Side:アインス
火災現場での現場検証を終え、其処にクローゼも加わってマノリアに向かって、そしてマノリアの宿屋にやって来たのだが――
「先生、みんな……!!」
「あ、クローゼ姉ちゃん。」
「来てくれたんだ。」
「みんな……何処にも怪我はない?」
部屋に入ると同時に子供達がクローゼに群がって来たが、此れもまたクローゼが孤児院の子供達に慕われている証だな――子供達もクローゼの
顔を見た事で安心したみたいだし、クローゼが此処に来たのは正解だったみたいだ。
「ふふ、よく来てくださいましたね?
エステルさんとヨシュアさん、其れにレヴィちゃんも一緒に来て下さったのね?エステルさんの中のアインスさんも。」
「はい、ギルドに連絡があったから。」
「調査に来たついでに、お見舞いに寄らせていただきました。」
「おみまい……なんてことだ!僕としたことが、おみまいのひっすひんであるモモのカンヅメをもってくるのを忘れていた!!」
レヴィ、其れはお見舞いの必須品じゃなくて、風邪のお見舞いの必須品じゃないかな?我が主も『風邪引いた時は桃缶やな』って言っていたから
ね……そう言えば、何故風邪を引いたら桃缶なのだろうか?
果物は剥くのが手間だが、缶詰ならば開ければすぐ食べられて便利とか、そう言う理由なのだろうか?……でも、其れならみかん缶でも良い気が
するんだが……桃缶の方が高級感があるから見舞い品として良いって事なのかもな。
だが、無傷とは行かないが皆が無事であるのを見て安心したよ……孤児院が火事になったと聞いた時は、私もエステルもヨシュアも気が気じゃな
かったからな。……レヴィはレヴィで心配してたんだろうが、あの子は如何せんそう見えないのが悲しい所ではあるな。
夜天宿した太陽の娘 軌跡51
『事件の調査と新たな彼是と』
テレサ先生は訪ねて来てくれた事に礼を言ってくれたが、クラムがヨシュアの言った『調査に来た』って言う言葉に反応したな?――調査に来たと
聞けば、孤児院での火事を調べに来たと考えるのは当然の事だな。
『何か分かった事あんの?』と聞かれたが、エステルもヨシュアも答えに窮し、困ったように目を交わす事しか出来なかった……言える筈がないよ
な『孤児院が火事になったのは誰かが放火した』なんて事は。
「あのねー、其処は誰かがむごぉ!?」
「レヴィちゃん、ちょっと黙ってようね?
ねぇ、皆。お腹は空いてないかしら?私、朝ごはんを食べてなくて、食堂で何か頼もうかと思うの。
序だから、みんなにも甘いものをご馳走してあげる。」
クローゼ、ナイスだ。
レヴィが何か言いかけたがその口を両手で塞いで、子供達を此の部屋から連れ出そうとするとはな……レヴィのパワーを持ってすればクローゼを
引き剥がす事など造作もない事だろうが、レヴィのパワーを目の当たりにした事のあるクローゼは、如何やら状態異常系のアーツで弱体化してる
みたいだな……お見事。
クラムは何か言いたい事があったみたいだが、マリィに強制的にクローゼについて行かされたか……クラムは勘が鋭いみたいだが、マリィはそれ
以上に聡い子みたいだ――自分達が此の部屋に居るのは良くないと判断したのだろうからね。
と言う訳で部屋に残ったのは私とエステルとヨシュアとテレサ先生――両手で口を塞いだままレヴィを引き摺って行ったのを見ると、クローゼはレヴ
ィの扱い方を完全に理解しているな。
フェイトをベースにしてるくせに、あの子は何故かやたらと頑丈に出来てるから多少手荒く扱った所で壊れる事はないからね……其れで正解だ。
ともあれ、クローゼのおかげで助かったな。貸し一って所か。
其処からは仕切り直しで、テレサ先生に話を聞いて行ったのだが……テレサ先生も放火の可能性は考えていたみたいだな?――と言うか、孤児
院の院長先生ならば火の扱いには人一倍気を使っているだろうから、火の不始末など万に一つもないと言えるからな。
ヨシュアが『犯人に心当たりは?こう言う事をしそうな動機があると言う意味ですけど』と聞いたが、その答えは『心当たりがない』との事だった。
まぁ、其れはそうだろうな……この善人の鑑とも言うべきテレサ先生が誰かに恨みを買うなどと言うのはマッタク持って想像出来ん――もしも彼女
が恨まれているとしたら、其れは見当違いの逆恨みでしかないだろう。
テレサ先生自身『ミラにも余裕はないし、恨まれる覚えもマッタク』と言っているからな。
「つまり、強盗目的じゃないし、怨恨が理由でもないって訳ね?」
「そうなると、嫌な話ですけど、愉快犯と言う可能性もあります。事件の前後に、何か変わった事はありませんでしたか?――見知らぬ男達が孤児
院の近くをうろついていたとか……」
ヨシュアが再度テレサ先生に聞いたが、不審者は居なかったとの事だ。
ただ、火事になった建物から逃げようとした時に玄関の梁が落ちて来て出られなくってしまった時に助けに来てくれた人が居た、か……しかもテレ
サ先生達を助けた後は『村の者を呼んでくる』と言って直ぐに居なくなってしまった上に、マノリアの住民も誰も心当たりがないと来たからね……ヨ
シュアが『怪しい』と判断したのは当然と言えば当然か。
で、ヨシュアが『どんな雰囲気』だったのかを聞くと、テレサ先生は『象牙色のコートを纏った二十代後半くらいの男性です。見事な銀髪をなさってま
した』と答えてくれたのだが……
「銀髪……」
銀髪か……銀髪の私が言うのも何だが、可成り珍しい髪色だな。
テレサ先生は『悪い方には見えなかった』と言っているが……そいつが根っからの悪人であったら火事現場など見てみぬふりしてアバヨとっつぁー
んだろうから、人助けなどしないだろうからテレサ先生の言ってる事は間違ってはいないだろうな。――エステル、お前は如何思う?
《普通の人とは思えないけど、人助けをしたのも事実だし……放火の犯人ではないんじゃない?》
《少なくとも、放火の犯人ではないだろう――愉快犯が、予想以上の事態になって、慌ててテレサ先生達を助けたと言う可能性がゼロではないけ
れど、その場合はテレサ先生が悪意を感じ取ってる筈だからね。》
ってな事を話しながらも、エステルは口でもほぼ同じ事を言ってるんだからある意味器用だな……っと、ヨシュアがフリーズしてるな珍しく?
いや、フリーズしていると言うよりは何か考えて……否、驚いていると言った方が正しいか?
「ヨシュア?
なによ、ボーッとしちゃって。」
「いや……そうだね。案外何処かの遊撃士かも知れないし……その人の事は、取り敢えず分けて考えた方が良さそうだ。」
「う、うん……」
――コンコン
「……失礼します。」
クローゼが戻って来たか……一人で戻って来たが、子供達は下でケーキを食べてるとの事。……レヴィも一緒に食べてるのだろうが、『そっちの
もおいしそうだなぁ……これと同じの僕にもちょーだい!』とか言ってケーキメニューをフルコンする気がしてならない。
其れでだ、クローゼはテレサ先生に客人が来たと言ったのだが……入って来たのが、ダルモア市長と秘書のギルバートだとは予想外だったな?
私達の事は覚えていたようで、『流石にジャン君は手回しが早い』と言っていたが……手回しが早いとは、火事の調査の事だと思うのだが、なにも
言ってないのに如何してそう思ったんだろうか?……状況的予測だとしても、クローゼの護衛の可能性は……あぁ、彼女は子供達と一緒にケーキ
を食べていたのだから、その可能性は除外したのか――う~む、何とも言えないモヤモヤ感があるな此れは。
如何やらテレサ先生とダルモア市長は顔見知りらしく、市長は報せを聞いて慌てて飛んで来たらしいが、市長としての仕事の方は大丈夫なのだろ
うか?秘書のギルバートも一緒では仕事を秘書に押し付ける事も出来ないだろうに。
《秘書って仕事を押し付けられるもんなの?》
《上司に恵まれなかった秘書は仕事を押し付けられ、ミスの責任を取らされた挙げ句に、上司が致命的な大ポカをやらかした時には蜥蜴の尻尾切
りをされるからな。》
《メイベル市長の所のリラさんはメイドさんだけど、秘書でもあるのかな?》
《メイドで秘書……一部の人には滅茶苦茶受けそうな属性の合わせ技だな此れは。》
こんなしょうもない会話をしている間もテレサ先生とダルモア市長の話は続いていたが、ダルモア市長は今回の事について大層お怒りの様なんだ
が、矢張り違和感を感じるな?……何だろう、基本的な何かを見落としている感じだが……
「遊撃士諸君、犯人の目処は付きそうかね?」
「調査を始めたばかりですから、確かな事は言えませんが……ひょっとしたら、愉快犯の可能性もあります。」
「そうか……何とも嘆かわしい事だな。この美しいルーアンの地に、そんな心の醜い者が居るとは。」
「市長、失礼ですが……」
「ん、何だね?」
「今回の件、若しかして彼等の仕業ではありませんか?」
っと、此処で秘書のギルバートが何かに気付いたようだな?……今回の件は、昨日私達も絡まれたレイヴンの連中ではないかと――確かに連中
はドチンピラだったが、果たしてそんな事をするだろうか?
ヨシュアも『どうして彼等が怪しいと?』と聞いているしな。
だがギルバートが言うには『連中は何時も市長に盾突いて面倒ばかり起こしている――市長に迷惑を掛ける事を楽しんでるフシさえある。だから、
市長が懇意にしている此方の院長先生に……』との事だが、全てを言いきる前にダルモア市長に『憶測で滅多な事を言うな』と叱られてしまった。
うん、憶測だけで犯人を決めつけては駄目だ。今回の一件は重大犯罪だから、冤罪が許されるモノではない――と言うか、犯罪の大小に関係なく
冤罪はダメ絶対。
で、市長は私達が犯人を見つける事を期待してくれてるみたいだが……
「うん、任せて。」
「全力を尽くさせて貰います。」
期待されているのならば応えるしかないな。
その後、ダルモア市長はまたテレサ先生と話し始めたのだが……如何やら、テレサ先生には貯金はあっても孤児院を建て直すだけの財力はない
らしい。
……クローゼが其の気になれば、孤児院を建て直すだけの資金なんぞ速攻で捻出できるだろうが、名を偽って身分を隠して学生生活を送ってい
る身ではその究極の裏技は使えないからな――否、此れは裏技じゃなくてバグ技か改造コードの類か。
そんなテレサ先生に、ダルモア市長は自身が持つグランセルにある別邸で暫くの間、子供達と暮らしたらどうかと提案して来た……しかも、家賃無
料で、再建の目処がつくまで無期限とはな――可成り良い話だと思うな。
勿論テレサ先生は恐縮していたが、『気が咎めるのであれば、屋敷の管理をしてくれればいい。謝礼も出す』と言って来るとはな……要約すると『
別邸の管理人やって?給料出すし、子供達も暮らして良いから』って事か。
可成りの好条件だし、子供達の事を考えれば受けても良い話だとは思うが、テレサ先生は『少し考えさせてください』と答えは保留にしたか……幾
ら条件が良くても、テレサ先生が言っていたように色々あり過ぎたからな――ひとまず考えを纏める時間が必要になるだろうさ。
ダルモア市長は『無理もない、ゆっくりお休みになると良い。今日の所は、此れで失礼する』と言って帰って行ったか……『その気になったら何時で
も連絡して欲しい』と付け加えてな。
「は~~、驚いちゃった。メイベル市長もそうだったけど、めちゃめちゃ太っ腹な人だったわね。」
「そうだね。元貴族っていうのも肯けるな。」
元貴族どころか、現役の王女様が直ぐ近くに居るけどな。……王族特有の高貴なオーラを完全にシャットアウト出来てるクローゼが普通に凄いと
思う今日この頃だ。
そのクローゼはテレサ先生と、ダルモア市長の申し出について話していたが……クローゼはテレサ先生達が王都に行く事には少し抵抗があるらし
いな――テレサ先生達が王都に行ってしまったらハーブ畑を世話する人が居なくなる……テレサ先生とジョセフおじさんに可愛がってもらった思い
出がなくなってしまう気がして、か。
にしてもジョセフおじさんか……カウボーイハットを被った白髭のダンディーなお爺ちゃんではないよな?――格ゲージョジョのジョセフは、タンデム
チェーン→策士の技→師の教えのコンボが強かったってのは関係ないな。
「ごめんなさい、愚にも付かない我儘です。」
「何言ってるのよクローゼ!」
「エステル?」
「エステルさん?」
「愚にも付かない我儘ですってぇ?良いじゃない、我が儘だって!クローゼの言ってる事って間違ってないと思うわよアタシは?大切な思い出がな
くなる位なら、条件のいい申し出でも蹴ってナンボよ!思い出はミラじゃ買えないんだから!
其れに十年前にアインスも言ってたでしょ?『少しは我儘になっても良い』って。」
っと、此処でエステルが行ったか……そう言えば、そんな事も言ってたな私は。
如何やらテレサ先生もクローゼと同じ思いだったらしいが、思い出よりも今を生きる方が大事、か……近い内に結論を出すと言っていたし、其れに
関して私達が何か言う事は出来ないだろうな。
其れでも、自分も大変な状況なのに、クローゼに『貴女は学園祭の準備に集中して下さいね?あの子達も楽しみにしてますから』って言ってくれる
とは、テレサ先生は聖母か?一瞬テレサ先生の背後に後光がさして見えたぞ……!!
でもって、そのテレサ先生から『調査の方、よろしくお願いします』と言われては、此れはもう頑張るしかないな。
「お任せ下さい。」
「絶対に犯人を捕まえて、償いをさせてやりますから。」
だな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
とは言え、マッタク持って手掛かりが無いこの状況で、犯人捜しを何処から始めたモノか……ぶっちゃけて言うのならば、犯人の目星すら付いてな
いから、捜査は難航すると思うぞ?
「アインスが、『何処から犯人探しを始めたモノか』だってさ。アタシも思ったけど。」
「そうだね……取り敢えず、ギルドに戻ってジャンさんに報告した方が良い。捜査方針は其れから決めよう。」
「うん、分かったわ。」
「……………………」
先ずはジャンに報告して、其れからか――って、如何したクローゼ?ボーっとしているみたいだが……
「あれ、如何したのボーっとしちゃって?」
「あ、御免なさい、私も少し混乱しているみたいで……」
其れはそうだろうな。……アレだけの火災があったんだ、混乱するなってのが無理な話さ。
其処からエステルとクローゼが色々と話し、ジョセフと言う人物がテレサ先生の夫で、数年前に他界した事、クローゼも大分世話になった事、王立
学園に入ってルーアンに来たのを切っ掛けにまた親しくさせて貰ってたと言う事を聞かせて貰った……だから、何時も遊びに来て色々と手伝いを
していた訳か――うん、実に素晴らしい。あの雑魚デブ侯爵にクローゼの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいよ。
「クローゼお姉ちゃん!」
ッとぉ、此処でマリィが参戦して来たか――慌てているようだが、如何したんだ?
「マリィちゃん。如何したの、そんなに慌てて?」
「あのね、あのね、クラムの奴が何処かに行っちゃったのよ!」
「え……?」
「何処かに行ったのって、若しかしてマノリアの外に?」
「詳しく話してくれるかな?」
「は、ハイ。」
クラムが何処かにだと?
マリィの話を聞く限りでは、ダルモア市長達がテレサ先生を訪問したタイミングで二階に上がったらしく、ギルバートの仮説を聞いてブチ切れたって
ところか……子供だけが持つ純粋な殺意が発動してしまったのだろう。
『絶対に許さない』と言って事を考えても、クラムがレイヴンのアジトに向かったのは間違い無いだろうね……此れはうかうかしていられないな。
「こうしてはいられません、私追いかけないと。」
「僕達も付き合うよ。急げば、ルーアンに着く前に、何とか追い付けるかもしれない。」
「クローゼお姉ちゃん……」
「心配しないで、クラム君は必ず連れ戻すから。マリィちゃんは他の子達の面倒を見てあげてね?」
「うん、お姉ちゃん達、お願いね。」
あぁ、任された――其れではエステル、奴を呼べ!!
「さぁ、出番よレヴィ!!」
「よっしゃー!呼ばれてとびでて僕参上!!」
「私の見間違いでしょうか?壁を突き破って来たように見えたのですが……」
「気のせいじゃないと思うよ?僕もそう見えたからね。」
まぁ、レヴィは常識が一切通用しない最強無敵のアホの子だからな。
だが、其れは其れとして先走ってしまったクラムの事が心配だ――あの子は私にも気付かれないレベルのスリスキルを持っているとは言え、戦闘
力は三十程度だから、レイヴンのアジトに突入した所で返り討ちにされるのが関の山だ。
私達がルーアンに到着するのが先か、其れともクラムがレイヴンのメンバーと接触するのが先か……これは、可成りハードモードのタイムアタック
って所だな――!!
To Be Continued… 
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