Side:アインス


旧校舎の方から聞こえた悲鳴……其れは捨て置く事が出来るモノでは無いので、即時旧校舎に向かった――当然の如く、魔獣が行く手を遮って来たのだが、此の程度で私達を止められると思うなよ?

「お別れです!ハハハハハハハハ!!」

「アインスちゃん、片手で魔獣を持ち上げて竜巻で攻撃しながら、その竜巻で他の魔獣まで巻き添えにしてるんだけど……ヨシュア君、アレってアリ?」

「効率的な戦闘方法、と言う意味ではアリだろうね……存在自体が自然災害みたいなアインスだから出来る事だけど。」



存在自体が自然災害、ね……まぁ、否定は出来んか。
恐らくだがフルパワーで広域殲滅魔法を使えば学園がある場所を完全に更地にするどころか、下手すれば地形其の物が変わってしまうだろう……そんな事は絶対にやらないがな。

さて、道中の魔獣は全て蹴散らして旧校舎に到着。
鍵は……掛かっていないみたいだな?まぁ、掛かっていたら掛かっていたで扉を蹴破る……のは問題があるので、ヨシュアにピッキングして貰うだけだけどな。



「へ、ヨシュアピッキングなんて出来たっけ?」

「出来るよ。エステルには見せた事ないけど――其れこそ、グロリアスの機関部のロックだって突破出来るだけの技術は持っているよ。
 自分が植え付けた能力によって、グロリアスが落とされ掛けたって言うのは、少しは教授への意趣返しになったかも。」

「って言う事は、家の鍵やら何やらをなくしてもヨシュアが居れば問題ないって事ね!」

「……一応言っておくけど、ピッキングはあくまで開錠の技術であって、施錠の技術は持ち合わせてないから鍵は何があっても無くさないようにして。」

「あ、そうなんだ!」



超久々の此の遣り取りにはなんか癒される……矢張りエステルにはヨシュアが居るべきなんだろうね――っと、其れは其れとしてジェニス王立学園解放作戦のラストミッションを開始するとしようか?
残る一人の人質も、無事に保護するぞ!









夜天宿した太陽の娘 軌跡131
『ジェニス王立学園解放作戦Last Mission』









旧校舎に入ると、直ぐにターゲットは発見出来た。
中央階段の中腹で、女子生徒を連れて行こうとする結社の兵士と、其れに必死に抵抗している女子生徒の姿が!……あの子は、確かクローゼの後輩の子じゃなかったか?名前は確か、リチェル!



「其処のアンタ、其の女の子を離しなさい!」

「フ……君達か。
 エステル君とはグロリアスでも会ったが、今度はヨシュア君も一緒だとはね……まさかこの懐かしきルーアンの地で、僕と相見える事になるとは夢にも思っていなかっただろう!」



兵士は意気揚々と兜を取って正体を明かしてくれたが……矢張りお前だったかギルバート。
『前回はまんまと君達に邪魔されてしまったが、今回ばかりはそうは行かないぞ!』とノリノリで言って来たが、エステルもヨシュアもマッタク持って覚えていない……エステルに至っては、ついこの前、結社の戦艦の甲板で遣り合ったと言うのに記憶から抹消されているからな。
私は覚えているが……此処は敢えて知らないふりをするか。



「……どちら様?」

「すみません、何方でしたっけか?」

「私達は初対面だと思うのだが……記憶にないだけで何処かで会ったか?」

「んな!?」



うむ、見事なまでにショックを受けているな?……導力が使えて、この場にドロシーが居たら、あの間抜け面をオーバルカメラで激写してくれたと考えると少し残念だな。



「ダルモア市長の元秘書のギルバートだ!自分が逮捕した人間の事くらい覚えておきたまえ!と言うか、エステル君とはこの前グロリアスで会ったばかりではないか!!」

「あれ、そうだったっけか?……アインスが瞬殺しちゃったから覚えてないのねきっと。」

「灯台で黒装束に撃たれて泣いてた人か……そんな人が、何故《結社》の一員なんてやっているんです?そもそも貴方は犯罪者として投獄されている筈ですが?」



ヨシュアの思い出し方も中々に酷いが……如何やらギルバートは犯罪者として投獄されていたが、クーデター事件の際の混乱に乗じて脱獄し、その後結社に拾われて忠誠を誓ったとの事。
クーデターの時は軍も正しく機能していなかったから脱獄者は多かったのかもな……カプア一家もクーデターの混乱に乗じて脱獄していた訳だしね。
其れをエステルとヨシュアは、心底呆れた感じで聞き、ギルバートが大層な演説をやってる隙にクルツとアネラスは階段の真下に移動して何時でも奇襲出来るようにスタンバイ……お喋りな馬鹿が相手だと、包囲網を構築するのも楽だな。

で、ギルバートは結社での出世を狙い、リチェルを手土産に結社の出世街道を駆け上がる心算らしいが……何だってリチェルを?リチェルは一般生徒に過ぎないと思うのだが……?



「わ、私なんか連れて行っても出世の役には立ちませんよぉ……!」

「フッフッフ、僕は知っているのだよ……君が、身分を隠したリベール王家の姫だと言う事を!」



と思ったら、トンデモナイ勘違いをしてたなオイ!
確かにジェニス王立学園には身分を隠したリベール王家の姫君が在籍しているが、其れは彼女ではない!断じて違う!……まぁ、間違ったのはギルバートにとっては幸運だったと言えるだろう。
もしもクローゼに手を出していたら、その瞬間にお前の存在はこの世から跡形もなく消え去っていただろうからな。

如何やらギルバートは王家の姫が学園に在籍している事、細剣を使う事まで調べて、細剣と言えばフェンシングと言う事で、現在フェンシング部唯一の女子であるリチェルを王家の姫だと考えたようだが、モノの見事に大外れだな。



「あのー、お取込み中悪いけど……リチェルはほんとにお姫様じゃないわよ?
 バレンヌ灯台でアンタを捕まえた時に一緒に居た女の子を覚えてるでしょ?あの子が本物のリベールのお姫様!」

「そして真の姫君は城に戻って一生懸命頑張っている……お前達が悪事を働いたせいでな。クローゼが学園に入られなくなったのはお前達のせいなのだから、クローゼにお詫びして謝罪して土下座しろ。或は今この場で私の手によって天に召されろ。」

「だ、黙れ黙れ!どのみち人質が居る以上、僕の有利は変わらない!さぁ、大人しくここから立ち去れ!」



確かに人質が居る以上はお前の有利は揺るがないだろうが、私がお前の有利状況を許すと思うか?周囲をよく見て見るんだな……そして絶望しろ。



「って、なんじゃこりゃぁ!!」

「貴様に人質が居ようが居まいが関係ない処刑方法と言う奴だ……全方向からのブラッディ・ダガーだが、リチェルの事はすり抜けてお前にだけ当たるように設定してある。
 非殺傷だから死ぬ事はないが、其れでも当たれば痛いぞ?この圧倒的な数の暴力から逃れる事は出来ん……僅かでも動いたら即発射だ。」

「ぐぬぬ……だが、その一発目が当たるよりも僕が彼女の喉を斬り裂く方が速い!其れが分かったら大人しく言う事を聞くんだ!」

「だが断る!
 リチェルと密着しているお前の方が私の攻撃よりもリチェルを害する事が出来る事など織り込み済みだ……全方位からのブラッディ・ダガーは本命を確実に決める為の囮に過ぎん。」

「なに?」

「出番だ、姫君の小さき守護騎士よ。」



――ガッ!!



私がそう言った次の瞬間、何かがギルバートに突進して猛烈な一撃を喰らわせてギルバートをダウンさせ、其れによって解放されたリチェルをエステルと私で保護し、リチェルを逃がすまいと立ち上がろうとしたギルバートをヨシュアと、階段の下に隠れていたクルツとアネラスが取り囲んでターンエンド。
序に言うと、全方位からのブラッディ・ダガーも設置したままな上、当然ヨシュア達の事はすり抜けるようになっているから逃げ場はないな。



『ピューイ!』

「ジーク!!」

「グッジョブだ!」

恐らく学園の事を聞いたクローゼが、学園の様子を探るために放ったのだろうが、其れが期せずして見事な働きをしてくれたと言う訳だ。……隼の最高時速は300kmと聞いた事があるが、その超高速体当たりを喰らっても生きてるギルバートに驚きではあるがな。
さて、あとはギルバートを拘束するだけなのだが……



「捕まえられるのは困るんだよねぇ。」



拘束しようとした瞬間、ギルバートの身体は炎の柱に包まれた!……こんな事が出来るのは執行者だけ――此の土壇場で現れたか!



「カンパネルラ様!助けに来て下さったのですね!」

「まぁ、僕達は一応《秘密結社》だから、場末の兵士でも逮捕なんかされちゃうと色々と拙いんだよねぇ。」



《道化師》カンパネルラ!
だが、カンパネルラがギルバートに『僕、王家の姫君を攫えなんて命令した覚え無いんだけど?』と言ったのを見るに、今回の一件は野心に燃えたギルバートの独断であり、カンパネルラが命じた事ではない様だな?



「生徒のお嬢さん、遊撃士の諸君、部下がお騒がせして申し訳なかったね。
 今後結社がこの学園に手を出す事はないと誓うから、許してね♡」

「カンパネルラ!学園の襲撃や姫君の拉致は、結社の意図する事ではないと言うのか?」

「此の件に関してはね。
 でも、リベール王国の混乱を煽ると言う意味では、目の付け所は悪くなかったんだよね。」

「リベールの混乱を煽る……其れが結社の目的なのか!」

「いやいや、そんな事はどーでもいいんだけど、僕等にはね。
 ただ、そーゆー事をするのが大好きだって言う悪趣味な人が今回の計画の第一責任者だったりするからさ……まぁ、ちょっと大変だろうけど、精々頑張って、君達のリベール王国を守ってみせてね♡」



言われずともその心算だ。
其れとカンパネルラ、その悪趣味な第一責任者に伝えておけ、世界を闇に包み込む夜天と、世界を照らす太陽の前では貴様は矮小な存在に過ぎないと、そして貴様は己が『最高傑作』と称した存在によって滅される事になる、とな。



「僕を伝令役にするとか、中々だね君?でもまぁ良いよ伝えといてあげる。」

「感謝する。
 そして今回の件はギルバートの独断なんだよな?……お前が此の場にいる以上拘束は無理だと思うが、己の野心の為に全く無関係な学園の生徒を危険に晒したのは許せないから、一発殴らせて貰って良いか?」

「良いよ。但し殺さないでね~~♡」

「カンパネルラ様ぁ!?」



よし、上司からの許可は貰ったから歯を食い縛れギルバート!己の野心の為に、全く無関係な学園の生徒を巻き込むな、このボケが!お前はこの先一生流動食だ!!



「ミキサー食!!」

「断末魔、独特過ぎない?」

「断末魔って、死んでないからねエステル?」



渾身のアッパーを叩き込んでやった……うん、アレは間違いなく顎が砕けて全ての歯が折れたな……此れだけでも大ダメージなのに、退場はカンパネルラの炎に焼かれてとなった。
本物の炎で焼かれたら死んでしまうから、アレは言うなれば『焼かれる苦痛』だけを与えるモノなのだろうが、それにしてもエグイのは間違いないな。

とは言え、最後の人質であったリチェルもこうして無事に救出する事が出来た――首謀者であるギルバートはカンパネルラが連れ帰ってしまったし、恐らくは拘束した兵士達も何らかの方法で回収されてしまった事だろうがな。

だが、今は学園を解放できた事を喜ぼうか?
用務員の男性が撃たれて負傷したとは言え、誰一人命を落とす事なく、こうして学園を解放する事が出来たのだからね。



「アインス……そうね、今は学園を解放できた事を喜ぶべきよね!」

「そう、だね……それじゃあ、学園長に報告に行こうか?」

「うん!」



学園の生徒や教員、用務員には災難だったが、其れでも結社がゼロ力場発生装置と同等の装置を開発しながらも、半実体化した私を攻撃出来る機構との併用には至っていないと言う事が分かったのは貴重な事だったな。
少なくとも現時点では、執行者であっても半実体化した私に対してダメージを与える方法を有していない訳だからな――だからこそ、輝く環には出来るだけ早急に乗り込む必要があるだろうね。

そう、半実体化した私の無敵が通じる内に、な……










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