Side:アインス


ジンとのチーム結成が叶い、武術大会の本戦一回戦なのだが、ハッキリ言って私達の敵ではなかったな……相手は王国軍の兵士達のチームで、そ
れなりに鍛えられてはいたのだが、教科書通りの攻撃と言えば良いのか、攻撃が至極読みやすかった。
そんな攻撃では、此れまでの旅の中で実戦で実力を磨いて来たエステルとヨシュアには通じないし、オリビエにも攻撃を潰され、一流の実力者である
ジンには完全に見切られて的確なカウンターを喰らっていた……そして、試合開始から凡そ三分で決着。ほぼノーダメージでの勝利だったな。



「コイツは俺の思った通り良いチームだな?
 特にお前さんには驚かされたぞエステル。駆動無しでアーツを、其れも棒術と同時に使うとは……お前さんの中に居る奴がやってるのか其れは?」

「あ、うん。
 アインス――アタシの中に居るもう一つの人格がアーツを制御してるの。」

「成程な。
 しかし、多重人格ってのは聞いた事があるが、もう一つの人格が主人格と意思の疎通が出来る上にアーツの制御までするなんてのは初耳だな?
 因みに、アインスってのが表に出て戦ったらどうなるんだ?」

「多分だけど、アーツ一発で試合会場ごと相手チームを一撃で瞬殺すると思うわ……アインスが表に出てアーツ使うと、下位アーツでも最上級アーツ
 並の破壊力になるから。」

「ファイアボルトが着弾と同時に周囲に燃え広がるくらいだからね。」

「ソイツは凄いな?」

「いやー、アインス君だけは絶対に敵に回したくないねぇ?……いや、銀髪でミステリアスな彼女と敵として戦うもまた一興と言えるかな?」



オリビエ、お前は一体何を言ってるんだ?
まかり間違っても私を敵に回すなんて事だけはしない方が良いぞ?……全盛期には程遠いとは言え、エステルが旅の中で強くなった事で、私の力も
増しているからな……少なくともAAA+級の騎士に相当するだけの力がある筈だ。
そして、何となく人格交代した際に以前よりも精神と肉体がリンクしている気がする……まるで、人格交代した際に肉体まで本来の私のモノになった
のではないかと錯覚する位にな。
此れが果たして何を意味しているのか……まぁ、少なくとも悪い事ではないだろう。多分な。









夜天宿した太陽の娘 軌跡71
『The King Of Fighters!!』









そんな訳で一回戦は余裕だったのだが、一回戦の最終試合でマッタク予想していなかったチームが登場した……情報部特務部隊所属のチームって
言うのがな。
チームリーダーは空賊事件の時にヴァレリア湖の湖畔に現れた赤仮面か……此のまま勝ち進めば決勝戦で当たる事になるだろう。――正直、あの
赤仮面の実力は底が見えん……恐らくだが、カシウスに匹敵する実力があると見て良いだろうな。



《アインス、あの赤仮面ってそんなに強いの!?》

《多分な……私が表に出て戦っても五分と言ったところだろう。若しかしたら全盛期の私でも一筋縄では行かないかも知れないな。何と言うか、奴か
 らは『中ボス前のラスボス』な雰囲気がバリバリ感じられるんだ。》

《中ボス前のラスボスって、矛盾してない?》



しているな。……因みにKOF97の暴走庵は余りの強さ故に本気で中ボス前のラスボスだった。攻撃力高い、スピード速いに加えて鬼の超反応でこっ
ちの攻撃を尽く潰してくるからな。
まぁ、あの赤仮面は其れ位のヤバい奴って事だ。……だから、情報部特務隊チームは間違いなく決勝戦に駒を進めてくるだろう。並の実力者では奴
に勝つのは難しいからね。
優勝するには奴を倒す必要がある訳だが、其れよりも今は次の準決勝に集中だな?……準決勝の相手はクルツ率いる遊撃士チームだからね。
一回戦の試合を見る限りでは、アネラスとグラッツが前衛として戦い、カルナが導力ライフルで後方支援を行い、クルツが槍術とアーツとは異なる『方
術』なるモノを駆使して戦うか……私達とは異なるがバランスの良いチームみたいだな。
少なくとも一回戦の様に簡単に行く相手ではないだろう。……スマナイがエステル、次の試合は私にやらせて貰えないか?



《へ?良いけど、如何したの?》

《何、少しばかり血が騒いでな……表に出て暴れたくなっただけだ。》

《……アリーナ吹き飛ばさないでよ?》

《分かっている。加減はするさ。》



――シュン!!



と言う訳で人格交代だ。



「アインス?準決勝は君が出るの?」

「おぉ、久しぶりだねアインス君!」

「お前さんがエステルの中に居る……髪の色が変わるとは、キリカが言ってた通りだな。」

「ふふ、私も戦いたくなってしまってね、エステルに頼んで交代して貰ったんだ……大衆の前で戦うと言うのも中々に面白そうだし、この短時間にエス
 テルの見た目が変化したとなれば盛り上がるだろう?」

「其れは、確かになんだけど、何だかこれまでの人格交代とは少し違う気がするかな?
 何となくだけど、前よりも目つきが鋭くなって、心なしかエステルよりも背が高くなってる気がする……僕の気のせいかな?」



気のせい、ではないかも知れないな。
恐らくだが、エステルの実力が上がった事に比例にして私の力も上がり、そのせいで人格交代の際に身体にも影響が出ているのだろう……若しかし
たら、此のまま行くと人格交代時に完全に身体が私のモノに変わってしまう可能性もあるかもだ。……そうなったら武藤遊戯も真っ青だな。
其れよりもジン、お前キリカを知っているのか?



「ん?あぁ、昔馴染みでな。同じ師の元で修業した兄妹弟子って奴だ……この間、ツァイスに行った時にチョイと話をしてな、お前さんの事を大層評価
 してたぜ。」

「ふ、彼女程の人物に評価されると言うのならば光栄だな。」

キリカは、其れこそ底が知れないレベルの人物だからな……あの物凄い情報収集能力は遊撃士協会においても間違いなくダントツのトップと見て間
違いないだろう。
軍の施設の詳細な見取り図を持ってたりと、本気で凄過ぎるからね。



『其れでは、此れより準決勝を開始します!』



っと、いよいよ準決勝か。
試合順は一回戦とは逆で、先ずは赤仮面――ロランス率いる情報部特務隊チームの試合からだったのだが、私の予想通り圧倒的な実力差で情報
部特務隊チームが勝利したか。
導力ライフルを装備した黒装束が相手を牽制し、独特の剣を拳に装備した黒装束が追い詰め、最後はロランスが金色の剣を一閃してゲームエンド。
完全なパーフェクトゲームだったが、恐らくロランスは実力の半分も出してはいないだろう……其れでありながらこの結果とは、恐ろしい。……ん?

「如何したヨシュア?……流石に気になるか、アイツ等が?」

「其れはまぁ……本来裏方の筈の情報部が表に出て来た訳だから。」

「警戒するのは当然の事、だな。」

逆に言うのならば情報部の存在を秘匿する必要は無くなったと言う事なのだろうね……此れもリシャールの思惑通りなのかもしれないな。
まぁ良い、私達が今すべき事はこの大会で優勝してグランセル城に合法的に入る事だからね――だからこそ、此処で負ける事など出来ん。勝たせて
貰うぞクルツチームよ。


私達がフィールドに現れると同時にアナウンスがチーム紹介をし、チームリーダーのジンとクルツが試合前の握手を交わし、そして審判の合図で試合
開始だ。
まぁ、私が表に出てるせいで見た目が変わっていたのでクルツ達は驚いていたがな。
チーム構成は互いに前衛三人、後衛一人だが、得物が違うから当然戦い方も違う――例えばオリビエの導力銃は細かく正確な狙いを付けて打つの
は苦手だが速射性に富み、カルナの導力ライフルは極めて正確な狙いを付ける事が出来るが速射性に劣ると言った感じにな。



「それじゃあ、私の相手をして貰おうかな新人君?」

「お前が私の相手かアネラス……胸を借りるとしようか先輩。」

オリビエとカルナは互いに後方支援を行い、私はアネラスと、ヨシュアはグラッツと、ジンはクルツと夫々戦闘状態になったか……私の相手であるアネ
ラスの武器は刀か。
競技用に刃を潰してあるとは言え其れ以外は本物と同じ……刀の強みは他の剣にはない一瞬のスピードだから注意しなくてはな。



「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「中々に苛烈な攻撃だな……だが、甘い!!」

「へ?きゃぁぁぁぁ!!」



果敢に攻めて来るアネラスの攻撃を棒術具で弾き、棒術具での中段突き……から派生させて、棒術具の先に炎を灯して爆発させてやった。火炎棍
中段打ちと言ったところかな?爆発の威力は抑えていたので怪我はしてないと思うが。
だがこの好機を逃す手はない。
爆発で吹き飛んだアネラスを捕まえると、其のままヨシュアと戦っているグラッツに投げつけ、そして飛び蹴りで強襲する!!
此れにはグラッツも完全に虚を突かれたらしく、空飛ぶアネラスと私の飛び蹴りを真面に喰らってしまったな……流石に受け身は取ったみたいだが。
だが、ヨシュアは今ので察したらしく、私に目配せするとその場から離脱してカルナに向かって行った……以心伝心と言う訳ではないが、此方の意図
を的確に見抜いてくれると言うのはやり易い。
そしてヨシュアだけでなく、オリビエも察したのか後方支援の対象をヨシュアに絞ってカルナを集中攻撃する……導力銃の速射の前では導力ライフル
での反撃は難しいだろう。
此れでカルナは倒せるだろうから、私はグラッツとアネラスを倒すとするか……さぁ、来い。お前達の実力はまだまだこんな物ではないだろう?



「ぐ……やってくれるぜ……!!」

「この強さ、本当に新人なの?」

「あぁ、新人だよ遊撃士としてはね。
 だが、戦闘経験で言えば私はお前達の十倍はある……エステルのもう一つの人格となる前は、千年の時を生き、数多の世界を滅ぼして来た存在
 だからな私は!」

言うが早いか、棒術具でアネラスの刀を真っ二つに叩き折り、そしてアッパー掌打を叩き込む……完璧に顎にヒットさせたから暫くは動けまい。そもそ
も武器が破壊されては戦闘不能だしな。
グラッツの方も、背後から攻撃して来たのを超反応で捕らえて弾き、ボディに膝を叩き込んで……

「お別れです!ハハハハハハハハハ!!」

「みぎゃあああ!?」



アイアンクローしてからのエアロストームでKO!
ヨシュアもカルナに近付くと双剣での攻撃を仕掛け、カルナは銃剣術で応戦するも圧倒的なスピードと手数を誇るヨシュアの猛攻とオリビエの牽制攻
撃を凌ぎ切る事は出来ず、武器破壊で戦闘不能に。
此れで残るはクルツだが……



「覇っ!!」

「……ま、参った。降参だ。」



残りが自分一人になり、そしてジンの掌底が寸止めされて降参をした。……『勝つ事は出来ない』と悟って降参するのもまた一流の証だろう。
遊撃士の任務で降参するのはダメだが、武術大会では潔く降参するのも大切だ……意地張って無理な戦いをして、その結果醜態を晒したのでは笑
えないからね。



『勝負あり!ジンチームの勝ち!!』



《やった!勝ったわよアインス!》

《まぁ、当然の結果だ。
 クルツチームも可成りの手練れだったが、私が表に出てる時点で殆ど改造コード状態だからなぁ……其処にジンとヨシュアとオリビエが加わる訳だ
 から、負けろと言うのが逆に難しい。》

《其れ、自分で言っちゃう?》

《すまんな、私はチート無限のバグキャラなのでね。》

《うわぁお、開き直ったわね?》

《事実だからな。》

だが此れで、明日の決勝への切符は手にした……相手は情報部特務隊チーム。
他のメンバーは私達ならば勝てるだろうが、チームリーダーのロランスだけは次元が違う……其れこそ私が表に出て、そしてジンと共に戦って互角と
言ったところかも知れん。
優勝出来るかは、ロランスをいかに攻略するか、其れに掛かっていると言っても過言ではないだろうな。








――――――








Side:ナイアル


今回の紙面を埋められると思って武術大会を見に来たんだが……何だってエステルとヨシュアが出場してやがったんだ!?予選にゃ出場してなかっ
たってのに。
しかも其れだけじゃなく準決勝ではアインスが表に出てただと!?……こりゃ、間違いなく本気で優勝狙いに来てんだろ!!
何だってアイツ等が大会に出場してるのかは分からねぇが、こりゃ裏では可成り大きな事が動いてる気がしてならねぇ……ボース、ルーアン、ツァイ
スと、アイツ等が係わった事には必ず裏でどでかい事が起きてたからな。
アイツ等なら、リシャール大佐の尻尾をある程度掴めてるかもしれねぇ……なら、博打にはなるがやってみるか。軍上層部で何かが起きてるのは確
実だからな。
……俺の書いた記事が原因でこんな事になっちまったのは笑えないけどよ。

だが、ペンが剣に屈するなんてのは俺のジャーナリストとしてのプライドが許さねぇ!……エステル、アインス、ヨシュア、先ずはお前さん達の話を聞く
とするぜ?
お前達なら、俺の知らない事も知ってるかも知れないからな!











 To Be Continued… 





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