Side:アインス


まさか此の土壇場でヨシュアと戦う事になるとは予想していなかったが、此れは逆に言えばヨシュアを取り戻す好機とも言えるかも知れんな?
外道教授の聖痕とやらで操られてしまったヨシュアだが、其れは裏を返せば聖痕だけを破壊する事が出来ればヨシュアは正気を取り戻して戻って来ると言う事でもあるからな。
ならば、私達のすべき事は分かるなエステル?



「教授がヨシュアに刻んだ聖痕を破壊してヨシュアを教授の呪縛から解放する……!」

「その通りだ。」

とは言え、其れは決して簡単な事ではないだろう――外道教授の人形となってしまった事でヨシュアは一切の感情が無くなり、だからこそ人間が理性で抑えているリミッターが解除されて超人とも言うべき存在になっているだろうからね。……其れよりも、来るぞ!!



――ガキィィィン!!



「……ヨシュア!!」

「……………」



こんなに感情の無い目でエステルを見ると言うのは、此れまでのヨシュアからはとても想像が出来ん……あの空中移動要塞で再会した時も感情の無い目をしていたが、アレはヨシュアが意識して感情をオフにしていたからであり、感情がマッタク無いのとは異なるからね。
そして、矢張り強いな……ユニゾンレベル2に覚醒した状態で漸く互角に打ち合える程とはな――ヨシュアを取り戻した先に外道教授との戦いが待っている事を考えると出来るだけ私達の消耗は抑え、ヨシュアへのダメージも抑えたい所だが、其れも中々難しいかも知れん。

愛し合う者同士をこうして戦わせ、自分は其れを高みの見物とは何処までも性根が腐っている……いや、腐り切っているな外道教授は?一体如何を如何やったらあそこまで根性が腐り切るのか少しばかり教えて欲しいモノだ。

さてと、聖痕がヨシュアを支配していると言うのならば聖痕を破壊すれば良いのだが、果たして如何やったら破壊出来るのかが問題だ――物理的な攻撃で破壊出来るのか、魔法攻撃なのか、其れともステータス異常を解除するアーツや魔法なのか……取り敢えず、出来る事は全て試してみるしかないのだが、ヨシュアへのダメージを最小限に止めなければならないから、此れは中々に難易度の高いミッションかも知れないな。










夜天宿した太陽の娘 軌跡149
『《聖痕》を壊せ~太陽の思いと漆黒の賭け~』









先ずは普通に棒術具で聖痕を殴ってみたが効果は無し。
続いて棒術具の先に『幻』、『空』、『時』の特殊属性三種を付与して殴ってみたが此れも効果は無し――序に直接アーツをぶつけても全く効果は無し。
状態異常解除系のアーツも試してみたが此れも効果は無し……矢張りそう簡単に破壊出来るモノではないか。



「ヨシュア!アタシが分からないの!ねぇ、ヨシュア!!」

「…………」

「ククク……何を言おうと無駄だ。
 聖痕によってヨシュアは最早私の言葉に従う以外の行動を執る事は出来なくなっている。
 そう、最愛の少女の言葉すら今のヨシュアには届かないのだよ。」

「教授……アンタ地獄に落ちるわよ?」



この腐れ外道には地獄すら生温いがな。
しかし如何したモノか?聖痕が破壊出来ないのではヨシュアを取り戻す事が出来ないし、かと言ってこのまま戦っても千日組手になってしまい、最悪の場合は消耗して動けなくなったところを外道教授に、等と言う事になり兼ねん――何か良い一手は無いモノか?



《そう言えばアインス、塔に入る前にヨシュアはケビンさんと一緒に少し遅れて入って来てたわよね?一体何をしていたのかしら?》

《言われてみれば確かに謎だが……ふむ……》

ヨシュアはケビンと何をしてたのか、か……記憶が戻った事で、ヨシュアは聖痕の存在を思い出して其れが何であるのかも理解していたと仮定して、ケビンは星杯騎士なので聖痕の事も知っていた。
となると、ケビンは聖痕を消す術を持っていた可能性が高い……クルツの封印された記憶を呼び起こす事が出来るんだから、星杯騎士の秘術の中にはそう言った類のモノが有っても何ら不思議ではないからね。
となると、塔に入る前にヨシュアはケビンに聖痕を破壊する為の何かをして貰ったのだろうが、今こうして聖痕の支配下にあると言う事は、聖痕を破壊する為の術式には其れが発動する為に必要なトリガーが設定されていると言う事か?
ならば、そのトリガーは何だ?

考えろ……外道教授が何故ヨシュアとエステルを戦わせたのか……外道教授ならばもしもエステルが負けてヨシュアによって殺されたら何をするか……よし、道が見えた!
エステル、遅延式の回復魔法を掛けたからヨシュアの攻撃を受けろ!私の考えが正しければ、其れでヨシュアの聖痕は破壊される筈だ!



「ちょっと、其れって可成り怖いんですけど……でも、そう言う事なら……!!」

「…………」



直後に放たれた『ファントム・レイド』を喰らい、此の一撃で一気に大ダメージだ……遅延式の回復魔法を掛けておいたとは言え、うん普通に痛いな。
其れを見た外道教授は満足そうに笑い、『如何やら剣聖の所に預けた甲斐があったみたいだね?これでまた私の作品の完成度が上がったと言う訳だ。』なんて言ってくれたよ……コイツは後でフルボッコにしてやらねばな。



「さて、真の余興は此処からだ。ヨシュア、彼女を無力化したまえ。」



そう言った次の瞬間、ヨシュアが飛び掛かって来てエステルに馬乗りになってしまった……普通ならば完全に絶体絶命だが、私の考えが正しければ此れが正解の筈なんだ。
もしも不正解だった其の時は、強引にヨシュアを吹き飛ばすしかないんだがな。



「エステルちゃん!」

「エステルさん!」

「エステル・ブライト……止めろヨシュア!」

「ククク……如何やら君では人の強さを証明出来ない様だね。
 だが、私も学者の端くれとして実証の必要性は理解している心算だ――だから、君の代わりにヨシュアに証明して貰うとしよう。
 なぁに、簡単な実験だ……このままヨシュアに君の息の根を止めて貰う。然る後暗示を解いて元に戻してあげると言うだけさ。……フフ、果たしてヨシュアはどんな表情を浮かべるのだろう?
 ゾクゾクするとは思わないかね?」



成程、そうやって今度こそヨシュアの心を完全に殺す事がお前の目的と言う訳か。
『そうなれば、今度こそ完全に心が砕け散ってしまうだろう――だが、そうなったらまた私が新たな心を作ってやれば済む事だ。そしてもう一度、同じように人に戻るチャンスを与えるとしよう……フフ、今から楽しみだよ。』と来たか……此れを聞いたエステルも『止めて、そんなの酷過ぎるよ』と言ったが、外道の耳には馬耳東風だな。



「ククク……其れではヨシュア、トドメを刺してあげたまえ。」

「…………」



外道教授の最終命令に、ヨシュアは剣を両手で持ってエステルに突き刺そうとする……この状況でもアースガードを使う事は出来るからトドメにはならないのだが、其れでも傍目には絶体絶命だろうな。



「ヨシュア……ごめんね、絶対に死なないって言ったのに。
 ごめんね……一緒に歩くって約束したのに。」

「ヨシュア……其の手を止めろ!!」

「でも、アタシは信じてるよ……ヨシュアは絶対に負けないって……アタシが居なくなっても、現実から逃げたりしないって……」

「ゴメン、ちょっと自信はないかな。」



エステルももう無理だと思って、自分の思いのたけをヨシュアにぶつけたが、次の瞬間馬乗りになっていたヨシュアが消え、そして外道教授に一撃を加えた事で、レーヴェ達の金縛りも解けたか……如何やら、正解だったみたいだな?
序に、遅延の回復魔法が発動して、エステルも元気一杯だ!



「ヨシュアさん……!」

「へへ、金縛りが解けたか……」

「ふ、正気を取り戻したか……何処までも手間の掛かる奴だ。」

「ヨシュア……?」

「ごめんエステル。其れにアインスも。随分と辛い思いをさせてしまったみたいだね。」

「私は兎も角、エステルは相当に辛い思いをしたぞ?
 なので、その侘びとして事が済んだらエステルと王都でデートしろ。勿論デート代はヨシュア持ちで、その日は王都のホテルの最高級ルームに泊まって一緒のベッドで寝るように。」

「よ、ヨシュアと一緒のベッド!///」

「……善処するよ。」



うん、もうすっかり何時ものヨシュアだな。
其れを見た外道教授は『馬鹿な……あの状態から意思を取り戻せる筈が……』と言っていたが、ヨシュアの肩にあった聖痕が無くなっている事に気付き『肩の聖痕は如何したのだ!』と聞いて来た。ならば、答えてやれヨシュア!



「もう、僕の深層意識に貴方の刻んだ『聖痕』はない。たった今、砕け散ったからね。」

「な、なに!?」

「『聖痕』のある一点に、暗示の楔を打ち込んで貰ったんだ。
 そして、其処に負荷が掛かった時、『聖痕』が崩壊するような自己暗示を僕はずっと繰り返して来た。」

「あ、暗示の楔?」

「此のままだと、君との約束が果たせなくなりそうだったからね。塔に入る前にケビンさんにお願いしたんだ。」

「やっぱりケビンさんが係わってたのね!?」

「いや~、相談された時はどないしようかと思ったわ。
 正直、其の一点を外したら取り返しの付かない事になる可能性が高かったからな……でもヨシュア君、見事、賭けに勝ったやないか。」

「はい、本当にありがとうございました。」

「ケビン・グラハム……騎士団の新米と侮っていたが、小癪な真似をしてくれる……!」

「ま、此れも女神の導きやろ……教会から抜けたアンタには分が悪かったかも知れんな――其れに、俺はあくまでもお手伝いをしただけや。助言者は他に居るさかいな。」

「なに?……まさか、カシウス・ブライトの入れ知恵か!」



バッチリとヨシュアは自我を取り戻し、聖痕も消えてなくなった。
そして今回の一件にもカシウスが絡んでいたか……聞けば、ハーケン門での一件の際に、アルセイユでリベル=アークに向かう前に、ヨシュアはカシウスから『聖痕』を消すヒントを教えて貰っていて、『ワイスマンとやらの行動を見抜いて自由を勝ち取って見せろ』とも言われていたらしい。



「カシウス・ブライト……其処まで読んでいたとは、流石だな。」

「父さんらしいと言えばらしいけどね。」

「あの親父、一体何手先まで読んでいるのか……カシウスにチェスや将棋で勝つのは超高性能AIでも無理なのではないかと思ってしまうよ。」

「カシウスさんは、ホントに底が知れませんからね。」



つまりカシウスは底なし沼だな。
其れは兎も角、ヨシュアは『正直可成り悩んだよ……再び僕を操った貴方が一体、何をやらせるだろうと。そして僕は……其の一点に全てを賭けてみた。貴方が、僕が最も恐れる事を僕自身の手で行わせる可能性にね。』と言ったが、そのヨシュアの賭けはバッチリと的中し、外道教授はその通りに命じて、その結果『聖痕』は砕け散ったと言う訳か。

「クククク……ハハハハハ……ハァ~ッハッハッハ!!」

「ちょっとアインス、如何したのよイキナリ高笑いして?って言うか笑ってる場合じゃなくない?」

「そう言うなエステル……此の状況、笑わずにいられるか。
 外道教授はヨシュアの事を『己の作品』と称し、自分の命令に従う人形だと思っていたのに、此の土壇場でその人形であった筈のヨシュアが外道教授の思惑を読み切って『聖痕』の呪縛から解放されたのだ――己の人形であった筈のヨシュアのまさかの反乱、愉快痛快と思わないか?」

「言われてみれば確かに。」

「土壇場での大どんでん返しっちゅー奴やな。」

「此れまでの報い、受けて貰います!」

「ふ、お前は守られるだけの姫君ではなく、剛毅な姫騎士だったか……だが、お前の野望も潰える時だな教授?《結社》の執行者として働いて来た俺が言う事ではないかも知れんが、お前は些かやり過ぎた。
 俺の贖罪の一端として、先ずはお前を討たせて貰うぞ。」

「クククク……よもやこのような展開になるとは思ってもみなかったが、此れもまた新たなる実験の場と考えれば悪い事ではないだろう。
 《盟主》の忠実なる僕――《蛇の使途》が一柱、《白面》の力、見せてやろう!」



『一柱』……本来ならば神を数える時に使う『柱』を使って来るとは、随分と大きく出たモノだな?《蛇の使途》とやらは神に等しいと言いたいのかも知れないが、貴様は神だとしても所詮は邪神に過ぎん。
神の中でも最高神である太陽神、その太陽の娘であるエステルに、破壊神たる私が宿ってる以上貴様なんぞはそもそも敵ではない上に、ヨシュアが此方に戻って来て、最強の《剣帝》であるレーヴェが此方に居る以上は如何足掻いても負ける可能性は0だからね。

そして始まった戦いだが外道教授は四機の自立稼働兵器を召喚して来たが、其れは戦闘開始と同時にレーヴェが鬼炎斬で纏めて破壊し、その直後にケビンのボウガンでの射撃とクローゼの最上級アーツが外道教授を襲い、其れは辛くも躱した外道教授だったが、躱した先には既に仕込みが済んでいたんだわ此れが。



「其れは読んでいたわ教授!!」

「なに?」

「此れで決める!行くよエステル!」

「合点承知!いっくわよーーー!!」

「「奥義!幻影無双!」」



躱した先にエステルとヨシュアの合体技が炸裂してターンエンド……此れは流石に効いたんじゃないのか?



「ほう、此れは驚いたぞ。
 レーヴェは兎も角、貴様等如きが此処まで喰い下がるとは……」

「教授ってば、ドンドン口調がぞんざいになってるんじゃない?」

「余裕、無くして来たみたいやね。」



まぁ、レーヴェを相手にして余裕を保てと言うのがそもそも無理ゲーだと思うのだがな私は……敵として強かったキャラクターが味方になると弱くなると言うのはRPGでは良くある事だが、レーヴェを解析魔法で調べてみても《剣帝》だった頃と変わらないどころか、寧ろ強くなっているんだが。
《剣帝》である事を止め、ヨシュアの兄貴分として戦う事になった事でレーヴェ本来の力が解放されたと言う事なのだろうが……だとしたら《剣帝》はアレでも未だリミッターが掛かった状態だった訳か……一体ドレだけなんだレーヴェは?



「ククククク……哀れなモノだ。自分達が既に死地に居るとも気付かずに……」

「え?」



――シュン!



と、外道教授が消えて、次の瞬間には『環』のある場所に……貴様、一体何をする心算だ?



「此のまま《盟主》に献上する心算だったが気が変わった……貴様等が歯向かった相手がどのような存在かを思い知るが良い。」



そう言った次の瞬間、外道教授の身体は《環》の中に入り、そして《環》が激しく輝き出した……いや、其れだけではなくすさまじいエネルギーも感じる事が出来る!此れは、一体何が起きているんだ?



「教授の奴め、《環》と融合する心算か……!」

「《環》と融合!?そんな事が出来るの!?……って言うか、《盟主》って人に献上するはずのモノと勝手に融合とかしちゃって良い訳?普通なら大問題になりそうだけど……」

「普通なら問題になるけど、あの人がそんな事を一々気にすると思う?」

「それは……思わない。」

「寧ろそんなモノなど宇宙の彼方のブラックホールに捨ててるだろう奴は?」

「宇宙にゴミのポイ捨てはアカンやろ……」

「ケビンさん、そう言う問題では無いと思います……」

「此の状況下でも普段の様子を崩さないとは、此れがお前達の強さの一端か。」



まぁ、そうと言えるかもしれんな。
だが、そんな事を話している間にも《環》の輝きは大きくなり、其れが部屋を満たして、そして治まった時、《環》があった場所には白を基調とした巨大な異形の姿があった。



「此れは……一体何が起きたの?」

「《環》と融合して、超進化したと言う所かな、此れは……?」






『ククククク……正解だよアインス君。
 この感覚、思った以上に悪くない……
 さて、先ずは試させて貰おうか……人を新たなる段階へと導く《天使》の巨いなる力をね……!』




……如何やら正解だった様だが、此れは超進化ではなく暗黒進化と言った方が正しかった。表現を間違えた事には詫びを入れよう。
しかし、貴様如きが《天使》とは些か思い上がりも甚だしいぞ外道教授?《環》の力を得て慢心したとは言わんが、貴様が仮に《天使》だとしても、天界の禁忌に触れて地上へと堕とされた《堕天使》が良い所だろうさ。
其れに、巨大化は死亡フラグと相場が決まっているのでな……リベールを巻き込んだ貴様の野望、如何やら終焉の時がやって来たようだな……!!












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