Side:アインス


明日の決勝戦の相手はロランス率いる情報部の特務隊チームか……まさか奴等と戦う事になるとは思ってもいなかったが、連中を武術大会に出場
させたのは間違いなくリシャールだろうな。
恐らくだがリシャールは、デュナンが優勝者を城に招くであろう事まで予想してのだろう……だから奴等を出場させたんだ。外部の人間を城の中に入
れないようにする為にな。



《だとしたら、何処まで先を見てるのよ大佐は……》

《嘗てのカシウスの部下だと言うのならば、カシウス程ではないにしろ、常に数手先を見据えて事に当たっているのだろうさ……其れは、此れまでの
 一連の件を見ても分かるだろう?》

《其れはまぁ、そうだけど……でも、だとしたら余計に負けられないわ!アリシア女王に会う為の唯一の道なんだから!!》

《ふふ、その意気だエステル。》

お前は、やる気が実力に100%反映されるタイプだから、やる気があればある程強くなる……昔はやる気が空回る事も多かったが、リベールを回る
修業の旅でレベルアップした事で、空回る事もなくなったからね。……何と言うか、ヨシュアへの思いを自覚した辺りから、急激に戦闘力がインフレを
起こしてる気がしなくもないけれどな。

其れでだ、ジンとオリビエは『明日に備えて英気を養わねば』とか言って酒場へ繰り出して行った……飲むのは結構だが、明日の試合に影響が出な
いようにしろよ?まぁ、オリビエに関してはシェラザードに潰された事があるので、自分の限界は分かってると思うが。
私達も誘われたんだが、其れはヨシュアが『協会で調べたい事があるので遠慮させて下さい』と言って丁重に断ってくれた……まぁ、私は兎も角エス
テルもヨシュアも未成年な上、今はレヴィも一緒だから酒盛りに付き合うのは如何かと思うしな。



「クロハネ、えすてる、よしゅあ!あしたのけっしょーせんもぜったいに勝たないとダメだぞ!ゆーしょーしてばんさんかいにいくんだから!!!」

「そうね!……って、レヴィ連れて行けるかしら?」

「其れは、大丈夫じゃないかな?僕達が保護してる子で、一人にする事は出来ないからとでも言えば何とかなると思うよ?」

「そっか、其れもそうね。良かったわねレヴィ、貴女もお城に行けるってさ♪」

「よっしゃー!!」



ふふ、良かったなレヴィ?
其れでは一旦ギルドに戻るとしようか?今日の事をエルナンに報告しなくてはならないしね。









夜天宿した太陽の娘 軌跡72
『決勝前に情報交換、そして決勝戦』









で、ギルドに戻ると何故かナイアルとドロシーが居たんだが、ナイアルが何時も以上に愛想がよく、何と行きつけの店で夕食を奢ってくれると来た。
……エステルとレヴィ、そして序にドロシーも喜んでるが、此れは間違いなく何かある――ヨシュアもそう思っているみたいだが、先ずはナイアルから
話を聞いた方が良いと判断したらしく、『そう言う事でしたら、喜んでご相判に預かります』と言ったか。
まぁ、ナイアルの態度は明らかに私達から何かを聞こうと言う魂胆がありありだったからね……ナイアルの用件を聞く代わりに、ヨシュアも用件を聞い
て貰うと言った所か。

其れでだ、ナイアルが連れて来てくれたのはカフェレストランだった。
お勧めはライスカレーとの事だったのでエステルもヨシュアもレヴィも其れを頼んだのだが、確かにこのライスカレーは我が主が作ったカレーにも負け
ない位の味だった。
スパイスが効いた辛口ながら、野菜や果物の甘さを感じる事も出来て、スプーンで切れる程に柔らかく煮込まれた牛肉は正に口の中で蕩けるようだ
ったからね……余りの美味しさに、エステルは二杯、レヴィに至っては九杯もお代わりしてたからな。……そのせいで、ナイアルの財布はHPがレッド
ゾーンに突入したみたいだが。



「じゃあナイアルさん、先ずは其方の御用件を伺いましょうか?」



食後のコーヒーを飲んでる最中、先ずはヨシュアが斬り込んだか……駆け引きも何もない直球だが、時には真正面から斬り込んだ方が良いと言う事
もあるから、今回は此れで正解と言えよう。
それに対して最初はとぼけたナイアルだったが、少し考えた後で真剣な顔になり……



「単刀直入に聞く……お前等、リシャール大佐の尻尾を何処まで掴んでる?」



こう聞いて来た。……流石はナイアル、リシャールが何をしようとしてるかまでは分からなくとも、王国軍が普通の状態でない事には気が付いたか。
リベール通信きってのジャーナリストの勘は冴えている様だな。



「……確かに大佐の人気は圧倒的だ。
 王国の誰もが、リシャール大佐の功績や志を盲目的なまでに信じ切っちまってる……俺が書いたインタビュー記事のせいでな。
 ……けどな、軍の上層部で何かが起こってるのは確実なんだ!
 不可解な検問の設置や解除命令、犯人に関する目撃情報の揉み消し……他にも細かい矛盾が幾つもある!近頃じゃ、当の兵士達でさえ軍上層
 部のやり方に堪らず疑問の声を上げてる有様だ。
 にも関わらず、肝心の『上層部』のお偉方の動きが全く見えて来ねぇ……只一人、ある人物を除いてな!」

「あるじんぶつ、ひっくりかえってないじんぶつ!」

「レヴィちゃん、面白ーい!」



……取り敢えず、レヴィとドロシーはスルーするとして、其処まで分かって居るのなら最早隠す事は無いだろう。エステルとヨシュアもそう判断したらし
く、互いに頷くと如何するかを決めた様だ。



「ナイアルさん、今から話す事は記事にしたくても出来ない内容だと思います。」

「安心しな。既にウチの雑誌にゃ軍の検閲が入ってるんだからよ。」



軍の検閲が……差し詰め、軍に否定的だったり、軍にとって不都合な記事は検閲によって削除されると言った所か?……言論の弾圧其の物だな此
れは。
此の事を国民が知ったら、リシャールの人気も地に堕ちるだろうに……尤も、情報規制が行われているから、国民が其れを知る術はないのだがな。










――ヨシュア説明中。序にレヴィとドロシー漫才中。そしてエステル突込み中。










そして、ヨシュアから話を聞いたナイアルは、何本目になるか分からないタバコの火を消すと覚悟を決めた顔を向けて来た。



「……よし、分かった!
 お前等は!明日の決勝全力で戦って勝ってこい!その間は此の俺が必要な事片っ端から調べてやらぁ!!」

「ナイアル!」

「おー!すごいぞ、かっこいいぞ!」

「ですが、とても危険な仕事になります。民間人の貴方にこんな事を……」

「くどい!此のままペンが剣に負けるのを黙って見てられっかよ!コイツは俺等の戦いだ!!」



ふ、言うじゃないか……『ペンが剣に負けるのを黙って見てる事は出来ない』とは、お前はジャーナリストの鑑だよナイアル。普通なら、軍が相手と言
うだけで尻込みしてしまう所だが、其処を逆に斬り込んでやるとは見上げたジャーナリスト根性だ。
だが、ナイアルが調べてくれると言うのならば頼もしい限りだ……コイツの情報収集能力は、ある意味で情報部ですら凌駕しているかもだからな。良
い成果を期待しているぞ?



「アインスが『いい結果を期待してる』って!アタシからも、宜しく頼むわねナイアル!」

「おうよ、任せとけ!……っと、そういやヨシュア、お前さんも何か用件があったんだろ?」



そう聞いて来たナイアルに対し、ヨシュアは『情報部の人間の情報を調べて貰う事は出来るでしょうか?リシャール大佐と、カノーネ大尉と、そしてロ
ランス少尉』と聞いた……リシャールとカノーネは情報部の中心人物だが、ロランスの事もとは、ヨシュアも奴の実力に気付いたと言う事か。
まぁ、明日の対戦相手だから少しでも情報が欲しいのは確かだけれどね。

ヨシュアの用件を聞いたナイアルは、如何やら独自に情報部の主要メンバーの事を調べているらしいのだが、ロランスに関しては現時点では分かっ
てる事は殆どないらしい。
分かってるのは『リシャールに引き抜かれて情報部の中の特務部隊を任されている』程度の事で、年齢や国籍は不明か……まぁ良い、相手が誰で
あっても勝つだけだ。――ゲンを担いで、カレーをカツカレーにした方が良かったかもな。



《何で?》

《カツを食べて、試合に勝つ。言葉遊びのゲン担ぎだよ。》

《だったら、ステーキとカツの方がよくない?》

《ふむ、その心は?》

《ステーキとカツを食べて、敵に勝つ!》

《巧い!座布団三枚!》

実際にそのメニューを食べたらカロリー注意報だがな。



「兎も角、相手は軍です。くれぐれも気を付けてください。」

「お前等こそ、絶対に負けるんじゃねぇぞ!」

「だいじょーぶ!クロハネもえすてるもよしゅあもぜったいにまけない!もしもヤバくなったら、そのときはえすてるがクロハネとこーたいすればだいた
 いなんとかなる!
 クロハネがでばれば、どんああいてもふんさい!ぎょくさい!!だいかっさい!!!だからな!!!すごいぞ、かっこいいぞ!あーっはっは!!」

「……このガキの言う事を聞いてると、何とかなりそうな気がして来たぜ。」



だろうな、私もそう思ったからね。――まぁ、アホの子ではあるが、それだけにレヴィには裏表がないからな。だからこそ、レヴィの言う事はスッポリと
心に落ちるのだろうね。



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そして翌日、いよいよ武術大会の決勝戦だ。
アリーナは既に超満員札止め状態……決勝戦前にクラウス市長とロビーで出会ったのは少し予想外だったが、此れは益々負ける事は出来ん。彼に
もエステルとヨシュアが修行の旅で成長した姿を見て貰いたいしね。
私達は控室で出番を待っている訳だが……



「いよいよだな……」

「まぁ、勝負は既に決まったようなものだけどね。
 見たまえ、彼等のあの哀れな姿を。僕の芸術的な美貌の前では、最早仮面を被るより他に戦う術がないらしい。」

「アンタは一体何の大会に出てんのよ?」

「ふざけないで下さいオリビエさん。甘く見てると痛い目に遭いますよ?」



何時ものオリビエ節が炸裂し、普段ならサラリと流すであろうヨシュアに割と本気で注意されていた……過度の緊張は禁物とは言え、緩すぎるのもそ
れは其れで問題だからな。
そのヨシュアは、如何にも相手チームの事が気になるらしく、エステルが『そんなに気になる?』と聞くと、『彼等が堂々と姿を現したのは、もう存在を
隠す必要がなくなったって事……つまり、大佐の計画はほぼ完成に近い段階まで来てるんだと思う。だとしたら、此処で負ける訳には行かないから
……そう思ったら、つい。』と返って来た……流石のヨシュアもラッセル博士からの依頼を達成する為の大一番ともなれば、緊張はするか。
そんなヨシュアの背を、『両チーム入場して下さい』のアナウンスと同時に気合を入れるかのようにエステルは一発強めに叩き、いざ出陣だ!



「さぁ、行くわよ!!」

「「おう!!」」



控室からアリーナに出ると、両チームの紹介が行われ観客から歓声が上がるが……其の中にあって、ロランスは矢張り異質な雰囲気を纏っている
様だな?
他の三人も可成りの手練れだろうが、こうして実際に対峙してみるとロランスはマッタク格が違う事が良く分かる……コイツ、尋常ではない数の修羅
場を潜り抜けているみたいだね。



「さてと……皆くれぐれもケガだけはしないようにな。
 特にあの赤い仮面……奴はちょっと要注意だぞ?」



流石はジン、ロランスのヤバさに気付いたか……此処は矢張り私がエステルと交代して、ジンと共にロランスを抑えるのが上策か?向こうは一人が
フリーになってしまうが、ヨシュアのスピードとオリビエの援護射撃があれば数の差は埋められるだろうしね。



「……僕が、ロランス少尉を食い止めてみます。その間に他の三人を片付けて貰えますか?」



と思っていたのが、何とヨシュアがロランスを喰い止めると言って来た……そう言えば、やけに特務隊チームを気にしてると思ったが、アレは実はロラ
ンスの事を気にしていたのか?
ナイアルにもロランスの事を聞いていたし……まさか、ロランスは私達と出会う前のヨシュアの知り合いだったりするのだろうか?或はその人物を彷
彿とさせるとか……自分でも何か気になるから実際に戦って確かめたい、そう言う事なのかも知れんな。

《エステル、予定変更だ。ロランスはヨシュアに任せるぞ。》

《えぇ!?ちょっと本気なのアインス!!あの赤仮面が並の実力者じゃない事位アタシだって分かるわ!!ヨシュアでも勝てるか分からないってのも
 ね!!》

《うん、ヨシュアでも勝つのは難しいだろう。だが、ヨシュアとて持ち前のスピードを駆使すれば勝てずとも負けない戦いは出来るだろう?》

《其れは、そうかも知れないけど……其れでもヨシュアが一人でだなんて!!》

《ふふ、柔軟に考えようかエステル?
 ヨシュア一人ではロランスに勝てないと言うのならば、私達が他の三人を速攻で倒してヨシュアに加勢すればいい。
 ロランスが如何に強くとも四人同時に相手をすると言うのは辛いだろう?……ヨシュアのスピードで攪乱し、ジンのパワーとオリビエの射撃、そして
 ダメ押しに私が表に出てリミッター解除のアーツをぶちかませば勝てる筈だ。》

《アインスのリミッター解除のアーツって……ロランス少尉生きてるかしら?》

《大丈夫じゃないか?何となくだが、アイツは高町なのはが全宇宙から魔力を集めてはなったSLB喰らっても生きてる気がするからな。》

《……それって本当に人間なの?》

《人間だ。フリーザ様もビックリだろうがな。》

其れは兎も角、ヨシュアの意思は固いみたいだから、ひとまずロランスはヨシュアに任せて、私達は他の三人の相手をするか……この試合は何が何
でも勝たねばならんから、悪いが少しばかりリミッターを外すからな?
物理とアーツの同時攻撃も、アーツを付与したアーツクラフトも此れまでとは比べ物にならんレベルで放たれると思えよ特務隊諸君……少しばかり魅
せたその後は纏めて瞬殺してやるからな!!











 To Be Continued… 





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