Side:アインス


ラッセル博士の尽力によって復活したアルセイユで目下《輝く環》に向かっている最中なのだが、その道中でケビンが件の《輝く環》について、現時点で七耀教会が把握している事を話してくれた。
それによると、《輝く環》は、空の女神が古代人に授けた《七の至宝》の一つだったらしい。
なんでも七耀歴0年にゼムリア大陸全土で起きた『大崩壊』なる災厄の時にリベール王国の地下深くに封印されたのだが、今回その封印が解かれた事で力を取り戻した《環》が浮遊都市ごと空に浮上した……浮遊都市ごと、と言う事はあの浮遊物体自体が《輝く環》ではないと言う事か?



「そやで。
 《輝く環》はあの浮遊都市其の物やのうて、あの都市の中にあって、其処で導力をコントロールしてる古代遺物らしいんや。」

「で、でもコントロールって導力の流れをより良く調整する事ですよね?其れなのにどうして導力停止現象なんて事態が起きちゃうんでしょうか?」

「此れは……推測やけど、《環》はあの浮遊都市全体の導力を行き届かせるだけやのうて、外界に存在する異物を排除する働きを備えてるんとちゃうやろか?」

「其れって、アタシ達が使ってるオーブメントは《輝く環》にとっては排除すべき異物だって事……?」

「故に影響範囲にある物は悉く無効化する、いわば防衛機構と言う訳か。」

「……その可能性は高いじゃろう――だとすると、ワシ等が今までやって来た事は、空の女神のお気に召さんかったと言う事なのかの。」



ラッセル博士が発した一言で少しばかり雰囲気が暗くなってしまったが、其れも致し方ないだろう……自分達のして来た事が、ある意味で無意味であったと言われたにも等しいのだからね。
だが……



「だったら、何だって言うの!?
 今まで起きた悪い事は全部、《輝く環》が原因で、その《輝く環》はあの空に浮かんでる浮遊物体の何処かにあるんでしょ?
 だったらアタシ達は、このままアルセイユで突っ込んで、其処にある《輝く環》を見つけ出すだけよ!それで皆の笑顔が戻るんなら、女神様の妨害なんて跳ね返しちゃえば良いんだわ!」

「跳ね返す……ミラー・フォースのカードを持って来るべきでしたか……」



エステルはそんな状況でも絶対に下を向かない!……そしてシュテルはナチュラルにボケる!
太陽は下を向かず、前だけを見て未来を照らし出す……エステルが言った事は、此れからやるべき事の再確認に過ぎないのだが、其れでもエステルが言うと皆の士気を上げる不思議なパワーがあるからね。
暗い雰囲気が吹き飛んだところで、目的に向けてのフライトを続けるとするか!









夜天宿した太陽の娘 軌跡139
『Steigen Sie in die schwimmende Stadt ein』









エステルの発した言葉で暗い雰囲気は吹き飛んだが、だからと言って此れから先に待ち受けているのが決して楽な事態でない事は変わらない……と言うのもだ。



「でも、妨害は其れだけじゃない。
 《輝く環》の前には、恐らく強大な敵が待っている筈だ――結社の、執行者達。」

「レーヴェと、其れにワイスマン教授……ね。」

「其の二人だけでなく、怪盗紳士、痩せ狼、レン、幻惑の鈴も居ると考えた方が良いだろう――此れまでのリベール各地で起きた事を考えれば、彼等もまたあそこにいる筈だからな。」

「確実に居ると思う……だからこそ、此処で全部終わらせる。全ての決着を付けよう。」



あの浮遊都市には結社の執行者と、執行者よりも上の存在である《使途》であるあの腐れ外道教授が居る筈で、私達が乗り込んで来た事を知ったらなにもしない筈がないからな……まぁ、どんな策を弄していたとしてもそれらを全てぶち壊してやるだけだが。



「……前方に雲の切れ目!間もなく浮遊物体の上空に出ます!」



此処でアルセイユが長かった雲の中の旅を終えて浮遊都市の上空に出た訳なのだが……地上で見た時よりも間近で見るとよりその大きさが分かるな此れは?見えている部分だけで、王都並みの広さがあるんじゃないのか?
浮遊物体全体の大きさはそれこそ島が一つ空に浮かんでいるレベルと言っても良いだろう……これが大崩壊で失われた古代ゼムリア文明の精華か。



「よーし、皆行くわよ!リベールの平和を取り戻す為に!!」

「あぁ、行くぞ!」



――フッ……



って、今何かがアルセイユの横を通り過ぎた様な……速過ぎたので詳細は分からないが、黒い影が……



――ガクン!!



と思った次の瞬間、アルセイユが姿勢を崩した!?まさか、何か機体トラブルか!!



「何事か!?」

「左側部に損傷!?」



左翼のエンジンがイカレタのか!ラッセル博士が整備したのならば万が一にもエンジンが壊れると言う事は考え辛い……となるとアルセイユと擦れ違ったであろう黒い何かの仕業か!
だが此のままで墜落は免れん……代われエステル!そしてシュテル、お前も一緒に来い!何処でも良いから外に出られる扉を解放してくれ!



「何をする心算かは知らんが……此のままじゃどうにもならんからの……お前さんに任せるわい!」

「ありがとう博士!それじゃあ、交代だ!」

「代わるわよ!」



――バシュン!



エステルと交代し、シュテルと共に側部ハッチから外に出て破損した左翼部を支えながら飛行して機体の安定を保つ……とは言え、あくまでも此れは応急処置に過ぎないのでアルセイユが浮遊都市に不時着するのは避けられないのだが、此れならば不時着時の衝撃も幾分和らげる事が出来る筈だ。



「クリボーを増殖で増やしたらクッションになりませんかね?」

「モフモフのクリボーだが、何か触れた瞬間に機雷化して自爆するから、クッションになるどころかトドメの一撃になるだろうな……衝撃吸収なら寧ろカエルスライムの方が優秀かもしれん。」

「プルプルしてますからね。」



我ながら非常時にアホな会話をしていると思うが、此れも私とシュテルが普通の人間じゃないから出来る事だな……っと、そろそろ浮遊都市に不時着か!不時着時の衝撃に備えて足元とアルセイユの下部に障壁を展開だ!



「…………」

「!!」

不時着直前に見えたのは、王城の地下で戦ったトロイメライに酷似した機械の上に立った剣帝の姿だった……成程、アルセイユの左舷のエンジンを破壊したのはお前だったと言う訳か。
先の王城での敗北に加え、今度はアルセイユを落とされるとは……今はアルセイユの安全が第一故に相手は出来ないが、次に対峙したその時はキッチリと此れ等の借りを返させて貰うとするさ。

「そろそろ浮遊都市に不時着する!惰力でアルセイユが浮遊都市の外に飛び出さないように全力で押し返すぞシュテル!」

「そう言うのはレヴィの方が得意なのですが、と言っている場合ではありませんね?ブラストファイヤーを後ろ向きに撃つ事で逆噴射の代わりとしましょうそうしましょう。」

「其れは名案だ!」

そして不時着!
障壁を張っていたから不時着時の衝撃は兎も角、惰力まで打ち消す事は出来んから、私とシュテルは即船首に回ってアルセイユに手を当て、私はナイトメアを、シュテルはブラストファイヤーを後ろに向けて撃って逆噴射のブレーキに……とは言っても、アルセイユの方が圧倒的に質量があるので中々減速してくれないのだが……浮遊都市最上部を囲っている壁にぶつかる寸前で止まる事が出来たか。
此のまま衝突していたら更に大きく破損していただろうが、不幸中の幸いと言うか、大きく破損したのは左舷のエンジン部分だけの様だな?本体は障壁を張っておいた事が功を奏し、不時着時と不時着後の滑走による破損は無かったみたいだ。

シュテルと共にブリッジに戻ると、此方も奇跡的に怪我人は居なかったみたいだな。



「一体何が起きたのでしょうか?」

「……結社の執行者だ。不時着する直前、トロイメライに酷似した機械の上に立つ剣帝の姿を目撃した……恐らくは奴が超速でアルセイユに接近し、擦れ違い様に左舷エンジンを破壊したんだ。
 剣帝ならば、其れ位の芸当は朝飯前だろうヨシュア?」

「うん、レーヴェなら空飛ぶ船を擦れ違いざまに叩き落す位は造作もない事だよ。」

「其れはまた何ともトンデモナイ事じゃが、此のままでは真面に浮き上がる事も出来ん……此の状況下で此れは相当に拙いじゃろう――兎に角アルセイユの修理じゃ!皆、手を貸してくれ!」



剣帝、矢張り恐るべき相手だな……
しかし剣帝が仕掛けて来たとなると、結社は既にここに来て着々と準備を進めている、そう言う事になる……となると、恐らく半実体化した私の無敵モードは通じないと考えた方が良いだろう。



《何で?》

《悲報にして朗報、オーブメントが動いてます。外部にある状態では弾かれても、内部に入ってしまえば弾かれないらしい――となると、半実体化した私への攻撃も有効になる機構も有効になってると思うからね。》

《マジか……となると、如何しましょうか?》

《此処は、まだ奴等が知らないユニゾンで行くのが良いだろうな。》

《成程ね。》



と言う訳で、エステルと代わった後にユニゾンイン!夜天の太陽、今此処にってな!……そしてヨシュア、ユニゾンエステルへの感想をどうぞ。



「金髪蒼眼のエステルも悪くないかな……じゃなくて、先のレーヴェの一撃は結社から僕達への宣戦布告だよ。」



カラーリングが変わった程度では驚かない辺り、ヨシュアは心の底からエステルの事を愛しているのだと確信したが……先の一撃が私達への宣戦布告と言うのには諸手を上げて同感だ。
そして同時に、悠長にやっている暇はあるまいな。……ユニゾン状態でも、30cmほどで実体化して己の意思を伝える事が出来るのは便利だ。



「そうですね、彼等の手に《輝く環》が渡ったらどの様な事になってしまうのか……」

「如何考えても碌な事にならないでしょうね。」

「なら其れは絶対に阻止しなきゃ!
 ごめんラッセル博士!アタシ達行って来ても良い!?結社の計画は、アタシ達が必ず阻止してみせるから!!」

「無論じゃ、行って来い!」

「アルセイユは私達がちゃんと直しておくからね!」

「諸君らの命綱は我々が守る!此方の事は気にせず、己の任務を全うしてくれ!」

「ありがとう!行ってきます!」



そして、多くのメンバーはアルセイユの修理に尽力する事になったのだが私とユニゾン状態のエステルを筆頭に、ヨシュア、シェラザード、オリビエ、クローゼ、アガット、ジン、ケビン、シュテルで結社と対峙する事に。
此のメンバーならば、負ける可能性は微塵もないだろう……それじゃあ、ラストステージの攻略と行こうじゃないか!











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