Side:アインス


目の前に聳えるアクシス・ピラーを目指して進軍したのだが、その道中では当然の如く結社の人形兵器が私達の行方を拒まんと現れたのだが、正直なところ、貴様等程度ではウォーミングアップにもならんな?
ステータス的にはソコソコ高いのだろうが、ソコソコ高い程度ではユニゾン状態のエステルの敵ではないさ――ユニゾン状態のエステルは、エステルの基本ステータスを私の力で倍加してると言う可成りのチート状態だからな。……尤も、この状態であっても執行者とサシで勝負出来るかと問われたらそれは否な訳だが。



「皆見事な戦いぶりですが、あなたの射撃の腕前も大したモノですねジョゼット?キチンと両手で保持してブレが少なくなっているので、片手撃ちのオリビエよりも狙いは正確であると言えるでしょう。
 その正確な狙いには少々驚いています。」

「褒めて貰えるのは嬉しいんだけど、驚いてるなら驚いてる顔するなり声を出すなりしてくれよ無表情娘。アンタ何考えてるか分かんないよ?」

「良く言われます。ですが流石に無表情娘は傷付くので、私の事は気軽に『シュテルン』と呼んで下さい。私も貴女の事を『ゼットン』と呼ぶ事にします。」

「いや、其れは遠慮しとく。」

「……そうですか。残念です。」



シュテルよ流石に其れは無いだろうに……ジョゼットは女の子なのだからニックネームにウルトラマンの最強怪獣の名前と言うのはな――とまぁ、其れは兎も角として期せずして仲間となったジョゼットだったが、確かに彼女の加入の影響は決して小さくないモノだな?
物理的な遠距離型が二人から三人になっただけで此処まで戦い易くなるとは思わなかったし、クローゼも発動に時間の掛かる上位アーツを使う機会が増えているからな。
中距離型のシェラザードも付かず離れずの絶妙な距離で牽制を行い、エステルを含めた近距離型がメインとなって人形兵器を粉砕――近距離型四人の内三人がパワー型なのだが、ヨシュアはスピード型よりも更に速い超絶スピード型で敵を攪乱してくれていたのでパワー型はその本領が発揮出来たとも言えるがね……と言うか、機械ですら本物と誤認するだけの残像を残すとか、本気でヨシュアのスピードは人外のレベルかも知れないな。



「今だエステル!」

「此れで、ぶっ飛べぇ!!」



で、中枢塔のガーディアンと思われる巨大な人形兵器と其のお供も見事に撃破――ボスである巨大な人形兵器はヨシュアが超スピードで多数の残像を残して演算機をバグらせたところをエステルがリベルアークの外までぶっ飛ばす場外ホームランをかまして終了だ。
棒術具の先に火属性と地属性を付与し、インパクトの瞬間に爆発するようにしていたとは言えまさか場外ホームランになるとはな……まぁ、リベルアークの下にあるのはヴァレリア湖だから、アレが落ちたとしても大惨事にはなるまい。
そして、遂に中枢塔に辿り着いた訳だが……間近で見るとトンデモナイ大きさだな此れは?――それだけに、最終決戦の舞台としては此れ以上の場所は無いと言えるかもしれないな。









夜天宿した太陽の娘 軌跡142
『最終決戦場の中枢塔~アクシス・ピラー~』









中枢塔に入る前に、ヨシュアはケビンに頼んで何かをして貰っていたようだったが、エステルが聞いても『最終決戦に向けた最後の準備だよ。僕にとって、此れはやっておかなければならない事だから』答えるだけだった――悪い事ではないのだろうが、詳しい事はエステルにも明かす事は出来ないと言ったところなのだろうね。
そしていよいよ中枢塔に突入した訳だが……



「コイツが中枢塔の内部……塔の内部っつーか、コイツは……」

「まるで大きな装置の中に居るみたいですね……」

「其れに、この光る液体は一体何なのかしら?得体の知れない感じだけど……」

「……高圧の導力に満ちた液体かもしれない……直接手に触れるのは止めておいた方が良さそうだ。」



だな。
何よりも此処は敵の本拠地の中枢である事を考えるとどんな仕掛けがあるか分からないから、不用意に何かに触れるのは止めておいた方が良いだろうさ……あの外道教授がどんなトラップを仕掛けているか分かったモノではないからね。



「『人造人間-サイコ・ショッカー』のカードを持って来るべきでしたか……」

「いや、持って来なくていいからな?」

確かにサイコ・ショッカーが居ればありとあらゆるトラップは其の力を失うので頼もしくはあるが、逆に言うと此方もトラップを仕掛ける事が出来なくなってしまうからね。
そんな訳で中枢塔の内部を進む事になったのだが、内部には結社の人形兵器だけでなく、魔獣なのか機械なのか判別が難しい敵も多数存在していたな?此れは元々中枢塔のセキュリティシステムとして存在してたモノなのかも知れないが、若しかしたら太古の昔には機械と魔獣を融合する技術が存在していたのかもな。



「雑魚共が群れてんじゃねぇ!!」

「悪いが道を開けて貰うぞ?」



だとしてもこのチームの敵じゃないのだけれどね。
そんな感じで敵を蹴散らしながら中枢塔を進んで行くと此れまでとは異なる方向に道が開かれていたので、其方に進むと外に出たか――如何やら可成りの高さまで登って来たみたいだな?リベルアークの街全体を見渡す事が出来るみたいだからね。



「あれ?」

「如何したエステル?」

「あそこ、道の先に何かある……アレって何なのかな?」



ふむ……確かに何かあるな?
近付いてみると、此れは……何かの端末か?



「だと思うけど、やたらと思わせぶりだよね?」

「如何やら調べてみる必要がありそうですね……」

「果たして鬼が出るか蛇が出るか……いやぁ、実にワクワクするねぇ?」

「其れはアンタだけよオリビエ。」

「アハハ、相変わらず手厳しいなぁシェラ君は。だけど僕の正体を知って尚、その態度を貫く君に僕は感動を覚えているよ……此れは本気で惚れてしまいそうだ。」

「惚れるのは勝手だけど、惚けるのは困るわね。」



惚れると惚けるは同じ字だからな……だが、調べるのは後回しにした方が良さそうだ――そうだろう、ヨシュア。



「そうだね……居るんだろう?隠れてないで出てきたらどうだい?」

「フフフ、流石は《漆黒の牙》、そしてジェニス王立学園で私を追い詰めてくれた者と言ったところかな?……気配を断つのは、隠れた気配を察するのと同じか。」



現れたのは変態仮面もとい怪盗紳士か。
執行者が待ち構えているとは思ったが、まさかお前が一番手とはな……普通ならば一番手となると執行者最弱となるところなのだが、怪盗紳士のトリッキーな戦い方は油断出来ん――直接的な戦闘力は高くなくとも、裏技や搦め手ならば怪盗紳士の得意とするところだろうからね。



「ヨシュア、エステル・ブライト、そして気高き我が姫と我が好敵手よ……心より歓迎させて貰おうか。」

「歓迎って……」

「如何やら貴方が最初の障害のようですね……」

「僕としては、中々に良いシチューションであるとは思うけれどね。」

「フフ、最初にして最後の障害だ。そして其れが分かるとは、流石は我が好敵手だ。
 此処にあるのは、《中枢塔》の上層に通じるゲートをロックする為の端末でね――此れが働いている限り、諸君は永遠に《環》に辿り着けないだろう。」

「だったら何だってんだ?そう言う事なら、その端末をぶっ壊せば良いだけのこったろうが!すかしてんじゃねぇぞこの仮面野郎が!」



アガット……まぁ、そうなるのは当然の事か。
そんな中で、ヨシュアはブルブランに『今回の計画でリベールに来た執行者の中では最も因縁が少ない筈だ』と前置きした上で『此れ以上教授に従って僕達と戦う理由が何処にある?』と問い、無用な戦闘を回避しようとしていたのだが――



「フフ……私は別に教授に従っている訳ではない。
 知っての通り、我々《執行者》は望まぬ命令に従う義務などないのだ――《使途》は勿論、例え《盟主》の命であってもね……フフ、教授の人形であった君は少々事情が違っていたようだが。」

「……黙れ。」



エステル?



「何か言ったかなエステル・ブライト?」

「黙れって言ったのよ此の変態仮面!
 ヨシュアが教授の人形ですって?そんな事は無い!確かに父さんが連れて来るまではそうだったかもしれないけど、今のヨシュアは教授の人形なんかじゃなくて、『ヨシュア・ブライト』って言う一人の人間よ!そのヨシュアを人形呼ばわりするなんて事は、アタシが絶対に許さないわ!」

「エステル……」



ふ、良く言ったエステル。
ヨシュアは最早あの外道教授の人形ではなく、『ヨシュア・ブライト』という一人の人間だからね――そのヨシュアを『人形』呼ばわりすると言うのは私も到底許せるモノではないからな。



「エステル・ブライト……君もまた気高き魂の持ち主だったか!
 だが、其れは其れとして私が拘る理由は只一つ……其処に盗む価値のある美しいモノがあるかどうかだけだ。――だからこそ、私は此処に居る。」

「盗む価値のある美しいモノ……一体それは何なのですか?」

「フフ……其れは諸君の《希望》だ――逆境であればあるこそ《希望》と言うモノは美しく輝く……その煌めきを見る為に、私はこの場で諸君らを待っていた。
 その結果、夏の花火の様に《希望》が消えてしまっても……私はその極が見てみたいのだ!
 さぁ、見せてくれたまえ……《希望》と言う名の宝石が砕け散る時の煌めきを!!」

「か、勝手な事を抜かしてるんじゃないわよ!」

「ならば逆に証明しましょう……絆が生み出す希望と言うモノが決して砕け散りはしないと言う事を!」

「そして、愛こそが世界を救うと言う事を教えて上げようじゃないか……さぁ、はじめようか!」



怪盗紳士が杖を掲げると同時に、中枢塔に辿り着くまでに戦った人形兵とは比べ物にならないレベルの巨大な人形兵器が召喚され、其のまま怪盗紳士との戦闘になった訳だが、この人形兵器は強力ではあるが其処まで警戒すべき相手ではなさそうだ。
向こうは怪盗紳士一人と巨大人形兵器が二体で此方は十人か……ならば数の利を最大限に活かさない手はないな。
杖で攻撃してきた怪盗紳士はヨシュアが対処し、其処にエステルがカウンターの捻糸棍を繰り出し他のだが、其れは簡単に避けられてしまったか……だが、今のは只の捻糸棍ではない!



「なに……衝撃波が炸裂した、だと?」

「この衝撃波にはアインスが炎と氷の属性を同じ強さで付与していたのよ!全く同じ強さの炎と氷が混ざり合うと、互いに同じ強さで打ち消し合ってすんごい力を発揮するんだって!」

「なんと見事な……流石は、かの剣聖の血を引く者と言ったところか!だが欲を言うのであれば、我が姫君と我が好敵手とも手合わせを願いたいモノだがね。」

「其れは出来ない相談かな……クローゼはリベールの次期王女である王太女殿下で、オリビエさんはエレボニア帝国の皇子だからね。
 二人とも自分の意思で此処に居るとは言え、其れでも執行者と直接遣り合うような危険な目には遭わせられないよ。」



オリビエと『美』についての論戦を展開するのは未だ良いとしても、クローゼに対する執着には少しばかり恐ろしいモノがあるからなコイツは……もしも王城に駆け付けるのがもう少し遅かったらと考えるとぞっとするな。

その後も戦闘は続き、人形兵器は強力だったがクローゼ達が協力して抑え、怪盗紳士はエステルとヨシュアが対処していたのだが、予想外に怪盗紳士の方が焦っているようだな?
ユニゾン状態であっても苦戦する事を覚悟していたのだが……如何やらその大きな要因はヨシュアみたいだ。
ヨシュアは執行者達の事を知っているが、執行者達もヨシュアの事を知っている訳だが、執行者達が知っているのはあくまでも《漆黒の牙》としてのヨシュアであって、『ヨシュア・ブライト』の力は全く知らないのだろう――己の記憶にあるモノとは異なる力を身に付けているヨシュアが次に何をしてくるのかが予想出来ず、対応が後手後手になっている、そんな感じだな。



「漆黒の牙……いや、此の力は《執行者》の時とはまた別の……!」

「僕はもう、結社の《執行者》じゃない!僕は……ヨシュア・ブライトだ!行くよ……ハァァァァァ!!!」

「言ったでしょ?ヨシュアはもう教授の人形じゃないって!行っくわよ~~~!ハァァァァァ……どりゃあ!!!マダマダぁ!!!」

「秘技・ファントムレイド!!」

「奥義!太極輪!!」

「行きます……全てを凍てつかせよ……コキュートス!」

「此れがライバルである君に伝える僕の愛だ、是非受け取ってくれたまえ!」



エステルとヨシュアの奥義が炸裂すると同時に、クローゼが水属性の、オリビエが幻属性の最強アーツを怪盗紳士に叩き込む……エステルの攻撃は単体が対象だが、ヨシュアとクローゼとオリビエの攻撃は味方を巻き込まない無差別攻撃だから回避は不能だ。
三種の回避不能攻撃を喰らった怪盗紳士は流石に大ダメージを受け、エステルの一撃で仮面も破損してしまったみたいだな……そして、今の攻撃で二体の巨大機械人形もスクラップになったとさ。

此れにて決着、かな?



「……く……馬鹿な……よもや私の仮面に……罅を入れようとは……」

「はぁ……はぁ……如何?思い知った!?」

「……砕け散ったのは、貴方の傲慢だったみたいだね。」

「絆が生み出す希望の強さ……分かって頂けましたか?」

「愛と絆の勝利と言う奴だね。」

「………………………よかろう……此処は大人しく退いておく……だが、教授のゲームはまだ始まったばかりでしかない。
 今回のような幸運は、此れ以上続かぬモノと覚悟した方が良かろう。
 忘れるな……諸君は此の私を退けたのだ……立ち塞がる絶望の壁を乗り越えて、必ずや美の高みへと至るが良い。……其れでは、さらばだ。」



自ら敗北を認めて身を退くとは……此れ以上戦うのは美しくないと判断したのかもしれないが、なんと言うか最後の最後まで己を貫いた奴だったな怪盗紳士は?敵ながら天晴と褒めておこう。

《しかし、あの仮面を破損させてしまったのは少し悪かったかも知れんな?仮面だけならば中々にオシャレだったし。》

《其れ、本気で言ってるの?》

《嘘に決まってるだろう。》

《そうよね……》

《だがしかし、仮面舞踏会の会場であるならば怪盗紳士のいで立ちは間違いなく注目の的となり、ダンスパートナーに事欠かないんじゃないかとは思うけれどね。》

《場所が限定されるわねぇ……》



ともあれ執行者を一人退ける事が出来たというのは大きいな。
ヨシュアも『如何やら完全に手を退いたみたいだ……誇り高い人だから、約束は違えないよ。』と言っていたから、背後から闇討ちして来ると言う事も無さそうだな。



「でも、リベールでの《実験》を行ってた《執行者》が此処に居るんだとしたら、あと四人の《執行者》が居る事になるから、アイツが言っていたように教授のゲームは始まったばかりだと思うわ。
 だから、この先も気を引き締めて行きましょ!」

「普通なら、『何で下っ端のテメェにそんな事言われなきゃならねぇんだ』って言う所だが、お前に言われるとそんな事を言う気にもならねぇ……テメェは生まれ持ってのリーダー気質って奴なのかもな。」

「エステル・ブライトの言葉には論理的な裏付けは無くとも、何処か信頼してしまう妙な力強さがありますからね。」



其れがエステルの凄い所だからな。
太陽が万物を照らすのに理由がないのと同じく、エスエルは論理的な理由が無くとも他者を引っ張って行く力があるからね……故にエステルは『太陽の娘』なのだがな。

其れは其れとして、最初の相手が怪盗紳士か……もしもリベールでの《実験》に関係した順番でアクシス・ピラーに《執行者》が配置されているのであれば次の相手は《痩せ狼》になる訳だが、もしそうなった場合はジンと痩せ狼の一騎打ちになるのかもしれないな。

取り敢えず、今は先に進む、只それだけだね。











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