Side:アインス


武術大会予選の最終試合である、ジンvsレイヴンの試合は、普通に考えたら数の差に加えて武器の有無もあるのでジンが圧倒的に不利だと言える
だろう……ヨシュアも『相手が彼等でも楽観視は出来ない』と言っていたからね。因みにだが、エステルとは交代して私は裏に引っ込んだ。
先ずは名前は忘れてしまったが、リーダー格の奴が木刀で殴りかかるも、ジンは其れを軽くいなして、相手の勢いを利用して投げで叩きつけ、二人目
にはカウンターの肘打ちを叩き込み、残る二人は攻撃を躱しながら隙を伺い、決定的な隙が出来た所で、後頭部に手刀を打ち込んでゲームエンド。
見事なパーフェクト勝ちだな此れは。



「す、凄い……!」

「あの巨体であの動き、技のキレも凄まじいモノがある。」

「でかくて速くてつよいこと、これさえそろえば負けはない!って、だれかがいってたけどほんとーにそーだな?……ということは、僕はすでに速くて強
 いから、あとはでかくなれば負けはないってことになるな!!」

「……ヨシュア、レヴィが言ってる事分かる?」

「何となく……まぁ、巨体だと如何しても動きが遅いイメージがあるから、あの人みたいに巨体で素早く動く事が出来れば確かに向かうところ敵なしか
 も知れないね。」



デカいキャラは大抵の場合『遅い、堅い、強い』で、頑丈さに物を言わせて多少の被弾に目を瞑って必殺の一撃を叩き込むモノと相場が決まっている
からな……ヨシュアの言う様に、ジンの様な巨体で素早く動く事が出来れば相当だろう。……其れでもカシウスには勝てないと思ってしまうのが何と
もアレだが。



「勝って良かったわねジンさん!其れに……あのレイヴン達も。」

「え?」

「どゆこと?」

「だってそうでしょ?夜の灯台や、暗い倉庫の中に居たアイツ等が、こんな晴れやかな場所に正々堂々と出て来られるようになったんだもん。
 ……よかったね。」

「そういうことかー!そーだな、よかったな!!」

「……そう、だね。」



エステル、全くお前と言う奴は……だが、其れがお前の良い所だ。
嘗て罪を犯した者に対して、お前は其れを償い、あるいは償おうとしている者の事を、暗い場所から光の当たる場所に出る事が出来た者を祝福する
事が出来るからな……其れは、中々出来ない事だから誇ると良いさ。









夜天宿した太陽の娘 軌跡70
『武術大会に出場する為の下準備』









ジンとレイヴンの試合を持って予選は全て終了となったのだが、試合終了後に予想通りデュナンからの挨拶があったのだが、当たり障りない挨拶に
始まって、試合の感想、最近のグランセルの情勢と話は移って行った。
その時々で、完全に観客の反応を見ているがバレバレだったが、歓声が上がったのに気を良くしたのか、これまた私の予想通りに『大会優勝者に私
から特別プレゼントを用意しよう』言ってくれたか……尤も、流石に其れが『大会終了後にグランセル城で行われる宮廷晩餐会への招待状』と言うの
は予想外だったがな。
宮廷晩餐会か……出来ればデュナンなんかが開催する奴じゃなく、アリシア女王が開催してクローゼもいるのに参加したかった。今のクローゼのドレ
ス姿とか絶対に素晴らしいだろうからなぁ。



《アインス……いや、確かにクローゼのドレス姿はきっと綺麗だと思うけど!》

《王女としてドレスを着たクローゼの周りを親衛隊のユリア、そして王女直属の騎士となった私とお前とヨシュアが囲む……凄く良くないか此れ!!
 因みにお前の騎士服は私の戦闘装備のアレンジで、ヨシュアの騎士服はクロノ執務官のバリアジャケットで如何だろう?》

《妄想炸裂し過ぎじゃない!?……でも、確かにちょっといいかも。》



良いだろう?機会があれば、そのシチュエーションで記念撮影したいモノだ……目下の問題は、私が私の姿で顕現する事が出来ないと言う事なのだ
けれどね。

さて、取り敢えず此れからの事をエルナンに報告しておいた方が良いと思ってギルドに来たんだが……



「おや、アンタ達は……エステルにヨシュア、其れにレヴィじゃないか!」

「カルナさん、久しぶり!」

「御無沙汰してます。」

「かるなー、元気してたか?僕は元気だぞーーー!!」



カルナ、と言うか武術大会に出場していた遊撃士のチームが居た……まぁ、彼女達も遊撃士なのだから居てもオカシク無いし、もっと言うのならば武
術大会の優勝者への『デュナンからのプレゼント』の件を報告に来ていたのかも知れないしね。
だが、其れは其れとして私達の事はカルナがチームメイト達に話していたらしく、私達の名前を聞いたチームメイト達に『話は色々聞いてるよ』だの、『
新人なのにやるじゃねぇか』だのと言われてしまった。
カルナのチームのメンバーは、ボース支部の正遊撃士のグラッツ、王都支部所属のクルツ、そして所属は明かさなかったがアネラスか……如何やら
チームリーダーはクルツの様なので、正確にはカルナのチームではなくクルツのチームと言うべきなのだろうな。



「しかし、アンタ達まで王都に来てたとはね。」

「武術大会にはエントリーしてなかったのかい?」



まぁ、その武術大会の事で話が有って此処に来たのだがな。悪いがまた代わってくれるかエステル?こう言う説明は、お前は得意じゃないだろ?
だからと言ってヨシュアに丸投げする訳にも……



「あのねー、えすてるとよしゅあが、ジンっていうとってもでっかい人とちーむをくみたいみたいなんだけど、それってできる?それと、ぶじゅつたいかい
 って僕もえんとりーできる?」



と思ったら、まさかのレヴィが先制攻撃をしてくれたよ……しかも要点だけ纏めて余計な事は、少し言ってるがそれでも一番重要な事は口にしていな
いからな?……アホの子が簡潔に説明するとは此れは奇跡か?エステルの頭脳が冴えわたってるのよりも有り得ないぞ此れは。
明日の天気は、雨か槍か、はたまたSLBかという感じだな。
で、其れに対するエルナンの答えは、私達がジンと組む事は可能、レヴィの大会出場は無理との事だった……大会の出場規定として『十五歳以上』
と言う年齢制限があるのならば仕方あるまい。どう見てもレヴィは十五歳以上には見えないからな。
『変身魔法で大人になる!』とも言っていたが、其れは其れで魔法が解けた時に大問題になるから却下だ。と言うのを、ヨシュアがこれまた丁寧に分
かり易く、そしてレヴィが納得出来る様に説明してくれて助かった。……ヨシュアが教師になったら、どん底な成績の生徒でもトップ集団に押し上げる
事が出来るかも知れん。

そして、私達がジンと組むのが可能と言うのは、どうも今年の大会は予選開始直前に個人戦から団体戦に試合形式が変更され、ジンの方から『試合
に出場可能な遊撃士を捜して欲しい』との依頼があったらしい。
予選は終わってしまったが、エルナンが大会本部に掛け合ってくれる事になり、後は私達がジンを口説き落とせるかがカギと言う事か。



「へえ?此の土壇場で出場するとは、中々美味しい登場の仕方をするじゃないか?……私を昏倒させた奴等を追い詰めた実力、見せて貰うかな?」

「そういや思い出した、お前等ロレントからボースに向かう途中で会ったよな?あん時はシェラザードに隠れちまってたが、今はあの時とは全然違うっ
 て感じだな。」

「ふむ……中々の実力と見た。特にエステル君は、其の内に凄まじい潜在能力を秘めていると見える……其の力が解放されたら恐らくは……」

「大会で当たったその時は本気でやろうね!」



クルツチームの面々にも聞かれてしまったが、肝心の任務の事は聞かれていないから問題ないし、大会に出場する事になったら確かに本選での組
合わせ如何では戦う事になるかも知れんからな……その時は本気でやるだけだ。
それにしてもあのクルツと言う男、エステルの秘めた潜在能力――より正確に言うのであればエステルの中に居る私の存在を感じ取るとは、恐るべ
き観察眼だな?……如何やら、伊達にチームリーダーを張っている訳ではなさそうだな。

其れでだ、目的のジンなのだが、流石に何処に居るかまでは分からなかったので、街で聞き込みをしたんだが、思ったよりもアッサリと場所が分かっ
たな?
場所は『居酒屋 サニーベル・イン』……こうもアッサリ場所が分かったのは、矢張りたった一人で勝ってしまったというインパクトが大きく、多くの人が
ジンの事を覚えていたからだろうな。そうでなかったら、もっと時間が掛かったかも知れん。
まぁ、其れは良いんだがエステルよ、入店時に『たのもー』ってのは違うと思うぞ?其れでは何処かの道場やぶりだ……そして、レヴィが其れに続い
たのもまたお約束か。

さて、あまり大きな店ではないが、時間が時間だけに人が多い……この中からジンを探し出すのは簡単ではないが――



「あ、いたー!」

「え?あ、ほんとだ!」

「よく見付けたねレヴィ?」

「えっへん!じつは僕は『うぉーりーをさがせ』がとくいなんだ!!」



レヴィのまさかの意外な才能だな……だが、大切なのは此処からだ。
逸るエステルにヨシュアが言っているように、全ての人間が私達の考えを簡単に受け入れてくれるとは限らない……寧ろ簡単に受け入れて貰える事
の方が少ないだろう。
そう言う事態になったときの為の練習だ此れは。兎に角慌てず、相手に失礼のない様に、筋道を立てて粘り強く、だな。



「あの、お食事中に失礼します。
 こ、こんばんは!!アタシ、遊撃士のエステル・ブライトと言います。」

「同じくヨシュア・ブライトです。ジンさんにはエルベの森でお世話になりました。
 僕達、今日はグランセル支部受付のエルナンさんの紹介で……少しお時間宜しいでしょうか?」

「よろーしーでしょーか?それと僕レヴィ!」

「おう、俺に何の用だい?」



レヴィが若干余計な事を言った気がしなくもないが、先ず掴みはOKだな。少なくとも話だけでも聞いては貰えそうだ。頑張れよエステル?



《お、落ち着いて。この交渉に成功したら憧れの武術大会に出場出来る……じゃなくて!此れはラッセル博士の依頼を達成する為に……あぁっ、でも
 其れを言ったらプレッシャーが掛かっちゃうかもしれないから、えーと、えぇ~っと……》

《って、オイコラ随分パニくってるんじゃないか?》

《だって、交渉事ってほんとに苦手なんだもん!何で交渉事なんてあるのよ!自分の意見言って、相手がイエスかノーかで良いじゃない!駆け引き
 とか、そんなの必要なくない!?》

《ん~~……交渉事を根本から否定してるなお前は……まぁ、苦手なのは仕方ないが苦手を苦手のままにしておいてはダメだろう?短所も補ってお
 かねば……いや、お前の場合は或は苦手なままでも良いかも知れん。
 駆け引きが苦手だと言うのならば、大事な部分だけを言わないようにお前の気持ちをストレートにぶつけてみるのもアリじゃないか?》

《そうよね!アタシにはそっちの方が合ってるわ!!》
「武術大会に出場したいので、私達をジンさんのチームに入れてください!!」

「……良いぜ。」



と言う訳で直球ストレートに行ったら、まさかのOKだった……隠し事はあるが嘘はないエステルの真っ直ぐなお願いに負けた、と言う感じではないだ
ろうが、ジンの様な無骨な武術家には、下手な駆け引きよりも思いの丈をストレートにぶつける方が効果があるのかも知れないな。
エステルがジンに礼を言い、すかさず『優勝を目指そうね』と言えば、ジンも『折角助っ人が来てくれたんだから優勝を目指さんと話にならんよな』と言
ったのだが、団体戦は四人枠なので、もう一人助っ人が欲しい所だ。
レヴィが大人だったら四人目確定なのだが、レヴィは年齢制限で出場出来んからな。さて如何するか……



――ポロロロン……ジャン!!



と思った所でピアノの生演奏が終わった……独特の鍵盤のタッチからまさかとは思ったが、まさかお前だったとはな。



「如何やらそろそろ出番の様だね。
 思えば涙ながらに僕を引き留める美女達を振り切り、グランセルに流れ着いてから早一ヶ月。
 しかし、毎日が刺激的だったロレントと比べて王都での生活はなんと安寧なことか……ピアノの調べと戯れるだけの日々を過ごして来た僕の耳に、
 ふと何かが聴こえた気がした……そう、其れは助力を乞う、乙女の祈り……」

「オリビエ……アンタ何やってんの?」



マッタクだな。てっきりシェラザードと共にロレントに行ったきりだと思ってたのだが……此れは、若しかしなくても毎晩のようにシェラザードに付き合わ
されて耐えられなくなって逃げて来たんだろうなぁ。
寧ろ、毎晩のように付き合っていたのならば其れは其れで凄いと思うが……シェラザードの相手を毎晩と言うのは、流石のカシウスでも無理だしな。



「呼んだね?僕の名を!!
 名指しされてしまっては仕方ないな!しからば此のオリビエ・レンハイム!君達の助っ人として華麗に参戦しようじゃないか!」



別に呼んではいないがな。
エステルが『何でそうやって首突っ込んでくるのよ!』と突っ込めば、レヴィが『そーだ!ってうかお前ダレ?なにこの子安ぼいす』と若干意味不明な
追撃を入れるも、オリビエは意に介した様子もなく、『隠しても無駄だよ、僕は全部お見通しなのさ……君達が武術大会優勝に掛ける真の理由もね。
自分達だけお城の晩餐会だなんてズルイー!僕も仲間に入れて欲しいな!』等と宣ったか……レヴィ、コイツに一発かませ。



「レヴィ、やっちゃいなさい!」

「おっけー!うおりゃー、ベニマルコレダー!!」

「みぎゃぁぁぁ!!!ありがとー、そしてさよーなら!!」



雷を落とさずに、相手に直接電気を送り込んでるから、確かに其れはベニマルコレダーなんだが、威力的には超必のエレクトリッガーだな今のは。
うむ、見事にこんがり焼き上がったな?……まぁ、直ぐに復活するだろうが。



「ジンさん、如何しよう?」

「良いんじゃねぇか?
 その若いの、得物は導力銃だろう?脇の下に一丁携帯しているようだし、歩き方や視線に銃使い特有の動きが出てるな。」

「良いの!?って言うかそんな事まで分かるの!?」

「これも長年の修業の賜物ってな。
 そう言うお前さんは、棒術使いだが……それとは別にアーツも得意ってのは違うか――そうだな、お前さんとは別の何かが居るだろう?ソイツの力
 は本気で計り知れない感じだ。」



オリビエの真髄を見抜いただけでなく、私の存在にも気付いたか……其れもさっきのクルツよりもより高いレベルで――成程、矢張りその実力に偽り
はなさそうだなジンよ。



「其処まで分かるんだ……うん、確かにアタシの中にはもう一人のアタシが。ううん、アタシとは全く異なるアインスって言う存在が居るわ。
 そしてジンさんの言う通り、アーツが得意なの。」

「なんと、大当たりだったか。
 だが、そうなると益々良いんじゃないか?遠距離武器、中距離武器、スピード系とパワー系、そしてアーツ系――しかも皆、可成りの修練を積んで
 来たと見える。
 良いチームになると俺は思うがね!」

「ありがとうジンさん!アタシ達、絶対に期待に応えて見せるからね!!」



寧ろ応えねば嘘だからな
だが、これでラッセル博士の依頼を達成する為の唯一の道をギリギリではあるが繋ぎ止める事が出来た――後は、その道を確実な物にする為に武
術大会で優勝せねばだな。

チームを結成した後は、ジンの奢りで夕食を共にする事になったのだが、其処で何時の間にか復活したオリビエがエステルに『ボースの時よりも女性
としての魅力が増したように思えるね……そう、漸く開き始めたつぼみの様に。そしてその開花の切っ掛けになったのは、やっとヨシュア君の』とか言
って来たので、強制人格交代してゴッドハンドクラッシャーを喰らわせて黙らせた。
人の色恋に踏み込む輩は、オベリスクに殴られ、オシリスに砲撃され、ラーに焼かれて地獄に落ちろだ……マッタク持って本当にな。……尤も、相当
に手加減したとは言え、私に殴られて秒で復活したオリビエは不死身なのかも知れん。まぁ、それならそれで頼りになるがな。








――――――








Side:???


まさか、王都で彼女達に会うとは……これもエイドスの導きなのだろうか?
だが、彼女達が王都に来たのならばまだ望みは潰えていないのかも知れないな……情報部に嵌められて己の無力さに打ちひしがれていたが、まだ
諦めるには早いのかも知れない。
そうだ、諦めるにはまだ早い……此処で諦めてしまったら、何の為に追っ手を躱して王都に潜伏したのか分からなくなってしまうしね。
君達は私達に希望を届けてくれた……ならばその恩は、必ず返さねばだ。――そして、君達ならば今の王都の状況を必ず好転させてくれると、そう
信じているよ、エステル君、ヨシュア君、アインス君……!!











 To Be Continued… 





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