Side:アインス


あ……ふあぁぁ~~、よく寝たな?如何に元気が取り柄のエステルでも峠越えと夜間の戦闘には疲れてしまったみたいだね?……昨日はベッドに
入った瞬間に泥のように眠ってしまったからね。



「エステル……って銀髪?……若しかしてエステルじゃなくてアインス?」

「ん、おはようヨシュア。
 エステルはまだ寝てるから、先に目覚めた私の方が表に出てるんだよ……私が目覚めてエステルは寝ていると言うのは十年振りなんだが、それ
 程昨日は疲れたらしい。
 体内に永久機関を内蔵してるんじゃないかと思う程、元気が取り柄のエステルでもな。」

「確かに、慣れない峠越えにアガットさんとの遭遇、そして夜の狼退治と色々な事があったからね……其れでヘトヘトになるエステルは少し意外だ
 ったけど、元気も無限じゃないんだね。
 ん?そう言えばアインスは起きても、エステルは寝てるって事は身体にはまだ疲労が残ってるって事なんじゃないの?」



其処に気付くとは流石だなヨシュア。
そう、私だけが目覚めた状態だと身体の疲労は完全には抜けていないんだ実は……だから、十年前はなるべく動き回らずに読書をして時間を潰し
ていたんだが、今はもうそんな必要は無いな。



「参考までに、どうしてか聞いて良いかな?」

「アーツで回復すればいいだけだ。
 イノセントアークとかレキュリアを使えば、疲労を回復できるはずだ。」

「ちょっと待って、疲労って状態異常や能力低下に該当するの?」

「いや、此処はティアで体力を回復し、疲労によって低下した身体能力をイノセントアークで回復するのが正解だろうか?……ヨシュア、お前の意見
 を聞かせてくれ。」

「僕に聞かれても困るんだけど、疲労が回復出来るなら、もう何でも良いんじゃないかな?
 其れよりも、出発前にエステルの事を起こさなくて良いの?流石に、目が覚めたら知らない場所でしたなんて事になったら驚くと思うんだけど?」



その反応はその反応で面白いのだけれどね。
まぁ、エステルが起きるまでは私が表に出ているよ……エステルなしでお前と話をする機会など、めったにあるモノではないからな。










夜天宿した太陽の娘 軌跡44
まさか、まさかの再会二連打』








クローネ峠の関所を抜ければ、其処はもうルーアン地方。さて、次なる目的地のルーアン市に向けて出発だ。
アガットは私達よりも先に出発したらしく、もう関所には居なかった……一言くらい声を掛けてくれても良いと思うのだが、カシウスに押し付けられた
仕事のせいで、そんな余裕はなかったのかも知れないな。
其れよりも、妙なのは関所を発つ前に副長から聞いた話だ……街道や関所にある証明には100%ではないが魔獣を遠ざける効果があるから、普
通は近寄っても二~三匹らしく、昨日のような大群で現れたのははじめてだとか。
まぁ、副長は拠点防衛の良い演習になったと言っていたが……魔獣達が何を考えてるのかは任せると言われた以上、其れについても考えねばな
らないだろうな。
取り敢えず、昨日の一件はギルドに報告してくれるらしく、軍からの謝礼金も出るとの事だった……関所の兵士達は恩には報いる精神があるみた
いだな?
モルガン将軍なんぞ、私達も空賊逮捕に一役買ったのに謝礼金どころか、労いの言葉一つなかったからな……私達の功績を認めてくれたリシャー
ルの方が遥かに将軍職に相応しいと思うぞマッタク。
其れは兎も角、関所を出る前に『正遊撃士目指して頑張れよ』と激励されたから、其れに応えらえるように頑張らねばだな。

「……昨日の晩の魔獣の襲撃、お前はどう見るヨシュア?」

「そうだね……一番可能性が高いのは、照明が不具合を起こして魔獣を遠ざける効力が低下していたってところかな?勿論毎日点検はしてるんだ
 ろけど、昼間に点検したときは問題なかったけど、点検の後で不具合が発生したのなら在り得る事だと思う。
 次は、昨日現れた魔獣は、照明の効果が効かない魔獣だった可能性だね……病気に対する免疫みたいに、魔獣が嫌がるモノも、何度も経験し
 て行くうちに平気になるって言う事はあると思うから、昨日の魔獣は照明の魔獣を遠ざける効果に耐性が出来てたのかもね。」

「いい推理だ、私も大体同じ事を考えていた――だが、其処まで推理したのならば、お前ももう一つの可能性に至ったんじゃないのか?
 昨日の魔獣達は、照明の魔獣避けが効かないように訓練された、人の手によって寄こされた魔獣であると言う可能性に。」

「それは……うん。
 だけど、その可能性はゼロではないけど極めて低いと思うんだ僕は……例えば都市部を襲うのならば兎も角、峠の関所を魔獣に襲わせても、犯
 人にはマッタク得が無い上に、あの程度の魔獣じゃ鍛えられた兵士には精々引っ掻き傷や噛み傷を与えるのが限界だ。
 だから、その可能性は極めて低いと僕は思う。」



確かにヨシュアの言う通りなのだが、如何にも妙な違和感と言うか、のどに刺さった魚の骨の様な嫌な予感が拭い去れない……私の思い過ごしで
あればいいのだがな。
まぁ、昨日の事は此処までにして……ヨシュア、お前に聞きたい事があるのだが……



「聞きたい事?何かなアインス?」

「五年前、お前が私達の家に来た日……お前は一体何をしていたんだ?エステルと同じ位の歳の子供が、アレだけの怪我をしていたと言うのは何
 かの事件に巻き込まれたと見るのが妥当だ。
 エステルは特別気にしていないし、お前が話してくれるのを待って居るんだが……私にはどうしても其れが分からない。エステルには絶対に言わ
 ないと誓うから、話せる範囲で良いから教えてくれないか?」

「……悪いけど、其れは言えない。言わないんじゃなくて言えないんだ。
 あの日、僕はとても良くない何かをしようとして失敗して、その良くない事をさせようとした人に殺されそうになったところを父さんに助けられたんだ
 けど、僕が何をしようとしていたのか、僕に其れを命じたのが誰だったのか、其れは全く覚えていないんだ。
 エステルは、僕が話すまで深くは聞かないと言ってくれたけど、そもそもにして僕が話せる事なんて何もないに等しいのに、僕はエステルの優しさ
 に甘えてる……最低だな。」



――スパーン!



「いった~~!行き成り何するのさアインス!って言うか、そのハリセンはどこから取り出したの!?」

「其れについては突っ込み不要だヨシュア。
 其れとハリセンで殴ったのはお前が馬鹿な事を言うからだ……話せる事は何もないのにエステルの優しさに甘えて最低だと?それで最低だと言
 うのなら、本当ならば消滅していた筈なのに、エステルに憑依して十年も生き長らえてしまっている私は如何なる?
 ある意味で、お前以上に私はエステルの優しさに甘えていると言えると思うんだがな?」

「あ……」

「気付いたか……大体にして、実はお前が話せる事は殆どなかったからと言って、エステルが其れを責めると思うか?」

「……思わない。エステルだったら『覚えてないの?其れじゃあ仕方ないわ!』とか言って済ませるような気がする。」



だろう?……だから、自分を最低だなんて言うなよ。
それともう一つ、此れもエステルには絶対言わないと約束するから教えて欲しいのだが……ヨシュア、お前エステルの事好きだろう?家族としてで
はなくて異性として。



「ナ、ナンノコトカナ?」

「そこで片言になるな?肯定してるのと同じだぞ。
 いやまぁ、何となくそんな気はしてたんだが当たりだったか……まぁ、良いんじゃないか?エステルは少々大雑把で物事を深く考えない能天気な
 部分もあるが、天真爛漫で周囲をグイグイ引っ張っていく力のある子だからな。
 其れに、家事全般は取り敢えず出来る上に容姿だって上級レベルだから、中々の優良物件だ……まぁ、現状ではどうやっても私が付いて来るの
 だけれどね。」

「……お得なセット品?」

「悪質な抱き合わせ販売とも言うな。……で、実際の所は如何なんだ?」

「其れはノーコメント。」



そう来たか……まぁ、確かにお前が答えを言う相手は私ではないね。……今更だが、こう言う事を聞くのは、なんだかオッサン臭かった気がする。



《ん……ふあぁぁ~~……よく寝た~~。》



っと、エステルが起きたか……お早うさん、この寝坊助。



《ふぇ、アインス?……アレ、関所じゃないの?》

《私の方が先に目覚めてね、起こすのも悪いと思ったから私が表に出た状態で関所を発ったよ……此処はもう、ルーアン地方だ。》

《えぇ、そうだったの!?って事は、アインスがヨシュアと話でもしてた訳?》

《正解だ。……中々に有意義な時間だったぞ?昨夜の魔獣の一件について、ヨシュアから良い見解を聞く事が出来たからね――矢張りヨシュアの
 観察眼と推理力は素晴らしいと思ったよ。推理モノの主人公が出来るかも知れないな。》

《ヨシュアが探偵って事?》

《冷静な判断で事件の真相を暴く、難解なトリックも鮮やかに解明、事件の迷宮入りはあり得ない!名探偵ヨシュア、真実はいつも牙突!》

《それ、前にもやったわよね。》



おぉっと、そう言われるとは思わなかったよ……取り敢えず、目が覚めたのならば身体の所有権を返すぞ。



――シュン!



「っと……おっはよー、ヨシュア!」

「え?……あぁ、漸く目を覚ましたのかエステル。寝坊も過ぎると思うんだけど?」

「ごめんごめん、ついつい寝過ごしちゃったわ。
 って、わぁ~~……」

「エステル?」

「見て見て、ヨシュア!海よ、海!!」

「はいはい、言われなくても分かってるよ。」

「青くてキラキラして、めちゃめちゃ広いわね~~!
 其れに潮騒の音と、一面に漂う潮の香り……うーん、これぞ海って感じよね!」

「エステル、海を見るのは初めて?」



マノリア街道に出ると、目の前に一面の大海原が現れたのだが、エステルは其れに感激しているみたいだな――海を見るのは初めてかとヨシュア
に言われたが、定期船からチラッと見た事はあっても、こんなに間近で見るのは初めてなんだよね。
そして、私もまた海を此れだけ間近で見るのは初めてかも知れないな?短い覚醒を繰り返していた時は、目覚めと同時に世界を破壊していたから
海を見る事などなかったし、最後の主の世界でも海の季節が来る前に消えてしまったから海を見る機会はなかった。
闇の書の闇との最終決戦は海上だった気がするが、アレは結界で覆われた現実世界から隔離された空間だからノーカウントだからね。



「こんな間近で見るのは、ひょっとしたら初めてかも知れない。」

「そっか……僕も、海は久しぶりだな。定期船を使わずに、歩いて来た甲斐があったね。」

「うんうん、なんだか達成感があるよね!」



そうだな、確かに達成感があるな。……ヨシュアも海は久しぶりだと言っていたが、見た事が無い訳じゃないんだな?……もしも、今のヨシュアが水
着に着替えて浜辺に居たら――うん、間違いなく逆ナンパの嵐に巻き込まれているだろうな。

取り敢えずルーアン市を目指すんだが、その途中灯台によったら、灯台守の爺さんから灯台内の魔獣を倒すように言われてしまった……ま、此れ
も仕事と思って受けたけれどね。
それにしても灯台守の爺さん、少々口煩い部分があるが、アレはアレで近所の頑固爺ちゃんと言う感じで好感が持てなくもないな。
さて、そろそろ中継地点のマノリア村に到着する筈だが……



――ビビビビビビビビ……



その直前で異常事態に遭遇だ……空中に発生しているプラズマ放電――どう考えても自然現象ではないが、何が起きてると言うんだ?



「ヨシュア、アレは一体何?」

「分からない……だけど、普通じゃないのは明らかだから、警戒だけは怠らないで。」

「ん、了解。」



エステルとヨシュアが警戒を続ける中、プラズマ放電はドンドン強くなり……



――バガーン!……ドシン!!



遂に爆発した……と、同時に何か落ちて来たぞ?



「えっと、ここは何処?シュテルーン、王様~~、ゆーりー?
 ……むぅ、返事がないな?これはもしかして、あの機械のぼーそーで、僕だけがどっか知らないばしょに飛ばされちゃったのか!?
 そ、そんな~~!知らないところに一人ぼっちって、僕どうすればいいのさ~~!!!」



って、ちょっと待て!起き上がったその人物は、水色の髪をツインテールにした、テスタロッサと瓜二つの少女だと!?……お前は、まさか……!



「ヨシュア、女の子が現れたわよ!?」

「ちょっと、大丈夫かい君?」

「ん?僕は大丈夫だぞ、元気一杯だぞ~~!!……って、うん?」



む、何やらエステルに顔を寄せて来たな?何か感じ取ったのか?



「えっと、何?」

「むむ……君からはクロハネのにおいがするぞ?君はいったいなにものだ?」

「へ?黒羽?」



其れは、私の事だエステル。
彼女は、レヴィ・ザ・スラッシャー。前に話したマテリアルの子の一人で、パワーとスピードは物凄いが、頭が悪い愛すべきアホの子だ……この世界
で会うとは思ってなかったが、少し代わってくれるか?



《ん、了解。》



――シュン



「おぉ、髪がぎんいろになった!」

「アインスに代わったのかな?」



其の通りだよヨシュア……そして久しぶりだねレヴィ、王達は息災か?



「その話しかた……君はもしかしてクロハネか?何で、クロハネがその子の中に?って言うか、クロハネはあと二ヵげつできえるって言ってなかっ
 たっけか?」

「私にも色々あったのさ……其れよりも、なんでお前が此処に居るんだレヴィ?」

「えっとね~~、ゆーりと王様とシュテルンと一緒に、えるとりあをふっこーするためにいろいろやってて、キリエが新たに作った装置のじっけんをして
 たら、なんかごさどうが起きて、僕が巻き込まれて、気付いたらここに居た!だからくわしい事は分からない。」



だろうな……お前に聞いた私が馬鹿だったよ。
とは言え、彼女をこの世界にほっぽり出す事も出来ないから、帰る目途が立つまでと言う条件付きで私達の旅に同行させる事にしたんだが、私が
思っていた以上にエステルとレヴィの相性は良かったみたいで助かったよ……類は友を呼ぶって奴だったのかも知れないがな。
ヨシュアはヨシュアで、『アインスとエステルが良いなら、僕は何も言わないよ』と言うスタンスだったから、レヴィの加入はあっさりと済んだしね。

さて、予想外の仲間を得て、マノリア村に到着だ。
街道沿いにある宿場村で、それほど大きな村ではないが、関所からルーアン市までの間にある唯一の人里だから、補給なんかで重宝する場所だ
ろうね。



「ねぇ、僕おなかへった~~、ごはんにしようよ~~!」

「あらら、もうそんな時間か……アタシもお腹減って来たし、休憩がてらここらでランチにしない?」

「其れは良いけど……何か手持ちの食料は有ったかな?」

「あ、ちょっとタンマ!どうせだったら、落ち着ける場所で、出来立ての料理を頼まない?折角ルーアン地方に来たんだし。」

「確かにそうだね。其れじゃあ、宿酒場を探そうか?」

「やどさかばって、なに?」

「宿泊も出来て、美味しい料理が食べられる場所よ。」

「おぉ、其れは凄くいいモノだ!さっそくさがそう、えすてる、よしゅあ、クロハネ!!」



エステルよ、可成りざっくりした説明だったが、レヴィには逆に伝わったみたいだな……似た者同士な部分があるだけに、理論ではなく感覚で通じ
るモノがあるのだろうね。
で、程なく宿酒場は見つかったのだが、レヴィが『あっちから美味しそうな匂いがする!』と言う感じで見つけてしまったのが何とも……レヴィらしい
と言えばレヴィらしいけれどね。

中に入って、店主に話しかけてみたら、この店は『白の木蓮亭』と言うらしい。中々洒落た良い名前だな。
『マノリアには観光で来たのかい?』との問いに、エステルが『ルーアン市に向かう途中なの』と言い、ヨシュアが『ボース地方からクローネ峠を越え
て来ました』と言ったら、大層驚いていたな。……『今時、あんな場所を通る人間がいるとは思わなかった』とまで言われるとはね――今のご時世、
矢張り定期船を使うのが一般的なのだろうね。



「ところで、歩きっぱなしでスッゴクお腹減ってるのよね。」

「僕も~~!おなかとせなかがくっついちゃうよ~~!」

「何か、お勧めはありますか?」

「そうだな……今なら弁当がお勧めだけど。」

「お弁当?」

「町外れにある風車の前が景色の良い展望台になっていてね。
 昼食時には、ウチで弁当を買って、其処で食べるお客さんが多いんだ。」

「あ、其れってナイスかも!聞いてるだけで美味しそうな感じがするわ♪」



其れは私も同意見だ。
特に今日は晴れて天気も良いからきっと良い景色が拝める筈だからね……展望台から、海を見ながらのランチ、楽しみだ。ヨシュアも、『そうしよう
か』と同意してくれたしね。
レヴィは……早く食べたくて其れどころじゃないみたいだ。
それでだ、弁当はスモークハムのサンドイッチと、魚介類のパエリアの二種類で、何方もお勧めと来た……さて、エステルは何方を選ぶのか。



《アインスはどっちが食べたい?》

《私か?私はどちらかと言うとサンドイッチな気分だな。》

《そうなの?実はアタシもサンドイッチにしようと思ってたのよ!》

《ふ、気が合うな?》

《そりゃ、一心同体だし!》



其れは……使い方を激しく間違ってるぞエステル。一心同体とは『心も体も一つの人間であるかのように、強い絆を持っていること。』であって、決
して二重人格を指す言葉ではないからな。
何方かと言うと、一心同体はエステルとヨシュアの方だろうに。
取り敢えず、エステルはサンドイッチ、ヨシュアはパエリアを選択し、レヴィは……



「ムムム……どっちもすてがたいけど、こっちに来るまえに、王様がつくってくれたはんばーぐを食べたから、こんどはおさかなだな!僕もよしゅあと
 おなじ、ぱえりやにする!」



レヴィはヨシュアと同じパエリアか。……因みに、パエリアとパエリヤってどっちが正しいんだろうか?何方もイタリア語での綴りは『Paella』になるの
だけれど……何方も正しい系かな此れは。
でもって、弁当三つで180ミラか。1ミラ、10円としても一つ600円なら決して高い弁当ではないだろう。店主の手作りであるのならば尚更な。
更にサービスでハーブティまで付けてくれたのには感謝だな……主の世界であったのならば、高評価を付けてSNSで拡散したくなるような良い店
だね。



「ハーブティも!ありがと!」

「其れじゃあ、展望台に行こうか?」

「うん!」

「てんぼーだいでの、おいしいごっはん!楽しみだぞ~~♪はやくいこーよ、えすてる、よしゅあ、クロハネ~~!」

「そうね!ヨシュア、ほらほら早く!」

「ちょっとエステル、前を向いて歩かないと……」



そうだぞエステル。前を向いて歩かないと危険だぞ?物にぶつかるなら未だしも、人にぶつかったら互いに怪我をしてしまう可能性があるからね?
前方不注意は……



「あう……!」

「きゃ……!」



ダメだぞと言う前に、人とぶつかってしまったよ。



「あいたたた……ゴメンね、大丈夫?アタシが、前を見てなかったから……」



ぶつかってしまった相手は、ジェニス王立学園の制服を着た菫色の髪をショートヘアーにした少女……ってちょっと待てオイ?十年前とは大分雰囲
気が変わっているが、この子は、若しかして。



「大丈夫です。私の方こそ前を見ていませんでしたから…………え?」

「へ?何、アタシの顔に何かついてる?」

「……その特徴的なツインテールに火耀の瞳――若しかして、エステルさんですか?」

「え?何でアタシの名前知ってるの?何処かで会ったっけか?」



いやいやいや、気付けよエステル。大人になった上に、髪型も変わっているが、十年前の面影は残っているだろうに……よもや、彼女とこんな形で
再会するとは思ってなかったよ。



「十年振りだから分かりませんか?私ですよ、クローゼです。」

「クローゼって……えぇぇぇぇぇぇぇ!?クローゼって、あのクローゼ!?」

「はい、其のクローゼです。」

「うっわ~~!メッチャ久しぶりじゃない!って言うか、こんな所で会うとは思っても居なかったわよ!元気だった?」

「見ての通り、至って健康です。エステルさんは、元気そうですね?」

「いつも元気一杯よ!この十年間、風邪一つ引いてないわ!勿論、アインスも元気一杯よ!」



こうして会うのは十年振りか……無垢な子供が、可憐な少女になったものだ――久しいなクローゼ、息災なようで安心したよ。……そして、私の予
想通り、ショートカットのクローゼの制服姿は戦闘力が高かったな。フリーザ様もビックリの戦闘力だ。
其れは其れとして、レヴィにクローゼと、懐かしい面々と再会する日だね、今日は。












 To Be Continued… 





キャラクター設定



・レヴィ・ザ・スラッシャー

アインスが元居た世界に存在していた、闇の書の構成素体、『マテリアル』の一体で、『力』を司っている。
その容姿は、闇の書の闇を砕いた魔導師の一人である『フェイト・テスタロッサ』を模しているが、性格は全く異なっており、早熟なフェイトと比べると
可成り子供っぽい。
パワーとスピードにステータスの数値を全振りしており、おつむの方は大分残念なのだが、其れすら魅力になる愛すべきアホの子。
エルトリアで何かあったらしくてこの世界に来てしまい、帰る目途が立つまでエステル(アインス)、ヨシュアと行動を共にする事になった。