Side:アインス


幻惑の鈴ことルシオラを退け、更にアクシス・ピラーを登っている最中――残る執行者は後二人で、次の相手は恐らくレンだろう……子供故の残酷さが全開と言えるレンとの戦闘は激しいモノになるのは間違いないが、取り敢えずは道中の邪魔者をブチ殺しておこうか?



「おんどりゃぁぁぁぁ……此れでも喰らえぇぇぇぇ!!」

「とは言ったが、まさか人形兵器に搭載されていた大型のランチャーキャノンを引っぺがして使うとは思わなかったよエステル……まぁ、有効な攻撃手段であるとは思うけどな。」

「でも此れって予備の弾がないから撃ち尽くしちゃうと其処で終わりの使い捨てなのが難点なのよねぇ……どっかに弾落ちてないかしら?」

「そう言うと思って、新たに引っぺがして来てやったぞノーテンキ女。」

「あら、ありがとうジョゼット♪」

「……何だか何時の間にかエステルとジョゼットがとっても良いコンビになってる気がするのは僕だけなのかなぁ?」

「いえ、其れはこの場に居る全員が思っていると思いますよヨシュアさん……何となく、此処にジルを追加したらとっても良い感じの三人組が出来上がる様な気がします。」



いや、其れは確かに良いトリオかもしれないがジルの突っ込みが果てしなく止まらない事になりそうだぞ?まぁ、ジルならば突っ込みながらもエステルもジョゼットも巧く動かしてしまいそうではあるがな。
で、お前は何を召喚しているんだシュテル?



「敵戦力に対抗するために、此方も似たような戦力として『TM-1ランチャー・スパイダー』、『サイファー・スカウター』、『パーフェクト機械王』を召喚してみましたが如何でしょう?」

「全て機械族モンスターで纏めたのは評価するが、正直チョイスが微妙だな……」

「そして追加でエラッタ前の『ダーク・ダイブ・ボンバー』を……」

「いや、最後の最後で極悪召喚するな。」

だがまぁ、取り敢えずジョゼットの盗みスキルで人形兵器の武器を引っぺがし、其れをエステルが使用して敵を爆殺し、シュテルが召喚したモンスター達は敵を爆殺した後でダーク・ダイブの弾となって射出されてサクサクと先に進む事が出来たな。
アガットは少々暴れたりないだろうが、ジンが痩せ狼との一騎討ちで消耗している事を考えると出来るだけ体力は温存しておいて貰いたいから、今は少しばかり我慢して貰うしかあるまい。
残る二人の執行者の実力は、此れまでとは一味違うだろうからね。









夜天宿した太陽の娘 軌跡145
『太陽の娘と殲滅天使~力の意味と在処~』









塔を進んで、矢張り辿り着いたのは外へと続く道があるホールであり、前回同様『門番』が居たのだが、前回のキメラとは違い、今回は超巨大な人形兵器だったのだが、此れは逆に楽な相手だったな。
流石に完全防水だったらしくクローゼの水属性アーツで機能不全に陥らせる事は出来なかったが、その直後にシェラザードが『サンダーシクリオン』をブチかまして強制的にショートさせてターンエンド。
如何に完全防水であるとは言え、濡れる事までは回避出来ないから、濡れてる所に電気を流せば一気にショートするからな。
で、コイツに搭載されてたビームキャノンは持って行くのか?



「思いっ切り火花散らしてたけど、ヨシュア此れってまだ使えるかしら?」

「大丈夫だと思うよ?
 結社の人形兵器に搭載されてる兵器は完全絶縁設定になっているから本体がショートしても武器に影響はないんだ……武器は無事なら使い回せるって事らしいけど。
 本体が絶縁設定になってないのは、絶縁設定にしてしまうと動きが悪くなるからって聞いた事があるよ。」

「使えるなら持って行きましょ♪」



矢張り持って行くんだな……まぁ、次の相手がレンだとしたら、『お茶会』の時に現れた巨大ロボットも現れる可能性もあるからビームキャノン位はあっても良いかも知れん。
ユニゾン状態であるとは言え、あの巨大ロボットに棒術具で挑むと言うのは些か無謀であると言えるからな。

さて、門番を倒して外に出ると……最早ここまで来るとグランセル城を認識する事も出来ないか。



「クスクス……やっぱり此処まで来たわね。」



この声……矢張り次はお前だったか……!



「レン……」

「矢張り君だったか……!」

「あの三人を倒すのは結構大変だと思ったけど……でもレンは信じていたわ。エステルとヨシュアがレンの所に来てくれるってね。」

「レン……」

「それでも、君は戦う心算なんだね?」

「フフフ、如何しようかしら?
 折角約束していたのにお城であった時には殺し損ねちゃったし……エステルの態度次第では見逃してあげても良いわよ?」



コイツ、この状況で駆け引きを仕掛けて来たのか?
一体エステルに何を要求する心算なのか……尤も、何を要求された所でエステルが其れに応じるとは思えんがな……いや、其れ以前に此方にはコイツが居る事を忘れるなレン。



「エステル・ブライト、其れに応じる必要はありません……見逃してやるなど、強者の傲慢に過ぎない上に、絶対に碌な条件は出してこないと十中八九決まっていますので。
 何よりも、この場での戦闘回避は有り得ません……そうでしょうレン?」

「シュテル?」

「あらあら、如何言う事かしら?」

「グランセル城でも言いましたが、聖光の殲滅者と殲滅天使……果たして真のデストラクターは何方であるのか、此処で決着を付けるとしましょう。」

「うふふ、其れも構わないけれど其れで良いのかしら?
 レンは前にエステルが言った、『レンが結社に居る事は間違ってる』って言った事を取り消してくれるだけでこの場を退いてあげる心算なんだけど?」



ふむ……成程、たったそれだけで戦闘を回避出来ると言うのならば破格の条件と言えるだろうが、ヨシュアは『そんな取引は間違ってる。例え望んだ言葉を引き出したとしても本心でそう思っていなければ!』と言い、エステルは『ヨシュア、良いの』と言ってヨシュアを制すると、一歩前に出て……



「レン……甘ったれるのもいい加減にしなさいよね!!」

「え?」



思い切り一喝した。
此れはレンも予想外だったらしく目を丸くして驚いていたが、エステルの『世界はレンを中心に回ってる訳じゃない』、『レンの為に都合よく変わってくれるモノでもない』、『レンがドレだけ大きな力を持っていたとしても人の心までは自由に出来ない』と言うのを聞き、最後に『出来ればレン自身に気付いてほしい。何時でもヨシュアみたいに後戻り出来るんだって。』と聞いて、如何やらレンは我慢が出来なかったみたいだな。
『折角チャンスをあげたのに棒に振っちゃうんだ……救いようのない大馬鹿ね』と言うが否や大鎌を取り出して闘気を解放して来た……子供は非力故に100%の殺意を相手に向ける事が出来ると何処かで聞いた事があるが、力を持った子供が100%の殺意を向けて来ると言うのは脅威だな。



「皆、ゴメン……若しかしたら避けられた戦いだったかも知れないけど……」

「謝る必要はないよ……君は、僕が言いたい事をあの子に全て伝えてくれた……」

「私もエステル・ブライトの意見に諸手を挙げて賛成です……レン、その結社の呪縛から貴女を解放します。」

「へへっ……いっちょ気合入れたろか!」

「気合入れ過ぎて、途中でガス欠起こすなよ不良神父!」



――ドッスゥゥゥン!!



そして、あの巨大ロボ、パテル=マテルも御登場か……!



「気に入らない……本当に気に入らない……《パテル=マテル》、リミッターを解除しなさい!出力全開でエステル達を殲滅するわよ!」

「く……あんなのまで出て来たら、正直お手上げなんじゃないの!?」

「心配には及びませんシェラザード……相手が巨大ロボで来るのならば、此方も其れに対抗すれば良いだけの事……幸い、私の手札にはこの最強の五枚が既に揃っていますので。」



最強の五枚って、エクゾディアか?



「出でよ、『紫天ロボ』。」

『ゴォォォォォォォォン!!』
紫天ロボ:ATKとっても強い




と思ったら、なんだか凄そうな巨大ロボットが出て来たなぁオイ?何だこれは?



「紫天ロボ。
 レヴィが考えたロボットですが、折角なのでエクゾディア的なオリジナルカードとして作ってみたのです……レヴィ曰く『とっても速くてとっても強い』との事だったので明確なステータスは設定していませんが、其れゆえに無限の力を発揮出来る巨大ロボだったりします。」

「まるで言ったモン勝ちの王国ルールみたいだな。」

だが、その紫天ロボにパテル=マテルを任せる事が出来るならば此方はレンに集中出来るか……とは言え、全員で掛かって倒した所で何の意味もないだろうから、此処はエステル、ヨシュア、シュテルの三人でレンに挑むのが上策だろうな。
残りは全てパテル=マテルに対処してくれ。



「シェラ姉、そっちは任せたわ!これ使って!」

「ビームキャノン……えぇ有難く使わせて貰うわ!こっちは任されたわよエステル!そっちもしっかりやりなさいな!」



そんな訳でオープンコンバット!
子供とは言え流石は執行者と言うべきか、レンの攻撃は鋭く的確で、そして強かったがだからと言って一撃一撃が脅威となるかと問われればそれは否だった……レンは確かに強い。年齢の事を考えたら未来には最強の力を得ると言っても過言ではないだろう。
だがしかし、レンは『只強いだけ』であり、言うなれば『大きな力を持っている』だけに過ぎない……レンの強さには芯がない。それでは、エステル達には届かないだろう。



「甘い!そんな攻撃は通らないわよレン!」

「そんな、如何して……如何して!レンの方がエステルよりもずっと強い筈なのに!」

「確かに単純な力だけならレンの方がアタシより強い。それこそアインスとユニゾンした状態で漸く食い下がれるかってところかもしれない……だけどねレン、貴女は何の為にその大きな力を振るうの?」

「え……?」

「アタシはレンと比べたら全然弱いかもしれない……でも、其れでもこの力は遊撃士として色んな人の為に揮おうと思ってるし、少しは其れが出来てるんじゃないかとは思ってるの。
 遊撃士として鍛え上げた此の力、アタシは其れを揮う事に信念と誇りを持ってる……レンは、自分の力を振るう事に信念と誇りがある?」

「それは……」

「答える事は出来ないよね……だってレン、君にとっては戦いも、人の命を奪う事さえも遊びの延長に過ぎない――遊び感覚で振るわれるから、君の力は軽いんだ。」

「ヨシュアまで……」

「貴女は嘗ての私に似ています。
 自分が何者であるかも理解せず、己の役割も分からず、只只管に闇の欠片を集めていた挙げ句に高町なのはに滅された頃の私と……貴女には、自分と言うモノが無いように感じますよレン。」

「シュテルも……うるさい、うるさーーーーい!!
 もう良いわ!パテル=マテル、一気に全て吹き飛ばしちゃいなさい!!」



っと、業を煮やしたレンがパテル=マテルに命じて必殺攻撃を放たせるか……凄まじいエネルギーが集中しているが、アレが放たれたら正直一溜りもないぞ!
オイ、紫天ロボとやらでなんとかならないかシュテル!



「無論、紫天ロボにも必殺技が存在します……迎え打ちなさい紫天ロボ。『紫天の業火ハイパー・ゴウ・ファイヤー』。」



パテル=マテルが極大なビームを放ち、紫天ロボも同じ位のビームを放って其れがぶつかってスパークする……いや、此れは一体何処の特撮ヒーローの最終決戦だ?
完全に互角だが、此れでは決着が付かんが……



「そして此処で切り札、速攻魔法『リミッター解除』。此れにより紫天ロボの攻撃力は倍加します。」

『グオォォォォォォン!』
紫天ロボ:ATKとっても強い→すんごく強い!滅茶苦茶強い!!




此処で其れを発動するのか……が、その甲斐あって紫天ロボのビームはパテル=マテルのビームを押し返し、そして呑み込んだか。
攻撃が終わると其処には、色々な所から火花を知らしているパテル=マテルの姿が――機能停止には至っていないが、あの状態ではもう戦闘を行う事は出来ないだろうな。



「パテル=マテル……!!」

「隙あり……ヨシュア!!」

「うん、此れで決めさせて貰うよレン!」

「「奥義・幻影無双!!」」



パテル=マテルが倒された事に動揺したレンの隙を突いてエステルとヨシュアの最強の合体攻撃が炸裂し、更にシュテルの誘導弾も同時に炸裂した事でレンは膝から崩れる事になったか……大きな怪我をしないように攻撃したのは、エステルとヨシュア、シュテルの優しさと言うモノだな。



「ど、どうして……如何してエステル達なんかに、私達が負けるの……?」

「ゴルディアス級の人形兵器は、まだ制御系が不安定らしいからね……関節部分に負荷が掛かっていた所に、あの攻撃を喰らったのが原因で作動不能になったんだと思う。
 それとレン、君が勝てなかったのは……君がパテル=マテルを含めて本当の意味で自分の力だけで戦うのは初めてだったから……昔は僕やレーヴェが居たし、今回はブルブラン達も一緒だった。
 だけど、今回だけは他の執行者は居ない状況で、言うなれば助けてくれる味方は居なかった……レン、君は気付いていなかったかも知れないけど、君は思ってる以上に周囲に助けられていたんだ……」

「そんな……」



ヨシュア……レン自身が気付いていなかった真実を突き付けると言うのは少し酷かもしれないが、幼いレンの自信を喪失させるには充分な威力があると言うモノだな。
此れは完全に汚れ役なのが、其れを自ら買って出るとは流石はヨシュアと言ったところか……いや、自分が言わなければ違う形でエステルが言っていたであろう事を考えて、か。……最愛の少女に汚れ役はやらせられぬと自ら泥を被るとは、大した奴だよ。



「レン……」

「なによ……エステル達の勝ちなんだから、もうどうでも良いじゃない……さっさと端末を解除して、上に行っちゃいなさいよぉ……」

「……そっちも大事だけど、後回しにする事にするわ。今は、アンタの方が大事だからね。」

「なによぉ!エステルなんて、レンの事なんて何も知らないくせに!どうして……そんなに構って来るのよ……!!」

「ふふん、そんなの決まってるじゃない……アタシがレンの事、好きだからよ。」



こう言う事を、真正面からキッパリハッキリと言えてしまうのがエステルの凄い所だな……だが、だからこそ相手にダイレクトに響くモノなのだろう。エステルの言葉には裏がないからね。
『だからこそやっておかなきゃならない事がある』と言ったエステルは、レンに近付くと、軽くだが、しかし確実に痛みを感じる位に頬を張った。
張られたレンは『ぶった……』と意外そうだったが、エステルは『悪い事をしたら打たれるのは当たり前よ』と至極当然のことを言っていた……まぁ、エステルも幼い頃はイタズラする度にカシウスから一発カチ食らわされていたからなぁ。
尤も、其処から『そうじゃないと、他の人の痛みが感じられなくなっちゃうからね』と続けたのもカシウスに叱られた時と同じパターンだな……カシウスの教えはエステルに確りと受け継がれているみたいだね。



「エステルも、同じなんだ……痛がってるのに、全然止めてくれなかった……レンを、レンに酷い事をした、あの人達と同じ……」

「同じかどうかはレンが自分で考えてみて。……どう?本当にそう思う?」

「………………分から、ない。」

「だったら……これなら如何?」



そして、此処でエステルがレンを抱きしめたか……その事にレンは戸惑っているみたいだが、其れも致し方ない事か――恐らくだが、幼くして結社の執行者となったレンは、他の誰かから本当の愛情を受けた事はないのだろうからね。



「アタシは何も言わない……レンが自分の心で感じるままに判断しなさい。」

「……………………………頭がモヤモヤして、なんだか良く分からないけど……こんな風に抱きしめられるのは……嫌いじゃない……かも……」

「そっか……」

「………………………………帰る……………………」

「え……」

「パテル=マテル!
 関節部のアクチュエーターを止めて、ブースターのみで姿勢制御して!」



突然『帰る』と言ったと思ったら、パテル=マテルをブースターのみで姿勢制御させると、レンはエステルから離れてその掌に乗ってしまった……『頭がこんがらがっちゃったから、一人でゆっくり考えてみる……エステル達は、此のまま屋上まで登って行けばいい……レーヴェが待ってる筈よ。』と言って来たが、矢張り最上部で待って居るのは剣帝か。



「ありがとう、教えてくれて。」

「大丈夫なのヨシュア……レーヴェってば本気で通せんぼするみたいだけど……」

「うん……分かってる。
 でも、僕の方ももう覚悟は出来ているから……だから、心配はいらないよ。」

「そう……じゃあ、レンは行くわね……」

「レン!!」

「それじゃあねエステル、そしてアインス……レンはもう行くけど、死んだりしたら許さないんだから!」



――ゴゴゴゴゴ……ドゴォォォォォォォォオォォォォォ!!



そして、其れだけ言うとレンは其の場からパテル=マテルと共に飛び去ってしまったか……『死んだりしたら許さない』か……と言う事は、生きてまた会う気があると言う事でもあるな。



「これで……良かったのかな?」

「さてな……良かったかどうかは分からんが、少なくとも悪くはない結果だったとは思うぞ?良いとまでは行かなくとも、悪くない結果であればギリギリの成功と言えるからね。」

「確かにそうだけど……大丈夫だよエステル。
 色々な事が起こり過ぎて、あの子も混乱してるだけだと思う――直ぐには無理だと思うけど、何れ自分で答えを出せる筈だ。」

「そっか……」

「答えを出したその日が来たら、また会いたいものです……そして其の時こそ、何方が真のデストラクターであるのか、その決着もつけましょう。」



シュテルが若干アレだが……何れレンも己で答えを出す事が出来る日が来るだろうからきっと大丈夫さ。
そして、此れで残るは屋上の剣帝だけなのだが、アイツの実力を考えると此の面子でも確実に勝てるとは言えないのが厳しい所ではあるんだが、レンとの戦いで私とエステルの融合率は99%に達したから、其の真の力を剣帝相手に揮わせてもらうとするか。

私にとっては王城でのリベンジマッチになる訳だが……あの時の借りは熨斗を付けて返させて貰うぞ、剣帝よ……!!











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