Side:アインス


最強最大の一撃をブチかました事で、私達の魔力も底を尽いて完全人格融合状態も強制的に解除されてしまったのだが、外道教授も異形の存在から元に戻った様だな?
私とエステルは完全人格融合を使った反動で暫く戦う事は出来ないが、ヨシュア達はマダマダ余裕で戦闘可能だから、貴様はここでチェックメイトだな外道教授よ?



「そ、そんな……《輝く環》が……き、消えてしまっただと……馬鹿な……そんな馬鹿なぁぁぁぁぁ!!」



とは言っても現実なのだがな其れが……完全人格融合状態での最大級の一撃は、外道教授が取り込んだ《環》ですら消し飛ばしてしまったと言う事なのだろうが、だとしたら恐ろしい事この上ないな?
無限の力すら吹き飛ばすとは……この集束砲の本来の使い手が使った場合は、最早星や太陽は元より銀河系まで破壊してしまうかも知れんな。
等と考えている間に外道教授は転移術でいなくなってしまったか。



「!!!」

「逃げられて……しまいましたね?」

「逃げたところで切り札を失い、アレだけのダメージを受けた状態では何が出来る訳では無かろう……其れよりも、完全人格融合状態とやらが解除されたみたいだが、大丈夫かエステル・ブライト、アインス・ブライト。」

「大丈夫とは言い難いな……あの状態で最強最大の一撃を放った事で、周囲から力を集めたとは言え私達の魔力やらなにやらはもうすっからかんだ。
 暫く戦闘は無理だな。」

「まぁ、立って歩く位は普通に出来るから大丈夫だけど。」

「動けるのならば問題ないが……《環》が消えてしまったと言う事は、リベル・アークを構成している根幹の力が失われたと言う事になるからな……間もなくリベル・アークは崩壊に向かう筈だ。
 完全に崩壊する前に脱出するぞ!」



ラスボス倒したら最終ダンジョンが崩壊するパターンだったか!
幸いにして此処から塔の上部まではレーヴェのドラギオンが連れて行ってくれたが、其処から先の道中は皆と合流したとは言え中々のハードモードと言えるかもしれん……来る時に倒した敵がまた再配置されているのだからな。
まぁ、私とエステルが戦闘不能でもレーヴェがその穴をキッチリと埋めてくれた上に、ドデカイ奴はドラギオンが食い止めてくれたから何とかなったが、塔からもう少しで脱出出来ると言うところで汎用ドラギオンが五機も現れ、レーヴェのドラギオンは私達を先に行かせる為に其の場に残る羽目になってしまったのだけれどね。

……そう言えばケビンは何処だ?姿が見えないが……まさか、はぐれたと言うのか!?……だとしたら一体何処に?……まぁ、アイツも星杯騎士なのだから大丈夫だとは思うがな……










夜天宿した太陽の娘 軌跡Final
『空の軌跡SC~夜天宿した太陽の娘~』











Side:ケビン


さてと、ちゃっちゃと俺の目的を遂行させて貰うとしよかな?
剣帝が味方になってくれた事、ヨシュア君が賭けに勝った事、エステルちゃんとアインスちゃんがトンデモナイ切り札使ってくれて、これまたトンデモナイ技ブチかましてくれたお陰で思いのほか任務は楽に遂行出来そうやね。



「……馬鹿な、こんな馬鹿な……こんな事態《盟主》の予言には無かった……ま、待てよ……た、試されたのは私も同じだったと言う事か?
 くっ……戻ったら問い質さなくては……」



なんや言っとるけど、其れは無理やね。



「ケビン・グラハム……何時の間にこんな所に……どけ!貴様の様な雑魚に関わっている場合ではない!」

「おぉっと、そうはさせへんで?」

「!?……貴様、《魔眼》が効かないのか?いくら星杯騎士とは言え、新米如きに防げるはずが……」



おぉっと、此れは意外やな?俺の事をホンマに新米と思ってくれてたとはなぁ?……あ~、スマン。ちょいと三味線弾いてたわ。
俺は騎士団の第五位。それなりに修羅場は潜っとる。ま。其れでも本調子のアンタに勝つのは難しかったけど……今なら付け入る隙があるからな。



「なに……?」

「取り敢えず、此れでも喰らっとき。」

ボウガンで一発かましてやったんやけど、心臓ぶち抜いたのに死なんとは、蛇の使途はやっぱり一筋縄では行かへんか……せやけど、その矢を喰らった時点でアンタはお終いやでワイスマン。



「なに……?」

「俺の本当の任務は《輝く環》の調査やない……最悪の破戒僧、ゲオルグ・ワイスマン――アンタの始末と言う訳や。……ソロソロ身体に異変、現れる筈やで?」

「なんだと……ぐ……!?こ、これは身体が……此れはまさか……!!」



《塩の杭》……まぁ、アンタには説明せずとも分かるやろ?嘗てアンタの故郷を滅ぼしたモノやからね……この矢は、その《塩の杭》を細心の注意を払って加工したモンだったと言う訳や。



「私一人を始末する為に、そんなモノまで持ち出したと言うのか……!」

「アンタは少々やり過ぎた……いくら教会が中立でも最早見過ごす訳には行かん……大人しく滅びとき。」

「オノレ……狗がぁぁ!!」



いや、断末魔の叫びが其れでえぇんかい……ま、狗か、其の通りなんやけどね。――ヨシュア君、君は運がいいで……俺と違って、まだまだやり直せるんやからな。
其の後は、《道化師》の少年が現れ、塩の塊になったワイスマンを砕いて『落とし物』とやらを回収しよったわ……『落とし物』については俺の権限外やし、急いでエステルちゃん達に合流せんとな。








――――――








Side:アインス


崩壊するダンジョンからの脱出と言うのは、全く無関係の第三者としてアニメや映画を見ている分には手に汗握る展開なのだが、自分が体験するとなると此れは相当なモノだな?
塔を出てからはクローゼの持つ《ゴスペル》によって敵から襲われる事は無くなったが、急激な導力低下の為か、レールハイロゥは使えなくなっているから地下を通って公園区画まで行かねばならん……とは言え如何せん距離があるな?なんかこう便利なカードは持って来てないのかシュテル?



「迷宮変化のカードに一縷の望みを託しましょうか?
 若しかしたら良い感じにルートを作り替えて、アルセイユまで直通ルートを作ってくれるかもしれません……巧く行かなかったその時は、より複雑で難解なルートが構築されるでしょうが……」

「すまん、今のは忘れてくれ。」

と言う訳で、何時の間にやら合流していたケビンも一緒に只今絶賛公園区画に向かって全速力で移動中なのだが、その最中にヨシュアが突如膝をついてしまった――エステルは直ぐに駆け寄り『何処か怪我をしていたの?』と聞くも、ヨシュアは『何でもないよ……ちょっと眩暈がしただけだから。』と返して来たのだが……突然眩暈って、如何考えても大丈夫ではないと思うのだがな?



「眩暈って……如何してイキナリ……」

「……多分、《聖痕》が消滅した後遺症やろね。」

「矢張り、そう簡単に《聖痕》を取り除く事は出来ないと言う事か……」



《聖痕》が消滅した後遺症……ケビン曰く『意識の根っこに巣喰ってた部分だから、其れを取り除いたら何らかの形で揺れ戻しが起こる』との事で、眩暈や吐き気、頭痛なんかに暫く苛まれるか……だとしたら、その状態でよくあの外道教授と戦ったモノだな?
其れだけ奴を倒さんとする意思が強かったと言う事かも知れんが。



「そんな……」

「良いんだエステル……全て覚悟した上で、ケビンさんにお願いしたんだから。」

「素晴らしい覚悟だが……眩暈に頭痛に吐き気って、其れは若しかしなくても状態異常回復系のアーツやクラフトで回復出来るのではなかろうか?」

「「「「あ……」」」」



いや、レーヴェも気付かなかったのか……まぁ、状況が状況だし仕方ないかも知れないが――取り敢えずヨシュアの不調はケビンにアーツで直して貰って脱出を再開したのだが、大きな橋に差し掛かったところで、ヨシュアがエステル……引いては私をも巻き込んで橋のスタート地点に押し戻して来た。
なにかと思ったら巨大な瓦礫が落ちて来て、橋を破壊してしまったか……万全の状態であれば私が砕く事も出来たが、今の状態では其れは難しいからヨシュアの判断はナイスだった訳だが、私達は此れでは向こう側に行けないな?
魔力が空っぽ故に飛ぶ事も出来ないからね……流石にシュテルにエステルとヨシュアの二人を抱えて飛べと言うのは無理があるしな。



「エステルさん!アインスさん!!」

「ヨシュア!!」

「クソ、なんてこった……他に通り道はねぇのかよ!」

「《中枢塔》に向かう道は、此処だけだった筈よ……」

「シュテル君、レオンハルト君、君達でもなんとかならないのかね?」

「この距離を飛び越えるだけならば可能だが、二人を抱えて、更にまた振って来るであろう瓦礫に対処しろとなると可成り厳しいな……最悪、三人、いや四人纏めて奈落の底だ。」

「こんな事ならば、『マジックアーム・シールド』のカードを持って来るべきでした……」



つまり現状打つ手はない訳だが……此れだけの空中都市に於いて公園区画から中枢塔に向かうルートが此れ一本とは考え辛い。
直通ルートでないにしても他に道がある筈だから、其方を探すのが上策と言うモノだろうな……だからクローゼ、お前達は先に公園区画に向かえ!私達も必ず追い付くから!



「アインスさん、ジョゼットさんの話によると、《中枢塔》の手前で別の地下ゲートを見掛けたとの事です!《カルマーレ》に通じる避難通路と書いてあったそうです!!」

「エステルちゃん、アインスちゃん、ヨシュア君!もう他に選択肢は無さそうや!そっちからアルセイユに戻るんや!」

「うん……!」

「分かりました……!」

「必ず戻る……!」

「アルセイユで待っています……!」

「うん!皆も気を付けて!」



其処から今まで来た道を戻って一度外に出て、《中枢塔》の手前にある地下ゲートへと向かおうとしたのだが、此処で大きな揺れが起き、目の前の通路がまさかの崩落……!
此れでは先に進む事は出来ないので、戻ろうとしたら今度は其方の通路が崩落……私達は見事に通路を支えている支柱の部分に取り残されてしまったと言う訳だ――此れはもう絶体絶命かも知れん。
映画やドラマの中ならばこの絶体絶命の状況で救いの一手が現れるモノだが、現実とは非常なモノだ……レーヴェのドラギオンも、恐らくは汎用型ドラギオンの大群と相討ちになってしまっただろうからね……最早、此処までか。



「戻れなく、なっちゃったね……」

「うん……多分、下の細い梁じゃ此処は支え切れないだろう……」

「だろうな……もって数分と言ったところか……」

「……ゴメン、エステル。アインス。僕があの時足を縺れさせなければ……」

「そうゆうのは言いっこなし……アタシだって瓦礫の下敷きになるところをヨシュアに助けて貰ったしね。」



そしてもっと言うのならば、私に魔力が一割でも残っていれば此の状況は如何にでもなったのだからな……完全人格融合は、マダマダ研究の余地があると痛感させられたよ――その研究をこの先出来るか分からんがな。



「でも……」

「えへへ……何でかな?こんな状況なのに、ちっとも怖くないのよね。……ヨシュアはどう?」

「あ……そうだね……僕も、全然怖くないかな。」



だが、確かに恐怖は微塵もない……絶体絶命の状況だと言うのにな。
崩落は少しずつ、そして確実に進んでいるが、此処でエステルはヨシュアに『二つお願いしたい事がある』と言い、ヨシュアも『良いよ』と了承した……一つ目は『アタシの事、抱きしめててくれる?』とのモノで、其れを『喜んで』とヨシュアは聞いてくれたか。
ふむ……此れは、私は背を向けているべきかも知れんな。



「それから?」

「えっと、その……しつこいって思われたらちょっと嫌なんだけど……やっぱりその、悔いは残したくないって言うか……」

「ゴメン。その先は僕に言わせて。……エステル、キスしても……良いかな?」

「あ……うん……!」



まぁ、そうなる流れだよな此れは。
エステルとは五感を共有しているからキスされた感覚は私にもあるんだが……グランセル城での時とは違い、其処に悲しさはない。あるのはエステルとヨシュアの純粋な《愛》だけだな。
そしてキスを終え、互いに抱きしめあった状態で……遂に足場が崩落したか。
紐無しバンジー……にしたってこの高さは有り得んだろうに――我が主の世界には、『パラシュートなしで高度1万30mから落下して助かった』と言うギネス記録があったが、其れはあくまでも空中分解した飛行機のパーツに身体が包まれていた事、地面に垂直に落ちるのではなく滑るように落ちた事、落ちた場所が木等のクッションになるモノがあった事などの幾つもの偶然が重なった結果だからな?……下はヴァレリア湖とは言え、この高度からでは水のクッションは期待出来ないか……せめて一割でも魔力が残っていたのならば、地上までの滑空位は出来たのだがな。



――ゴォ!



と思ったら、下から何かが現れて落下する私達を受け止めてくれただと?……此れは……いや、そんなまさか……お前なのか、レグナート!



「ちょ、ちょっとレグナート、どうして貴方が此処に!……其れに、なんで父さんまで居るのよ?」

「なに、王国全土の導力がようやく回復してくれたんでな。
 モルガン将軍に後事を任せて、こうして彼に乗せて貰ったんだ。」

「ちょっと散歩序にみたいなノリでドラゴンに乗る奴など、世界広しと言えどお前だけだと思うぞカシウスよ?……我が義父ながら、マッタクもってトンデモない男が存在していたモノだよマッタク。」

「ホントよね!」

「此れは流石に驚いたけど……初めまして、レグナート。貴方の事はエステルとアインスから聞いています。
 危ないところを助けて頂いて、本当にありがとうございました。」

『ふふ、礼には及ばぬ……新たな風が吹いたのでな、そのついでに翼を運んだだけだ。』

「えへへ……でも本当に助かったわ。
 あれ?でも貴方って、人を見守るだけの存在なのよね?アタシ達を助けて良かったの?」

『其れは《輝く環》を前にお主等が答えを出すまでの事だ――そして答えが出された今、古の盟約は解かれ禁忌も消えた。
 故に《剣聖》の頼みに応じ、こうして迎えに来たと言う訳だ。』



古の盟約……ふむ、サッパリ意味が分からん。エステルだけでなくヨシュアも頭の上に大量の?マークと、其れを模したアンノーンが浮かんでいるみたいだからな?……因みにお前は分かるかカシウス?



「安心しろ、俺にもさっぱり分からん。
 何しろこの堅物と来たら肝心な事は碌に喋ってくれないのだからな。」

『ふふ、許せ。竜には竜のしがらみがある。
 只一つ言える事は運命の歯車は、今正に回り始めたばかりと言う事だ。
 そして、回り始めた歯車は最後まで止まる事はない……心しておく事だな。』




つまり、此れは終わりではなく始まりと言う事か……尤も、カシウスが言うには、『その運命は別の場所で別の者が引き受けるだろう』との事だったが、もしもその運命に交わる時があれば、其の時は全力で立ち向かう、それだけだな。
そして、レグナートはアルセイユと山猫号の前に姿を現し、私達の無事をクローゼ達に伝えてくれた。
其のままアルセイユと山猫号とレグナートはハーケン門に着陸したのだが、クローゼ達には滅茶苦茶『心配した』、『もうだめかと思った』と言われてしまったが……まぁ、此れは仕方あるまいな。
何にせよ、今回の一件は此れにて無事決着した訳だが、《結社》の襲撃によって破壊された王都と王城、リベル・アークが落下したヴァレリア湖など、復興すべき場所は多いから、大変なのは寧ろ此処からなのだが……其れも、この仲間達とリベールの皆が居れば、きっと何とかなるだろうな。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



其れから暫くして、私とエステルとヨシュア……そしてレーヴェは、嘗てのハーメル村を訪れていた。
此処が村だった頃の面影は最早無く、あるのは『ハーメルの悲劇』の後に建てられた犠牲者を弔う石碑のみ……死者に個別の墓すら作る事すら出来なかった事を考えると、ハーメルの悲劇の業は深いのだが、ヨシュアもレーヴェもその顔に哀しみの色はない。
寧ろようやくこの場を訪れる事が出来たと言う安堵が浮かんでいるくらいだ。



「姉さん、ただいま……」

「十年か……随分と待たせてしまったなカリン……遅刻にしても遅すぎたな。」



ヨシュアはボースのマーケットで購入した菓子を供え、レーヴェは己の剣を石碑の前に突き刺す……ボースのマーケットで剣を購入していたのは、此れまで使って来た愛剣を此処に捧げる為だった訳か。
其の後、エステルは花を、私は酒を供えたのだが……



「では、我からは闇の供物をくれてやろう!」

「王よ、其れはとってもいらない。」

実は私達以外にももう一人居たんだ……其れはシュテルと入れ替わるようにやって来た王。
レヴィからこの世界の事を聞いていたらしく、即私達に付いて来たのだが……此れは、此れからの旅路は中々に賑やかなモノになるのかもしれないだろうが、だがしかし其れも悪くない。
ヨシュアとレーヴェにとっては《結社時代の贖罪の旅》だが、だからと言って私とエステルが同行しない理由は何処にもないのだからな――其れに、訪れた先で《結社》が何をしないとも限らん……何が起きるか分からん旅だが、だからこそワクワクすると言うモノだ。



「――行こう、エステル。
 道が何処に通じているのか、今は未だ分からないけど……きっとその先に、何か見えて来ると思うから。」

「うん!アタシ達のペースで、一歩一歩、歩いて行こうね。」

「未来に向かってか……あのまま《結社》に身を置いて居たら、考える事すらなかったかもしれんな……」



我が主、見えていますか?
貴女の前から消えてしまった私ですが、新たな場所で新たな仲間と共に、こうして私は生きています――私は此の世界で生きて行きます。太陽の娘の命が尽きる其の時まで、彼女と共に。
だから、せめて祈って下さい――夜天宿した太陽の娘に、最高にして最大の祝福が訪れる事を……!









 ~Fin~





キャラクター設定







夜天宿した太陽の娘

原作:空の軌跡シリーズ、リリカルなのはシリーズ

STAFF



企画・原案:吉良飛鳥



ストーリー構成:吉良飛鳥&kou



文章更生:kou



Specialthanks:読んでくださった読者の方々。



Thank you For Reading



Presented By 吉良飛鳥


後書きへ