Side:アインス


ジンが痩せ狼との一騎討ちを制し、そしてアクシス・ピラーを攻略しているのだが……階層が上がるにつれて塔内のモンスターの見た目がグロテスクになっているように感じるのは私だけなのだろうか?



「大丈夫よアインス、アタシも同じ事を思ってたから……人形兵器なのか魔獣なのかハッキリしなさいよ!マジで何なのよコイツ等は!」

「恐らく、元々はこの塔を守っていた人形兵器だったんだろうけど、教授がリベル・アークを、そしてこのアクシス・ピラーを掌握した際に魔獣と融合させてこんな姿にされたんだろうね。
 教授なら、此れ位の事は朝飯前だろうし……何よりも相手を苦しめる為なら労は惜しまないような人だから。」

「聞けば聞くほどサイコパスの極みですね教授とやらは。
 大凡アナタ方と同じ色の血が流れている人間とは思えない悪辣さです……彼に会ったら直接聞いてみたいものです、『お前の血は何色だ。』と。」

「アイツの身体には絶対に青い血が流れてるわよ!」

「青い血……成程、教授とやらはカブトガニだったと言う訳ですね。」



うむ、何故シュテルが会話に入ると思い切り会話が脱線してしまうのか謎だが、コイツ等があの外道によって生み出された存在だとしたら納得だ。
魔獣の凶暴さに人形兵器の計算し尽くされた戦い方がプラスされ、更に人形兵器の頑丈さも加わったとなれば可成り厄介な存在であり、並の遊撃士や軍人ならば苦戦は免れず、場合によっては撤退も余儀なくされるだろうからね。
だが、其れでも矢張りこの面子の前では雑魚でしかない上に、執行者戦前のウォーミングアップの相手にしかならん……ウォーミングアップで終わらせるとは正に此の事だな。



「此れでも、喰らえ!!」

「エステル、今投げたのなに?」

「さっき倒した奴の表面にくっ付いてた爆弾。未使用だったから引っぺがして持って来ちゃった♪ポシェットにあと五個位入ってるわよ?ジョゼットも大量に盗んでるみたいだし。」

「大量大量♪」

「エステルもジョゼットも何してるのさ……」



ハハハ、まぁ良いじゃないか。
此れで戦闘が更に楽になるし、敵の武器を奪って其れで逆に倒すと言うのも中々にあの外道を虚仮に出来ると言うモノだからね?何処かで高みの見物を決め込んでいるアイツに見せ付けてやろうじゃないか。
それと、敵を爆殺してるエステルとジョゼットがなんか楽しそうだから良いとしないか?



「良いけど、何だかなぁ……」

「ヨシュアさん、心中察します。」

「ハハ、ありがとうクローゼ。」



取り敢えず外道作のサイボーグ魔獣はエステルとジョゼットが爆弾で爆殺しまくってターンエンド……しかし、塔内部で此れだけ爆発が起きても全然平気とは、アクシス・ピラーは一体どんな素材で出来ているのか少しばかり気になってしまうな。









夜天宿した太陽の娘 軌跡144
『銀閃と幻惑の鈴~過去の清算と未来への階~』









で、例によって外に通じる場所までやって来たのだけれど、此れまでとは違い如何やら『門番』が居るようだな?
牛とワシとライオンの頭に蛇の尾を持った魔獣……此れは『キマイラ』と言う奴か。そのキマイラに人形兵器を融合した『メタル・キマイラ』と言った感じだが、あの外道は自分を神か何かと勘違いしているのか?
キマイラはそもそもが人工の合成獣である上に、其処に人形兵器を融合させるとは最早正気の沙汰とは思えん……



「コイツは何ともぶっ倒し甲斐のある奴が出て来たじゃねぇか……良いぜぇ、やってやるよ!!」

「いえ、其れには及びませんアガット・クロスナー。相手は所詮融合物……であるならば、このカードで何とかなります。速攻魔法『融合解除』。」

「いや、流石に其れは効かないだろうシュテル……」


『むぎょ?』

『ガピー!』




って、有効なのか!
まさか融合解除が有効とは思わなかったが、取り敢えず此れで相手は思い切り弱体化したので、後は真正面からのごり押しで余裕で突破し、改めて外にだ……ここまで来ると、最早グランセル城ですら米粒か。



――リリィィィン……



「「「「!!」」」」



そして、此処で聞こえてきた鈴の音……そうか、次はお前か!



「フフ……よく来たわね。」

「あ……」

「《幻惑の鈴》……貴女か。」

「ルシオラ……姉さん。」

「《幻惑の鈴》、ルシオラ。……ミストヴァルト以来だが、使い魔達は元気か?」

「あら、随分と可愛らしい姿になったモノねアインス?えぇ、あの子達は元気よ。貴女との再会を待ち望んでいたわ……『次は負けない』ってね。
 それよりも、ブルブランとヴァルターを破って此処まで辿り着くなんて……中々やるわね、貴女達。」

「……確かに《結社》は強大な敵だったけれど、でもアタシは今こうして再び姉さんの前に立っているわ。
 前に会った時言ったわよね?『積もる話は次に会った時にでも』って……だから聞かせて貰っても良いかしら?八年前のあの日、ハーヴェイ一座が解散した裏には何があったのか、そしてどうして姉さんはアタシの前から居なくなってしまったのかを!」

「そうね……先ずは其れから始めましょうか。」



そうして八年前に何があったのかを幻惑の鈴は語り始めたのだが、なんとハーヴェイ一座の座長の死は事故死などではなく実は幻惑の鈴が手を下したとの事だった……まさかの真実にシェラザードは狼狽え、『何故!』と問うたのだが、しばしの沈黙の後で幻惑の鈴から返って来たのは『貴女にとって座長はどんな人だったかしら』との問だった……『質問に質問で答えるな』と言いたい所だが、この問いは必要な事なのだろう。



「そ、そんなの決まってるじゃない!孤児だったアタシを拾って育ててくれた恩人よ!
 アタシは、両親の顔なんて全然知らないけど……お父さんってこう言う感じなのかなってずっと思ってた……なのに……其れなのにどうして!」

「そう……暖かくて優しい人だったわね。でもね、旅芸人の一座なんて優しいだけじゃやって行けないの。
 汚い取引をしたり、女の芸人に客を取らせる所もあるわ。でも座長は……あの人は一切そんな事をしなかった……そうして私財を使い果たして、莫大な借金を背負ってしまった。」

「う、嘘……だって座長、そんな素振りなんて全然……!」

「フフ、人が良いくせにとても芯の強い人だったから。
 私達に悟られないようあちこち資金繰りに奔走して……そして最後の一座を手放す事を決意した。」



其れがハーヴェイ一座解散の理由か。
幻惑の鈴が言うには『知り合いの裕福な貴族に一座を丸ごと預けようとした』らしい。『自分が此のまま座長を続ければ皆に苦労を掛ける事になる。ならば信頼のおける人に面倒を見て貰った方が良い』と言う理由で。
其れを聞いたシェラザードは『如何して相談してくれたらアタシ達だって協力したのに』と言い、幻惑の鈴も『話を打ち明けられた時は同じ様に説得した』との事だったが座長は頑ななまでに聞き入れてくれなかったらしい。『腑甲斐ない自分が居たら皆の為にならない』と、そう思い込んでいたらしかったか……その気持ちは分からんでもないな。



「其れが理由で、姉さんは座長を?」

「えぇ、そうよ。
 私にとって、彼の決断は許しがたい裏切りでしかなかった。安らぎと幸せを与えておいて、其れを取り上げるなんて……そんな事をする位なら、最初から手を差し伸べて欲しくなかった。
 だから、私はあの人を殺したの。」

「……だったら……アタシはどうなるの?」

「え……?」

「アタシは……座長と姉さんから安らぎを与えて貰ったわ……スラムで感じた事のない暖かい気持ちに満たされてた……でも、座長が死んで、姉さんまで去ってしまって……そんなの……もっと酷い裏切りじゃない!」

「……ふふ、そうね……
 シェラザード。貴女には私を恨む権利がある……その恨みを以て立ち向かってくると良いわ。」



――チリィィィン……

――ギュォォォォォォォ!!!



『アインス、デテコイヤァ!!』

『ガッデーム!!』


『アインスブッコロース!』

『ガッチャメラ。オラー!』




で、鈴の音が響いたと同時に四体の使い魔が現れた訳だが、如何やら私を御所望のようだな?……まぁ、ミストヴァルトの時は思い切り遊んだ上でフルボッコにしてしまったからなぁ……リベンジに燃えるのは当然か。
お前達の気持ちは分からなくもないが、しかし敢えて言おう『だが、断る』!!
悪いがお前達にはエステルの糧になって貰うぞ?



「つまり、使い魔の相手はアタシがするって事ね?」

「大丈夫、僕も手伝うから。」

「私も手を貸しましょう、エステル、アインス。」

「手伝いますよエステルさん、アインスさん。」



で、ヨシュア、シュテル、クローゼがエステルと共に使い魔に対処する事になり、残りは幻惑の鈴にと言う布陣……普通なら幻惑の鈴一人に対して戦力が過剰と思えるが、《執行者》の実力は底が見えない上に、幻惑の鈴は幻術を使った搦め手も得意としているから決して過剰戦力ではないんだよな。
まぁ、幻術に対してはケビンがある程度対処出来るだろうから其処まで問題ではないだろうけれどね。



「私如きを倒せないようでは、此の上に待ち受ける者達には遠く及ばないでしょう……《幻惑の鈴》の舞、見事破ってごらんなさい。」

「姉さん……行くわよ!」



そしてオープンコンバット。
四体の使い魔の内、大型の二体は夫々『物理無効』と『アーツ無効』の特性を備えているので、そう言った意味では物理型のエステルとヨシュア、アーツ&魔法型のクローゼとシュテルと言うのは良い組み合わせかもしれんな。
取り敢えず小型の二体は棒術具の両端に、夫々空と時の属性を付与した『時空旋風輪』で撃滅!……空と時の属性の融合は、光と闇の融合と同じレベルの破壊力があるみたいだな。
そして残る二体、物理が有効の方は勿論エステルとヨシュアが担当な訳だが……



「どぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「其処だ!!」



ユニゾンした事で元々強かったパワーが限界突破状態になっているエステルと、圧倒的なスピードを有するヨシュアによる『力と速さの連携』の前には成す術がなかったらしく、最後は合体攻撃『幻影無双』を喰らわせて撃破。
アーツ&魔法が有効な方も、クローゼとシュテルが見事な連携を見せ、トドメはクローゼの『コキュートス』とシュテルの『ブラストファイヤー』の同時炸裂だった……相克属性が同じ力でぶつかった結果、対消滅による爆発が起きて使い魔は跡形もなく吹き飛んでしまったとさ。

そしてシェラザードの方だが……



「分身か……だったら、纏めて吹き飛ばすだけだ!おぉぉりゃああ!行くぜ……ドラゴォォォン、ダァァァァイブ!!」

「そんな、分身が一撃で……!」

「此れで終わりよ姉さん!」



幻惑の鈴はお得意の幻術で自身の分身を複数作り出したが、その分身はアガットの渾身の一撃で全て破壊され、残った本体にはシェラザードが鞭を突き付けていた……此れは、勝負ありだな。



「フフ……成程。
 此れならば、上に進む資格があるかも知れないわね。」

「……姉さん、一つだけ訂正させて。アタシは、姉さんを恨む事なんて出来ないわ。
 アタシの元を去った事も、座長を殺めてしまった事も……ただ、どうしようもなく哀しいだけよ。」

「シェラ姉……」

「……シェラザード……」



そして、此れはシェラザードの偽らざる本音なのだろうな。
続けて『姉さんがそんな理由で座長を殺してしまったと言うのは、やっぱり信じられない。アタシ達の事を思って辛い選択をした座長の事を……』と言うと、幻惑の鈴は『流石に誤魔化し切れなかったか……』と言った後で、『さっきの話には続きがあるの』と言って来た。

その『続き』によれば、座長を説得しようとして、其れでも座長の決意が固いと知った時、幻惑の鈴は長年秘めて来た思いを座長に打ち明けてしまったらしい……此れにはシェラザードも驚いていたが、幻惑の鈴は『親子ほども歳が離れていたから想像も出来なかったでしょうね』と言っていた……そして其れは座長も同じだったと。『娘のように大切に思っているけど、想いに応える事など考えられない。一時の感情に流されず、相応しい相手を見つけると良い……』と、諭すように拒まれたか。
だが拒まれた事によるショック以上に幻惑の鈴は『自分を惑わせないように、相応しい相手を見つけられるよう。座長が本当の意味で己から離れて行ってしまう可能性』に怖くなった、か。
そして、離れて行かないように、永遠に己のモノにする為に……その命を奪ったと、そう言う事か。
半年後の消滅を受け入れていた私には分からない感情だが、其れだけ座長は幻惑の鈴にとって大きな存在だったのだろうな……



「ルシオラ……姉さん。」

「自分の中に潜んでいた闇に気付いたのは其の時からよ。
 私は、その闇に導かれるように《身喰らう蛇》の誘いに応じて……何時の間にか、こんな所まで流れて来てしまった。――ふふ、そろそろ潮時かもしれないわね。」

「え……?」



!!
ま、拙い!アレは己に終止符を打つ事を決めた人間の目……滅びの運命を受け入れていた時の私と同じ目だ!幻惑の鈴の後にあるのは塔の絶壁だけだ……此処から落ちるだけならまだしも、リベルアークの外に放り出されたら如何に執行者であっても只では済まん!



「姉さん、だめぇぇぇぇぇぇぇ!!!」



っと、既の所でシェラザードが鞭で幻惑の鈴の腕を絡め取ったか……本当に間一髪のギリギリセーフと言ったところだが、此れならば全員で引っ張り上げれば大丈夫だろう。



「く……!」

「フフ……中々鞭捌きも上達したじゃない。最初の頃は、あんなに不器用だったのにね。」



ふむ、何か勝手に終わろうとしてるみたいだが、悪いがそうは問屋が卸さん。エステル、やるぞ。



「OK!シェラ姉、ちょっとゴメンね!」

「え?ちょっとエステル?」

「界王拳……10倍だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



界王拳と言う名のステータスバフを行った上で、シェラザードごと幻惑の鈴をぶっこ抜いて安全圏にリングイン!お前の意思を無視した結果になるかも知れないが、安易な死を選ぶ事など許さんぞ幻惑の鈴よ。



「エステル、アインス……如何して?」

「シェラ姉に伝えたい事があるんじゃないの?だったら其れはお別れの言葉にするんじゃなくて、其れを伝えた上でまた会おうって、そう言った方が良いんじゃないかと思うから。」

「そして、もう一度お前を失う哀しみをシェラザードに味わわせたくはなかったのでね……勝手に助けさせて貰った。其れだけだ。」

「フフ……フフフ……アハハハハハ……成程ね、式神達では貴女達に勝てない筈だわ。
 でも、こうなってしまった以上は仕方ないわね……ねぇシェラザード。私はあの人を手に掛けた事は今でも後悔していないけど……唯一気掛かりだったのが、貴女の元を去った事だった。
 貴女が如何しているか、其れだけが私の心残りだった――でも、私が居なくても貴女は確りと成長してくれた。自分の道を自分で見つけていた。」

「姉さん……」

「其れが確かめられただけでも、リベールに来た甲斐があったわ。
 本当は貴方に私の事を裁いて欲しかったのだけど、流石に其れは虫が良過ぎる話だったわね……」

「姉さん……アタシは……」

「ふふ、お酒も良いけれど程々にしておきなさいね?……さようなら私のシェラザード。機会があれば、また何れ逢いましょう。」



――チリィィィン……



そして鈴の音と共に幻惑の鈴……ルシオラはその場から姿を消した。恐らくだが、もうリベル・アーク内にその姿はないだろうな――果たして何処に消えたのか、其れは皆目見当も付かないけれどね。



「シェラ姉……」

「シェラさん……」

「大丈夫よエステル、ヨシュア……いつかまた、きっと会う事が出来るわ。いつの日か、必ず。」

「諦めなければ未来が見える、ですか……そう言えばユーリとの最終決戦の時に、トーマ・アヴェニールがそんな事を言っていた気がしますが、其れはある意味でこの世の心理であると思います。貴女は如何思いますかジョゼット・カプア?」

「そこで僕に振るのかよ!えっと……ノーテンキ女、パス!」

「じゃあアタシは其れをケビンさんにキラーパス♪」

「此処で俺なん!?
 えっと、そやなぁ……まぁ、真理と言ってもえぇんとちゃうやろか?諦めてしもたら其処までやけど、諦めずに、其れこそ泥水啜ってでも諦めんと突き進んで行けばいつかきっと明るい未来が待ってる筈やで。
 まぁ、何億ミラっちゅーぎょーさんな借金背負ってしもた人には明るい未来は中々見えへんかもしれんけどな。と言う事で、借金はアカンで!」



綺麗に纏めたと思わせておいて最後の最後でお笑いに走るなケビン!まぁ、此れで場の雰囲気が和んだのも事実だからあまり強くは言えないけのだがな。
だが、此れで残る執行者は後二人。
最強の《剣帝》は最後に控えているであろう事を考えると、次の相手はレンか。
子供だからと言って侮れる相手では無い上に、王都での『お茶会』の時に呼び出したあの巨大ロボットも居るとなると、此れまで以上の激戦は必至な訳だが、だからと言って負ける気は毛頭ない。
悪戯は子供に許された特権だが、度を過ぎた悪戯にはお仕置きも必要だ……少しばかりやり過ぎてしまった殲滅天使に、少々きつめのお仕置きをしてやるとするか……!










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