Side:アインス


早速衣装合わせと言う事で、エステルは舞台衣装に着替えたのだが……赤を基調とした舞台衣装は中々に似合ってるじゃないか?ツインテール
を下ろした髪ともマッチしているし、此れならば『長髪の騎士』でも通じるだろうね。
エステルは『騎士』と言う事で鎧でも着るのかと思ってたみたいだが、ジル曰く『甲冑だと演技に支障をきたす』って事で、この衣装になったらしい。
現在の王族親衛隊の制服をアレンジする方向でこの衣装になったらしいのだが……エステルと色違いの青い騎士服を纏ったクローゼの騎士姿は
脳内に永久保存レベルだな。



《確かにクローゼのショートカットは衣装とバッチリ合ってるわね。》

《だろう?
 そして、其れだけではなくクローゼはガチの王族だから、内から溢れる気品さが騎士役にバッチリハマってるんだ……うん、もうマジでクローゼは
 最高だな。
 この姿のクローゼを見ただけで、私のステータスは通常の育成レベルを超えたカンスト状態になるな。》

《アインス、何言ってんのアンタ?頭大丈夫?》



心配しなくとも、私の頭は大丈夫だよエステル……ただ、クローゼの魅力に少しばかりリミットオーバーアクセルシンクロしてしまっただけさ。



「エステルさん、どうかしましたか?」

「え?いや、アインスが『クローゼの衣装はよく似合ってる』って。」

「ふふ、ありがとうございます。エステルさんも、とてもよく似合ってますよ?」

「えへへ、そうかな?……其れじゃあ。」



――シュン!



「私では如何かな?」

「……最高ですアインスさん。
 長い銀髪もですが、人格交代で少し鋭くなった目付きがなんとも言えません……正に『騎士』と言った感じがします。」



人格交代したら、其れは其れで高評価だったみたいだな……まぁ、管制人格であると同時に私は夜天の魔導書の騎士の一人でもあったと言える
から、ある意味ではまり役ではあるか。……どちらかと言うと暗黒騎士だがな。











夜天宿した太陽の娘 軌跡54
学生生活ってのも良いモンだね』









再びエステルと交代して、なぜ騎士服が色違いなのかを聞いたんだが、如何やら役の違いらしい。
クローゼが演じるのは平民の『蒼騎士オスカー』、エステルが演じるのは貴族の『紅騎士ユリウス』……演じる役逆じゃないか此れ?いや、王族で
あるクローゼが平民役、遊撃士とは言え民間人のエステルが貴族と言うのも面白いとは思うが。
……まぁ、ジルもハンスもクローゼがこの国の王女様だとは知らないだろうから、キャスティングは偶然なのだろうがな。
で、蒼が平民、紅が貴族のイメージカラーとの事らしい……蒼には公平、平和、夢と言う意味があり、紅には勝利、派手、自己主張と言う意味があ
るから、イメージカラーとしてはピッタリだな。
因みにレヴィだが、小道具の剣を振り回して遊んでいる……害はないから放置でいいか。



「成程ね~……其れじゃあヨシュアは……」



「二人の騎士の身を案ずる、王家の『白の姫セシリア』だ。――ささ姫、どうぞこちらへ。」

「ちょ、ちょっと待った。……まだ、心の準備が……」



っと、如何やらヨシュアの方も衣装合わせが終わったようだな?
男女の配役逆転=ヨシュアは女装と言う事になるから、ヨシュアの精神的負担はハンパないだろうなぁ……女性が男性らしい服装をしても特に何
も言われなくとも、男性が女性っぽい服装をしたら、下手すればそれだけで通報モノだからね。……志村けん氏のお婆さんの格好は怖い位にハマ
り役だったけれど。

で、ハンスに強制的に連れられる形でヨシュアが現れた訳だが……うん、此れは予想外だった。



「「「………………………」」」



エステルもクローゼもジルも言葉を失ってしまったからな……かく言う私も一瞬言葉を失くしたが――なんだ此の黒髪の超絶美少女は?言われな
かったら女装と分からないぞ此れは?



「頼むから何か言って……このまま放置されるのは、ちょっと辛いモノがある……」

「いやぁ、なんて言うか……ぜんっぜん違和感ないわね!アインスも『言われなかったら女装と分からない』って言ってるし♪」

「びっくりしました。はぁ……すっごく綺麗です……」

「うんうん、自信持っていいぞ。
 事情を知らずにアンタを見たら、俺、ナンパしちゃいそうだもん♡」

「正直な感想ありがとう……全然嬉しくないけど。」

「え~~?ほめられてるのによろこばないのかよしゅあ~?
 僕はとってもにあってるとおもうぞ?……すくなくとも、あのワンコがおなじふくを着たのとくらべればはるかににあってる!とってもかわいい!」



はい、此処でレヴィ参戦……全く純粋な感想なのだろうが、其れだけに残酷だなぁ……悪意が全く無いだけに余計に性質が悪いと言うか。
って言うか、ワンコってザフィーラの事か?……空恐ろしい事を言わないでくれ。ザフィーラみたいなガチムチのマッチョが女装とか、どんな悪夢だ
本気で。

だがまぁ、此れはジルの狙い通りだったらしく、『この配役なら各方面からウケを取れる事間違いなしね』とか言ってたからな……眼鏡が怪しく光っ
てたのが少し怖かったが。
最後はジルの『一致団結して最高の舞台にするわよー!』との掛け声に、全力で返事をしてお終いだ……ヨシュアだけは、静かに泣いていたみた
いだけど、決まってしまったものは仕方あるまい。
お前はお前に与えられた役を全力で演じるしかない……孤児院の子達と、テレサ先生の為にもな。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



この日の夜から、私達は寮に泊まる事になり、私とエステルはクローゼとジルの部屋に泊まる事になったんだが……レヴィは如何した?



「クローゼ、ジルさん、アインスが『レヴィは如何した』って。」

「あの子は、ヨシュア君と一緒に男子寮に行ってもらったわ。
 女子寮はもう一杯で空きがなかったからね……普通なら、女の子を男子寮に入れるのは問題なんだけど、レヴィちゃんはまだまだ子供だからウ
 チの男子の守備範囲外だと思うし、何かあってもその時はレヴィちゃんは自分で何とか出来るでしょ?」

「「確かに。」」



エステルどころか、クローゼも納得の理由だった。そして私も納得した。
レヴィに手を出す様なロリコン野郎はこの学園には居ないだろうし、仮に居たとしてもレヴィならば返り討ちに出来るからな……出会ってから今ま
での僅かな時間でレヴィの本質を見抜いたジルは只者ではないな?
……いや、学園祭の演劇の配役を男女逆転させるなんて発想をする時点で只者ではなかったか。

で、其処からクローゼとジルの仲の良さに付いて聞き、ジルから『呼び捨てにしてくれないかな』との提案を受けた……『さん付けはむず痒い』との
事だったが、其れを断る理由はないので、エステルは其れを承諾した。
その後、クローゼとジルがちょっとした軽口のやり取りをしてたが……エステルには其れがうらやましかったみたいだな。
確かにエステルにも、ロレントに仲のいい友達はいるが、精々お互いの家に泊まる程度だったからな……クローゼとジルのように気の合う友達と
一緒に暮らせたら良いなと思うのは、当然と言えば当然なのかもしれないな。

尤も、ジルからしたら、ヨシュアと言う極上イケメンと旅してるエステルが女所帯を羨ましがると言うのが烏滸がましい事だったみたいだがな……そ
う言われてもマッタク自覚が無い辺り、何処まで鈍感なんだかなエステルは。

そしてジルは其処を起点にからかって来たが、クローゼによって抑え込まれたか……クローゼの一言でジルが大人しくなったのを見ると、クローゼ
とジルの力関係が良く分かったな。



「そんな、まさかね……ヨシュアが……だなんて……」



だが、ジルにからかわれた事で少しばかり意識したかなこの鈍感娘は?
そして、寮に泊まる間はクローゼのパジャマを借りる事になった……パジャマが入った荷物は、ギルドに置いて来てしまったからね。……クローゼ
のパジャマ、一体どんなモノなのだろうな。



「クローゼ、此のパジャマって……」

「導力戦隊オーブマンのキャラパジャマです。」



まさかのキャラパジャマにビックリだったがな。
王女と言う立場ではあるが、学生として市民生活を送る事で色々と新たな何かを開発したのかもしれないな……と言うか、それ以上に此の世界に
正義のヒーローが存在してる事に驚いたわ。
しかも、オーブレッドは火属性、オーブブルーは水属性、オーブグリーンは風属性、オーブイエローは空属性、オーブブラックは時属性と、夫々の色
がクォーツと一致してると言うのがまた何ともな……因みにクローゼの推しはオーブブラックとの事だが、分かる。
ブラックは、ちょっとダークなイメージがあってかっこいいからね。


そんなこんなで私達の学園生活が始まった。
学園で生活する以上、学園祭の手伝いだけと言う訳にも行かないので、学園の授業にもちゃんと参加した――流石にレヴィに授業を受けろと言う
のは無理なので、授業中は学園周辺の見回りをお願いしたがな。
……その結果、もの凄い数のセピスを得る事になったわけだけどね。ドレだけ学園周辺の魔獣狩ったんだあの子は?

昼は他愛のない話をしながらランチを楽しみ、放課後は厳しい稽古が夜まで続く……中々のハードワークだが、エステルもヨシュアも其れがマッタ
ク苦になっていない辺り、此の状況を楽しんでいるのだろうな。――勿論レヴィもな。
そのレヴィだが、劇の稽古に毎回毎回付いて来た事で、なんと役を貰う事が出来た――役所は平民の子供で、決闘に向かうオスカーにエールを
送ると言う割と重要な役だ。
セリフは一つだけなので、まぁ大丈夫だろう。
そんな日々を過ごしながら、遂に学園祭前日。



「我が友よ、こうなれば是非もない……我々は、何時か雌雄を決する運命にあったのだ。
 抜け、互いに背負うモノの運命の為に。何よりも、愛しき姫の為に!」

「運命とは、自らの手で切り拓くもの……背負うべき立場も、姫の微笑も、今は遠い……」

「臆したかオスカー!」

「だが、この身を駆け抜ける狂おしいまでの熱情は何だ?自分もまた、本気になった君と戦いたくて仕方ないらしい……
 革命と言う名の猛き嵐が全てを呑み込むその前に……剣を持って運命を決するべし!」

「おお、我ら二人の魂、空の女神もご照覧あれ!いざ、尋常に勝負!」

「応!」



……はい、カット。お疲れ様。



「やったー!ついに一回も間違わずにここのシーンを乗り切ったわ!」

「ふふ、迫真の演技でしたよ?」

「クローゼには全然敵わないけどね。
 って言うか、アインスが『噛め、噛んでしまえ』って呪いをかけてくるからプレッシャーがハンパなかったわ。」

「つまり、エステルさんはその呪いに打ち勝ったと言う事ですね?」

「あ~~……そう言う事になる、のか。」



そう言う事だ。
と言うかお前の神経は樹齢三千年を超える樹木の幹よりもぶっといから、私の呪い程度でどうにかなるとは思えなかったからな……適度なプレッ
シャーがある方がお前は伸びるのさ。



《其れって褒めてる?》

《褒めてるさ。
 過ぎたプレッシャーは重荷なだけだが、適度なプレッシャーは適度な緊張を生んで物事により真剣に取り組む事が出来るようになるからね。》

最後の稽古で上手く行ったんだ、本番でも大丈夫だと太鼓判を捺してやる。私がセリフを教えてやることもなさそうだからね。
さて、今日までの稽古を見ると、演技ではクローゼが上、決闘シーンでの立ち回りはエステルの方が上と言う感じか――尤も、エステルは僅かな
期間でセリフを覚えたし、クローゼもレイピアを使った剣術を学んだだけあって基礎は確りしてたから、五分五分か?……と言うか、何を比較しよう
としてるんだろうな私は。
其れよりもエステル『その気になれば、いつでも遊撃士資格を取れると思うよ?』って、相手は王女様だと言う事を忘れるなよ?……まぁ、確かに
クローゼの剣の腕とアーツの才能が有れば遊撃士資格を取れるだけの実力はあるとは思うけれどね。



「いよいよ、明日は本番ですね……テレサ先生とあの子達、楽しんでくれるでしょうか……?」

「楽しんでくれるかってのを心配するんじゃなくて、楽しませようって思った方が良いんじゃない?『不安に思ってもいい結果は出ない。不安に思う
 暇があるなら、成功させようと思った方が良い結果が生まれる』……父さんがそう言ってた。」

「カシウスさんが……深い言葉ですね。
 ですが確かに『楽しんでくれるか?』と不安に思うよりも、『絶対に楽しませるんだ』と思ってやった方が良い結果が生まれる気がします。」

「その意気よクローゼ。
 明日の劇、頑張って良いモノにしようね!」

「はい……!」



カシウスの言葉を引用する形でクローゼの不安を払拭するとは中々やるじゃないかエステル?……尤も、エステルの場合は狙ってやったんじゃな
くて至極普通に、極めてナチュラルにこう言う事が出来る点が凄い訳だがな。
気が付けば周囲の人間を元気付け、そして何時の間にか集団の中心人物になっている……生まれながらの太陽の子なんだな、エステルは。



「それにしても、一番の功労者はヨシュアさんじゃないでしょうか?あんなに演技が巧いだなんて。」

「……う、うん。乗り気じゃなかったくせに、見事なまでのお姫様っぷりよね。」



ホントにそれな。
発声といい、間の取り方といい、プロの役者も顔負けだぞアレは?……尤も、其れもまたヨシュアが生きる為に必要な術として身に付けたものなの
かも知れないがな。
で、エステルとクローゼの会話は続き、エステルからヨシュアの事を聞かされたクローゼは、『役が逆だった方が良かったかもしれません』と言った
か……ラストシーンの事を考えると確かにな。
だが、私はこのままでよかったと思うぞ?もしも逆だったら、稽古中に何度エステルがヨシュアに反射的に『闘魂注入』したか分からないからね。
エステルはエステルで『ヨシュアは手の掛かる妹くらいにしかアタシを見てないんだから……』とか言ってたが……うん、其れは完全な間違いだか
らな?……絶対に私からは教えてやらないけど。

その後、ヨシュアとハンスがやってきて、ハンスが『寮に泊まるのは今日が最後になるから一緒に夕食でもと思ってな』と言って来たので、其れに
はエステルとクローゼも大賛成だ。勿論私もな。
ジルは学園長室に居るとの事だったので、エステルとクローゼで迎えに行き、ヨシュアとハンスには先に席を取っておいて貰う事にした。
『其れじゃあ行こうか?』と言ったヨシュアに対して、『合点だ、大将。』と返したハンスには少し吹き出しそうになったがな……マッタク、随分と仲良
くなったものだ。……こう言っては何だが、ヨシュアに同年代の同性の友人が出来たのは初めてな気がするな。

其れでだ、着替えて学園長室に……何だが、如何にもまだ最後の準備で忙しいところもあるみたいだから、そちらを手伝ってから学園長室に向か
うとしないか?



「クローゼ、アインスが『まだ準備で忙しいところもあるみたいだから、そっちを手伝ってから学園長室に行かないか。』って言ってるんだけど如何し
 ようか?」

「そうですね……私達に出来る事ならば手伝いましょう。
 私達の劇の稽古は終わりましたけど、学園祭はまだまだ他にもやる事は沢山ありますから。」

「其れじゃあ決まりね♪――アインス、後よろしく~~♪上手くやりなさいよ~~♪」



――シュン!



「え?あ、おいエステル!?」

「アインスさん?」

「あぁ、私だ……エステルめ、強制的に私に変わっただけじゃなく、深層意識の奥底に引っ込んだな?……深層意識の奥底に引っ込むと、感覚の
 共有もないから、私とクローゼの会話も認知出来ん……如何して人の事となるとこうも気が回るんだろうなアイツは?自分の事となるとアレなの
 にな……」

「アインスさん、エステルさんはもしかして……」



もしかしなくても気付いてない。
ジルにからかわれて多少意識したみたいだが、それでも自分の気持ちに気付いたとは言い難いさ……ドンだけ鈍感で朴念仁なんだかな。某無限
の成層圏の主人公と良い勝負――ではないな。流石にあの鈍感朴念仁には負けるか。

それはさておき、学園祭の手伝いは私とクローゼで行う事になったわけだが……まぁ、よろしく頼むよクローゼ。



「は、はい///



手を取ったらクローゼは頬を染めてしまった……此れは、十年前のアレを清算する時が来たのかもしれないな?――十年たった今でも、クローゼ
の気持ちが変わらなかったのならば、私は其れに応えねばだな。











 To Be Continued… 





キャラクター設定