Side:アインス


そんな訳でやって来ました学園祭当日。
エステルが制服姿なだけでなく、今日はヨシュアも学生服姿なのだが、ヨシュアの学生服姿は如何だエステル?



《予想よりも似合ってるわね?何て言うかこう、優等生って感じ?クローゼと一緒にクラス委員長とかやってそうな感じだわ。》

《クローゼとヨシュアがクラス委員長だと、お前は差し詰めその二人に毎回何かと注意されるお転婆な生徒と言った所か?
 そしてその三人は幼い頃からの幼馴染で親友だったが、成長した女の子二人は男の子に密かな恋心を抱くようになっていたのだった……友情
 と恋心の狭間で揺れる彼女達の思いの行きつく先は果たして……》

《アインス、何それ?》

《いや、ちょっと学園物の設定が頭に浮かんでな。》

若しくは恋愛アドベンチャーゲーム……ヨシュアが主人公の恋愛アドベンチャーゲームだと、メインヒロインがエステル、メインよりも人気が出ちゃっ
たヒロインにクローゼ、委員長ポジのヒロインにジル、不良系ヒロインにジョゼットと言った所かな?……残念、不思議ちゃんポジが居ないな。
其れよりも、私とこんな会話をしながらも、ヨシュアに『意外と似合ってるじゃない?』とか言えてる辺り、中々に器用だなエステルも?言われたヨシ
ュアも満更でもなさそうだな。

まぁ、ヨシュアが制服姿なのは別にいい。私がクローゼから借りた様に、ハンス辺りから借りれば良いだけだからね……そう、ヨシュアが制服姿な
のは何も問題が無いんだが。

【何でレヴィまで、制服を着てるんだ!?】

「え……アインスさん?」

「人格交代は……してないよね?」

「……如何やらアインスの魂の叫びが、人格交代をせずとも私の身体の外に出ちゃったみたいだわ。」

「……何それ?」

「私にも分かる訳ないでしょ?」



だろうな、私だって驚いてるんだ。
取り敢えずレヴィの制服については、ジルが言うには『レヴィちゃんが、『僕もみんなとおなじふくきてみたい』って言ったらしくて、家庭部の子達が
作ってくれたらしいのよ。』との事。まぁ、似合ってはいるかな?
ジェニス王立学園に初等部が存在したら、こんな生徒が居るのかも知れないね。
レヴィ自身も気に入ってるみたいだし、作って貰った物ならば借り物であるエステル達の制服と違い、返さなくても良い訳だしな。

其れは兎も角として、学園祭の劇、必ず成功させなくてはだな!…………そう言えば、ナイアルとドロシーの姿を見たような気がしたが、学園祭を
取材しに来たのか?……そんな筈ないか。










夜天宿した太陽の娘 軌跡56
開幕!ジェニス王立学園学園祭』









さて、学園祭は無事に始まった訳だが、生徒会室は大忙しだな?
各方面から次から次へと指示を仰ぐ声がよせられているからな……其れに慌てる事なく対応し、的確な指示を出しているジルと見事にサポートし
ているハンスは見事と言わざるを得ないだろうね。
だが、こうなると一緒に学園祭を回るのは無理かな?



「ごめんねー、やっぱ私達はむりだわー。劇の時間まで、そっちで楽しんできて。」

「うん。」

「頑張ってね。ジル、ハンス君。」



矢張り無理だったか……とは言え、私達に手伝える事もないから、ジル達には悪いが私達だけで学園祭を回るとするか。――レヴィはとっくに何
処かに行ってしまったがな。



「あのさ~、ヨシュア~。」

「分かってるよ。
 背が高くて、スタイルが良くて、クールな大人の女性が居たら……だろ?」

「ん!行ってこい!」



……ハンスとヨシュアは何をやってるのか?と言いたい所だが、男子高校生としては割と普通のやり取りなんだよな此れは。――何気に、ハンス
の要求を満たしてる気がするな、本来の私は。あと将も。テスタロッサも後十年経てば充分に範囲内だろうね。
後はアレだ、メイベル市長のところのリラなんかも条件を満たしていると言えるだろうな。

さて、そんな訳で学園祭を回り始めたのだが、中々面白いモノだな?
古代ベルカにも祭はあったが、其れはあくまでも儀式的な意味合いの物であって、こうした賑わいは無かったからね……オリヴィエとクラウスとエ
レミアは、そんな祭をもっと身近なものにしようとしていたみたいだがな。



「おーー!このクレープとってもおいしいぞ!王様はイチゴと生クリーム、シュテルンはホイップとキャラメルっていってたけど、やっぱりチョコバナナ
 こそが最強のクレープだな!」

「レヴィちゃん、こっちの豚玉って言うのは如何かな?」

「うんおいしい!
 でも、僕てきにはソースだけじゃなくてマヨネーズもほしいかな?ソースとマヨネーズはあいしょうさいこうだから!」



「……レヴィも学園祭を満喫してるみたいね?」

「ふふ、楽しそうでよかったです。……でも、レヴィちゃんは分かってますね?マヨネーズは掛けて良し、絡めて良し、素材に乗せて焼いて良しって
 いう万能調味料ですから、豚玉にも合う筈です。」

「確かにマヨネーズは万能だよね。
 でも僕は、マヨネーズ単体よりも、マヨネーズにゆで卵やピクルスなんかを刻み込んだタルタルソースの方が好きかな?魚のフライとか良く合う
 んだよね。」

「あ~、其れ分る!
 アインスが昔作ってくれた、タルタルソースたっぷりの魚フライのサンドイッチ、めっちゃ美味しかったもん!」



本音を言うと、タルタルたっぷりのエビフライロールを作りたかったんだが、この世界には米はあっても海苔がないから断念したんだ。……節分に
恵方巻を作れなかったのが地味に悲しかった。

で、レヴィはレヴィで楽しんでいるようなので、私達は私達で楽しむとするか。
クローゼの案内で学園祭の出し物を見て回ったが、流石にリベールの経済に関しての資料を纏めた展示では、エステルだけでなく私も脳味噌が
オーバーヒートしそうだった……って、私の脳味噌はエステルの脳味噌と一緒だったな。
レヴィが此処に来たら間違いなく頭から煙が出て処理落ちするだろうね……アホの子だから仕方あるまい。



「クローゼ、此処は?」

「科学部の出し物です。」



続いてやって来たのは科学部の出し物……何だか怪しげな実験室の様な雰囲気がするのは気のせいではないだろうな。所謂、マッドサイエンテ
ィスト的な生徒がいないだけ平和だ。
オーブメントやら何やら色々と研究しているみたいだが、其の中で気になったのは……



「「「相性診断装置?」」」



そう、相性診断装置。
名前と生年月日を入力すると、其れを元に相性を診断してくれるらしいな。――面白そうだし、やってみるか?



「アインスが『面白そうだからやってみるかって』ってさ。」

「そうだね、折角だからやってみようか?」

「私達の相性は、ドレ位なのでしょうか?」



ってな訳で先ずはエステルとクローゼの相性から……結果は相性率85%と言う高い相性率だった。――友人として、長くやって行けるでしょうと
言うのも的を射ているな。
次はクローゼとヨシュア――相性率は80%。エステルよりは低いが、異性の有人としていい関係になれるか。
次は私とエステルなんだが……相性率120%って、そらそうだよな?一心同体だからね私とエステルは……寧ろ相性率が低い方が問題だ。
で、私とヨシュアの相性率は80%……クローゼと同じか。
続いてはエステルとヨシュア――結果はまさかの相性率200%!互いに此れ以上の相手は居ないと来た。



「ヨシュア……この機械は少しばかり不具合があるみたいね?」

「そうだね……この結果はちょっとないと思う。」



其処の少年と少女よ、機械はマッタク正常だから、この結果を素直に受け入れろ?……とは言っても、思春期真っ盛りの男女に、恋愛問題云々と
言うのは難しいのかも知れないがな。
さて、最後は私とクローゼだが……相性率測定不能の∞ってどういう事だ?∞と言う数値が許されるのはエクゾディアと最上級特殊能力を発動し
たオベリスクだけだろうに。
まぁ、私の生年月日は、生まれ年はエステルの三年前、生まれた日はエステルに憑依した日に設定したから、偶々その年月日がクローゼと相性
が良かっただけかもしれないが。



「奇跡の相性値。若しかしたら前世からの繋がりか?だってさ。」

「前世から、ですか!?」

「∞って、ドレだけさ。」



前世からの繋がり、ね。
極めて低確率ではあるが、高町なのはの事をママと呼んだあの子とは別に、オリヴィエの魂がこの世界に転生してクローゼになったのならば、其
れは有り得るのかも知れないな。



「こほん……次は何処を見て回りましょうか?」

「アタシ、何か食べたいな。」

「じゃあ……フェンシング部の出店なんてどうですか?私達、今年はアイスクリーム屋をしてるんですよ。」

「アイス?良いわね!」



話題を変えるようにクローゼが振って来たが、エステルが『何か食べたい』と言ったことで、次の目的地はフェンシング部の出店だな。今日は少し
ばかり暑いから、アイスクリームと言うのは良いモノだからね。
取り敢えずアイスはダブルだな。エステルはチョコレートが好きだが、私はストロベリーが好きだからね……其れ以上に抹茶と大納言小豆が好物
なのだが、この世界には無いので仕方ないな。



「あ!クローゼお姉ちゃん!」



っと、此処で孤児院の子供達とテレサ先生が来てくれたか――子供達はエステルとヨシュがクローゼと同じ服を着ている事に疑問を抱いたみたい
だが、エステルが『アタシ達もクローゼと一緒に劇に出る』と言う事を伝えたら納得してくれた。
テレサ先生が『増々楽しみが増えましたね』と言ってくれたのも大きいだろうけどな。

そのテレサ先生は学園長に用事があったらしいのだが、クローゼが多忙だと言う事を伝えると、『出来れば挨拶をしておきたかった。でないと暫く
は』……と言っていたから、ダルモア市長の提案を受け入れる心算なのだろうな。
クローゼも其れに気付いたらしく言葉を詰まらせている……子供達の前で言える事ではないからな。



「……ねぇ皆、特別に劇の衣装を見せてあげようか?」

「「「「えぇ!?」」」」



だが、ナイスだヨシュア!凄くナイスだ!!
子供達を此処から引き剥がせば、テレサ先生もクローゼに必要な事を伝えられるだろうからね。



「僕達は、講堂の控室に行ってきます。後で迎えに来てください。」



で、子供達を連れて控室に……本当に、こう言う時でも頼りになるなヨシュアは。



「せ、先生……」

「えぇ……市長のお誘いを受ける決心がつきました。
 今日の学園祭が終わったら、王都グランセルへの引っ越しの準備を始めようと思います。」



予想通り、か。……予想通りとは言え、クローゼの胸中は複雑だろうな。
『今は何も気にせず、目の前のお芝居だけに集中する事』と言われたクローゼは『増々頑張らないといけませんね』と返していた……本当は泣き
たいだろうに、テレサ先生を心配させまいと笑顔でとは、強い子だな。



「すみません私……フェンシング部の出店に行かなかくちゃ……」

「……いいよ?行ってらしゃい。」



……何だろう、今物凄くエステルに美味しい所を取られた気がする。と言うか、クローゼと結ばれた私が言うべきセリフじゃないかな今のは?
まぁ、エステルもほぼ脊髄反射に近い形での反応だったから仕方ないが……クローゼが劇までに気持ちを落ち着けてくれるようにエイドスに祈る
か……
エステルも、少しばかり寂しそうだな。

さてと、気を取り直して学園祭を回ってるのだが……



「おや……エステルさん?」



誰かがエステルの名を……声がした方を見てみると――



「「アルバ教授?」」


翡翠の塔と琥珀の塔で出会ったアルバ教授が居た。


「おやおや、アインスさんの声も一緒に聞こえるとは、そんなに驚きましたか?
 ですが、私の方も驚きました。まさか君がこの学園の生徒さんだったとは。」

「違うのよ、此れは仕事で……教授もこんな所で何を――って聞かなくても良いか。」

「そんな事言わずに聞いて下さいよ。
 実はこのルーアン地方には四輪の塔の一つである『紺碧の塔』がありましてね?その調査に来たのですが、矢張り塔の謎は解けなくてですね。
 そこで、何か資料がないかと学園に来てみた訳です。そしたらぐーぜん学園祭ですよ。此れはラッキーです。」



相変わらず熱心だな……時に、その調査とやらは、ちゃんと遊撃士を護衛として雇ったのだろうな?翡翠の塔と琥珀の塔の事を考えると、紺碧の
塔もまた魔獣の巣窟と化している筈だからな。



「教授、アインスが『ちゃんと遊撃士を護衛として雇ったのだろうな?』だってさ。其れは、私も思ったけど。」

「エステルさん、アインスさん……私の様な貧乏考古学者には、遊撃士を護衛に雇う事すら難しいんですよ。其れにミラを使ってしまったら、研究に
 必要な資金はおろか、食事をする事すら難しくなってしまうのですよ。」

「「バッカモーン!!」」


はい、本日二度目のユニゾン。



「あのねぇ、教授!確かにお金が無いのは分かるけど、其れでもギルドに掛け合ってみるのは大事だと思うわよ?」


――シュン!


「そうだぞ教授。
 特に今回は、私達がルーアンに居たのだからな……事によったら私達を護衛として雇う事だって出来たかもしれないんだからね?準遊撃士な
 らば、正遊撃士を護衛として雇うよりも遥かに格安で雇えるからな。」


――シュン!


「それに、魔獣に襲われて人生のゲームオーバーになっちゃったら其れこそ全然意味ないでしょ?研究してるんなら、生きてやり遂げなきゃダメ
 なんじゃないの?」



からの久々のマインドシャッフルだ。



「いやはや、こうも目まぐるしく人格交代をされると中々どうして……ですが、確かにお二人の言う通りですね――考古学に人生を懸け、歴史の謎
 を解く為には命も惜しくはないと思っていましたが、確かに死んでしまっては元も子もありませんか。
 では、次に調査に行く時には充分にミラを貯めて、せめて一人でも遊撃士を雇えるようにしておきましょう。
 おや、そう言えば……あの黒髪の男の子は、今日は一緒じゃないんですか?」

「……ヨシュアだって忙しいのよ。四六時中アタシの隣に居る訳ないでしょ?って言うか、アタシが一人で居たらオカシイ?」

「いえ、そう言う訳では……ただ、ロレントの時もボースの時もいつも二人一緒でしたし……」



で、教授がヨシュアが居ない事に気付いたか……まぁ、確かにエステルとヨシュアはコンビと言うイメージが有るだろうな教授からしたら。特に戦闘
に関しては、エステルとヨシュア以上に阿吽の呼吸で連携が出来る奴は居ないだろうからね。
其処から色々話をしたのだが、まさか教授から『君とヨシュア君が恋人になって』なんて事を言われるとは思わなかった――その先を言う前に、エ
ステルが盛大に飲んでいたジュースを噴き出して、教授に毒霧噴射をかましてしまったがな。
教授は婚姻云々を言ってたが……独り者には言われたくないな。
だがまぁ、エステルの気持ちも晴れたみたいだし、教授と出会ったのはある意味で幸運だったかも知れないね――相変わらず、胡散臭さだけはど
うにも拭えない奴だったがな。


そして、丁度『演劇の出演者は準備を始めて下さい』のアナウンスが入ったので、私達は講堂の控室に移動して準備――一世一代の演技をしな
くてはだな?頑張れよエステル。

尚、控室で顔を合わせた際、クローゼは何時もの様子に戻っていた……吹っ切れた訳ではないだろうが、開き直ったと言う所かも知れないな。




そしてジルのナレーションと共に舞台の幕が上がったのだが……先ずは仕方ないとは言え、デニスとカンノの演技は観客の失笑を買う事になって
しまったな?男女逆転劇ともなれば、ある意味でお約束だ。
だが、其れもヨシュア扮するセシリア姫の演技が始まった途端に失笑は収まり、観客は皆ヨシュアに釘付けになってしまったみたいだね?……今
のヨシュアは、いっそ女性より女性らしいと言えるかもしれないからな。


次は私達の番なのだが……クローゼは、かなり緊張してるみたいだな?



「クローゼ!」

「大丈夫だよクローゼ。君なら出来る!自信を持って!!」

「は、はい!」

「ヨシュアってば、そんな姿でカッコつけても締まらないわよ?」

「……クローゼ。貴女なら大丈夫よ。自信を持ってちょうだいな♡」

「よ、ヨシュアってば…………その格好でかわいくされたらシャレにならないわよ?」

「一体如何しろと?」



マッタクだな。
だが、此れにクローゼが笑いを堪えきれず吹き出してしまい、完全に緊張は解れたみたいだ――そう言う意味では、ヨシュアはとっても良い仕事
をしてくれたと言えるな。



「行くよ、オスカー!!」

「はい、ユリウス!!」



ヨシュアが最高の演技を見せてくれたのだから、今度は私達の番だな。
そうだな、後半のオスカーとユリウスの決闘シーンでは、アーツを利用して剣がぶつかった時の火花を演出してやるとするか。そちらの方が剣劇
の迫力も出るだろうからね。

其れにしても、エステルもクローゼも男役が中々に嵌っているな?――もしも主の居た世界に二人が居たら、宝塚の男役のスターになっていたか
も知れないな。








――――――








Side:???


『白き花のマドリガル』……貴族制度が残っていた頃の王都を舞台にした、有名な古典劇だが、まさかそれを『男女の配役を逆転する』と言う方法
でやるとは予想外だったな?

あぁ、本当に予想外だった……まさかアイツが姫の役を演じるとは思わなかったからな――しかも、他の男共とは違い、マッタク持って違和感なく
姫役を演じるとは……そして、其れに少しばかり見入ってしまった自分が居るのがまた何ともな。

だが、こんな事になるのならば導力カメラを持って来るべきだったか?姫姿のアイツを写真に収め、レンに見せてやると言うのも一興だったろうか
らな……レンはアイツに懐いていたからどんな反応をするのか楽しみではある。

其れは兎も角、次に舞台に上がったのは姫君と剣聖の娘か……演技の腕前は如何程か、楽しませて貰うとしよう。









 To Be Continued… 





キャラクター設定