Side:アインス


ツァイスに到着し、期せずして『R博士』ことラッセル博士と邂逅する事になったのだが、此れは私達にとっても嬉しい誤算だったと言えるだろうな。
よもや、此れだけ早くあのメモに記されていた人物と出会う事が出来るとは思わなかったからね。
そして、早速例の黒いオーブメント……博士命名『黒のオーブメント』の実験をする事になったのだが、如何やらこの黒のオーブメントには形式番号
である『キャリバー』が刻印されていないらしい
……キャリバーについてティータに聞くエステルレヴィと、その後キャリバーを『名札みたいなモノ』と言ったエステルとレヴィの事を、ヨシュアが微笑
ましく見ていたのが、何とも印象的だがな。
博士曰く、『キャリバーは技師の誇りの様な物』であり、其れがないこの黒のオーブメントは後ろ暗い目的で作られた可能性が高いか……アーティ
ファクトとやらすら無効化してしまう此れは、使いようによっては危険な代物だろうからな。

取り敢えず、先ずは導力測定実験からと言う事に……黒のオーブメントには入出力の機構すらないとの事で、此れの結晶回路に特殊な導力波を
当てて、その反応から此れの性質をみるらしい――この場にシャマルが居たら、旅の鏡で黒のオーブメントの中身だけ取り出せたかもな。
さて、早速実験が始まったのだが……



「お爺ちゃん……な……何だかヘンかも……タコメーターの針が……!」

「ちょ、ちょっとアレって、あの時の、黒い光!!」



実験を開始してすぐに計器に異常が起こり、次の瞬間にアーティファクトを停止させた黒い光が溢れ出し、そして室内の照明が全て消えた。
流石の事に博士も驚いていたが、狼狽える事なく測定装置の動作状況の総チェックと行く辺り、オーブメントの研究で数え切れないくらいの想定外
に遭遇し、それを何とかして来たからこその対応なのだろうね。



「エステル、僕達は外の様子を調べておこう。」

「そうね……レヴィも一緒に行くわよ?此処に居てもやる事ないでしょ?」

「え?ちょーしのわるいきかいがあったら叩いてなおそーかなって。必殺のななめ45ど!!」

「レヴィのパワーで其れやったらどうなるかしら?」

「一時的なショック療法を通り越して間違いなくトドメになるだろうね。」



と言う訳でレヴィは強制連行だ。
で、外に出てみれば、外の、町中の照明が消えている……いや、如何やら消えたのは照明だけではないようだな?町の彼方此方から聞こえて来
る困惑の声から判断するに、オーブメントが使われているモノは全て停止しているようだ――此れが、あの黒い光の影響か……!
此のままだとトンデモない事になるんじゃないかと思ったが、博士の家に工房長のマードックと言う人がやって来て、思い切り怒鳴られた事で渋々
実験は中止になった――『また』と言われてた辺り、博士は実験のたびに何かやらかしているのだろうな。
しかし、工房長が言っていた『ツァイス全体のオーブメントを根こそぎ停止させる』と言うのは、トンデモない事だな……博士の家の近所だけでなく、
町全体のオーブメントを停止させるとは、一体何なんだあの黒のオーブメントは?
此れは思っていたよりも危険な代物かもしれん……もしもたった一つの国や組織だけが黒のオーブメントを所持し、あの黒い光の効果を受けなくす
る装置を開発したとしたら、世界はあっと言う間に其の力を持った者の思い通りになってしまうのだからな……









夜天宿した太陽の娘 軌跡62
『ツァイスとエルモ村での色んな一日』









結局昨晩は博士の家で一泊させて貰った……ので、そのお礼に朝食は私が作った。まぁ、ティータには姿が変わったので驚かれたが、そう言えば
ツァイスに来て変わるのは初めてだったか。
折角なので、朝食時は私のままで行かせて貰った。ティータと直接話もしたかったからね。――因みに本日の朝食は、パンに切れ込みを入れ其処
にチーズを挟んだから焼き上げたフレンチトースト、メレンゲ状になるまで泡立てた卵をたっぷりバターで焼いたフワフワ二倍のオムレツ、カリッカリ
に焼いてから砕いたベーコンを浮かべたコンソメスープだ。
自分で言うのもなんだが、とても美味しかった。
その朝食の席に博士は居なかったのだが、ティータが言うには『黒のオーブメントの謎を突き止めてやるー!』と早々に一人で中央工房に行ってし
まったらしい……御老体だと言うのにパワフルなモノだな。
家を出る前にはエステルに変わっていたので、エステルは直ぐに中央工房に行こうとしたのだが、ヨシュアに『その前に、ツァイスのギルドに挨拶と
報告をしておかないと』と言われて、先ずはギルドに……目の前の事に全力で取り組もうと言う姿勢そのものはエステルの美徳だと思うのだが、そ
のせいで肝心な事を忘れるのは何とかならないのだろうか?――まぁ、其れをフォローしてやるのが私とヨシュアの役目なのだろうけどね。
其れとは別に、レヴィとティータは……レヴィの正確な歳は分からないが、子供同士は一晩で仲良くなったみたいだな?ギルドに向かう道中も楽し
そうに喋っているからね――まぁ、レヴィが話しているのは、ティータにとっては未知の技術的なモノも有るので、興味を引かれていると言うのもあ
るだろうけどな。

そんな訳でギルドに到着して中に入ったのだが……



「遊撃士協会ツァイス支部にようこそ。
 漸く到着ね、エステル、アインス、ヨシュア、そしてレヴィ。私はキリカ、以後お見知りおきを。」



私達を迎えてくれたのは、黒目黒髪の美女だった……歳の頃は二十代後半から三十代前半と言った所かな?年若い娘にはない、大人の女性の
色かを漂わせているアジア系と言った所か。
着ている服も、何処かアジアンテイストだ……この世界で言う所の東方の国の人間なのかもしれないな。
取り敢えず、先ずはキリカに昨日の騒動の事を説明し、その後でヨシュアが『聞きたい事が有る』と言ったのだが……



「残念だけど、カシウスさんはツァイス地方には居ないわね。」

「え?」



ヨシュアが聞く前に、此方が知りたい答えを言ってくれた……いや、如何してヨシュアの聞きたい事が分かったんだ彼女は?まさか読唇術ならぬ読
心術が使えると言うのか?ツァイスの受付はエスパーか。



「少なくともここ数ヶ月はツァイスを訪ねてきていない……残るは王都グランセルだけど、向かってみる?」

「いえ、まだ暫くは……」

「そうね、今は未だ闇雲に探し回るより、そのオーブメントの調査をする方が、結果的に彼への近道になるでしょう。
 彼方達は此のまま博士に協力すると良いわ。」

「はい。」

「よっしゃー!」

「す、凄いわねキリカさん?何でアタシ達の事、そんなに分かる訳?」

「届けられた情報から然るべき判断をしただけよ。彼方達遊撃士を全力でサポートするのが私達の仕事だから。」



だとしてもキリカは何と言うかレベルが違う気がする。
ルーアンのジャンから連絡を受けていたから私とレヴィの事を知ってるのは良いとして、私達がカシウスの行方を追っていると言うのは直接的には
知られてない筈なのだが……果たしてドレだけの洞察力を持って居るのやらだ。


そして、ギルドへの挨拶と報告を済ませた私達は、中央工房の一室に……其処では博士と工房長が、黒のオーブメントの切断を行おうとしてたみ
たいだが、如何にも巧く行かないらしい。
博士曰く、黒のオーブメントは外から干渉するオーブメントの機能を停止させる力があるとの事で、しかもその力は周囲の稼働中のオーブメントにも
連鎖して伝わって行くらしい……だから、ツァイス全体のオーブメントが停止してしまったのだな。
有効範囲は5アージュほどで、逆に言うのならば、その範囲に稼働中のオーブメントがなければ導力停止は広がらない、か。僅か数時間で其処ま
で解析してしまうとは、流石だな博士。



「アインスも言ってるけど、此処まで調べちゃうなんてすっごいわね博士?」

「大した事ないわい。
 中央工房が誇る世界最高峰の導力演算機『カペル』とこのワシ、二つの頭脳を持ってすれば解けぬ謎などありゃせんよ。
 解析はワシ等に任せておけ。
 お前さん達はのんびり観光でもしてくると良い。少し遠いがエルモの温泉は最高じゃぞ。」



流石に其れは……と思ったのだが、此処で狙ったかのようなタイミングで工房長が『エルモ村の旅館から温泉の導力ポンプが壊れたとの連絡があ
って』と言って来た。
どうにもそのポンプは四十年以上前に博士が設置した物らしく、博士以外には如何にも出来ないモノらしかったのだが、此処でティータが『自分が
行く』と名乗りを上げた。
ティータは前に整備の手伝いをした事が有るらしいので、其れならば大丈夫だと思うのだが……流石に、魔獣が出るかも知れない街道を一人でと
言うのは工房長も博士も心配か……さて、如何するエステル?



《決まってるでしょ?》

「ラッセル博士!
 それじゃあアタシ達はゆっくり観光でもしてくるわね。折角だからお言葉に甘えて、ティータちゃんに案内してもらって、エルモ村に行ってきます!」



だよな、其れが正解だ。
ティータ一人で行かせるのが不安だと言うのならば、準が付くとは言え、私達遊撃士が一緒に行ってやれば良いだけの事だ……私達の力は既に
準遊撃士を越えているレベルだからね。力のエステルとスピードのヨシュアは其れだけでも充分強いが、其処に極悪チートの私と、パワーだけなら
ブロリーにも匹敵するレヴィが居る訳だからな……街道に出る魔獣など、『戦闘力5のゴミ』にもならんな。

さて、ティータの案内でエルモ村に向かってる訳で、街道でエンカウントした魔獣は漏れなくセピスに変わって貰ったが……戦闘中に見た事もない
魔獣に出くわしたのだが、何故か其れに懐かれてしまった。
羽根と角が生えた白いキツネのような魔獣なんだが、何だ此れ?



「あれ~?ハネキツネじゃん?なんでいるの?」

「え、知ってるのレヴィ?」

「うん。エルトリアにいるどーぶつで、人なつっこくてあぶらーげがだいすきなんだ。」



まさかのエルトリアの固有種だった……レヴィの転移と一緒にこの世界に来たのだろうな。取り敢えず魔獣ではないし、無害なので退治する必要
はないから一緒に連れて行こうか?エステルの頭の上が気に入ったみたいだしね。



「これ、絵面的に如何なのかしら?」

「良いと思うよ?とっても可愛いし。」

「か、可愛い!?」

「女の子と動物の組み合わせは最強だって聞いた事があるんだけど、如何やら其れは本当みたいだね。」



ヨシュアよ、其処は嘘でも『エステルは可愛いよ』と言ってやれって……私とクローゼがそう言う仲になったのは別れ際のキスを見れば分かるとして
、それを見れば何かが進展するかと思ったんだがあの程度では進展する切っ掛けにはならなかったか。
お互いに意識していると言うのに進展しない……全く無関係の第三者からすると、この上なくモヤモヤするモノだなマジで。
其れは兎も角、無事にエルモ村に到着し、早速導力ポンプの修理に着手だ。
私達に手伝える事は多くなかったが、脚立を使ってもティータが届かない場所はエステルやヨシュアが脚立に登って作業をし、錆びついて動かなく
なってるボルトは、レヴィが力技で無理矢理外して新しいの付け替え、モノの数時間で修理は終わったね。
まぁ、ティータも私達もすっかり埃だらけの煤だらけになってしまったがな。
そしてその後、紅葉亭の店主であるマオ婆さんの好意で今夜は此処に泊まらせて貰える事になった……ポンプの修理代として、宿泊だけでなく食
事まで無料と言うのは、何だか申し訳ないな――ポンプの修理代と食事&温泉付きの一泊のどちらが高いかは知らないが。

身体も汚れているので、早速温泉に向かったのだが、エステルは温泉は初めてなので楽しみだったみたいだ……ただ、露天風呂が『混浴』である
と言う注意書きには気付かずに、ヨシュアに『絶対露天風呂に行きなさいよ?』と言っていたがな。
同じ視界を共有してて、どうして私は気付いてエステルは気付かないのか……単純に初めての温泉に興奮して見落としていたのだと思いたい。
さりとて、混浴の件は如何したモノか……言えばエステルは混浴に行くのを辞めてしまうだろうが、私も露天風呂には入りたいからな――もしも、ヨ
シュアが居たらその時はその時に考えるとするか。

さて、先ずは屋内の温泉は、檜造りの湯舟が立派なモノだった。湯舟だけでなく、洗い桶や腰掛も檜製とは恐れ入るな。
そんな温泉で、エステル頭にハネキツネを乗せた状態でとティータとお互いの事を話して、レヴィは広い湯船で泳いでいるのだが……



――ゴン!!



「おぶ!?」


「……エステルさん、レヴィちゃんは一体今何にぶつかったんでしょうか?」

「其れは聞いちゃダメよティータちゃん。
 何もない所で何かにぶつかるだけじゃなく、何もない所で何かに捕まってとかレヴィは普通にやるから。……気のせいかも知れないけど、時々レ
 ヴィの周辺にマンガの枠線を幻視する事が有るのよね。」

「何ですか其れ?」



さて、何だろうな。私にも分からん。
其れは其れとして、ティータの両親も技術開発者で、外国で技術指導をしているらしくもう何年もツァイスには戻って来ていないらしい……エステル
も言っていた事だが、五年前までの私達とよく似ているな。



「アタシは、本音を言うとね、アインスが現れるまでは、父さんの帰りを待ってるのは少し、寂しかったかな。
 勿論今は違うわよ?現にさっきまでそんな事忘れてたしね。」

「あの……どうやってエステルさんはそう思えるようになったんですか?」

「どうしてって、その……アタシは一人じゃないし、其れはティータちゃんも同じでしょ?
 ティータちゃんの側にはティータちゃんの大好きなお爺ちゃんが居るし、アタシにはヨシュアが居るしね。」



其処で十年も一緒にいる私ではなくヨシュアが真っ先に出てくる程にヨシュアの事を思って居るのに、如何して自分がヨシュアに抱いてる感情に気
付かないんだこの鈍感娘は?
私とクローゼの事に気付いた所を少しは自分に使えば良いと思うのだが……自分の感情に完全に気付いたら気付いたで、恥ずかしさで悶絶必至
かも知れんがな。



「あの、エステルさんとヨシュアさんは、結婚してるんですか?」



――バッシャーン!



と、此処でティータがニトロ級の爆弾を投下したか……この世界の結婚可能年齢とは、そう言えば何歳からなのだろうか?
まぁ、驚いたエステルは其れを否定していたが、『そう見えるの?』と気にはしていたな?……ティータが言うには、『何時も一緒で、其れが自然で
お互いの事を分かりあってる感じがして、こんな人達が恋人だったら、夫婦だったらいいなぁって。』との事だったが、其れを聞いたエステルは恥ず
かしさが限界突破してしまったみたいだ……ホントに、此処まで意識してるのに如何してヨシュアの事を義理の弟じゃなくて、一人の異性として見て
る自分に気付かないのか――其れとも、今の関係が壊れてしまうのが怖くて、無意識に気付かないようにしているとでも言うのかな。

其れで、ティータから逃げるように露天風呂にやって来たのだが……大分エステルは頭が混乱してるみたいだな。



「だ、大体イキナリ夫婦って、色んなモノすっ飛ばしすぎでしょ?
 お芝居のキスで騒いでる場合じゃないのよ?そうよ!お風呂にだって平気で一緒に入っちゃうくらいの関係になるんだから!!」



それで居て言ってる事はそれ程間違っては居ないんだよなぁ……ヨシュアとは兎も角、クローゼとは一緒に温泉に入ってみたい。クローゼとなら女
同士だから合法だし。
って、湯船に飛び込むなよエステル?



「こらこら、広いお風呂だからってはしゃがないの。」

「へ?」



今の声は……



「やぁ、エステル……はは、此の格好だと流石に……」



ヨシュア!!
露天風呂に来ていたのか……ヨシュアならば混浴の文字を見て来ないかと思って居たのだが、エステルに『必ず行く事』と言われて来てしまったと
言う事か――!
此れは、間違いなくエステルが驚いて悲鳴を上げるパターンなので……



――シュン!



《きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!》

「よし、ギリギリのタイミングで交代成功だな。」

「あれ、アインス……如何して?」

「いや、エステルが驚いて悲鳴を上げそうだったので、周囲への迷惑を考えてな……人格を交代してしまえばエステルの悲鳴が外に出る事はない
 からね――頭の中が若干煩いが。」

「悲鳴って、なんでさ?」

「何でって、其れは……」

『意識している相手と殆ど一糸纏わぬ姿で予想外に遭遇したら驚くだろう。』と言いたい所だが、其れを言ってしまったら未だに気付ききれていない
エステルの大切な思いを汚す事になるので、『エステルは露天風呂が混浴だと思っていなかったから驚くだろう?』と言っておいた。
それに対しての答えが、『やっぱり注意書きに気付いてなかったんだね』と言うのは、何だかとても否定出来ない。実際気付いてなかったしね。
その後、露天風呂にティータとレヴィもやって来て、落ち着いたエステルと交代して温泉を心行くまで楽しみ、温泉を堪能した後は旅館自慢の料理
に舌鼓を打ち、夜遅くまでゲームや此れまたツァイスの中央工房が開発したカラオケマシンのカラオケで盛り上がった。
デュエットの曲を人格交代を駆使して歌いきると言うのは二重人格だからこその一芸だが、其れ以上にヨシュアには驚かされた。
他の歌は相変わらずの音痴だったが、『星の在り処』だけはプロなんじゃないかと思う位に上手かったからね。……何時もハーモニカで吹いている
だけあって、此れだけは歌の中でも得意なのかも知れないな……となると、他の歌は聞き慣れてないから音程が取れないだけか。
序に、レヴィも歌が得意だと言う意外な事実も発覚したけどな。
それにしても、精神世界で『ヨシュアは家族なんだから驚く事もないだろう』と言ってやったら『其れもそうね』で納得してしまうとは、それで良いのか
エステルよ?その単純さが少し心配だ。

因みにカードを使ったゲームでは、エステルはヨシュアに全敗したが、私はヨシュアに全勝してやった……可成りエグイ戦術を使って来てくれたもの
だが、私は其れ以上のエグイ戦術で返り討ちにした訳だ。
ヨシュアは頭もキレるし知識量も凄いのだが、千年生きて来た私には流石に適わないか……そもそもにして私は言うなれば超絶高性能なハードメ
モリーみたいなモノだからな?其れに加えて戦闘力まで最強クラスとか、ハハ……何処までもチートだな私は。
だが、そんな私と、エステルを手玉にとったヨシュアですらティータには手も足も出なかった……決してエグイ戦術を使ってる訳ではないのに、其の
時々の対応力がハンパなかった。
如何にエグイ戦術でも、その全てに的確に対応されるとどうしようもないモノだと実感したよ。
レヴィは如何だったのかと言えば……何時作ったのか知らないが『紫天ロボ』なる自作のカードを使って来たので即反則負けになったな。

そんな感じの一晩を過ごし、翌日は元気にエルモ村を出立してツァイスに。
その道中、ティータがエステルとヨシュアの遣り取りに笑みを浮かべていたのだが、其れは如何やら『兄弟が居ないから羨ましくて』との事だったみ
たいだ。



「アタシ、良い事思い付いちゃった!
 ティータちゃん!アタシとアインスがティータちゃんのお姉さんに、ヨシュアがお兄さんになってあげるわ!」

「エステル、君はまた、突拍子もない事を……」



ホントにな。
だが、私は悪くないと思うよ?家族と言うのは血の繋がりではなく絆の繋がりだと、あの小さな勇者も言っていたからね……ティータが望むのなら
ば、其れも良かろう。



「アインスも、『其れも良い』って言ってるしね?」

「エステルさん、アインスさん……ありがとうございす、私とっても嬉しいです……」

「「こら、ティータ!!」」


と、ハモったか。
だが、此れは仕方ないだろう?


「「なんなの(なんなんだ)、お姉ちゃんとお兄ちゃんに向かって、其の他人行儀な口の利き方は?」」

「うん……ありがとう、エステルお姉ちゃん、アインスお姉ちゃん、ヨシュアお兄ちゃん!」

「んん?僕はどーなるんだろう?」

「レヴィは……ティータのマブダチポジで!!」

「よっしゃー!マブダチ最強!」



そしてレヴィは其れで良いのか……確かにマブダチポジと言うのはとても大事な役割ではあるのだけれどな?――時にこの場合のマブダチはドレ
に振るルビなのだろうか?友達か親友か、旧友か戦友かはたまた好敵手か……此れは親友が最有力だな。


そんなこんなでツァイスに到着だ……道中の魔獣は、レヴィが纏めて片付けただけでなく、ハネキツネに強化アーツを使ったら何故か巨大化して、
角から放たれる『フォックスサンダー』で魔獣を蹴散らしてしまった。
ハネキツネ、侮れんな。

なので割と楽にツァイスに戻って来て、私とエステルが姉に、ヨシュアが兄になった事を博士に伝えたいティータに引っ張られる形で中央工房下の
エスカレーターまでやってきたのだが……アレは何だ、煙?



「煙?あの上って、確か中央工房が……」



そうだ、この先には中央工房が!!!
慌ててエスカレーターを駆けあがった私達の前に現れたのは、白煙に包まれた中央工房だった……此れは、一体何が起きたと言うんだ?
何だ、妙な胸騒ぎがするが……頼む、此の胸騒ぎは私の杞憂であってくれ――!!













 To Be Continued… 





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