Side:アインス


先ずは王都の被害状況の把握だが、人的被害はゼロだが、王都の建物の多くは破壊され、街路樹も燃えてしまったか……『此れほどの被害が出た』と考えるか、其れとも『此の程度の被害で済んだ』と考えるか、意見が分かれそうだな此れは。
にしても、もう少し警戒しておくべきだったかも知れんな……クローゼが、クローディア姫が結社に狙われていると言う事は分かっていた事だったのだからな……報告はしていたが、もっと早く王都に戻るべきだったかも知れん。



《そうね……そうしたら、こんな……こんな事になる前に街への侵攻を食い止められていたかも知れないからね。》

《と言うか、結社の飛空艇を見つけた時点でお前と交代して撃墜しておくべきだったな……今回の一件は、私の判断ミスが招いた結果であると言えるかも知れん……と言うか完全に私の判断ミスだ。
 その判断ミスでクローゼが危険な目に遭う所だった……エステル、お前ならば半実体化した私にも触れられるから、一発殴ってくれ!》

《え、アインスとは五感共有してるから、殴ったらアタシも痛いから嫌だけど?》

《そう言えばそうだったな……寝過ごしたお前を起こす為に逆エビ掛けると私も痛いからな。尤も、其のお陰で半実体化した状態であっても、お前が食べたモノの味も分かる訳だけどね。》

《此れは便利なのか如何なのか……深層心理に引っ込むと共有しなくなるってのも謎だわ。》

《其れは私も分からん。》

とは言え、済んだ事をいくら言っても仕方がないから、今はやるべき事をキッチリ熟さなくてはな――元情報部特務隊が戦闘に介入してくれたお陰で王都が壊滅する事態は避けられたが、其れでも被った被害は決して小さなものではないからね。
クローゼからも『事が終わったらまた王宮に来て下さいませんか?』と言われているので、出来るだけ早くやる事をやらねばな――『遊撃士の皆さんにも協力して欲しい事がありますので』と言っていたが、果てさて何が待っているのやらだ。

其の後は、王国軍の兵士達と協力して消火活動及び怪我人の救助を行った――途中でシェラザードも王都にやって来てくれたお陰で仕事が捗ったのは嬉しい誤算だったよ。
だが、そうやって王都を回ってる中で、まさかダルモアが王都でセピス屋を営んでいるとは思わなかったよ……結社に操られていたと言う事で、アリシア女王が減刑を指示したのだろうが、其れでも借金が無くなった訳ではないからこうしてセピス屋で細々と稼いでいると言う訳か?身から出た錆故に同情は出来ないが、今度は真っ当に稼いでくれる事を期待しているよ。









夜天宿した太陽の娘 軌跡136
『一難去ってまた一難!?~覚悟を決めた少女~』









取り敢えず一通りの事は終わったので、改めて王城にやって来たのだが、其処では王国軍の兵士がアリシア女王に報告を行い、アリシア女王もその働きに対して労いの言葉をかけている所だった。



「うん、消火活動とか怪我人の救護が出来た事は良い事だと思うのよ……でも、さっきはアインスが表に出てたから言えなかったけど、何でリシャール大佐が此処に居るのよ!?」

「大佐と呼ぶのは止めてくれたまえ……今の私は只の国事犯に過ぎないのだから。」

「だから……王国にクーデターを起こして捕まった人が、如何して王国のピンチを救ったのかって事なんだけど。」

「全てはカシウスさんの指示でね、近く王都に危機が訪れる事は察知されていたんだ。
 だが、導力が使えないこの状況で、導力兵器を主武装とする正規軍だけでは守り切れそうにない……そこで白兵戦の経験が豊富な特務隊と、彼等を指揮する元情報部の上官の起用を決断されたと言う訳なんだ。」



リシャールと元情報部特務隊が参戦した背後には矢張りカシウスの存在があったか……此の導力停止現象まで見越していた事はラッセル博士が零力場発生装置を開発した時から分かっていたが、王都への襲撃まで予想してリシャールと元情報部特務隊の起用まで考えていて、事態が起こると其れを即決すると言うのは流石と言うか何と言うか――囲碁にしても将棋にしてもプロ棋士は百手先まで読んでいると言うが、カシウスが読んでいるのは百手どころか二百手、三百手先を読んでいる気がしてならんよ。
アリシア女王は『後々批判を受けると思いますが、国民の安全には代えられません』と言ったが、国民の安全を確保する為ならば超法規的な手段を使うのは全然アリだと思う。民あっての国なのだからね。



「何よりも、私はリシャール殿の愛国心を信じる事にしました。」



リシャールの愛国心をか……クーデター事件ではその愛国心を利用されてしまったが、裏を返せばリシャールは真にリベールの事を思っていたからこそ結社に付け込まれたとも言えるからね。
何よりも十年前、私に『国を守るには何が必要か?』と聞いて来たリシャールは真の愛国者其の物だったからな。



「そっか……そう言う事なら批判なんて関係ないわ!心強い味方がリベールに帰って来たって事だもの!
 うん!此れでもう、何が来たって王都は大丈夫ね!」

「そうだな……と言いたい所なんだが、事はそう単純ではないんだよエステル。」

「へ?如何して?」

「執行者達が立ち去る際に、何て言ったか覚えてる?」

「其れは勿論覚えてるわよヨシュア。え~っと、確か『次なる試練が控えている』とか何とか……って、ちょっと待って『次なる試練』って、まだ何か起きるって事なの!?」



非常に残念な事ではあるんだが、その可能性は極めて高いんだよ……ヨシュアも、あの腐れ外道は弱った相手を見過ごす事はしないと言っていたからまだ何かあっても何もオカシクは無いんだ。



「私はもう、此れ以上リベールを傷付けたくありません……なんとしても、事が起こる前に災いを食い止めねなければ……」

「クローゼ……そうだな、その通りだ。」

とは言え、現状では此方から打つ手は殆ど無い状態だ……さて如何したモノか?



「も、申し上げます!!」



此処で親衛隊の隊員が慌てた様子で入って来た――何事かと思ったが、アリシア女王が事情を聞いてみると、先程ハーケン門に連絡が取れたのだが、なんとリベールの北部の国境近くにエレボニア帝国の軍勢が集結し始めているとの事だった。
こんな時に、一体何用で帝国の軍隊がリベールにやって来るのか……



「軍勢と言うのはどの程度の規模なのですか?」

「現時点では一個師団程度のようなのですが、その中に戦車部隊が存在するらしく……」

「「戦車!?」」


まさかの事態に思わずエステルとハモってしまったが、導力が停止した状態で戦車だと?――帝国には導力停止現象は波及していないとしてもリベールに入った時点で導力停止現象の影響は受けるから、戦車部隊も役に立たなくなってしまうと思うのだがな?
如何やらシードも同じように考えたらしく、詳細を聞いたが、帝国側の戦車は導力機構を搭載してないタイプの、導力革命以前に使われていた『蒸気機関』で動いているらしいか……よくもまぁ、そんな骨董品があったモノだな?



「ホントよね……導力革命以前って、大昔の話じゃない――そんな時代の戦車なんて……」

「勿論、今の時代にその様なモノを保有している国など有る筈がない――蒸気機関は導力の普及と共に廃れた原始的な技術だからな……だが、帝国は敢えて其れを秘密裏に製造していたと言う訳か、此処で実戦投入する為に。」

「其れって……リベールがこうなる事を見越して、帝国は戦車を用意してたって事?
 また、十年前と同じ様に帝国と王国の戦争が始まろうとしているの……!?――ダメよ!そんなの!そんなの、絶対に止めなくちゃ!!」



あぁ、確かに絶対に止めなくてはならない案件だが、此方が打てる手はそう多くはないぞ?
此度の結社の襲撃で王都の兵はその多くが負傷しているし、仮に地方勤務の兵士をかき集め、更に元情報部特務隊と共に援軍として派遣したとしても戦車相手では分が悪い……特務隊が白兵戦を得意としているとは言っても、一個師団と戦車部隊が相手では流石に数が違い過ぎるからね。



「うむ、確かにアインス君の言う通りだ。」

「だからと言ってお二人をハーケン門へ行かせる訳にもいきません、リシャール大佐、シード中佐……今回の事件で、結社は王都を人質に取ってしまいましたから。」

「その気になれば何時でも王都を狙える、と言う訳か。」

「おそらく父は、貴方を緊急事態が発生した時の取って置きの隠し札にと考えていた筈です……ですが、そのカードは既に切られてしまった。」



一度斬ってしまった切り札に二度目は無い……其処まで考えていたのか結社は。
となると最早切れるカードは只一つ……リベールの最高権力者がその場に出向く以外にはないだろう――アリシア女王もそう思ったらしく、自らハーケン門に向かうと言い掛けたのだが……



「お祖母様、どうか私をハーケン門に行かせて下さい。」



此処でクローゼが自らがハーケン門に行くと名乗りを上げた――其れも相当な決意に満ちた表情でだ。……如何やら、此の土壇場で覚悟が決まったみたいだな姫殿下は?



「クローディア……」

「……帝国と我が国の間には、先日不戦条約が締結されたばかりです。
 幾ら帝国と言えど、この条約の建前上、正統性のない侵略行為は憚られる筈……其処にリベール王国の最高権威が現れれば、帝国軍も話し合いの席に着かざるを得ないでしょう。
 ならばまだ、交渉の余地は残っていると思います。」

「その交渉人に貴女がなると言うのですか?一介の学生である貴女が。」

「……いいえ。
 お祖母様、こんな時に申し訳ありません。まだ、お祖母様のお考えが変わっていなければ……今すぐ、立太女の儀を執り行って下さい。
 私はお祖母様の代理として、リベール王国の次期女王として必ずや帝国軍との交渉を成し遂げて見せます。」



アリシア女王の静かだが厳しい言葉に怯む事無く、クローゼは己の意思を示して見せた……彼女はもう、ジェニス王立学園の生徒ではなく次期女王としての気概を持った姫君だな。



「分かりました、託しましょう……どうかよろしく頼みましたよ。」

「はい!」



其れを見たアリシア女王も柔らかい笑顔を浮かべてクローゼの決意を受け取り、その意思に己の思いを託す事を決め、その後すぐに立太女の儀が執り行われ、クローゼは王女から正式な次期リベール女王である事を示す『皇太女』になった訳だ。

「其れでは、私達も一緒にハーケン門に行くとするか。」

「クローゼの護衛、よね!」

「リシャール大佐達が王都を離れられない現状では、僕達がクローゼの護衛を務めるのが一番だからね。」

「道中に出るであろう魔獣は、残らず殲滅して差し上げましょう。」

「女王陛下、皇太女殿下の事は、私達が責任をもって護衛いたしますわ。」

「……宜しくお願いしますね、遊撃士の皆さん。」



任されたよアリシア女王――さぁ、ハーケン門に出発だ!
相手は帝国軍、一筋縄では行かない相手だろうが……何だかこう、嫌な予感がするな?具体的に如何とは言えない途轍もなく嫌な予感が……帝国出身のお調子者が乱入して来るのではないかと言う漠然とした不安が何故か頭を過ぎるのだ……アイツなら其れをやり兼ねんから杞憂と斬り捨てる事が出来ないのが困ったモノだ。
まぁ、現れたら現れたで帝国軍との交渉に使わせて貰うとするか……自国の人間がリベールで無銭飲食をして捕まってましたなんて言うのは、帝国側からしたら絶対に国内に漏らしたくない事だろうしな。

まぁ、先ずは無事にクローゼをハーケン門まで送り届けるのが私達の仕事だな……皇太女殿下の護衛、確りと務めねばな……!










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