Side:アインス


学園祭を翌日に控えた放課後、エステルが深層心理に籠った事で、クローゼとの一時を過ごす事になりましたとさ――まぁ、私としては特になにも
問題はないのだけれどね。



「アインスさん……」

「クローゼ……取り敢えず、ジルを迎えに行く前に手伝える事を手伝ってしまおうか?明日の本番に向けてラストスパートと言う所もあるだろうと思
 うからね。」

「はい……行きましょう。」



先ずは準備の手伝いから始めるとしよう。クローゼの気持ちを聞くのは其れからだな。……十年前のクローゼの思いが一時のモノではないみたい
だから、其れなりの雰囲気は必要だと思うからね。



「あら?」

「如何した、クローゼ?」

「あの、あれ…………」




「ねーねー、これどこにはこべばいーの?にわのまんなか?わかった!!」




クローゼが指さした先はレヴィが居たんだが……いや、何をやってるんだお前は?手伝っていると言うのは分かるんだが、お前が持ってる其れは
屋台の為のテントの骨組みだよね、鉄製の?
大人数人で運ぶ物を、一人で、其れも片手に一つづつ持って、しかも持ち上げながら運ぶなって……幾ら力のマテリアルとは言っても、馬鹿力に
も程があるだろうに……



「あ、口で噛み付いて三つめを……」

「……見なかった事にしよう。」

「……其れが良いかも知れませんね。」



砕け得ぬ闇事件の時よりもさらにパワーアップしてないかあの子?……元々凄かったパワーが更に強くなる必要がある程に、エルトリアの復興と
言うのは大変なのかもしれないな。
今のレヴィなら、冗談抜きでナハトの暴走体を持ち上げてぶん投げる事位出来るかも知れないね。











夜天宿した太陽の娘 軌跡55
学園祭に向かってのラストスパート!』









こうして始まった私とクローゼの学園祭の手伝い開始だ。
先ずはクラブハウス二階の資料室で会ったロジックに頼まれて『ルーアン経済史』を探す事に――私はどんなモノなのか知らなかったが、クローゼ
が知っていたので、上巻、中巻、下巻全てを見つける事が出来た。
本館の職員室は兎も角、男子ロッカーや男子寮にも普通に入って行く事が出来るクローゼにちょっと驚きだ……次期女王であるクローゼは、余程
の事でなければ怯まない度胸があるのだろうね。

三冊全てをロジックに渡した次は、用務員のパークスを手伝って、飾り付けが出来ていない場所の飾りつけだ。
結構高い場所に飾り付けをするので、普通ならば大変だが……

「この場所でいいのか?」

「あぁ、バッチリだ。
 それにしても空を飛ぶとは、新しいアーツか何かかな?」



私は飛ぶ事が出来るから問題ない。
飛べる事について突っ込まれても、風属性のアーツを利用してとか何とか言って説明すれば、取り敢えず其れらしく誤魔化せるから問題ないから
ね……本当は魔法なのだがな。



「もう、人前でいきなり飛んだら驚かせちゃいますよ?」

「分かってはいるんだが、こう言う場面だとついね。
 歩けなかった我が主に変わって高いところにあるモノを取る事も多かったのだが、時には私が背伸びをしても届かない事があってね……その時
 は魔法で飛んで取っていたから、少し癖でな。」

「エステルさんに憑依する前のアインスさんって、身長はどれくらいだったんです?」

「170cm……この世界だと、170リジュだな。
 女性としては大きい方だったと思うよ?其れに加えて戦闘装備や騎士服は靴の踵が高かったから、実際の身長よりも更に高く見えただろう。」

「其れは、確かに女性としては背が高い方ですね。私よりも10リジュ以上も高いんですね……でも、背の高い女性ってカッコいいので憧れます。」



ま、私の場合はそう作られた訳だからね。
今にして思えば完全なほどのモデル体型だからな……本気で私を作った奴は一体何を考えて私をあんな容姿にしたし。管制人格と言うのならば
もっとこう、シンプルな容姿でも良かったと思うのだがな?

……って、守護騎士にガチムチのザフィーラと、幼女なヴィータを設定した私が言う事でもないな。


その後一度クラブハウスに戻ったんだが、一階の食堂にはヨシュア達の姿が無かったので、何処に行ったのかと思い、二階の生徒会室の前まで
来たんだが……中では何やらヨシュアとハンスが話しているみたいだな?
如何やらハンスがヨシュアにエステルの事をどう思ってるのか聞いてるみたいだが……此れは此れ以上聞かない方が良いだろうな。ヨシュアがエ
ステルに好意を持ってるのは間違いないし、エステルもジルにからかわれた事で意識し始めたみたいだが、一体どちらが先に相手に己の思いを
伝えるのか……少し楽しみではあるね。



「エステルさんとヨシュアさん、上手く行くといいですね。」

「其れは同感だよクローゼ。」

その後も屋台の設営やら何やらを手伝い、その最中に『お好み焼き』の事を話した事で其れを実演する事になり、クレープ屋の屋台に急遽追加メ
ニューとして『豚玉焼き』が追加される事になったのは、ある意味で良い誤算だったな。
そんな感じで手伝いをしていた私達は、学園の裏手にある旧校舎へとやって来ていた――と言うのも、ここでサボっていた生徒が、『魔獣が出た』
と言ったからだ。
学園祭で使う場所ではないが、だからと言って学園の敷地内に魔獣が居ると言うのは見過ごせないので、クローゼと共に旧校舎内の魔獣を一掃
しに来た訳だ。

「照明もない薄暗い旧校舎……成程、魔獣が出そうなシチュエーションではあるな。」

「何処から出て来るか分かりませんから警戒していきましょう。」



私は棒術具を、クローゼはレイピアを片手に旧校舎内を進んで行く……いつ出るか分からないドキドキ感はまるでお化け屋敷だな。



「「「「「「「「「「「「キシャー!!」」」」」」」」」」」」


「アインスさん!」

「来たか……!」

蜘蛛型の魔獣、ラップスパイダーが十二匹か。
遊撃士にとっては取るに足らない雑魚だが、一般人には十分脅威となる魔獣だな……此れは確実に駆除せねばなるまい。私が前衛で行くから、
お前はアーツで支援してくれクローゼ。



「分かりました。」

「私達に襲い掛かったのが貴様等の運の尽きだ……精々祈れゴミムシが。」

そう言うと同時に、先ずは一体を素手でぶん殴ってセピスに変え、そのまま棒術具を振り下ろしてもう一体を粉砕!……脆いな。



「はぁぁ……全て凍てつけ!」



更に其処にクローゼの強烈な水属性のアーツが炸裂し、ラップスパイダー達は哀れ氷の彫像になってしまった……同じアーツならば私が使った方
が与えるダメージは大きいだろうが、私が使うアーツは追加効果が発生しないから凍らせる事は出来ないか。
だが、凍らせただけでまだ倒した訳ではないのでトドメと行こうか?どうせだからスタイリッシュに行こうじゃないか。

「クローゼ、凍り付いたラップスパイダーに向かって、カッコ良く指を鳴らしてくれないか?」

「カッコ良くって……えぇと、こんな感じでしょうか?」



私に言われたクローゼは、右腕を頭上に持って行くと、其処からゆっくりと右腕を伸ばし、しなやかな動きで指を鳴らす――と同時に、私がラップス
パイダーの氷像にゴッドハンド・クラッシャーを叩き込んで氷ごとラップスパイダーを粉砕!玉砕!!大喝采!!!ってな。
少しばかり違うかもしれないが、FFのシヴァのダイヤモンドダストを再現出来たね。

「雑魚虫が、目障りだ。」

「ふふ、これにて終了です♪」



って、戦闘終了後に、レイピアを顔の前で構えてウィンクするクローゼが可愛すぎるんですけど……と言うかそのウィンクはいっそ必殺技になるの
ではなかろうか?『王女の眼差し』って感じで。
効果はアレだな、魔獣が相手の場合は回避不能&解除不能の混乱で、人が相手の場合――特に男性が相手の場合は回避不能で魅了されてク
ローゼの下僕と化すって感じだな。うん、普通に怖いな。
だがまぁ、此れで魔獣は全て倒したから、後はこの場を閉鎖してくれるように教師に頼むだけか。



「ですね。
 ですがその前に、ここの屋上に一緒に来てくれませんかアインスさん?」

「屋上に?別に構わないが……」

一体なんだと言うのだ?クローゼが、何の意味もなく屋上に行くとは思えないからな……で、屋上です。――一体なんだと言うのだクローゼよ?



「アインスさん……十年前の事を覚えていますか?私が貴女の事を好きだと言ったあの時の事を。」

「あぁ、覚えているよ。」

如何やら、此処でクローゼは十年前の事を清算する心算みたいだな……ならば、私も其れには応えなくてはだね。――それで、十年経ってお前
の思いはどうなった?



「私の思いは変わりません……私は、貴女を慕っていますアインスさん……私は、貴女の事が好きです。」

「一時の気の迷いではなく、お前の思いは本物だった訳か……ならば、私は其れに応える義務がある訳だが――私もお前の事が好きだよクロー
 ゼ。
 手紙のやり取りをしている内にお前の事が愛おしく思うようになっていったんだ……私で良いのならば、よろしく頼む。」

「アインスさんが良いんです。」

「そうか……」

十年越しの思いは今此処に成就したってね。
私の胸に飛び込んで来たクローゼを抱きしめ、暫くハグしてたんだが……体格はそれほど変わらないと思ってたんだが、クローゼの方がエステル
よりも胸があるみたいだな。
エステルが大体83のCだとしたら、クローゼは最低でも86のDは下らないだろうね……クローゼは着やせするタイプなのかもしれないな。なんて
事を考えてしまってる辺り、私もクローゼに抱き着かれて判断力が低下してるって事なんだろうな。

もう少しだけハグしていたいが、何時までもこうしてる訳には行かないから、名残惜しいがそろそろお終いだな。



「ふふ、伝える事が出来てよかったです。
 ルーアンでのお仕事が終わったら、また暫く会えなくなりますから。」

「そうだな。
 学園祭が終われば此処に来ることもなくなるだろう……唯一の心残りがあるとすれば、一度この学校の制服を着てみたかったな。」

「着てみたかったんですか?」

「中々良いデザインだし、エステルのファッションセンスだと中々女の子らしい服は着れなくてな……精々パジャマ位だよ。」

「……なら着てみますか?私のスペアになりますけど……」

「良いのか?其れじゃあ是非。」

なんとまぁ、学園の制服を着る事が出来るとは、言ってみるモノだな。
早速女子寮に移動して、クローゼの制服のスペアを借りて着てみた……ほぼ同じ体格だから普通に着る事が出来たが、ヒップとウェストはピッタリ
だったのに対し、バストは少し余るな……まぁ、こればかりは仕方ないか。――逆に本来の私の身体だったらパッツンパッツンだったろうな。

「おかしく無いかな?」

「いえ、とてもお似合いです。」

「そうか、なら良かった。」

さて、着替えた後改めて学園を回ってみたが、私達の手伝いが必要なところはないみたいだな。途中でレヴィを回収し、学園長室まで来た所でエ
ステルとチェンジ!
奥底から戻って来い!!



――シュン!



「あれ、もう良いの?」

「エステルさん……はい、お陰様で。」

「ふ~ん?そっか、上手く行ったんだ――ってちょっと待って、なんで制服になってるの!?」

「アインスさんが着てみたいと仰ったので、私のスペアをお貸ししたんです。よくお似合いですよ、エステルさん。」

「そうかな?普段スカートなんて穿かないから、なんだかちょっと変な気分だわ。」



ホントにエステルはスカート穿かないからな。
出会って十年、エステルがスカートを穿いた事なんて、シェラザードの着せ替え人形にされた時くらいじゃないのか?天真爛漫な元気娘は結構だ
が、もう少しオシャレには気を使った方が良い。
……学園に居る間に、そっち方面をジルとクローゼに指導して貰うんだったな。

取り敢えず学園長室に入ろうか?



「失礼しまーす。」

「あ、すみません……まだお話し中でしたか?」



中に入ると、学園長とジルが何か話していたようだな?……まだ話の途中だと言うのなら、私達は外で待ってるが?



「『話の途中なら外で待ってる』ってアインスが言ってるけど……」

「いやいや、丁度終わった所だよ。実はな……」

「ああ、学園長!喋っちゃダメですってば!明日の楽しみが減っちゃうじゃないですか!」

「あしたのたのしみ~~?」

「な、なんなの?あからさまに怪しいわね?」

「ジルったら、また何か企んでいるの?」

「ふっふっふ……其れは明日のお楽しみよん。
 って言うかエステル如何したのその制服姿は?……すっごく可愛いじゃない!!」

「アインスが着てみたいって言ったらしくて、クローゼがスペア貸してくれたんだって……う~~、普段スカートなんて穿かないから落ち着かないな
 ぁ。ホントに似合ってる?」

「似合ってるって!
 特に、ちらりと覗く健康的な太ももには、私も悩殺されちゃいそうよ。」



ジル、お前は一体何を言ってるんだ?……と言いたい所だが、お前は良く分かっているとも言えるな。
エステルの魅力の一つは、遊撃士になるために鍛えた、此の健康的な肉体だからね?遊撃士に必要な体力を備え、必要な筋肉がついているエ
ステルの身体の中でも、適度に筋肉が付いた引き締まった太ももはアピールポイントでもあるからな。



《アインスも、何言ってるの!?》

《適度に筋肉の付いた引き締まった太ももは魅力的だぞ?今のエステルの太ももは、将に勝るとも劣らないレベルになっているからな。》

《なんか微妙に嬉しくないんですけど!?》

《褒めてるんだがなぁ……?》

序に、制服姿のエステルを見てヨシュアが少しでも動揺してくれたら良いかなと思うんだが……此ればかりは、実際にヨシュアが見るまでは分から
ないか。
少しばかり話が逸れたが、ジルに明日の景気付けを兼ねて食堂で夕食会をする事を伝えたら、迷うことなくOKしてくれた。『パーッとやりましょ、パ
ーっと』と言うのが実にジルらしいな。
勿論、学園長から『明日に差し障りが無いように』と釘は刺されたけどね。

そんな訳でクラブハウスの食堂だ。



「ヤッホー、連れて来たわよ♪」

「ふ~、みんなお疲れ~。」

「お疲れ、ジルさん。」

「よう、待ってたぜ。早速料理を注文するか?」

「そうね~~、もうおなかペコペコよ~~……ってちょっと待てい!
 ハンスもヨシュア君も、私達って言うかエステルを見て何も思わない訳!?」

「え?」

「あれ?制服に着替えてる?」



オイコラ、まず最初に其処に気付け男共。特にヨシュア、お前は真っ先に気付かなければならないだろうに……少しばかり、観察眼が鈍ってるんじ
ゃないか?



「ヨシュア、私も思ったけどアインスが『お前は真っ先に気付かなければならないだろう』だってさ。」

「ご、ゴメン。
 あまりにも自然だったから、ちょっと気付けなかったんだ……良く似合ってると思うよ、エステル。」



自然だった、ね。
まぁ、其れだけエステルの制服姿は違和感がなかったと言う所か……この姿を見てドギマギしてくれたら面白かったのだが、中々如何して鋼の精
神を持ってるみたいだなヨシュアは。



「其れじゃあ、明日の成功を祈って、今日はパーッと騒ぐわよ!
 エステル、ヨシュア君。明日は頼んだからね?勿論、レヴィちゃんも。」

「うん、任せておいて。」

「精一杯頑張らせてもらうよ。」

「あ~っはっは!ぼくにまかせとけって!どろぶねにのったつもりでいていいぞ!」

「レヴィ、泥船じゃなくて大船。泥船じゃ、すぐに沈没しちゃうわ。」

「あれ、そうだっけ?おおぶね、おおきなふね……タイタニックにのったつもりでいいぞ!!」



ん~~、其れもアウトだね?出向して即沈没するからな其れも。まぁ、レヴィも気合が入ってるってのは分かったから良いがな。
その後は、大いに夕食会を楽しんだ。
夫々が好みのメニューを大皿で注文し、其れを取り分けてな。
エステルが注文したのはクラブハウスサンド、ヨシュアが魚のフライとフライドポテト……いわゆるフィッシュ&チップスだな。
クローゼは魚介のパスタで、ジルはフライドチキンでハンスはピザだったのだが、レヴィがチョイスしたのはまさかの原始肉!……其れは誰もが一
度は憧れるモノだが、なんであるし?
って言うか原始肉は形状的に豚のもも肉ですらないんだよなぁ……果たして一体何の肉なのやらだ。そもそも何処から入荷したのか此れは?
色々疑問は尽きないが、折角だから頂く事にした……肉の味としては牛肉に近かったな。
で、二本目の原始肉をレヴィが豪快に丸齧りしたりと、とても賑やかな夕食会だったが、最後は明日の劇の成功を願って、ソフトドリンクで乾杯。
皆好みのソフトドリンクを持っていたが、エステルが選んだのはコーラ……この世界にもコーラは存在していたんだな。

その後は明日に備えて早めに就寝し……そして、学園祭当日の朝がやって来た。








――――――








Side:???


目的の為とは言え、まったく無関係な人間を巻き込むとは……矢張り奴は外道か。
とは言え、あの孤児院に居た連中を見殺しに出来なかった俺は執行者としては甘いのか、それともまだ俺の中には良心が残っているのか……お
前が今の俺を見たら如何思うのだろうな。
教授が施した一手で、お前は俺の事を忘れてはいないが完全に覚えていると言う状態でもない……だが、相対する日は遠くないだろう。


それでだ、孤児院の連中が無事か気になってマノリア村に立ち寄ったら、如何やらジェニス王立学園の学園祭とやらに行くみたいだな?……俺も
少しばかり興味があったので偶には祭りを楽しむのも良いかも知れん。
執行者とは言え、任務ばかりでは少しばかり肩が凝ってしまうからな。

――まさか、其処で衝撃的な光景を目にするとは夢にも思わなかったがな。











 To Be Continued… 





キャラクター設定