Side:アインス


私達の話、と言うかギルバートの話を聞いてクラムがマノリア村を飛び出して行ってしまい、其れを追いかけている最中なのだが、そろそろルーア
ンに着くと言うのにまだ追い付かないとは……クラム位の歳の子は『本気の怒り』を出す事が出来ると聞いた事があるが、その怒りがガソリンにな
って、一時的に身体能力が限界突破してるのかも知れないな。



「ねーねーえすてる~?やっぱりクロハネとこーたいして、空飛んでったほうがはやかったんじゃないの~?
 クロハネがくろーぜをかかえて、僕がよしゅあもち上げて飛んでけばいーじゃん!」

「行き成り空から人が下りて来たらルーアンの人が驚くでしょ?ロレントだったら皆アインスの非常識な能力を知ってるから未だしも。
 それと、レヴィがヨシュアを持ち上げて飛んでるってのは、絵面的に可成りどうかと思うわ。」

「僕も自分よりもずっと年下の女の子に持ち上げられるのは遠慮したい……」

「でしたら、レヴィちゃんの武器を魔法使いの箒みたいに使って飛ぶと言うのは如何でしょう?其れならばまだ幾らかマシだとは思うんですけど。」

「其れは其れで微妙な気が……って、だからそもそも飛んで行かないって!」



エステルがクローゼに突っ込みを入れるとは、何ともレアな光景な気がするな。
だがまぁ、いっその事本気で飛んでいくか?連中のアジトの天井ぶち破って『空からこんにちわ!』って言うのも可成りインパクトがあると思うから
な……倉庫の修理代はギルドに持ってもらって。



《アインス、ジャンさんに迷惑かけない!》

《そうだな、壊してしまった場所は、火属性のアーツを使って溶接して自分で直した方が良いな。》

《そう言う意味じゃないって!》

《そう言えば、時属性のアーツで時間を操る系のモノってないのか?時間を巻き戻せるアーツがあれば、壊した場所も壊す前に戻す事が出来ると
 思うんだが……》

《いや、知らないわよ!》



そうか残念だ。時に干渉出来るアーツがあるのならば、其れで時を止めて、時を止めてる間に魔獣をフルボッコにして『そして時は動き出す』をした
かったのだけどな。
……なんて事を言ってる間にルーアンに到着。
道中でクラムに追い付けなかったと言う事は、あの子はもう連中のアジトに向かった可能性が高い……急がないとな。









夜天宿した太陽の娘 軌跡52
レイヴンのアジトでの大乱闘!』









全速力で連中のアジトである倉庫に到着したんだが、遅かったか!
クラムの奴は既に連中に突撃してしまったみたいだな……だが、多勢に無勢な上に子供の力では大人に勝つのは略不可能――不意打ちで男性
限定の即死技である股間蹴りでも使えば話は別だがな。
だが、クラムは簡単にリーダー格の男に投げ捨てられてしまったみたいだ……殴っていないだけ手加減はしたのかも知れないがな。



「止めて下さい!」

「お、お前達は!」



クローゼの声で私達に気付いたか……この登場の仕方、まるで正義のヒーローだな。
そして今のクローゼは相当に怒っているな?……確かにクラムの方から仕掛けた事かもしれないが、大の大人が其れも複数でたった一人の子供
に暴力を振るうと言うのは如何なモノかと思うからな。



「子ども相手に、遊び半分で暴力を振るうなんて……最低です。恥ずかしくないんですか!?」

「そーだそーだ!ぼーりょくはいけないんだぞ!僕もぼーりょくはだいっきらいだ~~!!
 おーさまが言ってたぞ!『ぼーりょくとは、てきたいの意思のないモノ、あるいは己よりもあっとうてきに弱いモノにたいしてつかわれる誇りのない
 力だ』って!」



王よ、中々に深い言葉だな其れは。……同時に若干耳が痛い。
自分では如何にも出来なかったとは言え、圧倒的な暴力でもって数多の世界を滅ぼして来たからな私は……アレだけの事をやったら、其れは闇
の書とも呼ばれる訳だな。

クローゼとレヴィの言葉に緑髪は逆上したが、赤毛は『舐めた口利き過ぎじゃない?』と煽って来て、リーダー格のオールバックは『遊撃士が居た
ところでこの数相手に勝てると思うのか?』と言って来たが……私が表に出れば数の差など問題ではない。
其れに、生憎とクローゼは只の女の子ではないのでね。



「仕方ありませんね……本当は使いたくなかったのですが、剣は人を護る為に揮うモノだと教わりました。
 今が、その時だと思います。」



ってちょっと待とうかクローゼ?お前今そのレイピアを一体何処から取り出した?私のみ間違いじゃなければ制服の襟から背中に手を突っ込んで
取り出さなかったか!?



「クローゼ、アインスが『そのレイピアどっから取り出した』って……アタシも其れは思ったけど。」

「背中から取り出したように見えたけど……」

「ふふ、其れは女の子の秘密です♪」

「そっかー、ひみつじゃしかたないなー!」



レヴィ!其れで納得するのかお前は!いや、納得しちゃうのかアホの子だから!!……護身用のレイピアだから刃は潰してあって殺傷力はない
が、それでも全長80cmはあると思われるモノをどうやって背中に収納してたのか謎だぞ?
まさかクローゼの背中は四次元ポケットになっているとでも言うのか?……マッタク持って分からん。もういっそ、王族の謎の特殊能力って事で納
得した方が良いかも知れんな。
其れでだ、レイピアを構えるクローゼの姿にレイヴンの下っ端達は見惚れてしまったみたいだが、リーダー格の号令で我に返って一気に仕掛けて
来たか……だが、数の差で押し切れると思ったら大間違いだ。
派手に先制攻撃をブチかましてやれエステル!



――ボッ!



「炎が……OK!
 受けろ、このブロウ!!」



あ、そっち?大蛇薙で薙ぎ払って貰おうと思ったんだが、突撃して来た下っ端にカウンターの百八拾弐式(99Ver)か……単体攻撃なので纏めて
倒す事は出来なかったが、此れを喰らった下っ端は派手に吹っ飛んで目を回してしまったか……エステルの馬鹿力に炎が上乗せされた一撃を真
面に喰らったらそうもなるか。
が、この一撃は奴等の出鼻を挫く事になり、其処からはずっと私達のターンだったな。
エステルのパワーはレイヴンの連中を圧倒し、ヨシュアとレヴィは圧倒的なスピードで翻弄し、クローゼはレイピアでの正確な突きと、水属性を主に
したアーツでレイヴンの連中に的確にダメージを叩き込んで行ったからね。



「此れで決めるわ!食らいなさい!超火炎旋風輪!!」



――ゴォォォォォォ!!



「「「ごわぁぁぁぁ!!」」」



そしてトドメは、エステルと私の得意技である『超火炎旋風輪』だ。
棒術具の両端に炎を宿し、その棒術具を高速回転させる事でダメージを与えるだけでなく、高速回転で作り出された炎の輪をも飛ばすアーツクラフ
トの威力はハンパないからね。
レイヴンの連中もソコソコ出来るみたいだが、所詮は街のチンピラ、私達の敵ではない……出直してくるが良い、この雑魚が。



「滅殺……!」



フィニッシュは、エステルを火属性のアーツを利用した火柱で包み、火文字で『滅』と出してな。――エステルは、殺意の波動と最も縁遠い奴だとは
思うのだが、状況的にやっといた方が良いと思ったのでこの演出をね。



「こ、コイツ等バケモノか?」

「遊撃士共は兎も角、こっちの娘共も只者じゃねぇ……!」

「す、凄いや姉ちゃん!」

「ホント、クローゼったらやるわね!」

「その剣、名のある人に習ったみたいだね。」

「おー!すごいぞくろーぜ!ブシドーといいしょうぶができるかもしれない!」

「いえ、まだまだ未熟です。」



いやいや、充分なレベルに達していると思うよ?レイピアの基本である突きはとても洗練されていたし、刀身を使った斬撃――刃が潰されている護
身用だから斬撃とは言えないかも知れないが、其れもまた見事だった。
あの突きの鋭さならば、牙突を会得する事が出来るかも知れないな。……将と互角に戦えるかどうかは別としてな。



「あの、此れ以上の戦いは無意味だと思います。
 お願いします……如何かその子を放してください。」



それでだ、クローゼは此れ以上の戦いは無意味だからと、クラムを解放してくれと頼んだのだが、如何やらレイヴンの連中は其れが大層気に入ら
なかったらしいね……『此処まで虚仮にされて』って、虚仮にはしてないぞ?
単純にお前達よりも私達の方が強かっただけの事だし、クローゼは心底クラムを解放して欲しいだけだからな。
と言っても其れで、聞くような連中でもないか……仕方ない、此処は私が出て、高町なのは直伝のO・HA・NA・SHIをするしかないみたいだ――



「その辺にしとけや。」

「だ、誰だ!?」

「新手か?」

「……やれやれ、久々に来てみりゃ、俺の声も忘れてるとはな。」



と思った所に響いた声……現れたのは緑のバンダナを巻いた赤髪と、頬の十字傷が特徴的な大柄の男――コイツは、アガット・クロスナー!!
まさかの人物の登場だったが、レイヴンの連中も驚いているな……なんて思ってる間に、赤毛が殴られ、リーダー格のオールバックが壁まで殴り
飛ばされたか。
『女に絡むわ、ガキを殴るわ……たるみ過ぎじゃねぇのか?』と言っていたが、たるむとかそう言う問題じゃないと思うんだがなぁ?
残った緑髪はアガットに恐れ戦いてクラムを解放したか……『最初からそうしときゃいいんだよ』って、まぁ確かに。そもそもにして、私達にボコられ
た時点で解放しろだからな。……と言うか、さっきの乱闘の際にクラムは逃げる事も出来たと思うのだが、目の前で始まったドンパチに圧倒されて
逃げる事すら忘れたと言う事だろうね。

エステルが『何でいるのか?』と聞いていたが、ジャンに私達が放火事件の捜査をしていると聞いた訳か……それにしてもヒヨッコ、ね?私は千年
も生きてるのにヒヨッコなのか……成鳥になるには一万年生きないとならない計算だな。
意外にもアガットは、クラムの事は咎めず、寧ろ『気合の入ったガキだ』と言ってるな――『少しばかり無謀過ぎたな?あんまりおっ母さんに心配掛
けるなよ。』とも言ってたがな。
……その直後に、テレサ先生が現れ、クラムに諭して帰って行った――『放火の犯人に仕返ししても、あの家は戻ってこない』……確かにな。そし
て、其れ以上に『貴方達が無事なら先生は、もうそれだけで良いの。他には何も望まないから……お願いだから危ない事だけはしないで頂戴』と
言うのに、テレサ先生の子供達への愛情を感じたね。
そして感極まったクラムはテレサ先生に泣いて抱き付いてしまった……で、終われば感動的な場面だったんだが、アガットがヨシュアに『院長先生
達連れて、さっさとここ引き上げろや』と言って来た……苦手なんだなこう言う場面が。
ヨシュアはヨシュアで、『構わないですけど、アガットさんは如何するんですか?』と聞いたんだが、如何やらアガットは高町式肉体言語術でレイヴン
の連中とO・HA・NA・SHIするらしい。
『たっぷりと灸を据えてからな!』とも言っていたから、フルボッコ間違いなしだろうなぁ……やり過ぎて、逆に問題にならなければ良いんだがな。



《幾ら不良とは言え、遊撃士が民間人を半殺しにしたとか、笑うに笑えない事案になるわよ……》

《まぁ、流石にある程度の手加減はすると思うのだがね?》

《手加減したアッパーカットで壁までぶっ飛ばす訳?ヤバくない?》

《全盛期の私ならば、デコピン一発で壁すら突き破って吹っ飛んでいくがな。》

《其れ、やられた方頭蓋骨陥没で死んでるんじゃないの!?》

《闇の書だったころの私を破壊しようとした者達を、一体ドレだけのデコピンで撃退して来た事やらだ……尚、本気で殴れば一撃でグランセル城が
 瓦礫と化すぞ。》

《アンタマジヤバすぎ!!》



うん、知ってる。
そして、テレサ先生とクラムをギルドの近くまで連れて来て、其処でお別れだ。送って行こうとも思ったが『此れ以上何かして下さったら罰が当たり
ます。』との事だったのでね。
エステルも言っていたが、気にしなくていいのにな。
クローゼが『せめて私だけでも』と言っても、『貴女は学園祭の準備に専念して頂戴、此の子達も楽しみにしているのだから』と返されてしまったな。
ふふ、そう言われてはクローゼも『はい』と言うしかないな。
クラムを追ってる時に丁度跳ね橋が上がってしまったので、対岸にはボートで渡ったので、ヨシュアはそのボートを返しに行って貰ってる……丁度
良いタイミングで戻って来たけどね。
そのヨシュアにテレサ先生も礼を言ったんだが……クラムの様子がおかしいな?如何した、元気が無いな?



「クローゼ姉ちゃん……其れとエステル姉ちゃんとアインス姉ちゃんとヨシュア兄ちゃん……あと、レヴィ。
 今日はありがとな。オイラなんか助けてくれてさ……オイラ、本当に馬鹿だったよ。」

「クラム君……」

「弱っちいクセに仕返ししようとしてさ……かえって姉ちゃん達に助けられちゃって……ホント、みっともないよな。」

「そ、そんなこと。」

「みっともなくなんかないさ。」

「え?」



ヨシュア?



「大切なモノを護る為に身体を張って立ち向かおうとする……そんなの、大人だって簡単に出来る事じゃないよ。――だから僕は、君の事が凄くカ
 ッコイイと思った。」

「ヨシュア兄ちゃん?」

「だけど、犯人を探し出してとっちめるのは僕達でも出来る。
 君は、君にしか出来ないやり方で先生や他の子を守るべきだ。一緒に居たり、お手伝いをしたり、励まし合ったり、支えてあげたりね。
 クラム……其れは君にしか出来ない事だよ。」

「そーだぞ!おーさまも言ってた!
 『背伸びをして身の丈以上の事をするのは愚の骨頂、己の身を弁え、己に出来る事を、己にしか出来ない事を力の限りに成す事こそが大義であ
 る!』って!」



ヨシュアが凄く良い事を言ってくれたが、王もこれまたいい事言ってるな?中二病を極限まで拗らせてしまったと思っていたのだが、割と良い事言っ
てるじゃないか?
だが、ヨシュアとレヴィの言葉はクラムに響いたらしくな。『兄ちゃん達の言いたい事、何か分かった気がする』と言っていたからね。
ヨシュアが『やれるかい?』と聞けば、『もちのロンだよ。オイラに任せておけって』と来たもんだ……クラムはもう、大丈夫だろうな。



「其れでは皆さん、私達は此れで失礼します。」

「クローゼ姉ちゃん、お芝居楽しみにしてるぜ。」

「うん、頑張っちゃうから、みんなで一緒に見に来てね。」

「あったりまえだよ!またな、姉ちゃん達!」



そしてクラムとテレサ先生はマノリアに帰って行きましたとさってね。



「はぁ~、良かった。元気を取り戻してくれて……ヨシュアってば、中々憎い事言うじゃん♡レヴィも、ナイスだったわ♪」

「ふふふ、ビックリしました。あんなに元気になるなんて。
 ヨシュアさん、レヴィちゃん……本当にありがとうございます。」

「えっへん!」

「いや、大した事は言ってないよ。
 ……大切な人を守る、か。」



ん?ヨシュアに何か影が……ヨシュア的に、何か思う所があったのかも知れないな。――取り敢えず、今回の件は此れで一件落着……じゃないん
だよな。
アガットがレイヴンの連中から聞き出した事を、私達も聞いておかねばならないからな――そう言う事だから、ギルドに行くとしよう。
取り調べが終わったのならば、アガットもギルドに戻って来ている筈だろうからね。












 To Be Continued… 





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