Side:アインス


ジェニス王立学園の一件を解決した後、一度王都に行ってアリシア女王に現状の報告をしようと言う事になり、現在私達はツァイスを経て王都への街道を進んでいる真最中なのだが……



「ヨシュア、アレって!」

「結社の飛空艇だ……そもそもにして、導力停止現象が起きているリベールに於いて航行可能な飛空艇なんて結社の飛空艇以外には存在しない!」



その頭の上を結社の飛空艇が通過して行きましたとさ。
だが、飛空艇の向かう先にあるのは王都……結社の連中は王都を制圧し、アリシア女王とクローゼを人質に取る心算なのか?……だとしたら大凡見過ごす事は出来ん。王都の市民が犠牲になる可能性が大きいのならば尚更だ!

《エステル、代わって貰うぞ!》

《言われなくとも!女王様とクローゼを助けに行くわよ!》



――バシュン!



「アインス……飛んで行くの?」

「あぁ、此方の方が速いからな。お前も一緒に来るだろう?」

「……いや、僕は此のまま走って行く。
 もしも結社の狙いが女王陛下とクローゼなら、一般兵だけじゃなくて執行者も来てる筈……だとしたら、僕は彼等と真正面から対峙するよりも裏から仕掛けた方が良いと思うから。」

「成程、確かにそうかも知れないな。」

ヨシュアの本気の隠形は、あの剣帝ですら見付ける事は不可能だと言っていたからな……そうなると、実力的には剣帝に劣る他の執行者が気付く事はまず有り得ないか。
ならば私がすべき事はアリシア女王とクローゼの安全確保と、ヨシュアが攻め込み易い様に執行者の注意を引いておく事だな……飛空艇のスピードを見る限り、王都への侵攻を止める事は出来んだろうが、其れでもせめてアリシア女王とクローゼの身は護らねばだ……!!

其れと、一応念話でシュテルにも連絡を入れておいた方が良さそうだね。








夜天宿した太陽の娘 軌跡134
『王都襲撃!Crisis Of Kingdom!!』









街道から全速力で王都まで飛んで来たのだが……間に合わなかったか!
王都の入り口には防衛の為に集まったであろう王国軍の兵士達が倒れていた……下に降りて安否を確認すると、全員戦闘不能レベルのダメージを負ってはいるが死者はゼロか。
導力が使えない今、如何に鍛えられているとは言っても王国軍の兵士は如何したって近接戦闘用の武器しか使う事が出来ん……そんな状態の中で相手は導力銃や導力兵器を搭載した戦車が使えるのだからそもそも勝負になる筈がないか――とは言え、この現状を黙って見過ごす事も出来ないから、王城へ行きがてら結社の一般兵をある程度駆逐しておくか。其方の方がヨシュアも動き易いだろうからね。



《如何するの?》

《アイツ等が王国軍の兵士にやったのと同じ事をしてやる……つまり一方的に攻撃してやるだけさ。》

《具体的に言うと?》

《空からホーミング性能のある魔力弾を一人につき一ダースプレゼントだ。》

《やる事がエグイわねぇ……》



敵相手に容赦は要らないからな……と言う訳で、大空から取り敢えず目視した結社の皆さんにブラッディダガーを出血大サービスしてから王城に。非殺傷だし、奴らはボディアーマーを装着しているから大ダメージとは行かないだろうが、突然空からの攻撃が来たとなれば多少は統制が乱れる筈……もう二セット程遅延魔法で設置しておくか。
で、王城の上空まで来ると丁度ヴァルターが城門を破壊した所だった……あの分厚い城門を素手で破壊するとかハンパじゃない破壊力だなあの技は。
だが、城門が突破されたとなると一刻の猶予もない……全速力で空中庭園に着地すると、アリシア女王とクローゼ、そしてヒルダが女王宮に向かっている所だった。

「アリシア女王、クローゼ、ヒルダ!」

「……貴女は……」

「アインスさん?」

「如何して此処に?」

「アリシア女王に現状の報告をしようと思って王都に向かっていたのだが、其処で結社の飛空艇が王都に向かって行くのを見てな……エステルと交代して空を飛んで来たんだ。ヨシュアも後から来る。
 とは言っても今し方城門が破られた。直に結社の執行者達が此処にやって来る。早く女王宮に――」







「あら、姫様。」







と思ったら、もう来たか。
だが、私が予想したよりは時間が掛かったみたいだが……如何した、簡単に王城を落としては面白くないと舐めプをかまして逆に予想外の苦戦でも強いられたのか?
親衛隊は精鋭の集まりだが、其れでも貴様等執行者が四人も集まれば苦戦する相手ではないと思うのだがな。



「テメェも居やがったのかアインス……まぁ、親衛隊なんぞ大した事ねぇって高括ってたんだが、公爵の執事で元王室親衛隊の大隊長って爺が中々骨のある奴でよ……親衛隊の連中も思ってた以上に出来る奴等でちと手間取っちまったぜ。
 公爵様が出張らなきゃ、もっと時間掛かったかもなぁ?」



公爵の執事……フィリップか!
ヴァルターが『中々骨のある奴』と称すると言う事は、フィリップは執行者でも一筋縄では行かない相手だったと言う事か……話を聞く限りではデュナンが出張ったせいで色々ダメになってしまったみたいだが。
で、お前達の目的は矢張りアシリア女王とクローゼか?



「ま、間違っちゃいねぇな?折角苦労して浮遊都市を出現させたってのに此の国の連中はドイツもコイツも絶望した様子はねぇ……教授はソイツが堪らなく気に入らねぇんだとよ。
 もっともっと、テメェ等の苦しむ姿が見てぇんだとさ。」

「我々も暇だったのでね、一つ引き受けさせて貰ったのだよ……『リベール王国の王をリベールから連れ去る』と言う教授の依頼をね。」



その為にリベールを……だが、残念な事にその依頼が達成される事はない。私が此処に居るからな。
お前達は確かに強いが、其れでも個々の能力で言えば剣帝には遠く及ばない……こう言っては何だが、不完全な状態だった頃の私でも剣帝とはほぼ互角の戦いをする事がギリギリではあるが出来たのだ、略全盛期の力を取り戻した今、私がお前達に負ける要素は一つもないぞ?
そうだな、分かり易く言ってやるならば、あの戦艦で会った時の私とエステルの合計レベルが百六十位だとするなら、今の私とエステルの合計レベルは三百を軽く超えているからな。



「うふふ、確かにアインスはとっても強いけど、其れでもレン達四人を相手にしながら女王様と姫様を護るって言うのは可成りきついんじゃないかしら?」

「ふ、確かにお前の言う通りがなレン、私が最も得意とするのは広域の無差別殲滅攻撃だ――其れこそ相手が百人だろうと千人だろうと関係ない。そもそもにして、私が一人だと何時から勘違いしていた?」

「え?」



出番だぞ、シュテル!!



「ブラスト……ファイヤー!!」



――ズッドォォォォォォォン!!



ロレントからシュテル到着……ブラストファイヤーはギリギリ躱されてしまったが、中々良いタイミングでの登場だったぞシュテル?登場と同時に問答無用のブラストファイヤーと言うのもインパクトがあって見事だ。



「お褒めに預かり光栄です。ですが、ロレントからは些か距離があったので少し遅れてしまいました。」

「いや、逆にグッドタイミングだったよ。」

「テメェは……ツァイスの時の物騒なガキか!」

「お久しぶりですねブルブラン、ヴァルター、そしてレン。――特にレン、貴女は執行者として《殲滅天使》の二つ名を持っており、私もまた『星光の殲滅者』の二つ名を持っていますので、この機会に何方が殲滅者として上か決めましょうか?」

「あらあら、其れも面白そうね。」



こらこら、物騒な事を提案するな、そして乗ろうとするなお子様達。
此れで状況は二対四になったが数の上ではまだ執行者達に利がある訳だが、ヨシュアが本気で走ればもう王都には到着している筈だし、遅延設置した一人一ダースのブラッディダガーを喰らった結社の兵士達ならば簡単に意識を刈り取って最短ルートで王城に向かっているだろうから、そろそろ到着する頃だと思うが。



「目の前に興味があるモノが存在すると背後が少し疎かになる、悪い癖だねブルブラン。」

「む!?」



そう思っていた矢先、ブルブランの背後からヨシュアが奇襲を仕掛けてくれた。
ブルブランは間一髪躱した事でマントを斬られるだけで済んだが……なんと言うか、今の攻撃はヨシュアらしくないな?ヨシュアが本気で隠形を使ったのであれば閃光弾なんかで執行者の視界を奪ってから確実に一人ずつ意識を刈り取って行った筈だからね。



「テメェは漆黒の……!」

「うふふ、アインスだけだったからおかしいと思ったのよ……そう、ヨシュアは私達への奇襲を狙ってたのね?」

「だけど、如何やらそれは失敗に終わったみたいね坊や?隠形と言うモノは、認知されてしまっては全く意味を成さないわ。」

「……確かにその通りだねルシオラ。
 だけど、僕の存在もまた囮に過ぎないとしたら如何かな?」



ヨシュアも囮だと?
と言う事は本命は別にあると言う事か!



「覇っ!」



と思った次の瞬間、何者かが執行者達に襲い掛かり、ヴァルターとブルブラン、ルシオラを後退させる……お前は、シード!!



「シード中佐!」

「貴殿がシード……《剣聖》に連なる者か。」

「《剣聖》?良いねぇ、アンタも遊び相手になってくれるってか?」

「いや、私もまた囮に過ぎないよ。」



シードも囮だと?となると本命は……まさか!!



『ピューイ!』



続いて今度はジークの時速300kmの突進がルシオラの扇を弾き、間髪入れずに上空から人影が現れ、その人影は見事な居合いでルシオラを吹き飛ばすと着地すると同時にヴァルターに鋭い斬撃を繰り出して後退させ、その隙にシードがレンとブルブランに強烈な一撃を放って吹き飛ばす!



「んもう、行き成り襲って来るなんて卑怯じゃない!」

「その言葉、そっくりそのままお返ししたい所だな――陛下、殿下、遅くなって申し訳ありませんでした。」



そして、お前の意見には諸手を上げて同意するよ。
同時にヨシュアとシードが囮と言うのもお前が本命と言うのであれば納得だよ……元王国軍情報部隊長、アラン・リシャール!!――此れは、最強クラスの援軍と言えるからな……!










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