Side:アインス


レヴィとの予想外の再会を果たしたと思ったら、今度はクローゼとの再会が待っていたとは全く持って予想していなかったが……十年の時を越えて
再会したクローゼは、絶世の美少女に成長してたな。
十年前に遭ったその時から、将来は絶世の美女になるだろうと思っていたが、まさか此処までの美少女になるとは思っていなかったよ……制服姿
が、また魅力を引き立てているな。



「マッタク、何をやってるのさエステル……って言うか、知り合いかい?」

「そうよ。前に話した事あるわよね?グランセルに住んでる女の子と文通してるって。その相手が此の子よ。」

「あぁ、そう言えばそんな事を言ってたね。………………!」



ん?ヨシュアが何やら驚いているようだが、クローゼに見覚えがあるのか?……在り得ないとは言い切れんな。
ヨシュアの過去は知らないが、それでも過酷な幼少期を送っていた事は想像に難くない……となれば、今日を生きる為にグランセル城に忍び込ん
だ事が無かったとは言い切れないだろうから、若しかしたらその時に昔のクローゼの姿を見ていたのかもな。あくまでも推測だが。



「ヨシュア、如何したの?」

「いや……ゴメンね、連れが迷惑かけちゃって。何処も怪我はないかな?」

「けっこーはでに転んでたけど、だいじょーぶ?」

「あ、はい、大丈夫です。
 あの、エステルさん、この方達は?」

「男の子の方は、ヨシュア・ブライト。前に手紙で書いたと思うけど、父さんが連れて来たアタシの家族で、女の子の方はレヴィ・ザ・スラッシャー。」

「レヴィって……アインスさんが話してくれた、マテリアルの子では……?」

「そう、そのマテリアルの子。……なんだか、色々あってこの世界に来ちゃったらしくてね。帰る目途が立つまで、一緒に旅をする事になった訳よ。」

「不思議な道連れって言うところかな?」



で、ヨシュアとレヴィの紹介と。
ヨシュアの事は手紙で書いていたし、レヴィの事は十年前に話していたからクローゼも直ぐに分かったみたいだ……レヴィの存在がインパクトが強
かったせいで、ヨシュアが今一目立たなかったのは仕方ない、のかな。










夜天宿した太陽の娘 軌跡45
再会とランチタイムと出発時の……』








「そうだったんですか。
 ……あ、申し遅れました。クローゼ・リンツと言います。エステルさんとアインスさんと仲良くさせて頂いています。
 初めまして、ヨシュアさん、レヴィちゃん。」

「此方こそ、初めまして。ヨシュア・ブライトです。」

「ふっふっふ、凄くて強くてかっこいい!レヴィ・ザ・スラッシャーとは僕のことだ~~~!!!」



で、クローゼが自己紹介し、ヨシュアとレヴィも自己紹介をしたんだが……レヴィよ、自己紹介位普通に――出来る筈がないか。まぁ、レヴィが元気
一杯だと言う事だけは伝わっただろうな。



《リンツ?》

《偽名じゃないか?そもそもクローゼが愛称だし、本名で学生生活を送るのは無理があるだろうからね……一国の姫様が学園に、なんて事がバレ
 たら大騒ぎだろう?》

《あ、なるほどね……其れじゃあ、後は宜しくアインス♪》



――シュン



って、行き成り人格交代をするなエステル……気を回した心算なんだろうけれど、流石に驚くぞ?……と言うか、人の事には気を回せるのに、如何
して、自分の事になると全く気付かないのか不思議でならないな。



「髪が銀色に……アインスさん、ですか?」

「あぁ、そうだよクローゼ。久しぶりだね……十年前も愛らしかったが、十年の時を経て驚くほどの美少女になったモノだな。
 十年前のロングヘアーも良かったが、このショートカットも良く似合っている……いや、むしろショートカットの方が魅力が際立って居ると言えるか
 も知れないな。」

「そうですか?なら、思い切って髪を切った甲斐がありました。」
 
「思い切る事も時には大事と言う事だね。
 其れはそうとして、お前も何やら慌てていたようだが、何かあったのかクローゼ?」

「あ……実は人を探していたんです。其れで、よそ見をしてしまって。」

「人探し?良ければその人物の特徴を教えてくれないか?」

「帽子を被った十歳くらいの男の子なんですけど……何処かで見かけませんでしたか?」



帽子を被った十歳くらいの男の子か……その特徴を聞いて、ポケモンの主人公をイメージしてしまった私はきっと悪くない。ポケスペのレッドは成長
してるのにアニポケのサトシは永遠の十歳とは此れ如何に。
まぁ、其れは兎も角として、ヨシュアは見かけたか?



「いや、ちょっと見覚えが無いな。」

「僕もみてないぞー?」

「そうですか……何処に行っちゃったのかしら。」



ふむ……必要ならば手を貸すぞクローゼ。
マノリア村はあまり大きな村では無いとは言え、流石に村中を探し回ると言うのは骨が折れるだろうからね?エリアサーチが使えれば一番良いの
だが、残念ながら今の私ではエリアサーチは使えないからな。……幻属性と、空属性の上位クォーツを入手したら使えるようになるかも知れないけ
れどね。



「いえ、大丈夫です。私、此れで失礼しますね……どうも、お手数をおかけしました。」



そうか……だが、困った事があったら遠慮せずに言ってくれよ?――お前は責任感が強いが故に、全部自分で背負おうとする部分があるからね。
もっと、人を頼る事を覚えろ、な。



「はい、覚えておきます。」



そう言うとクローゼは行ってしまった。
其れと同時にエステルと代わったのだが……何やらヨシュアがクローゼが去って行った方向をずっと見ていたな?……此れは、私の予想が当たっ
た可能性はあるのだが、エステルは其れを斜めの方向に勘違いして、ヨシュアがクローゼに一目惚れしたと言う結論に辿り着いたか。
いや、如何してそうなるし。
ヨシュアは其れをきっぱりと否定し、『昔の知り合いに似ていただけだ』と言ってたが、其れでエステルが納得する筈もなく、『口説き文句としては三
十点かな』とか抜かしていたな……自分の気持ちにすら気付いてないお前が偉そうな事言うな?
でもって、ヨシュアから『ジョゼットと最初に会った時に完全に騙されてたくせに』と言う強烈無比のカウンターをかまされてしまったとは、此れは完全
にエステルの負けだな。
物理的なバトルならば未だしも、舌戦となればヨシュアの方に分があるか。
取り敢えず、弁当が冷めないうちにランチタイムにするか。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



そんな訳で風車小屋までやって来たのだが……此れは見事な絶景だな?海が一望出来る上に、360度の大パノラマが展開されている――此処
でランチタイムを楽しむ人が多いと言うのも納得だね。



「こんな良い場所で食事なんて、スッゴク贅沢な気分じゃない?」

「確かに、気持ちよさそうだ。早速ランチをいただこうか。」

「そうしよー!僕もうおなかペコペコ~~。」



そうだな。
さてと、私とエステルのはスモークハムのサンドイッチだな……うん、香ばしい匂いがするな。この香り、スモークの際に使うチップに拘っているのは
当然として、数種類のチップを使ってより香ばしさを演出しているな。



《分かるの?》

《あぁ。古代ベルカは、食品の加工保存技術にも長けていてね、煙で燻す燻製、特にハムやソーセージと言った肉類の燻製には定評があった。
 私も、闇の書としてだがその技術は蒐集していたから分かるのさ。》

《ありとあらゆる技術や知識を集積するって、改めて凄いわよねぇ……そんな能力があれば、勉強とかすっごく楽なのにな~~。》

《そうは言うがな、苦労なく覚えられると言うのも存外つまらないものだぞ?即時覚える事が出来るから達成感も何もない。
 今の私に、闇の書だった頃の蒐集能力はないが、だからこそ新しい事に挑戦して、其れが達成出来た時の喜びを知る事が出来た……新しい料
 理とかな。
 お前だって、何の苦労もなく遊撃士になってたら、試験に合格した時の喜びもなかっただろう?》

《それは……そうかも。
 アインスのおかげで勉強は何とかなったとは言え、其れで楽が出来た訳じゃないからね……やっぱり、積み重ねるって大事な事なのよね。》

《其の通りだ。》

さて、ヨシュアとレヴィの方は魚介類のパエリアだが……どんな感じだろうか?



「サフランの良い香りがするな。」

「さふらん……思いだした!おーさまがカレーのときにごはんに入れてたやつだ!ごはんが黄色くなるんだよね!」

「そうだよレヴィ。だけど、黄色いのはサフランを浸した水で、乾燥させたサフラン自体は赤いんだよ。」

「赤いのに、それをつけると水は黄色くなる……むむむ、なんだかとっても不思議だぞ?どーして、そうなるのよしゅあ?」

「さて、どうしてだろうね?其れは、僕も分からないな。」

「わからんのかーい!」



……流石だなヨシュア、この短時間でもうレヴィの扱い方を覚えてしまうとは。因みに、赤いサフランを浸けた水が黄色くなるのは、乾燥前のサフラ
ンは黄色だからだ。乾燥させる事で、縮んで色が凝縮されて赤く見えてるだけなんだよねアレは。

取り敢えず、いただきますだな。



「それじゃ、いっただきまーす!」

「い~ただきまっす!」

「いただきます。」



先ずは一口……うん、美味しいな。
ハムの香ばしさは口に入れると更に広がるし、レタスのシャキシャキ感も最高だ――これに関してはエステルもほぼ同意見だが、私個人の感想と
しては、フレッシュなトマトを加えてBLTサンドならぬHLTサンドにしても良かったと思うな。
レヴィとヨシュアも魚介類のパスタに舌鼓を打っているみたいだ。



「バーテンさん、良い腕してるな。」

「あ、ちょっと一口ちょうだい?アタシ、パエリアってちゃんと食べた事ないのよね。」

「良いけど、ランチボックスを交換しようか?」

「うーん……手が塞がってるから面倒だし、ヨシュアが食べさせてよ。」



って、ちょっと待とうかエステル?自分がドレだけこっ恥ずかしい事言ってるか……分かってないよな絶対に。ヨシュアも『食べさせてって……』と困
惑してるだろうが!



「勿論、あーん♡」

「其れは、ちょっと恥ずかしいんだけど……」

「良いじゃない、アタシ達以外に誰も居ないんだし。子供っぽい事をしても、笑われる心配はないってば。」

「そう言う意味で恥ずかしいんじゃないんだけど……マッタク仕方ないな……」



だが、何だかんだと言いながらも応じてやるヨシュアは良い奴だ……好きな子からの頼みは断れないって事なのかもしれないが、そうだとしたら可
愛いところもあったモノだね。
まぁ、其れは良いとして、レヴィ?



「よしゅあ、僕もあーん!」

「レヴィ?君のランチボックスは僕と同じだろう!?」

「レヴィ、アタシのサンドイッチ一口あげるわ。はい、あーん。」

「わーい!」



自分も『あーん』をやって欲しかったのか……ヨシュアにねだったが、同じメニューだから意味はないんだが、其処はエステルが機転を利かせてくれ
たな。
……天真爛漫同士、矢張り通じるモノがあるのだろうね。
取り敢えず、絶景を見ながらのランチタイムは何とも賑やかな物になり、食後はサービスでもらったハーブティでスッキリとな。
このハーブティがまた絶品だった……何のハーブを使ってるのかは分からなかったが、身体が温かくなって軽くなった感じがする――若しかしたら
峠越えをして来たと言う私達に、店主が疲労に効くハーブを調合して淹れてくれたのかも知れないな。



「ふあ~~……潮風も気持ち良いし、なんだか眠たくなってきちゃった。」

「食べた直後に寝ると牛になるよって言いたい所だけど……食後のシエスタも、偶には良いかも知れないね。」

「すぴ~~……」



って、お前はもう寝てるのかレヴィよ……流石はマテリアル一のお子様、腹が満たされると速攻お眠と言う訳か。寝る子は育つと言うが、闇の書の
構成素体であり、プログラム生命体の彼女達は成長するのだろうか?うむ、ちょっと分からんな。
……ん?



「……アレ?」



何かが飛んで行ったな?



「今の鳥、カモメにしては大きくなかった?」

「そうだね、翼の形も違うし、嘴も鋭かった。タカかワシなんじゃないかな?」

「白いタカ……珍しいモノを見ちゃったね。うーん、なんだか良い事が起こりそうな気がして来たわ。」

「ハハ、そうだと良いね……ところで、眠気は無くなったんじゃない?」

「あ……うーん、残念ながら。」

「なら、そろそろ出発しようか?
 今日中にルーアン支部で所属変更の手続きがしたいからね。レヴィは、僕が負ぶっていくよ。」

「分かった、名残惜しいけど出発しようか。」



白いタカ……いや、タカにしては小型だったから、アレは白いハヤブサだろうね。何にしても珍しいモノを見た事だけは間違い無いだろう……アルビ
ノ種など、滅多に見れるモノではないし、アルビノでない白化個体ともなればそれこそエクストラシークレットレア級のレアものだからね。
取り敢えず、マノリア村とは此れでさよならか……レヴィはヨシュアが背負っていくと言っていたが、レキュリアを使って強制的に目覚めさせた。……
状態異常の睡眠だけでなく、通常の睡眠も強制解除できるとは驚きだったよ。



と言う訳で風車小屋のある高台から降りて来たんだが……



「うわ!」

「わわ!!」



降りたところで、帽子を被った少年と正面衝突してしまった……さっきのクローゼと言い、今日は良く人とぶつかる日だな?『衝突難』の相でも出て
るのだろうか?



「ごめんごめん、ちょっと人探しをしててさ……アレ?姉ちゃん達、この辺で見かけない顔じゃん?」

「そりゃそうよ、この町の人間じゃないもん……アレ、それより君って……」



気付いたかエステル……帽子を被った十歳くらいの男の子――クローゼが探していた相手の条件を確り満たしているな。



「さっきクローゼ……制服姿のお姉ちゃんが、帽子を被った男の子を探しているって言ってたけど……君、なんか心当たりある?」

「あ~、そうそう!オイラが探してる人と一緒だよ。何処で会ったの?」

「宿酒場の近くだけど……ちょっと前の事だから、何処に行ったか判らないわよ?アタシ達も一緒に探してあげよっか?」

「い、良いよ。何処に行ったか見当つくしさ。そんじゃ、バイバイ!」



ん?何やら慌てている感じがするが……何かあったのだろうか?慌てていると言うよりは、今すぐこの場から立ち去りたかったような……まさか!
おい、エステル、何か失くした物はないか!



「エステル、何か失くした物はない?」



「へ?行き成り何なのよヨシュアもアインスも!失くすって何を!」

「身に付けているモノだよ。」

《財布とかアクセサリーとかな。》

「何よ藪から棒に……財布はある、髪飾りもOK。遊撃士の紋章は………………………」

《その様子だと、やられたな……》

「えぇーーー!一体どうなってるの!?峠越えをするときに落としちゃったとか!?」

「むむ、其れはいちだいじだぞ!」

「落ち着いてエステル。ランチの時は確かに左胸に付けていたよ……だから、失くしたとすれば、この場所でしか考えられない。」

「でも、何処にも落ちてないけど……ま、まさか。」



そのまさかだよ……十中八九、さっきの少年だろうね。ぶつかり方が些か不自然だとは思ったが、まさかスリだったとはな……私ですら盗まれた事
をその瞬間に気付けないとは、中々の腕前だな。褒められるスキルではないが。



「あ、あんですってー!ど、如何して遊撃士の紋章なんかを……?」



子供が持って居ても何の意味もないモノだが、其れを考えるとイタズラの可能性が高いだろうな……遊撃士の、其れも準遊撃士の紋章なんぞ、売
りに出した所で高が知れているからね。
……カシウスクラスの遊撃士の紋章ならば、目玉が飛び出るほどの値が付くのかも知れないけれどね――さて、如何するエステル?



「むむむ……いたずら小僧、許すまじ!!」



――轟!!



「エステル?これは、闘気が……」

「おー!えすてるがやる気まんまんだ~~!」

「悪餓鬼滅殺!!」



あはは……エステルが殺意ってる、波動ってる……が、その気持ちは分からなくはないな――如何にイタズラとは言え、遊撃士にとって命とも言え
る紋章を盗むと言うのは、少しばかり強烈なお仕置きをしなくてはならないだろうからね。
帽子の少年よ、逃げられると思うなよ?……捕まえたその時は、お尻ぺんぺん百回の刑だから、覚悟しておけ?サルのお尻よりも真っ赤になるだ
ろうからね。












 To Be Continued… 





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