Side:アインス


怪盗紳士を退け、アクシス・ピラーを先へと進んでいるのだが――なんと言うか、先程執行者と一戦交えたばかりだと言うのに全員マッタク疲労の色が見えないどころか俄然元気になってるような気がするな?
怪盗紳士が自ら敗北を認めて身を退いた形ではあるが、一応執行者を退けたと言うのが良い感じに全員の士気を上げているのかも知れないな。
そんな中でもエステルとヨシュアのコンビネーションは、準遊撃士だった頃の修業の旅の時とは比べ物にならない位に洗練されている……王立学園奪還の時も思ったが、半年も会っていなかったと言うのに此れほどのコンビネーションを発揮出来るとは、十年間一緒に暮らしていたのは伊達では無いと言う事か。



「オラァ!姫さんには指一本触れさせねぇぞ!」

「リベールの次期女王殿下に怪我をさせたとあっちゃ、共和国の立場も悪くなっちまうんでね。」

「クローゼ君は大切にされてるねぇ?……で、僕も一応エレボニアの皇子なんだけど、何で僕の事は誰も守ってくれないのかな~~?」

「可憐な美少女と、胡散臭い漂流の詩人だったら何方を率先して守るかなんて聞くまでもないでしょ?そもそもにして、可憐な美少女は其れだけで護る価値が充分にあると知りなさいオリビエ。」

「成程、可愛いは正義と言う事ですか……まぁ、其れを抜きにしてもオリビエは殺しても死なないでしょうし、仮に死んでも一発殴れば生き返るでしょうから問題ありませんしね。」

「酷い!酷いぞシェラ君もシュテル君も!
 と言うかシュテル君は僕の事を一体何だと思っているんだい!?流石の僕だって死んだらそんなに簡単に生き返る事なんて出来る筈ないだろう!」

「失礼、一発殴るのではなく美女の接吻ならば生き返りますね。」

「あ、其れなら生き返るかも。」



……アガットとジンが率先してクローゼの事を守っているのは良いとして、オリビエの方はなんと言うか平常運転だな?
敵の本拠地の、其れも最奥部で其れは如何なモノかと思わなくもないが、逆に言うのならば平常運転で居られるくらいに心の余裕があるとも言える訳かな?だとしたら、寧ろ褒めるべき事かも知れん。
大分上って来たから、そろそろ怪盗紳士と戦った時と同様に外に出る場所に到着するかもしれないな……となれば、間違いなく《執行者》が待っている訳だが、果たして次に現れるのは誰なのか……?









夜天宿した太陽の娘 軌跡143
『不動と痩せ狼~武術の光と闇の決着~』









アクシス・ピラー内の敵を蹴散らして進んで来た訳だが、エステルとヨシュアのコンビネーションが以前より洗練されたモノになっていたのは見事なモノだったが――



「其処だ!」

「ジョゼット、ナイスアシスト!」

「なっ!お前の為にやったんじゃないからなノーテンキ女!」



意外な事にエステルとジョゼットがお互いに狙っていた訳ではないとは言え、中々良い感じのコンビネーションを見せてくれていた。
近接型のエステルと遠距離型のジョゼットは、オーソドックスな前衛後衛の布陣になるから相性は悪くない組み合わせではあるのだが、今回初めて共闘するとは思えない連携の良さだ……先程のヨシュアの一件の時も妙に息が合っている所があったから、出会い方が違ったらエステルとジョゼットは所謂『悪友』と言った関係になっていたかも知れないな。
まぁ、其れは其れとして私とエステルの融合率も良い感じに高まっている……此れならばアクシス・ピラーの頂上に着く頃には融合率が99%に達している事だろうね。



《100%じゃないの?》

《融合率が100%になると、其れは私とお前の魂が完全に融合した事になってしまい、ユニゾン状態を解除出来なくなる――だけならば未だしも、最悪の場合は何方か一方の魂が消えてしまう場合があるからね。
 だからユニゾンにはリミッターを掛けて最大融合率は99%で頭打ちになるようにしてあるんだ。》

《さ、流石に消えちゃうのは嫌だから99%が最高ってのには納得だけど、融合率が99%になると如何なるのかしら?》

《先ずステータスのバフ率が大きくなり、アーツの威力に170%の強化補正が入って、ガード不能の石化効果を持っている『ミストルティンの槍』が使用可能になると言ったところだな。》

《石化効果って、聞いただけでヤバいんですけど……》

《因みに一割の確率で石ではなく金耀石になります。》

《レグナートがくれた結晶で最低一千万ミラは下らないって事を考えると、大型の機械人形が金耀石になったら一億ミラ位になんのかしらねぇ……》

《多分な。》

まぁ、其れ以外にも出来るようになる事があるんだが、其れは其の時まで秘密にしておくとしよう――そちらの方が頂上で戦う事になるであろう《執行者》も驚いてくれるだろうからね。

そして進んで行くと、遂に外に出る場所までやって来たか……当然だが怪盗紳士と戦った時よりも更に上って来た訳だが、遥か上空に居るにも拘らず呼吸が苦しくなく寒さも感じないと言うのは、リベル・アークが空中で暮らすために必要な機能を備えているからなのだろうな。



「クク……待ちくたびれたぜ。」



で、怪盗紳士と戦ったのと似たような場所に出たとなれば当然居るか《執行者》が……!



「サングラス男!」

「《痩せ狼》か……」



次はお前か、痩せ狼!
相も変わらず殺気の混じった闘気を隠そうともしないとは……普通ならば、『己の存在を相手に知らせる愚かな行為』と言う所なのだが、コイツほどの手練れとなると、此れは自信の表れと言う事になる訳か……剣帝ほどではないが、痩せ狼も決して侮る事は出来ない実力者だからね。
特に、アガットの重剣を素手で圧し折ったと言うのは凄まじいの一言に尽きるからな。



「ヴァルター……」

「クク……よく来たじゃねぇかジン。
 此処に来たって事は、覚悟は出来たみてぇだな?」

「あぁ、師父から継いだ《活人の拳》……アンタの邪拳を打ち砕くために振るわせて貰う心算だ。」

「クク……如何やら爺の目論み通りになったようだな。」

「!?
 師父の目論み通り……?如何言う事だヴァルター!アンタと師父が仕合ったのは、矢張り俺が関係しているのか!?」

「ハハ……だから言っただろう?もし、其れが知りたければ俺を打ち負かして見せろってな!」



ジンとヴァルター……此の二人には浅からぬ因縁があるのは、先のエルモ温泉での一件で明らかな訳だが、如何やら今回の戦いは私達は痩せ狼とは戦えないみたいだ。
痩せ狼が指を鳴らした次の瞬間には、機械で武装した四つ足の獣型の魔獣が現れて私達を取り囲んで来たからね……痩せ狼はジンとのタイマンをお望みか。
ならば私達は、ジンが安心して戦えるようにこの出来損ないのサイボーグタイガーをぶち壊すだけだ!



「ジンさん、こっちはアタシ達に任せて!」

「……あぁ、こっちは俺がケリを付ける!」

「ククク……そう来ねぇとな!
 腑抜けた拳を振るったらその場で終わらせてやる……さぁ、死合うとしようぜ!」



痩せ狼の方はジンに任せて、私達は武装した魔獣との戦いに突入した訳なのだが……ハッキリ言ってこの程度の雑魚では何匹湧いた所で私達の敵ではないな?
取り敢えずエステル、この前教えてやったアレを使ってみようか?



《そうね、やってみましょう!》



そう提案した次の瞬間、エステルは其の場で膝を付き震え始めた……行き成りの事にヨシュア達も心配したのだが、ヨシュアがエステルのカバーに入るよりも早く武装魔獣が襲い掛かって来た。
だが、其れは悪手だ。



「とぉぉりゃぁぁぁ!ハイハイハイハイハイ!この、この、この、この、このぉ!嘘吐きにはご用心!」



カウンターの棒術具でのカチ上げを喰らわせた後に棒術具での連撃を喰らわせ、其処から旋風輪→金剛撃五連発の連続技に繋ぎ、トドメは一本足打法でホームラン!
これぞ、力尽きたフリをして相手の攻撃を誘って手痛い反撃を喰らわせる大技『ライアー・エレメンタル』!元は主の居た世界のゲームの技だが、意外と使えるモノだな此れは。
ヨシュア達も武装魔獣を次々と無力化しているから、殲滅も時間の問題だな。



――ドッスゥゥゥン!



と思っていたら、『真打登場!』とばかりに、アフリカゾウ並みにデカイ武装魔獣が現れましたとさ。
バカデカい図体は其れだけで体力が凄まじいのは間違いないが、分厚い皮膚に更に装甲が追加されているとなれば防御力も相当に高く、攻撃力に関しては言うまでもないだろう。
普通に戦えば難敵なのだろうが――悪いが今回は相手が悪かったな。



「クローゼ、お願い!」

「準備は出来ていますエステルさん……はぁぁ!アラウンドノア!!」



クローゼが水属性の上級アーツを喰らわせた事で、デカブツの身体は濡れている……やれ、シュテル!



「マジックカード『サンダー・ボルト』を発動します。」

『ゴギャァァァァァァァァ!!』



シュテルが『サンダー・ボルト』を発動してターンエンド……びしょ濡れになって導電性がアップした所へのサンダー・ボルトは効果抜群だったみたいだ。
まぁ、まだギリギリ動けるみたいだが、此処は悪役タップリにトドメを刺してみようか?



「其のまま死んでいろ、でぇきそこないめぇ。……こんな感じかしら?」

「うむ、実に良い感じだ!」

まさか前にちらっと話した『ドラゴンボールのセル』のオマージュをやって来るとは思わなかったけれどね……まぁ、此れで武装魔獣は一掃した訳なのだが、ジンの方はどうなったかな?



「テメェ……いつの間に其処までの功夫を……!」

「ヴァルター、アンタは確かに天才だ――だが、その才能故にどうしても積み重ねが欠けるんだ。
 そして功夫とは、愚直なまでの繰り返しの鍛錬で積まれて行く……だからこそ、格下の俺の拳がアンタに届くんだ!」



此方も、大方の戦局は決したと言ったところみたいだね?
才能に胡坐を掻いたと言う事は無いのだろうが、ジンとヴァルターでは己を研鑽したその質に差があると言う事なのだろな……ジンは『日々これ鍛錬』と鍛えて来たから、執行者にもその拳が届いた、そう言う事か。



「ククク……格下か……爺の奴はそうは思ってはいなかったぜ?」

「………え………?」



此処で痩せ狼が何とも気になる事を言ってくれたが、如何やらジンとヴァルターの師は、ヴァルターに『殺人、活人の理念関係なく、素質も才能もジンの方が上だ』と伝えていたらしい。
此れにはジンも驚いていたが、二人の師は『より才能のある方に『泰斗流』を継がせる気で居た』らしい……其れが意味するところはつまり、痩せ狼は泰斗流の後継者たり得ないと言う事でもある訳か。



「だ、だが……俺がアンタよりも格上だなんて冗談も良い所だろう!
 其れに師父が、キリカの気持ちを無視してそんな事をする筈が……」

「……ククク……だからテメェは目出度いんだよ。
 流派を継ぐ訳でもないのに師父の娘と一緒になる……そんな事、この俺が納得出来ると思うか?」



そして衝撃の事実。痩せ狼とキリカは嘗て恋人同士だった!まさかの事実にジン以外の全員が驚いているな?……シュテルは顔には出てないが。
其れはまぁ其れとして、納得出来なかった痩せ狼は師に『ジンとの勝負で後継者を決めるように要求した』らしいが、其れを聞いた師は『――ジンは無意識的にお前に遠慮をしている。武術にしても、女にしてもな。お前が今のままでいる限り……あやつの武は大成せぬだろう』と言ったらしい。



「ククク……俺も青かったから余計に納得出来なかった訳だ。
 そして爺は、テメェの代わりに俺と死合う事を申し出て……そして俺は――爺に勝った。」

「……………」

「ククク……此れが俺と爺が死合った理由だ。お望み通り答えてやったぜ。」

「………俺はずっと確かめたかった。
 師父が何故、アンタとの仕合に立ち会うように言ったのかを……漸く、其の答えが見えたよ。」

「なんだと……?」

「ヴァルター、アンタは勘違いをしている。
 此れは、俺も後からキリカから聞いた事なんだが……あの頃、リュウガ師父は重い病に罹っていたそうだ。悪性の腫瘍だったと聞いている。」



悪性の腫瘍……要するに癌か。
此れは痩せ狼も知らなかった事だったようで驚いていたが、ジンは『だからこそ師父はアンタとの仕合を申し出た!無論、アンタの武術への姿勢を戒める意味もあっただろうし……未熟な俺に武術の極を見せる心算でもあったろう。だが……何よりも師父が望んだのは、武術家としての生を一番弟子との戦いの中で全うしたいと言う事だったんだ。』と伝えた。
其れを聞いた痩せ狼は『なんだそりゃ……そんな馬鹿な話ががあるわけねぇだろうが。じゃあ何だ?俺は体良く利用されただけか?』と皮肉気に笑ってみせた……まぁ、その気持ちは分からなくもないが。



「それじゃあ何の為に俺は……」

「確かに其れは……身勝手な話なのかも知れん。
 だが、強さを極めると言う事は、突き詰めれば利己的な行為なんだろう――其れが、俺達武術家に課せられた宿命と言えるのかもしれない。
 だからこそ師父は……敢えて己の身勝手を曝け出した。
 そうする事で、アンタや俺に武術の光と闇を指し示す為に……」

「…………」

「……ヴァルター、構えろ。」

「なに?」

「師父とアンタから学び、遊撃士稼業の中で磨いて来た『泰斗』の全てをこの拳に乗せる。
 そして、修羅となり闇に落ちた腑甲斐ない兄弟子に喝を入れてやる!……多分それが、アンタの弟弟子として俺が出来る最後の役目の筈だ。」

「……ケッ……随分吹くじゃねぇか……だったら俺は、《結社》で磨いた秘技の全てを拳に込めてやる……『泰斗』の全てを葬るためにな。」



如何やら次の一撃が決着の一撃となるようだな?
ジンと痩せ狼から凄まじいばかりの闘気が溢れ、其れが爆発すると同時に二人とも裂帛の気合を持ってして拳を繰り出す……此れほどの闘気が乗った拳、何方か片方は……!

そして互いに拳を振り抜き、位置が反転する……何方も微動だにしなかったが、先に膝を付いたのはジンの方だった。……まさか……



「ジンさん!?」

「クク……仕方ねぇ奴だ……其れだけの功夫を宝の持ち腐れにしてたとはな……クク……爺の言う事が……漸く分かったぜ。
 ……ふぅ……美味ぇ……本当に……タバコが……美味ぇ……」



だが、次の瞬間に倒れたのは痩せ狼の方だった。



「も、もしかして……」

「うん……ジンさんの勝ちみたいだね。」

「流石はジン、やるじゃねぇか!!」

「あんなトンデモなさそうな奴に勝っちゃうだなんて……凄いんだねアンタって!」



皆口々にジンを賞賛するが、そのジンは『俺が勝てたのは『泰斗流』を背負っていたからに過ぎん。もしアイツが『泰斗』の正当な使い手としてこの勝負にこの勝負に臨んで居たら、倒れていたのは多分俺の方だっただろう』と言っていたが、勝負に『もし』はない。結果が全てだ、違うかジン?



「……いや、お前さんの言う通りだなアインス。……って、シュテル、お前さん何してるんだ?」

「いえ、死んだ振りをしているのではないかと確認しているのですが……突っついても頬をブニブニしても何のリアクションもないので本当に気を失ってると見て間違いないでしょう。
 ですが一抹の懸念事項として、彼が気を失った状態のまま私達がリベル・アークを破壊してしまったら彼はどうなってしまうのかと……」

「ソイツは……だがまぁ、執行者はまだいるだろうし、俺達がリベル・アークを攻略するにはまだまだ時間が掛かるだろうから、其の間にヴァルターは目を覚ましてるだろうさ。
 目を覚まして何をするかはヴァルター次第だが……だからこそ俺達は、今は前に進む事だけを考えよう。兎に角上に進むぞ。」



ジン……過去の清算は完了と言ったところだな。
そして痩せ狼よ、願わくばお前が結社から足を洗って、真っ当な武の道に戻る事を願っているよ――お前ほどの使い手が結社の手先で居ると言うのは些か勿体ない気がするからね。

さて、此れで残る執行者はあと三人か……最後に最強が待って居るのは間違いないが、だからと言って負ける気は全くないがな?執行者を全て倒し、そしてリベル・アークを破壊する事に変わりはないのだからね。
待っていろ外道、貴様の命は後三ターンだ……!!











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