でも『勝てなくても負けない』事は出来る――いや、間違いなく勝つだろうな。
ヨシュアが持ち前のスピードでカノーネ達を撹乱した所に、レヴィがパワー全開の一撃をかませばそれでお終いだからね。
では、私達は女王宮に向かうとしようかクローゼ?



「はい……!!」



そうして女王宮に突入したのだが、アリシア女王の姿はない――其れだけじゃなく、女王宮内の照明も落ちていて、何とも不気味な感じだ。

「アリシア女王、何処だ?」

「お祖母様……」



女王宮の中にもアリシア女王の姿は見えん……一体何処に?――って、うん?部屋の奥の扉が開いている?クローゼ、あの扉の先には何がある
んだ?



「あの扉の先はテラスになっていますが……若しかしてお祖母様は!」

「恐らく、その可能性が高いな。」

少し近付いてみると、開いた扉からアリシア女王の姿が……向こうも此方に気付いたようだ。――が、テラスに居るのはアリシア女王だけではない
な?
巧く消しているからカシウスでも気付く事は出来ないかも知れないが、生憎と私は生まれてから千年も闇の世界で生きていた故に、闇属性の闘気
と言うモノには敏感なんだ。

「アリシア女王、其処に居たのか。」

「お祖母様、御無事で……」



「いけません!お逃げなさい!アインスさん、クローディア!!」



テラスに出ると……アリシア女王の傍には、情報部の赤仮面の隊長――ロランス・ベルガーの姿が。矢張りお前だったか。



《アイツ、何でこんな所に!》

《情報部の表向きの任務だろう……『アリシア女王の護衛』と言う名目で監視、必要とあれば殺害も視野に入れているかも知れん。》

《あんですってーーー!!》

《奴とは戦う事になるだろうが、此処は私が引き受ける。――奴は武術大会の時は半分の力も出して居なかっただろう……それにも関わらずヨシュ
 アを追い詰めた。今のお前では瞬殺だからね。》

《でも!!》

《其れに、コイツの相手が最後ではない。コイツの後にはリシャールが待っている。ラスボスに挑むためにも、此処は私の戦い方を見て糧としろ。
 同じ身体を共有してるんだから、動きを覚えるのは造作もないし、この戦いの経験値はお前にも引き継がれる――中ボス戦は私に任せ、お前はラ
 スボス戦に備えておけ。》

《……分かったわよ。そうさせて貰うわ。》

《あと、クローゼの前でちょっとカッコいい姿を見せたいし。》

《そっちが本音かーい!!》



少しだけ、な。



「エステル・ブライト……いや、その姿の時はアインス・ブライトと呼んだ方が良いか?……『矢張り』とは、まるで私が此処に居る事を予測していた様
 な口ぶりだな?」

「お前の闘気を感じたからな……いや、実に見事に闘気を小さくしていたし、闇属性の闘気と言うのはそもそも同じ闇属性でなければ余程の達人で
 ない限りは気付く事が出来ないから、普通は先ず気付かんさ。
 だが、エステルは光属性でも、私は闇属性なのでね、気付く事も出来ると言う訳さ――特に私の闇は、この世の誰よりも深いだろうからな。
 闘気を完全にゼロにするか、人では感知できない神の領域にでも踏み込まない限り、私に闇の闘気を隠す事は出来んよ。」

「ほう……私の、俺の闘気に気付いたとはな。以前より只者ではないと思っていたが、如何やら予想以上か――だが、其れよりも貴女も一緒とは流
 石に予想外だったぞ王女殿下?」

「リベールの王族の一人として、この様な状況を見過ごす事は出来ませんし、お祖母様を見殺しにも出来ませんから。
 其れよりも、貴方達の目的は一体何なんです?此れだけの事をして、多くの人を巻き込んで……此れだけの大事を起こして、リシャール大佐は一
 体何を手に入れようとしているのですか?」



っと、此処でクローゼが声を上げたか!――リベールの王族の一人として、そして王女として、アリシア女王の孫として黙ってはいられなかったのだ
ろうな。……ロランスに委縮しないだけでも大したモノさ。
だが、クローゼの問いに答えたのはロランスではなくアリシア女王だった。
リシャールの目的は『オーリオール』だと……オーリオール、教授が言ってたリベールに眠っている古代の至宝か!
まさか、アリシア女王が言っていた古代のアーティファクトがオーリオールだと言うのか!?



「封印された女神の力など不用意に蘇らせてしまったら、世界になにが起きるか分かりません!直ぐに大佐を止めないと……」

「余計なお喋りは謹んでいただこうか女王陛下?」



っと、此処でロランスが剣でアリシア女王を制したか……刃ではなく峰の部分を向けて居るのを見る限り、殺す気はないようだが――クローゼからし
たら黙って居られる光景ではないだろう。



「止めて下さい!お祖母様から離れて!」

「今は未だ、任務を放棄する気はない。と言ったら如何する?」

「そう来たか……ならば知れた事、貴様を叩きのめしてアリシア女王を奪還するだけの事だ。」



――ボッ……!!



アーツで火を熾して、ロランスの顔の横に飛ばしてやったが、微動だにしないとは、矢張り武術大会では相当に手を抜いて居たか――余程の実力
者でない限り、顔のすぐ横を通って行った何かに驚かないなんて事は出来ないからな。

「この程度じゃ動じないか……本気で行くぞ。」

「ふ、エステル・ブライトとは違うがお前もまたカシウス・ブライトの娘と言う事か……良いだろう、少しばかり相手になってやる。」



そう来なくてはな。
そしてロランスは仮面を取ったのだが……仮面の下から現れたのは銀髪の男だった――コイツ、ジェニス王立学園の学園祭で劇を見ていた奴じゃ
ないか!!
まさかアイツがロランスだったとはな。

「相手になってやる、だと?言葉を間違えるなよ小僧、『お相手させて頂きます』だろう?年上は敬え。」

「お前は俺よりも年下だった筈だが?」

「エステルはな。だが私は、アインス・ブライトの人格は千年も生きてるからお前よりも遥かに年上さ。――まさか、千年生きた後にエステルに憑依し
 てもう一つの人格として過ごす事になるとは思わなかったがな。」

「其れは失礼をした。だが、そう言う事ならば無理はしない方が良い。年寄りの冷や水と言うからな。」



そう来たか……戦闘力だけでなく、中々に口の方も達者だなロランス?――だが、お前のような奴は嫌いではないぞ?武に長けるだけでなく、知も
優れていると言うのは早々居ないからな。
……生憎と私とエステルの場合は、身内に二人も其れが居る訳なのだが。
まぁ、そんな事は今は如何でも良い。お前のような奴に出会う事は普通は中々ない――と言うのに、こうしてお前程の相手と出会えた上に戦える。
こんな幸運、滅多にある事ではない……だから始めようじゃないか、グランセル城と言う最高の舞台で、最高にバイオレンスなパーティをな!!











 To Be Continued… 





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