Side:オリビエ


いやはや、アインス君の的確過ぎる指摘には肝を冷やしたが、最終的にはこうしてハーケン門から帝国軍を一時撤退させる事が出来たのだから良しとしておこうじゃないか。クローゼ君の覚悟も見る事が出来たしね。……だけど、だからと言って先生が黙ってはいないだろうね。



「皇子!此れは如何言うおつもりですか!」



ほら来た……でもそう来るのは想定ないさ。
仕方あるまい中将、アレだけ見事に切り返されてしまってはね――其れに、あのまま王国の戦争を仕掛けたところで、蒸気戦車隊などリベールの白き翼に蹴散らされて終わりだろう……違うかい?



「ぐぅの根も出ませんな!……実に見事な猿芝居でしたよ!」

「あ~~……やっぱりバレちゃった?」

まぁ、アレだけやれば当然だね……無論これは冗談じゃ済まされない。帝国政府の意思に背いたと思われても仕方ないだろうさ――だがゼクス中将、いや先生、貴方も本当は気付いている筈だ。
此度の一件、アインス君が指摘したように、まるで今のリベールの混乱を予見していたような采配じゃないか?……今回の件で確信したよ、『彼』は間違いなく《身喰らう蛇》と通じている。
十年前と同じ様な欺瞞は二度と繰り返させない……彼の美しくないやり方を此れ以上見過ごしたりはしない。――僕は帝国に巣くう怪物を退治する事に決めた……此れは、その宣戦布告と言う訳さ。



「……其れがドレほどの困難を伴う事であるのか理解しておいでなのか?」



先生は勿論驚いたが、僕とてそれは理解しているさ……リベールを旅して、僕はどんなに困難な状況にあっても、人は、国はその気になればいくらで誇り高くあれるのだと――そして、願わくば祖国と同胞にも同じようにあって欲しいとね。
出来ればその理想に先生も協力して貰いたいんだけど、ね♡



「……取り敢えず、撤退に関しては一先ず了解しました。
 但し、我が第三師団はあくまでも先駆け……既に帝都ではリベール侵攻に向けて十個師団が集結しつつあります。今日を含めて三日……其れ以上の猶予はありますまい。」

「其の間にリベール王国は全ての決着を付けねばならんと言う事か……」

此れはいかんな?同盟国として助太刀をして差し上げねば!……じゃあ、そう言う事で!世界の平和を取り戻してくるからね!
……だけど世界を救いに行く前に、アインス君から一発貰う事は覚悟しておかないとねぇ……身から出た錆、とは此の事かな……









夜天宿した太陽の娘 軌跡138
『期は満ちた~いざ、浮遊物体へ!!~』









Side:アインス


ハーケン門に現れたアルセイユ――其れはつまり、ラッセル博士がアルセイユに搭載する為の零力場発生装置を完成させたと言う事だが、そのアルセイユから降りて来たのは矢張りお前だったか。



「見事な交渉でした、クローディア姫殿下!」

「あ!」

「やっぱり貴方でしたか、カシウス准将。」

「なんでまた父さんが……なんでこんな都合よく現れるのよ?」



エステルの疑問は当然の事だが、カシウスが言うにはラッセル博士達が進めてくれていたアルセイユの改造が漸く終わり、そしてクローゼが一人で帝国軍に立ち向かったと連絡を受けて急いで馳せ参じたとの事だった……尤も、こうなる事はカシウスは予想していたのだろうがな。
そうでなければ帝国軍がハーケン門に現れたタイミングで都合よくアルセイユの改造が終わる筈もない――帝国軍がハーケン門に現れる日時を予測し、其れから逆算して其の時に間に合うようにラッセル博士に頼んでおいたのだろう。



「殿下、王都襲撃の件は聞きました……王室親衛隊としての責務を果たせず、本当に申し訳ありませんでした。」

「アルセイユ用の大型零力場発生装置の開発が思った以上に難航してのぅ……皆で完成を急いだんじゃが、遅くなってしまってすまんかったの。」

「こんな状況だ、全てが思い通りにとは行かんさ……寧ろ、良いタイミングでの登場だったんじゃないか?」

「アインスの言う通り、凄いナイスな登場だったわよ!あんなタイミングで飛んで来られたら、幾ら帝国軍でも引き下がるしかないモノ!
 こんな切り札を持ってたなんて、クローゼも策士なんだから!」



ってエステル、お前は今回の一件がクローゼが考えたモノだと思っているのか!?……いやまぁ、そう思っても仕方ない事だとは思うが、オリビエの態度とカシウスが此の場に現れた事で少しは怪しんで欲しいのだがな?
まぁ、此の純粋さもまたエステルの美徳である訳なのだが……明らかに敵である相手には怪しんだり疑ったりするから特に問題でもないか。



「やぁ皆、ご苦労様だったねぇ。」

「おやおや、オリヴァルト・ライゼ・アルノ―ル皇子ではございませんか?一体どのような御用件で?」

「ぐ……アインス君の言葉に物凄い棘を感じる……まるでサボテンの如くだ。」

「サボテンね……なら、サボテン型モンスター最強技の『はり99999本』を味わってみるか?」

「……参考までに、其れはどんな技なのかな?」

「相手の防御力を無視して固定ダメージ99999を与える技だな……解析魔法で調べてみると、お前の体力は一万程度だから間違いなく即死だ。」

「其れは是非とも遠慮願いたいね。」

「でしょうね……じゃなくてオリビエ、アンタ帝国の皇子様じゃなかったの?一体何がどうなってるのよ?」



これまた当然の疑問だが、如何やらオリビエは帝国内に怪しげな陰謀が進行していたのだが自分の力だけでは無理だったので、王国軍に協力して貰って帝国軍の出鼻を挫いてやったとの事だった。
其れを聞いたエステルは『帝国の問題に首突っ込むような人間が王国軍に居る訳ない』と言っていたが、いやいや、たった一人だけ居るだろう?そう言う事情に首を突っ込む奴が。



「……まさか、父さんとオリビエは最初からグルで、帝国軍と一緒に私達まで騙してた……って事?――なんでそんなややこしい事するのよ此の大人達はーーー!!」

「敵を欺くには先ず味方からと言うからね。」

「結果的に巧く行って良かったじゃないか。」

「あぁ、確かにその通りだな……」



――轟!!



「って言いながら、何で手に炎を宿して超必殺技っぽいモノを溜めてるんだお前さんは!?」

「若しかしなくても、アインス君怒ってる……よね?」

「当然だ此のバカ者共が……やるならやるで事前に知らせておけ。
 敵を欺くには先ず味方からとは言っても、場合によってはそれが裏目に出る事もある――もしもクローゼがお前達の思惑に気付かずに間違った選択をしてしまったら如何する心算だったんだ?其れこそ戦争に発展しかねなかったんだぞ?」

「其れはまぁ姫殿下ならきっと気付いてくれるだろうなぁって。」

「聡明な彼女ならば気付く筈だと思ってね?」

「筈やきっとでドデカいバクチを打つなぁ!!」

フルチャージ飛龍一閃!!(ガード不可、シールド貫通。)



「「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

「派手に行ったわねぇ……」

「どうせオリビエはギャグ属性で、カシウスは私もビックリのチート能力でノーダメージだろうから問題ないさ……一秒後には復活してる。」

で、本当に一秒後には復活したからなノーダメージで。
そんな二人にクローゼは、『お二人のおかげでリベールは大きな危機を回避できました』と礼を言ったが、オリビエも『貴方が直接この場に赴き、本気の交渉をなされたからこそ、我々だけでは止める事が出来なかった帝国軍を無血で退かせる事が出来た』とクローゼを賞賛したか……オリヴァルトの姿なら兎も角、オリビエの姿で真面な事を言われると如何にも調子が狂うのは私だけなのか……



「貴女のおかげで王国は守られ、我が帝国は過去と同じ過ちを犯さずに済んだ……ありがとう、クローディア姫。」

「そんな、勿体ないです。私はまだまだ未熟ですし……でも、皇子が仰って下さった事が私にも出来たのなら、それは此処まで私を支えてくれた皆さんのおかげですね。」

「って、其れは私もか?」

「勿論ですよアインスさん。先程の交渉の場でも、アインスさんが皇子と遣り合ってくれたからこそ、私も考えを纏める事が出来たんですから。」

「ならば良いのだが……王国を守ったと言うのならば、ろくに武器が使えない状態であるにも拘らず、此処で帝国軍を食い止めていたモルガン達の方が凄いと思うが……戦車砲を一発でも撃たれたらお終いの状況で良くクローゼが来るまで持ち堪えたな本気で?」

「ワシ等は……己の仕事を全うしただけの事。労をねぎらいたくば、姫様の決意を形にして見せたアルセイユの関係者に言うが良い。」

「ワシ等は只アルセイユを飛ばせるようにしただけじゃよ。
 まぁ、そのアルセイユがヴァレリア湖に不時着していると導力通信が入って来なければワシ等はな~んにも出来なんだがな――だとすれば、通信機を直す為に王国中を走り回ってくれた者の功績は大きいのう?」

「少しでも力になれたら嬉しいんだが……」

「つっか、遊撃士が通信機を直すのに専念出来たのは、リベール王国の全員が、この訳分かんねぇ状況で暴動も起こさずじっと辛抱してくれてるからだろ?俺等は良いからそっちを褒めてやれよ。」

「よ~するに!皆が皆で頑張ったら、何でも巧く行くってこっちゃな!」



この声は……ケビン!お前も来てたのか!



「いや~、久しぶりやねアインスちゃん、エステルちゃん!此処からは俺も正式参加させて貰うで?
 七耀教会の方から正式に『本件の解決に向けて尽力せよ』って命じられたさかいな……飛行船での出会いから始まった妙な関係やけど、最後まで宜しく頼むわ♪」

「ケビンさん……そうね!
 皆が皆で頑張ったら何でも巧く行くってんなら、その皆でそもそもの元凶を何とかしちゃえば良いのよ!!」

「あぁ、リベールの災厄の元凶……空に浮かぶ《輝く環》をな。」

「そうですね……皆さん!此れよりアルセイユは、ヴァレリア湖上空に現れた浮遊物体に向かいます!
 此れが、最後のお願いです!如何か窮地にあるリベールに、皆さんの力をお貸しください!」

「その依頼、アタシ達皆で謹んで受けさせて貰うわ!」

「この事態、必ずや解決してご覧に入れよう。」

リベールを象徴する白き翼に、絶対的な光である太陽、絶対的な闇である漆黒、月と星の光と夜の帳の闇の双方を内包する夜天が乗り込むだけでなく銀閃に重剣、不動、親衛隊に星杯騎士、王太女殿下、帝国皇子と其の最側近、リベールが誇る天才博士とその孫が一緒なんだ、結社が相手でもきっと勝てるさ。
さぁ、乗り込むとしようか……《輝く環》にな!








――――――








Side:カシウス


「良いのかカシウス?心配なら一緒に行っても良かったのだぞ?」



モルガン将軍……いや、此れで良いんです。
如何やら敵は思った以上に危険極まりない人物の様ですから……私の様なデキる男が同行しようものなら、手段を選ばずガチに抹殺しに来るでしょうからねぇ。



「お前も随分と買われたモノだな?」

「……ですが逆に、其処に付け入る隙が出て来る筈です。」

「そうか……ならば今出来る事は一つだけと言う訳か。」

「ええ……」

レナ、其れに空の女神よ……あの子達の足元を如何か照らし出してくれ――此の大いなる空の下、自らの道を見つけられるように。











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