Side:アインス


王城の空中庭園には私とシュテル、そしてヨシュアとシードとまさかのリシャールが居て、結社側はブルブラン、ヴァルター、レン、ルシオラの執行者四人が居る訳なんだが、この盤面では私達に利があるかな?
数の上では此方が上だし、実力的にも全員が執行者達と渡り合う事が出来る訳だからね……特に、ヨシュアがフリーで動く事が可能になると言うのは執行者達にも分が悪い筈だ。

「久しいなリシャール、元気そうじゃないか?」

「アインス君……牢屋暮らしと言うのは、食事の時間、起床時間、就寝時間もキッチリ決まった規則正しい生活を嫌でも送る事になるからね、身体の調子も良くなると言うモノだよ。加えて食事も、必要なカロリー分だけで栄養バランスも考えられているからね。」

「長い事塀の中で暮らしていた人間が、出所後は健康になったと言う話を聞いた事はあるが、其れは真実だった訳だ。」

「如何やら其のようだ。
 ……陛下、殿下、逆賊でありながら御前にまかり出る無礼をお許し下さい……どうか一時の間、御身を護らせていただきますよう……」

「勿論です。お願いしますね。」

「……ありがたき幸せ。
 我等が来たからには陛下と殿下には指一本触れさせはしない!貴殿等も早々に立ち去るが良い!!」

「アラン・リシャール、マクシミリアン・シード……流石は《剣聖》を継ぐ者達と言う所か。」

「でも良いのかしら?女王様ばかり守ってる間に、グランセルの街は壊滅しちゃうかもしれないわよ?」



確かにその可能性は充分にあるが、其れは如何かな?
先のクーデター事件で投獄された筈のリシャールが此処に居ると言う事は、リシャールを釈放した人物が居ると言う事――そして其れはアリシア女王でもクローゼでもない……此の事はアリシア女王もクローゼも知らない事だったのだから。
ならば、其れを行った人物は一人しか居ない……同時に、そうであるのならばリシャールの釈放だけで済む筈もない……当然、グランセルの街の方にも手を打ってある筈だからな。









夜天宿した太陽の娘 軌跡135
『昨日の敵は今日の友?~王都の危機を救う者~』









No Side


導力兵器が使えない状況下に於いて、王国軍と結社の戦力差は火を見るよりも明らかで、此のままでは何れ王都を制圧されるのは時間の問題であると言えるだろう。


「此れより、グランセル市街における人形兵器と猟兵団の掃討を始める!
 市民の保護及び正規軍の支援は最優先で行いなさい!」

「「「「「「「「「「イエス、マム!!」」」」」」」」」」


其処に現れたのは特徴的な装備が目を引く黒装束の一団――カノーネ率いる、元王国軍情報部特務隊の隊員達だ。
クーデター事件の後、略全員が逮捕され、カノーネを含む逃げおおせた一部の隊員も、レンのお茶会の一件の後に逮捕されて服役していた筈だが、王都の危機に駆け付けて来たのだ。

元情報部特務隊のメンバーはカノーネの命を受けて王都各地に散らばり、戦闘に介入して行く。


「クソ、我々だけじゃ、もうこれ以上は……」


巨大な導力兵器を前に、王国軍の兵士は戦意を喪失しかけていたのだが、其処に元情報部特務隊のメンバーが現れ、装備している巨大な鉄爪で結社の導力兵器を切り刻む!


「元王国軍情報部特務隊だ!此れより正規軍に加勢する!」

「白兵戦なら我等の十八番だ!」

「導力器に頼り切った奴等などには敗けはしない!」


絶望的な状況での援軍と言うのは実に有り難いモノで、戦意を喪失しかけていた王国軍の兵士の瞳にも再び炎が宿る……『導力兵器が無くとも戦える』、其れを示してくれた元情報部特務隊の援軍は、最高の一手だったと言えるだろう。


「我々は戦える!諦めるな!」


兵士達の士気も上がり、正規軍と元情報部特務隊の混成部隊は、徐々に結社の部隊を押し返し始めて行った……奇しくも、嘗ては敵対した者達が力を合わせる事で、王都の危機に対応する事が出来ていたのだった。








――――――








Side:ナイアル


オイオイオイ、一体如何なってやがる?
なんだってイキナリ特務兵が現れやがるんだ?アイツら全員逮捕されて服役中の筈だろ?……しかも敵対してた王国軍と一緒に、仲間だった筈の結社の手先を攻撃してる……?



「きっと反省して皆を助けに来てくれたんですよ。汚名挽回ってやつですね。」

「汚名を挽回して如何するよ……其れを言うなら名誉挽回か汚名返上だろうが。
 其れは兎も角、ドロシーこの光景はバッチリ写真におさめとけよ!」

「あいあいさ~~!」



伝えようぜ、汚名返上しようと頑張るアイツ等の事……どんな困難にも立ち向かい、乗り越えようとする人々の事を。此れが、此の国、リベール王国の姿だってな!!
とは言え、俺等に出来るのは其処までだ……アインス、エステル、ヨシュア、後の事は頼んだぜ!








――――――








Side:アインス


シュテルがサーチャーを飛ばしてくれたので街の様子を知る事が出来たが、カノーネ率いる元特務隊の連中が王国軍と連携して結社の連中を押し返し始めたか……白兵戦能力の高い彼等ならば、導力銃の攻撃を避けて相手の懐に入り込む事位は造作もないと言う訳か。そして、懐に入り込んでしまえば銃のメリットは消滅するから一気に制圧も出来るしね。



《それにしても如何してリシャール大佐や特務隊が……》

《ふむ、嘗て敵対した相手が、今度は味方として窮地に駆け付けると言うのは実に燃える展開だな?そして、此の援軍に応える形で主人公が新たな力に覚醒するまでがセットなんだがなぁ、エステル?》

《んな事言われてもねぇ……てか、今表に出てるのアインスなんだからアインスが覚醒するんじゃないの?》

《覚醒しても良いが、その場合は余波でグランセル城が半壊するが……》

《アインスが言うと冗談に聞こえないからやっぱ今の無し。》

《了解だ。》

シードとリシャールだけでなく、王室親衛隊の隊員と騒ぎを聞きつけた王国軍の兵士も集まって来た……親衛隊隊員に関しては、執行者達が倒し損ねたとは考え辛いから、恐らくルシオラの幻術で眠らされていたのだろうな。
ともあれ、状況は此方が圧倒的に有利になった訳だ。



「街の方も結社の戦力を押し返しており、そして此処はこの状況……さぁ、身喰らう蛇の諸君、其れでも我々と遣り合う心算はあるかね?」

「……やれやれ、此れ以上こだわるのは美しくなかろう。」

「少し遊び過ぎたかしらね……」

「ふん、仕方ねぇな……」



流石に執行者達も此処で此れ以上事を構えるのは得策ではないと考えたのか、アッサリと撤退を開始したか……となると、アリシア女王を攫うと言うのは別に出来なければ出来ないで構わない事だったと言う訳か。



「それでは諸君、我々は此れで失礼しよう。」

「……ブルブラン、あの外道教授に言伝を頼みたい……『下賤な蛇如きが太陽と夜天、そして漆黒の琥珀に勝てると思うな』と伝えておいてくれ――其れと、『貴様は終わりなき無間地獄に叩き落とす』ともな。」

「ハッハッハ、此の状況下に於いてその強気な態度……嫌いではない。分かった、一言一句正確に伝えておこう!
 だが、次なる試練は既に君達の前に控えている……気を抜かぬようにしたまえ。」

「次なる試練……?」

「ふふ、直ぐに分かるでしょう……それでは皆様、御機嫌よう。」



最後の最後でなんとも気になる事を言い残してくれたが、次なる試練なるモノが待ち構えていると言う事が分かっただけでも何が起きても良い様に準備する事が出来るから収穫だと言えるかな。



「……退いてくれたようですね。」

「この場での戦闘にならなかった事には感謝せねばなるまい……いざ戦闘となったら、アインス君の攻撃によって城が吹き飛んでいたかも知れないからね。」

「私が本気を出したら城どころか、王都其の物が更地になるがな。」

「……歩く大量破壊兵器かな君は?」

「否定出来んのが悲しいな。」

「……コホン。取り敢えず敵は退いたが、深追いできないのが残念だが……いや、贅沢は言うまい。」



確かに追う事が出来れば、若しかしたらあの浮遊物に行く事が出来たかも知れないからな――だが、今の状況では深追いしたところで得るモノはないだろう――寧ろ深追いしたら手痛いしっぺ返しを喰らうかもしれないから、此処は我慢だな。



「皆さん、よく来てくれました……おかげで助かりました。
 ありがとう、私はもう大丈夫です……しかし、先程の者達によって市街にも相当な被害が出ている筈――やるべき事は沢山ありますが、今はこの混乱を収めましょう。
 皆さん、力を貸して下さい。」



アリシア女王……確かに、今最優先でやるべき事は其れだな。
元特務隊の介入によって結社を押し返す事が出来たとは言え、其れまでに街が受けた被害は決して小さいモノではないから、先ずは其方の対処を最優先にだね……となると、先ずは街の被害状況の確認からだな。










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