Side:アインス


ボースからラヴェンヌ村に向かっている訳なんだが、その道中には当然の如く魔獣が存在しているので、一般人がラヴェンヌ村に行くには遊撃士の
護衛が必要になるのは間違いないだろうな。
だが、其れはあくまでも一般人の場合の事……見習いとは言え、遊撃士であるエステルとヨシュアの前ではこの程度の魔獣など取るに足らない存
在でしかない。
エステルとヨシュアのコンビは、最強だと言っても過言ではない――旋風輪での広範囲攻撃と、金剛撃の様な乾坤一擲の攻撃で一発の大ダメージ
が持ち味のエステルに対し、ヨシュアは双連撃や絶影と言った手数や素早さを生かして敵の頭数を減らすのを得意としているからな。
言うなれば力のエステルと素早さのヨシュアと言った所なんだが……普通は逆じゃないか?パワーの男性に、素早さと手数の女性だと思うんだが、
エステルとヨシュアの場合はその限りではないらしい。

ま、其れは其れとして目の前の魔獣を掃討すべきか……エステル、腰の辺りで両手を構えろ。



《其れって、アレ?》

《あぁ、アレだ。やってみかったのだろう?》

《其れは勿論!アインスの話を聞いて、一度やってみたいと思ってたのよ!》



だろうな、アレは必殺技中の必殺技だからな。……其れじゃあ行ってみようかエステル?アーツの力は高めてあるから、直ぐに放てるから遠慮せず
に行け。



「モチのロンよ!
 いっくわよ~~……か~、め~、は~、め~……波ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



――バガァァァァァァァァン!



エステルがクラフト『かめはめ波』を覚えましたってな……いや、私がアーツの力で補助してるから此れはアーツか?でも、導力魔法をアーツとして
使ってる訳じゃないから矢張りクラフトか?……まぁ、どっちでも良いか。



「エステル、今の何?光線が魔獣をまとめて吹っ飛ばしたように見えたけど……」

「アインスが元居た世界では、超有名な必殺技『かめはめ波』よ!構えた両掌にパワーを集中して其れを一気に放って攻撃するの!
 因みに今のが基本形で、より威力を高めた『超かめはめ波』、界王拳って言う技と併用した『20倍界王拳かめはめ波』、一瞬で相手との間合いを
 詰めて放つ『瞬間移動かめはめ波』、合体戦士が使う『ビックバンかめはめ波』と『ファイナルかめはめ波』って言う発展形があるらしいのよ。
 因みに究極形は、一撃で銀河をも破壊出来る『太陽系破壊かめはめ波』だって。」

「なんだかヤバそうな技ねそれ……エステル、使うのは今のだけにしておきなさい?貴女の言った発展形を使ったら地形が変わってしまうわ。」

「は~い。」



地形が変わるどころか、星すらぶっ壊しかねないモノもあるんだがな。
此れで疑似的にかめはめ波は出来たから、今度は元気玉に挑戦してみるか?純真無垢で天真爛漫、悪の心など微塵もないエステルならきっと出
来ると思うからな。アーツを利用していると言っても、元気玉の根幹を揺るがす事は出来ないからね。
其れよりも火属性アーツを利用して『火炎旋風輪』の別バージョンである『サラマンダーウィップ』を使わせるべきか、或いは風属性アーツを利用して
棒術具を振ると同時にカマイタチを発生させるのも面白いかも知れない。
時属性と幻属性を利用して『認識阻害魔法』を作って、其れをヨシュアに使った上でヨシュアの素早さと手数で敵の認識外からの攻撃と言うのもアリ
かもだ……エステルだけでなく、ヨシュアとの連携も考えるとコンボは正に無限大だ。
矢張り、エステルとヨシュアのコンビは無限の可能性があると言う事なのだろうね……この旅が終わる頃にはドレだけ強くなるのか、楽しみだな。










夜天宿した太陽の娘 軌跡34
道中の出会いとラヴェンヌ村』









そんな感じで道中の魔獣を狩りつつセピスも稼いでラヴェンヌ村の近くまでやって来た。
エステルだけでなく、アーツを応用してヨシュアの双連撃に合わせて、片方の剣に風、もう片方の剣に水の属性を付加してやったら、毒だけでなく麻
痺と凍結の追加効果も発生したか……こんな追加効果が出るとは自分でも驚きだ。
てっきりヨシュアには突っ込まれると思ったんだが、『双連撃は連続で相手を攻撃する技だから、属性は統一した方が状態異常にする確率が高くな
ると思う』と言われたのは予想外だった……使えるモノは利用する性質なんだなヨシュアは。……尤も、そうしなければ生きる事が出来なかったの
だろうけどな。



「……あれ?」



っと、なんだ?エステルを通じてな~にか見えるぞ?
頭にバンダナを巻いた赤毛のツンツン髪で、背中に身の丈以上の大剣を背負った青年か……ツンツン頭に巨大な剣と言うと、FFⅦのクラウドみた
いだな。



「おっと……シェラザードか。珍しい所で会うもんだな。」

「其れはこっちのセリフだわ。
 王都方面に行っていたと思ってたけど、アンタも事件を調べに来たクチ?」



む、シェラザードの知り合いか?……シェラザードの口ぶりから、彼も遊撃士なのだろうな――ふむ、背負った大剣を武器にしているのだろうが、ア
レを自在に扱う事が出来ると言うのであれば、腕力は相当なものがあると見て間違い無いだろう。
だが、その両腕はボディビルダーの様に太い訳ではなく、剛性と柔軟性を素晴らしい割合で備えている理想の筋肉であると言えるな?……アレに
到達するには相当な鍛錬を積んだのだろうね。



「いや、ちょっと野暮用だ。
 そういや、例の事件は空賊の仕業だったらしいな?――しかし、お前が来たんだったら安心して任せられるってもんだ。精々頑張ってくれよ。」

「何よ、冷たいじゃなのい。
 先生が捕まったかも知れないって、アンタも聞いている筈でしょ?」

「捕まった?あのカシウス・ブライトが?はははっ、冗談きついぜ!
 あの喰えないオッサンが、空賊如きに遅れをとるもんか!なんかの間違いに決まってるさ。」



其れは私も諸手を上げて賛成だ赤毛の剣士よ!
恐らくは全盛期の私でも梃子摺るであろうカシウスが空賊に捕まったなど如何考えても有り得ん……可能性として0ではないにしても、限りなく0だ
と言って良いだろう。
そもそも、カシウスなら態と捕まった上で空賊を一網打尽とか余裕でやるだろうからなぁ……空賊が身代金を要求してる時点で、カシウスが人質に
なった可能性は相当に低いさ。



《低いってドレ位?》

《宝くじで一等が当たる確率位だな。つまり二千万分の一。隕石が自分に落下して死ぬ確率よりも低い。》

《うっわ~~……其れってもしかして、宇宙人が居る確率より低くない?》

《低いな。
 宇宙の端から端までの距離は概算で凡そ百八十億光年以上と言う途方もない広さなんだ……そんな広大な宇宙に於いて、文明を発展させたの
 が地球人だけである筈がない。
 と言うか、そもそもにして時空管理局があるミッドチルダや、私の故郷であるベルカは地球ではないからな……うん、宇宙人は存在してた。
 私は宇宙人が作った人造生命体だった。》

《驚きの事実!
 時に、其れは其れとして、何なのかしらこの人?》

《さてな……シェラザードの知り合いである以上、遊撃士だとは思うのだが……》



「ところで、其処のガキ共はなんだよ?見たところ新入りみたいだが。」

「ふふん、聞いて驚きなさい。カシウス先生のお子さんよ。」



私達の存在に疑問を持った赤毛の剣士がシェラザードに尋ねたが……シェラザードよ、その紹介の仕方は如何かと思うぞ?そんな紹介をしたら、い
らぬ期待をされるだろうに。
エステルとヨシュアに不必要なプレッシャーを掛けてやるなよ。



「!……こりゃ、驚いた。あのオッサンの子供かよ。ふ~ん……コイツ等がね。…………」

「な、何よじろじろ見まわしてくれちゃって。」

「……黒髪の小僧は兎も角、そっちの娘はド素人だな。本当にオッサンの娘なのか?」

「あ、あんですってーー!?」



だが、赤毛の剣士はヨシュアは兎も角、エステルは素人と抜かしてくれたか……確かにエステルはまだまだ未熟な部分はあるが、肉体的な強靭さ
だけならばヨシュアにも負けないし、咄嗟の閃きには目を見張るモノがあるんだぞ?
ラヴェンヌ村に向かう事になったのも、元を正せばエステルがナイアル達の存在に気付いたからだからな……うん、此れはちょっとムカついたから、
代わってくれエステル。



《OK!》



――シュン!



「……髪の色が変わっただと?」

「少しだけ人格を交代させて貰っただけだ。私達は二重人格なのでな。」

「二重人格だと?」



左様で。
栗毛の方が主人格で、銀髪の私が第二人格と言った所さ――まぁ、其れは今は如何でも良いが、エステルの事をド素人とか言ってくれたが、もしも
本当にそう思ったのだとしたら貴様の目は節穴であるとしか言いようがないな赤毛の剣士よ。



「あんだと?」

「確かに普段のエステルは天真爛漫の天然娘だから、戦いの素人に見えるだろうが、いざ戦闘になったその時は、味方を鼓舞し、自身もまた渾身
 の攻撃で敵を叩きのめす――私も補助はするがな。
 エステルの潜在能力に気付く事が出来ないとは、木を見て森も見ずだ……素人は果たして何方なのかだ。」

「テメェ、喧嘩売ってんのか?」

「事実を言ったまでだが、気に喰わなかったのか?だとしたら悪かった、謝るよ。
 だが、そう言われて腹が立ったか?貴様が言った事は私が言った事と同じだ……貴様の言った事は、エステルにとってはこの上なく腹立たしかっ
 たと言う事を知れ。
 それから、エステルは正真正銘カシウスの娘だ。私は、エステルの付属品だがな。」

「因みに、僕は養子です。」



OKヨシュア、良い感じの割り込みだ。
此れで完全に会話の主導権は私達のモノだからね……自分がメインでも、補助でも行けるって、本当にヨシュアは隙の無い万能キャラだな?正に
パーフェクト超人だな。爽やかな笑顔もポイント高しだしね。



「……成程、ただの新入りじゃねえって事か…まさか二重人格とはな。おい、銀髪のテメェ、名前は?」

「アインスだ。そして我が主人格の名はエステル。通りすがりの遊撃士だ、覚えておけ。」



《アインス、通りすがりの遊撃士って何?》

《仮面ライダーディケイドの『通りすがりの仮面ライダーだ』の真似だ。》

《あぁ、元居た世界の仮面のヒーローね。》



「其れなりに出来るって事か……能ある鷹は爪を隠すってアレか……ったく、あのオッサンの娘ってのは伊達じゃねぇって事か。
 はぁ……其れじゃあなシェラザード。ソコソコ出来るようだが、ガキ共に足引っ張られないよう、精々気をつけるんだな――余計な心配だろうけどよ。

「はいはい。アンタこそ突っ張り過ぎて痛い目に遭わない様に注意なさい。」

「ハハ、肝に銘じとくぜ。」



其れだけ言うと赤毛の剣士は行ってしまったか……シェラザード、奴は何者だ?



「成程……今の人が『重剣のアガット』か。」

「「重剣のアガット?誰それ?」」

「声がハモってるわよ~~。
 彼はアガット・クロスナー。遊撃士協会の正遊撃士よ。特定の支部を決めずに、各地を回りながら活動してるわ。
 得物は、魔獣を一刀両断出来る程の質量のある大剣……言っておくけど、可成りの凄腕よ?」



其れは分かるが、如何に凄腕であろうと、私からしたらまだまだヒヨッコに過ぎん――確かに可成りの手練れであるのは間違い無いだろうが、将と
比べたらマダマダだよ。
其れに、初対面の相手に対してあのような無礼な態度をとるのでは、一流には程遠い――三流とは言わんが、二流、良くて一流半だろうさ。



《同感!凄腕でも失礼な奴にかわりはないし!――そう言えばアイツも父さんの知り合いみたいだけど?》

《カシウスの実力は認めているが、好意的とは言えない態度だったな……ま、色々事情があるんだろう。その色々で、カシウスに突っ張っているの
 だろうさ。》

《ふーん……まぁ、如何でも良いか、あんな失礼な奴なんか。ラヴェンヌ村に急ぎましょ。》



――シュン!



っと、強制人格交代か……単純な力では私の方がエステルよりも上なのだが、この身体の所有権はエステルにあるから、例え引っ込んでいても、
エステルの方は自由に表に出てこれるからな。
取り敢えずゴールは近いから、ラヴェンヌ村に急ぐとするか。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



さて、ラヴェンヌ村に到着。
何と言うか、のどかな場所だな。



「アインスがのどかな場所だって……うん、其れはアタシも思った。あ、果樹園があるんだ。」

「果物の生産で知られてるけど、その昔は採掘で賑わったそうよ。
 北の方に、廃坑になった七耀石の鉱山があるって聞いたわ。」

「随分詳しいですね。前にも来た事があるんですか?」

「正遊撃士になるために、修業の旅をしていた頃にね。
 あの時は、飛行船に乗らずに王国全土を歩き回ったもんだわ。」

「え、どうして?飛行船を使った方が便利なのに。」

「『飛行船は確かに便利だが、五大都市しか行き来していない。その便利さに慣れてしまうと他の場所に目が行き届かなくなる。
  先ずは、自分が守るべき場所を実際に歩きながら確かめてみろ……』――そんな風にカシウス先生に勧められたのよ。」



カシウスが……だが、深く、そして的を射ている言葉だな。
何か事件が起こった際に、其処が行った事の無い知らない場所だったら、到着した時には手遅れになっていたと言う事になってしまう事があるかも
知れないからな。
それから、犯罪者を追いかける際にも地理を知っていた方が有利だしな……私の場合は空からの追跡が可能だから例外だが。
まぁ、其れは兎も角、例の目撃情報について調べてみる事にしようか?



「ヨシュア、シェラ姉、アインスが目撃情報について調べてみようって。アタシもそう思うんだけど如何かな?」

「そうね、そうしましょう。……それにしても、随分気合が入ってるじゃないのエステル?」

「アガットにあんな風に言われて黙ってられる筈ないでしょ?アインスが出張ってくれたから少しはアレだったけど、何で初対面であんな言われ方さ
 れなくちゃならないのよ!
 シロウトとか言ってくれちゃって……この事件を解決して、鼻あかしてやるわ!
 取り敢えず、村の人全員に話を聞いて行けばいいのかな?」

「やる気があるのは結構だけど、行き成りだと不審に思われるよ。――先ずは、此処の村長さんに話を聞いてみた方が良いと思う。」

「ん、分かった。」



ふふ、アガットに言われた事が相当腹立たしかったみたいだなエステルは……だが、そのやる気が若干空回りしてしまうのもまたエステルなんだけ
れど、其れもヨシュアのフォローで空回らずに済むか。
ヨシュア、お前本当に優秀だな。私でも頼りになると思ってしまうよ。


で、村長宅に到着。
村長は来客に気付いたみたいだな。



「ほう、見かけない顔じゃな?果物の買い付けにでも来たのかね?」

「いえ、商人じゃ――「ううん、アタシ達は商人じゃなくて、遊撃士協会からやって来たの。貴方が、この村の村長さんよね?」……ちょ、エステル?」



おーい、シェラザードに被るようにして言うのは如何かと思うぞエステル?
まぁ、その元気一杯な姿の方が村長の印象には残るかも知れないがな。



「うむ、まぁ一応はそう言う事になっとるが……遊撃士協会と言ったな。若しかしてアガットの仲間かね?」

「ま、確かに同僚ではあるけど、一緒に行動してる訳じゃないわ。――顔見知りと言ったところかしら。」

「そうか……相変わらず一人で居るのか。」

「如何したの、村長さん?」

「や、こりゃあ失礼した。
 其れで、遊撃士諸君が此の辺鄙な村に何の用事かね?」



今の村長の態度……アガットの事を知っているのか?其れも只知っているだけじゃなく、もっとこう……何と言うか、アガットが子供だった頃から知
っている様な感じだったが、今は其れを追及している時ではないな。



「まさか、この辺りで手配魔獣でも出おったか?」

「いえ、実は……定期船消失事件について調べている最中なんです。此方で目撃情報があったという話を聞いたのでお邪魔しました。」

「なんじゃ、その話かね。」



うむ、相変わらず実に良いタイミングで話に入ってくれるなヨシュアは。お蔭で、村長から話を聞く事が出来た――其れを纏めると、


・先日王国軍の兵士達も調べに来たが、結局この辺りを調査して帰ってしまった。
・空を飛ぶ影を見かけたのは『ルゥイ』と言う名の村の少年。


この二つだな。
村長はルゥイと言う少年の話を、『子供の言う事だから夢でも見たのかも知れない』と言っていたが、私にはそうは思えんな?もしも夢であったのな
らば、逆に『空を飛ぶ影』なんて言う曖昧なモノではなく、もっとハッキリとしたモノになる筈だ。
其れこそ、『空飛ぶ円盤を見た』と言っても良い位さ。
だと言うのに『空を飛ぶ影』と言う曖昧さ……逆に現実味があるってモノだよ。

《取り敢えず、そのルゥイと言う少年からも話を聞いた方が良いだろうな……何かの見間違いの可能性もあるだろうが、彼の目撃証言が大きなカギ
 となると私の勘が言っているからな。》

《アインスもそうだったの?実はアタシもなんだ。
 何て言うか、此の目撃証言がタダの見間違いとかじゃないって、なんか直感的に思っちゃったのよ。》

《その直感は大事だぞ? ヨシュアのように理論で裏付けされた判断も勿論素晴らしいが、お前のように直感で限りなく正解に近い答えを選ぶ事が
 出来ると言うのもまた、類稀な才能だから誇って良いと思うぞ。》


《なら、その直感をもっと磨かないとよね!》



あぁ、その意気だエステル。
お前の究極の直感と、ヨシュアの究極の理論が合わされば、其れもう鬼に金棒、悪魔に知性、高町なのはに私と言う位に最強だからな――と、其
れは兎も角、話を聞く相手は一人に絞られたね?
ルゥイと言う少年に話を聞いてみるとするか――果たして、彼は一体何を見たのか?若しかしたら、軍すら見落としてしまった七耀石の結晶を手に
出来るかも知れないな。









 To Be Continued… 





キャラクター設定