Side:アインス


此度の事件の首謀者であるギルバートを捕らえる事は出来ず、カンパネルラにも逃げられ、捕らえた兵士達も回収されてしまったが、学園の人的被害が用務員の男性だけだったと言うのは喜ぶべきモノだろうな。



「遊撃士の諸君、本当にご苦労だったね……おかげで大切な生徒達を無事に救出する事が出来た。学園の代表者として、お礼をさせてもらうよ。」

「アタシ達もホッとしてるわ。まさか学園が襲われるなんて、夢にも思ってなかったから……」

「そう言う意味では、ミックは表彰モノだな?授業をサボっていたのは褒められる事ではないが、彼が授業をサボっていたからこそ学園の異変を私達は知る事が出来た訳だからな。
 ジル、今回ばかりはミックのサボりは不問にしてやってくれ。」

「ん~~……まぁ、今回だけは特別に不問にしてやりますか♪……但し、この次は容赦なく取り締まるけどね。」



だろうな。



「ただ、今後学園が同じ様な被害に遭う事はないと思います……一応、敵ではありますが、彼の約束はある程度信用できると思うので……」



ヨシュア……結社の人間だったからこそ、執行者の言葉の重みは知っていると言う事だな――確かにあの手の輩は冗談は言っても、己が口にした『約束』を違える事はない感じだからね。……あの外道教授は例外だろうが。
とは言え、此の状況下ではリベールの何処にも安全な場所など存在しないに等しい訳だが、学園生活は大丈夫か?



「助けて貰ってなんだけど、あんまりアタシ達を見くびらないでほしいわね?」

「俺達生徒会でも対策は考えているさ。」

「自分達の学園だからね。
 アタシ達は大丈夫。自分の事は自分で何とかしてみせるから……だから、自分だけじゃなく自分以外の事も全部背負い込んで、何とかしなくちゃいけない人達を、どうか助けてあげて……!」

「一日も早くリベールの治安が回復するよう、ジェニス王立学園は遊撃士諸君に最善の努力をお願いする――王都で一人頑張っている、クローゼ君を支える為にもな。」



……クローゼを支える為と言われたら、私はもう首を縦に振る以外の選択肢は存在していないな。
このアインス、クローゼの為ならたとえ火の中水の中草の中森の中、土の中雲の中あの子のスカートの中、それどころか火山の噴火口や7000アージュの深海にだって突入してくれる。
と言うのは兎も角として、王都で頑張っているクローゼの為にも、私達も最善を尽くさねばだな。









夜天宿した太陽の娘 軌跡132
『Einen Augenblick nach der Befreiung der Schule』









校門前までジルとハンスが見送りに来てくれて、私達もルーアンに戻ろうとしたのだが――



「な、なぁ……問題が全部片付いたらさ、また学園に顔出せよな?そん時は……クローゼも交えて学食でパーティと行こう!」

「其れ、良いわねハンス君!」

「私も賛成だ。事が済めば、クローゼもまた此処の生徒として戻って来る事が出来る訳だしな。」

ハンスが何とも魅力的な提案をして来てくれた。
全ての問題が何時片付くのかは今はマッタク道筋が見えないが、全て解決したらそのお祝いパーティと言うのは確かにやって良いだろう――否、寧ろやるべきだな。
ハンスは『なんなら学園祭の劇のメンバーもみんな呼んでパーッとさ!!』と言って、ヨシュアにも話を振ったんだが、話を振られたヨシュアは何処か浮かない表情だ……戻って来たとは言え、まだ思う事があるのだろうなヨシュアには。



「いや……僕は……」

「そうか……みんなと一緒よりも、二人っきりで話し合いたいってか。」

「は?」



そんなヨシュアにハンスも一瞬表情が曇ったが、次の瞬間にはまさかの切り替えしを放って来た!流石に此れは予想してなかったのか、ヨシュアも完全に虚を突かれて対応し切れていないな?
常に冷静沈着で突然の事にも大抵対処出来るヨシュアの虚を突くとは、ハンス恐るべし。



「やっぱり俺と同室で過ごした日々が忘れられないんだなぁ……しょーがない奴だな~~~。
 分かった!分かった!言いたい事があるなら何時でも聞いてやるからさ!」

「その、ハンス……そう言う事じゃなくて……其れに、そんな事したら……」

「何かが変わる訳じゃないだろ?
 何を聞こうが聞くまいが、変わるとは思えないけどな?俺と、お前がダチって事はさ!」



そしてよく言ったハンス。
カシウスも言っていたように、一度紡がれた縁と言うモノは簡単には切れないモノであり、其れが友情となれば尚更だ……元結社の執行者であろうとなかろうと、ヨシュアとハンスが『友達』だと言う事実が変わる事は決してないんだ。



「なによ!単なるパーティじゃ興が乗らないって?其れなら、劇の衣装を着ての仮装パーティってのはどう!?」

「あ、ナイスかも!」

「ナイスかも、じゃないってば……」

「確かに姫と騎士が揃うんだったら其れ位やらねば面白くないが……当時はまだ半実体化できていなかった私の衣装は一体如何なるのだろうか?」

「アインスも、気にするところオカシイよ!?……でも、その為に僕達も此れまで以上に頑張らないといけないね。」

「モチのロンよ!結社の好きになんかさせるもんですか!皆もあと少しだけ頑張ってね!」

「おうよ!」

「私達も、絶対に何とかしてみせよう……今のリベールの状況を、何処まで見てほくそ笑んでいるであろう腐れ外道の鼻を明かしてやるさ。」

そして、ジルが良い感じに割り込んでくれたのだが、その甲斐もあってヨシュアも少し前向きに考えてくれたらしく、其処からは決意新たに私とエステルはジルと握手をし、その横ではヨシュアがハンスに右手を差し出してガッチリと握手を交わしていた……男の友情鉄より硬しってな。



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ギルバートの大馬鹿のせいで余計な仕事が増えてしまったが、人的被害が撃たれた用務員の男性だけで、その男性も命に別状はないのだから最小限の被害で済んだと言えるか……此処まで学園解放がスムーズに行ったのは、ヨシュアが状況を的確に把握してくれたお陰だがな。



「ホントに良かったわね、大切なお友達を助ける事が出来て。」

「うん……だけど、事態を少し甘く見ていたかも知れない。
 結社の思惑通り、《輝く環》が出現して、その影響で導力停止現象が起こり、巻き込まれたリベール王国は未曽有の混乱に陥っている……だけど、あの人が其れだけで済ませる筈がないんだ。」

「あの人って……もしかして、アルバ教授……」



……確かに、あの腐れ外道がこの事態に何もしないとは考え辛いからな……導力停止現象によって弱っているリベールを此のまま見過ごす事などあり得ないか――こんな事になるのであれば、あの戦艦で会った時に剣帝でも防ぎようのない奴の真下からの直焼き魔砲食らわせて再起不能にしておくべきだったかもしれん……いや、アイツならば己の身を護る為の何かくらいは身に付けているだろうからどの道無理だったかも知れんな。
ヨシュアも『彼は弱り切った獲物を黙って見過ごす様な人物じゃない』と言っているし……ホントに性根が腐り切っているなアイツは。



「其れって、まだ王国に何か仕掛けて来るつもりだって事?……そんな、今のリベールは武器を持って戦うどころか、灯かり一つ点けるのも難しい状況なのよ!?
 そんな時に敵が攻めて来るなんて……アタシ達は如何すれば良いの?」

「私とシュテルならば魔法で戦う事が出来るが、二人だけでは如何にもならん……私とシュテル魔法では《輝く環》を落とせない事は証明されてしまっているからな?
 ……此の世界に遊戯王のカードがあれば何とか出来たかもしれないのだが……」

「参考までに、何する気よアインス?」

「三幻神とエクゾディアを降臨させて《輝く環》を一斉攻撃する!オベリスクは最上級能力を、ラーは最終形態を解放した状態でな!!」

「やめい、《輝く環》どころかリベール其の物が吹っ飛ぶっての!」

「序に混沌帝龍と破壊竜ガンドラも追加する!!」

「無差別破壊かーい!!」



と、まぁ冗談は此れ位にしておいて、今は出来る事を地道にやって行くしかないのだろうな……空に浮かんでいるアレを何とかするのが一番の解決方法なのだが、今はまだどうする事も出来ない以上はグダグダ悩んでも仕方ないからな。



「でも、今回みたいに困ってる人達を助けるお手伝いなら、私達にも出来るよね?」

「不安が消え去れば、人々は混乱から脱却出来る筈だ。」

「そうなったら、何が来ようと我等リベール王国は無敵だぜ!」

「大体アンタ達だけがリベールの危機を背負い込む必要なんてないのさ。
 王立学園の生徒会長さんも言ってただろう?『見くびらないで欲しい』って……アタシ達だって、自分で何とか出来る力くらいは持ってるんだよ。
 まぁ、一人の力はホンの小さなモノだけど、其の力を合わせれば、どんな困難も引っ繰り返せるってね!」



1+1も沢山集まれば無限の力となる、そう言う事だな。
或は其れが、過去の闇の書の持ち主の中にも存在し得なかった腐れ外道の思惑に罅を入れる一手になるのかもしれん……圧倒的な力を持つ古代文明の遺跡の前では人の力など矮小なモノだと高を括っているだろうからな。
其方が圧倒的な『個』の力で制圧すると言うのであれば、此方は『結束』の力で対抗するまでの事……恐らくだが、カシウスから依頼を受けてラッセル博士が作り上げた此の『零力場発生装置』は、言ってみるならば試作品、或はプロトタイプと言うところだろう。
今は精々通信機を回復させるのが精一杯だが、あのラッセル博士が此れで満足するとは到底思えんからな……今頃きっと飛空艇を動かす事が出来るレベルの装置を、其れこそ寝る間も惜しんで開発している事だろう――そして、其れが開発されればアレに乗り込む事も出来るようになる訳だからな。
とは言え、其れが出来るまでにはまだ時間が掛かるだろうから、私達は私達で出来る事を地道にやって行かねばだ。



「我々は此のまま各地の見回りを続けてみる心算だ。」

「お願いします!アタシ達も早く発生器を届けなきゃ!」

「其れから、万が一に備えて警戒を強めるように報告しておいた方が良いね。」



どんな状況であっても諦めない、そして諦めない心が勝利への道を切り拓く……私を救ってくれた小さき勇者よ、リベールにはお前に負けず劣らずの諦めの悪い人間が多いみたいだ――そして、だからこそ最終的に何とかなると思えてしまうよ。
『闇の書の呪いは如何にも出来ない』と諦めていた私に、圧倒的な力の差を知りつつも諦めずに挑んだ結果、彼女は奇跡を起こすに至った……なれば諦めない人間が何人もいれば不可能も可能に出来るのは道理だ。

《輝く環》に乗り込む算段が整ったその時が貴様の野望が潰える時だ薄汚い蛇の使途よ……太陽神アポロンの炎で焼かれ、夜天の雷に打たれ、そして漆黒の刃によって地の底に落としてくれる――覚悟するんだな……!










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