Side:アインス
市長殿から聞いた強盗事件の被害者であるオーブメント工房にやって来たのだが、店主の話で手掛かりになるモノは無さそうなので、店主の許可
を得て店内を捜索させて貰ってるのだが……
「ふぅ、可愛く撮れたっと。ナイアル先輩~~こんな感じで良いですかぁ?」
「ああ、そんなモンだろ。――しかしこりゃあ、根こそぎやられちまったようだな。」
何で居るし、ナイアルとドロシー……否、事件があったのだからその場の取材に来るのは当然と言えば当然だが、お前達が居るとは思わなかった
から、少し驚いたよ。まぁ、ご苦労様だな。
「ご苦労さんねアンタ達も。アインスも『ご苦労様』って言ってるわ。」
「おっと、お前さん達か。」
「あー!エステルちゃんとヨシュア君!良かったね、釈放されたんだ。」
「聞いたぞ、軍の連中に廃坑でとっ捕まったんだってな?いっや~~、ホントに心配したぜ。」
「なに他人事みたいに言ってくれちゃってるかなぁ。ナイアルの情報を元に、村に行った結果なんですけど。」
「オイオイ、そりゃ逆恨みだろ?」
逆恨み……逆恨みか。
私達としては、少しでも情報が欲しかった訳で、その結果としてナイアルからの情報を元に村に行った結果として誤認逮捕されるに至った……あの
情報が無かったら逮捕されなかったが、あの情報が無かったら行方不明の定期船を見つける事も出来なかったから、ナイアルに文句を言うのは少
しお門違いだな。
で、ヨシュアがナイアル達に『廃坑に行ったか?』と聞くと、如何やら昨日の内に行ったらしい……私達が逮捕された後で。……『現場に居たら面白
い写真が撮れたんだが……ホント、惜しい事をしたぜ』とか抜かしたナイアルに対して若干クロスレンジコンボからのナイトメア十字砲(なのぽGOD
だと満タンから六~七割持ってく鬼コンボ)を叩き込みたくなったのは仕方ないだろう。
夜天宿した太陽の娘 軌跡38
『調査再開!リシャール大佐とも再会!』
しかし、この有様……矢張りやったのはアホの子空賊団の一味なのか?
「これってやっぱり空賊団の仕業なのかな?アインスも言ってるんだけど。」
「私も同意見ね……彼方達の見解を聞かせて貰えるかしら、記者さん?」
「あぁ、俺も多分そうじゃないかって思ってるぜ。
軍の連中も手掛かりを調べているらしいが……正直、何もないみたいだぜ。」
「厄介ね……」
シェラザードの言う通りだなマッタク……と言うか、ヨシュアの予想通り、軍に空賊団と内通している者が居るのならば、軍が幾ら捜査をしても何も得
られはしないだろうさ。軍の行動は筒抜けになっているのだからね。
「記者くん、ちょっといいかな?
空賊達は、街の何処から侵入したか分かるだろうか?」
「あぁ、目撃情報によると、西口方面に去ったらしいが……」
「フム、其れはオカシイな。
西口に入ってすぐの所には市長邸やマーケットもある……それらを襲った方が遥かに実入りが良さそうだが。」
……言われてみれば確かにそうだな?
オーブメント工房に強盗に入るよりも、市長邸やマーケットを襲った方が遥かに実入りは良い筈だ……尤も、市長邸に強盗に入ったら、リラがメイド
が装備できる最強の装備品であるモップを使って撃退するかもだがな。
《でも、市長邸やマーケットをターゲットにするのはリスクも大きいから、敬遠した可能性ってあるんじゃない?》
《鋭いじゃないかエステル……確かに其の通りだ。
だが、犯行時刻が真夜中ならばリスクは相当小さくなるんだ――市長殿もリラも眠っている時間帯なら大きな音さえ出さなければ気付かれるリス
クは低くなるし、マーケットに至っては店じまいして無人だからね。
短時間で金になりそうなものを得るのならば、オーブメント工房を襲うよりも、市長邸やマーケットをターゲットにした方がオリビエの言う様に実入り
が良いんだよ。》
《費用対効果?》
《若干違う気もするが、大体そんな感じだ。》
で、何時の間にやら目の前でオリビエとドロシーが漫才を繰り広げてた……あの調子で自己紹介したオリビエに対して、ドロシーが『ワインを飲み逃
げした人だ』と言った事が切っ掛けでな。
此れがオリビエが暴走しただけなら、エステルの掌に炎を宿して、大蛇薙で焼き払う所なんだが、ドロシーが居ては其れも出来ん……命拾いしたな
オリビエ。
「お前さん達が、何でコイツと一緒に行動してるのかは聞かないでおく事にするぜ……」
「ま、其れが無難でしょうね。」
だな。
取り敢えず、此処ではこれ以上の情報は得られそうにないから、別の場所に移動して聞き込みを続けるとしよう。軍が動いているのを考えると、些
かやり辛いかも知れないが、だからと言って仕事を中断する事は出来ないからね。
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被害に遭ったオーブメント工房がある南街地区での聞き込みを行ったが、此れと言って有力な情報を得る事は出来なかったな……唯一、軍が先に
話を聞いていた事で話を聞けなった、老齢の女性が残っているが、果たして彼女からドレだけ有力な情報が得られるかだ。
取り敢えず一度ギルドに戻って……
「おい、お前達。」
「ん、如何したの?」
と思った所で軍の人間が声をかけて来た……一体何用だ?
「一言忠告しようと思ってな。
幾ら市長の代理とは言え、お前達は、あくまで民間人だ。我々が調査している間にウロウロしないで貰おうか。」
「あ、あんですって~~~?」
「忠告と言うよりも警告ですね。」
ともすれば、脅しだな。差し詰め『あまり出過ぎた真似をするのなら、軍の公務妨害で逮捕する』と言った所か?……民間人を守るのが役目の筈の
軍人が、民間人に対して威圧的な態度を取るとは恐れ入る。
何とも立派な軍人だよ。
「分を弁えろと言っている。
そんなに調べたいのならば、我々が引き揚げた後にするんだな。あまり我儘が過ぎると、また牢屋に招待させて貰うぞ。」
……うん、普通に脅迫だな此れは。
だが、そうは言っても実際は何も出来まい――仮に捜査妨害をでっち上げようにしても、遊撃士にはこう言った事件を捜査する権限があるし、其れ
は軍が捜査を行った後でなくてはならないと言う規定がある訳でもない。
所詮は、軍と言う後ろ盾があるからこその虚栄……虎の威を借る狐に過ぎんか。
《如何言う意味だっけ?》
《端的に言うなら、強い奴に寄り添ってその威光に頼ってる弱虫。》
《あ、納得。》
私が言ったのと同じような事をシェラザードとオリビエも言っているしね……其れを聞いた軍の人間は、顔を真っ赤にして額に青筋を浮かべているが
な――相当に頭に来たのだろうが、激昂するのは無意識に言われた事を自覚している証だぞ。
「……何をやっているのかね。」
そんな折に聞こえて来た少し渋めの声……そして、その声と共に現れたのは金髪をオールバックにしたイケメン――
「リシャール大佐?」
アラン・リシャールだった。
まさか、こんな所で再会するとはな……グランセル城で会った時以来だから、十年ぶりだね。
「君は……エステル君じゃないか。手紙のやり取りはしていたが、こうして会うのは十年ぶりだね……あの時の少女が随分と立派になったモノだ。」
「ふっふ~ん、こう見えても、見習いとは言え遊撃士になったのよアタシは。」
「準遊撃士か……だが、君とアインス君ならば、正遊撃士になるのもそう遠くは無いだろう――アインス君は元気かな?」
「うん。ちょっと待って変わるから。」
――シュン
「……十年ぶりだなリシャール。息災なようで何よりだ。」
「アインス君か……君も元気そうで何よりだ。」
まぁ、元気が取り柄だからな私は、と言うかエステルは。
思えば私がエステルの第二人格として憑依してから十年間、エステルは只の一度も風邪すらひいた事が無いからね……エステルの身体の頑丈さ
は、全盛期の私とタメ張れるかもしれないな。
「た、大佐はコイツ等と知り合いで?」
「彼女達とは十年来の友人だよ……其れは兎も角、栄えある王国軍の軍人が、善良な一般市民を脅すとは……まったく、恥を知りたまえ。」
「で、ですがこいつ等は只の民間人ではありません!ギルドの遊撃士共です!」
「だったら、尚更だろう。軍とギルドは協力関係にある。対立を煽って如何するのだ?」
「し、しかし自分は将軍閣下の意を汲みまして……」
「やれやれ……モルガン将軍にも困ったものだ。此処は私が引き受けよう。君は部下を連れて撤収したまえ。」
「し、しかし。」
「早朝から始めているのだ。もう十分に調査しただろう。――将軍閣下には、後で私の方から執り成しておく。其れでも文句があるのかな?」
「りょ、了解しました。撤収、ハーケン門に戻るぞ!」
軍の偉そうなのがリシャールに何か言ったが、最終的にはリシャールが言い負かした形になって、一行はハーケン門に帰って行ったか……マッタク
もって、リシャールの言う様に対立を煽って何になるのかだ。
「さて、と……遊撃士協会の諸君、軍の人間が失礼をしたね。謝罪をさせて貰うよ。」
「此れは、如何もご丁寧に。
ま、此方も挑発的だったしお互い様としておきましょう。」
「そう言って貰えると助かるよ……先程も言ったように、軍とギルドは協力関係にある――互いに欠けている部分を、補い合うべきだと思うのだ。
今回の一連の事件に関しても、君達の働きには期待している。……特に、エステル君とアインス君にはね。」
此れはまた、随分と期待されてしまっているな?
十年前のあの日の邂逅以来、リシャールは私とエステルの事を手紙でも気にかけてくれていたし、『遊撃士を目指してる』と書いた時には、『君達な
らば、必ずやなれるだろう』と返事をくれたしね。
何と言うかリシャールは、モルガン将軍とは器が違う……もしも、リシャールがハーケン門の責任者だったら、軍と協力して、もっと効率的で質の高
言捜査が出来た筈だと思えてならない。
《それめっちゃ同意見なんですけど。
モルガン将軍なんかより、リシャール大佐の方が十兆万倍人間出来てるわよ!顔だってイケてるし、イケボだし!!》
《エステル、その単位はオカシイから。
まぁ、確かにリシャールは顔も良いし声も良い……白髪でヒゲで声が音割れスピーカー状態の将軍とは月と鼈どころかベテルギウスと塩素剤程の
差があるな。》
《ベテルギウスって?》
《地球から約六百四十光年離れた場所にある恒星で、その直径は木星の公転軌道の直径と同じと言う超巨大恒星だ――因みに此れが超新星爆
発を起こした場合、地球は一カ月間、夜でも昼間の様に明るいと言う、リアル『よるのないくに』になるらしい。
まぁ、其れはこの際如何でも良い事だが、此れだけ期待されているんだ、人格を交代するから、リシャールに意気込みを見せてやれ。》
《オッケー!》
――シュン
「む、エステル君に代わったのかな?」
「うん、そうよ大佐!
其れだけ期待してくれるって言うのなら、その期待に応えられるようにアタシ達も頑張るわ!ぜ~~~ったいに、あの青髪ボクッ娘をとっ捕まえて
やるんだから!」
「うむ、大した意気込みだ……だが、相手は此れだけの大事をやらかしてくれた連中だ――くれぐれも気をつけたまえ?」
「其れは分かってるって。
あと、こう言うのはあんまり好きじゃないし、あの極道親父の一体何が凄いのか全く分からないけど、アタシは皆が凄いって言う、カシウス・ブライト
の娘よ?其れは大佐も知ってるでしょ?」
「ふ、そうだったね。君とアインス君ならば、何れ彼を超える時も来るだろう……」
ん~~~、其れは如何だろう?
私が表に出てる状態ならばカシウスと引き分けに持ち込む事も出来るが、訓練の時のカシウスは本気を出してはいないからね?……本気を出した
ら、ヴォルケンリッター全員が束になってかかっても圧勝するんじゃなかろうかカシウスは?
下手すりゃ、高町なのはのSLBすら棒術具でかっ飛ばしそうな気がするからなアイツは……普通にバグだなうん。
「大佐、そろそろ定刻ですが……」
「おお、そうか……其れでは諸君、これで失礼させて貰うよ。――と、そう言えばエステル君とアインス君とは既知の仲とは言え、他の方々にはまだ
名乗っていなかったな。
王国軍大佐、リシャールと言う。何かあったら連絡してくれたまえ。」
如何やら時間の様だが、最後までスマートで紳士的だなリシャールは。――古代ベルカの王族であっても、リシャール程の男は滅多に居なかった
と記憶しているからな。
かの覇王でも紳士的な部分ではリシャールに負けるかもしれないからな。
……が、其れは其れとして、カノーネはメッチャ私とエステルを睨みつけてたなぁ?……十年前の時もそうだったけど、お前は何か?リシャールが自
分以外の女性と話す事が気に入らなくて仕方ない性質なのか?――どんなめんどくさいヤンデレだよ其れは。
「まさか、こんな所でリシャール大佐と会うとは思ってなかったわ。」
「彼がリシャール大佐……エステルが文通をしてる相手か――ナイアルさんの話では、王国軍所法部を率いる切れ者の若手将校だって言う。」
「ふむ、歳は三十半ばくらい。ルックスも悪くないと来たか……軍人よりも政治家に向いてそうね。」
あぁ、確かにそっちでもリシャールは頭角を顕わにするかもしれないな……軍人としての実力も相当だが、武力だけでなく知力も長けているからな
リシャールは。
で、リシャールが去った後、オーブメント工房からナイアル達が現れて、リシャールの事を聞いて来たので、今のがリシャールだと教えてやったら大
層驚いてたな?……名前は知っていたが、顔は知らなかったと言った所か。
だがまぁ、其れもナイアルにとっては特ダネだったみたいだね……まぁ、こんな所で噂の人物と出会えるとなったら、それは一隅のチャンスだから速
攻で後を追ったのも当然と言えば当然だな。
《張り切ってるわね~~?インタビューでもするのかな?》
《如何だろうな?リシャールは記事にしたら受けるだろうけどね。》
その後、オリビエがリシャールの事を『僕のライバルになるまではマダマダ役者不足だ』と勘違い甚だしい発言をしていたが……役者不足はお前の
方だ、此のすっとこどこいが。
お前とリシャールが肩を並べるなんて事がある筈が無い……お前は精々水色の学ランを着て、『ギュイィィィィィィン……ジャキーン!』とか、『ビシバ
シドッカーン!』とか、『今年はエディットじゃないぜ真吾!』とか言ってる未完成人だからな。
マッタク持って、お前の自信が何処から来るのかが不思議だよ、
「ふふ、其れじゃあ兵士が居なくなったところで調査を再開するとしますか。――さっき話を聞けなかった住民の人達から話を聞くわよ。」
「ん、りょーかい!」
そんな訳で調査を再開したのだが、よもや先程話を聞き損なったセシルお婆さんに話を聞いた事で、手掛かりが得られるとは思ってなかったな?
彼女の夫であるクワノ老人は大の釣り好きらしく、釣り仲間から妙な話を聞いたとの事なんだが……南の湖畔にある宿屋に滞在してる人物が、宿
屋の近くで妙な連中を目撃したと来たか。
また聞きだからとは言っていたが、如何やら真夜中に宿屋出口から街道に出た連中が居たらしいとの事だった――加えて、宿の人間は、そんな輩
は泊ってないと言っていると来た。
ヨシュアが『強盗事件は起きてないか?』と聞いたが、そう言った物騒な事は起こってないらしいが……此れは臭いな?
何も起きてないから調べる必要がないと思うのは素人考えだ――逆に何も起きてないからこそ、空賊が現れる可能性は高いと言えるからね。
《そっか、そう言う考え方もあるか。》
《この一連の事件、軍にスパイが居るかどうかは兎も角として、空賊達が抜け目ないのは間違いない――起きた事件を調べる為だけでは、連中を
追い詰める事は難しいだろう。
連中の動きを読んだ上で、一歩先を行く必要があるだろう。》
《成程……守りより、攻めの姿勢ね?》
そう言う事だ。
だから、行くとしようか……リベール一と謳われる、『ヴァレリア湖』にな……願わくば此処で、事件解決に繋がる情報を得たい所だ。今こうしている
間にも、人質は命の危機に晒されているのだからね。
果たして、ヴァレリア湖畔で何が見つかるのか……其れが今後の捜査に影響を及ぼす可能性はゼロではないから、有力な情報が見つかる事を願
っているよ。
さて、鬼が出るか蛇が出るか……
《全長10mの大蛇が出たりして♪》
《アナコンダは遠慮したいな。》
ニシキヘビ程度なら未だしも、アナコンダは大きさの桁が違うからね……まぁ、全盛期の私だったら、アナコンダが相手であっても楽勝だったと思う
けれどね。
取り敢えず、リベール一と謳われる湖畔……ドレだけ美しいのか、楽しみだな。
To Be Continued… 
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