Side:アインス


王都を出発してルーアンに向かっているのだが、道中に現れる魔獣の数が此れまでとは比べ物にならんか……此れだけの数の魔獣からティータを護りながらでは、ジンもツァイスから王都に到着するのに時間が掛かる訳だ。
導力停止現象下では、ティータも導力砲を使う事が出来ないからな。



「ジンさんも言ってたけど、魔獣の数が尋常じゃないわね?こんなに街道に湧いて来られたら、皆外なんか歩けないじゃない。」

「導力停止現象のせいで街道灯の魔獣避け機能が働いていないからね。中の七耀石を狙って魔獣が街道灯に集まって来ちゃうんだよ。」

「其れもまたアレの、《輝く環》のせいか……私が『闇の書の意思』であった頃に使えた黒槍と言う魔法ならば、或はアレを破壊する事が出来るのかもしれないが、無いもの強請りをしても仕方ないな。」

「因みに其れってどんな魔法なの?」

「四輪の塔の倍くらいの大きさの巨大なドリルを召喚して対象にぶつける一種の対艦兵器だな。当たれば間違いなく一撃必殺だ。因みにやろうと思えば井戸を掘るのにも使える。」

「魔法って言うのも奥が深いんだね。」

「私としては戦術オーブメントに組み込むクォーツによって使用出来るモノが変わって来るアーツの方が奥が深い感じだけれどね。」

なんにしても、今はやれる事を一つずつ確実に熟して行くだけだな。
と言う訳で、その為にも先ずはルーアンに到着せねばならないのでな……道を開けろ雑魚共。超広域無差別殲滅魔法、百倍デアボリックエミッション!



――ドッガァァァァァァァァァァァァァン!!



「殲滅完了。」

「ねぇヨシュア、アタシ時々アインス一人で大体何とかなるんじゃないかって思う時があるんだけど。」

「うん、それは僕もだよエステル……少なくとも魔獣相手なら、アインス一人で全部如何にかなると思う。其れこそ《結社》が強化した魔獣でも、アインスの前には赤子同然だろうね。」

「自分、存在が犯罪ですので。」

まぁ、その私と互角以上に戦えるカシウスと剣帝はなんなんだって話になるのだがな……取り敢えず魔獣は一掃したからルーアンへと急ごうか?通信機の復旧は最優先事項だからね。









夜天宿した太陽の娘 軌跡129
『ルーアン到着。王立学園に降りかかった危機』









そうしてルーアンに着いた訳だが、矢張り導力停止現象の影響は大きく、跳ね橋も上がったままになって橋の向こう側に行くには船を利用しなければならない状況になっていた。
エステルに変わって貰えば、強引に跳ね橋を下す事も出来るのかも知れないが、無理矢理動かして橋其の物を壊してしまっては本末転倒だな。
先ずはギルドに行って通信機を復旧させるか……それにしても、先程から街を走り回っているレイヴンのメンバーをよく見るな?混乱に乗じて悪事を働いていると言う訳ではなさそうだが、一体何をしてるのやらだ。

で、ギルドに到着したらジャンへの挨拶もそこそこに、通信機の復旧作業開始だ――矢張りと言うか何と言うか、エステルよりもヨシュアの方が零力場発生装置の設置の仕方を理解していたようで、ヨシュアが装置を設置したのだが、此れにてルーアン支部の通信機能は無事に復旧した訳だ。



「助かったよ。
 各地の支部や王国軍と協力して対策を取りたかったんだけど、通信機が使えないから連絡もままならない有様だったんだ。」

「でもジャンさん、ルーアンは比較的落ち着いている様ですね?」

「そりゃまあね。ルーアン支部を受け持ってるのはこの僕なんだから……な~んてね。
 こっちも導力停止現象の直後はパニックになりそうだったけど、新市長のノーマン氏や七耀教会の人達、其れにレイヴンのメンバー達が率先して混乱を収拾してくれたんだよ。」

「レイヴンが?」

「あぁ、彼等は今も有志として遊撃士協会に協力してくれている。おかげで何とか踏み止まる事が出来ているんだ。」



街でレイヴンのメンバーをよく見かけたのはそう言う事か……元半グレ集団がルーアンの為に自ら働くとは随分と変わったモノだな?エステルが、リーダー格である、レイス、ロッコ、ディンに『遊撃士を目指してみたら?』と言ったのが案外効いているのかも知れないね。
とは言え、何時までも此の状況を保てるわけではないから早急に対策を立てねばならんだろうな。



「あぁ、アインス君の言う通りだ。
 王国全土で導力停止現象が起きているのならば、この混乱に乗じて事を起こす輩が出て来る筈だからね。」

「だろうな……何時の時代も、混乱の世に乗じて良からん事をする輩と言うのは存在するモノだからな?……ジャン、そのような不埒な輩は、発見し次第即時滅殺するのが良いと思うのだが如何だろう?
 市民の暮らしを守る為とか、そう言う理由でギルドで何とか出来ないか?」

「うん、其れは流石に無理♪」



そうか、其れは残念だ。
その後エステルが『他の通信機を直しに行こうと思うんだけど。』と言うと、ジャンも『其れは是非早急にお願いするよ』と言ってくれたが、『序にルーアン近郊の様子を確かめておいてくれないかな?』とお願いされたので、其方もやる事に。
まぁ、今はルーアン市内が大変な状況だから、市街にまで手が回らないは仕方ないだろうね。

と言う訳で、ルーアンからボース方面に向かう街道を、魔獣を殲滅しながら進んでいる。
相変わらず出てくる魔獣の数は多いが、私とエステルとヨシュアの敵ではないな。魔法でエステルのパワーとヨシュアのスピードを強化してやれば、其れこそ街道に出てくる魔獣如きは塵芥に過ぎないからね。
しかし、ルーアン近郊となるとジェニス王立学園やマノリア村、テレサ先生の孤児院だが、皆無事だろうか?何か悪い事が起こってなければいいのだけれどな……。



「うわぁぁあ!!」



「「「!!」」」


今のは……ジェニス王立学園に通じる道の方から聞こえたぞ!まさか、学園に何か起きたのか!?
そう思って声のした方に向かうと、学園の生徒が魔獣に追いかけられている所だった……彼は確かミックだったか?必至に逃げていたようだが、運悪く躓いてしまい、其処に魔獣が――だが、やらせんぞ!!



――バッキィィィ!!



先ずは私がミックに襲い掛かろうとした魔獣を殴り飛ばし、続いてエステルとヨシュアがミックを守るように前に出て、此れで迎撃態勢は整ったな。
ミックには木の陰に避難するように言って、其処から戦闘開始だが……ふむ、コイツ等は中々に手強いな?身体は鎧で覆われ、口には双刃式のブレードを咥えて居るのを見る限り、野性でないのは明らかだがね。
だが、悪いがお前達如きに時間を使っている暇はないのでな、これで吹き飛んでしまえ!



――ドッガァァァァァァァァン!!



「じ、地面が爆発したぁ!?一体何をやったのよアインス!?」

「地中に爆発系の魔法を設置してそいつ等が設置個所の上に来た瞬間に爆発させたんだ。トラップ発動、『万能地雷グレイモヤ』だ。或は『炸裂装甲』でもOKだ。」

「半実体化出来るようになったら、本気で非常識な存在になったよねアインスって……」

「其れは否定せんが……ヨシュア、コイツ等は普通の魔獣では無いよな?」

「うん、よく訓練された……おそらく結社の使う装甲獣だよ……」

「結社!?どうしてこんな所に結社の魔獣が!?」

「其れは分からないけど……でも、間に合って良かった。」

「エステル、アインス……其れにヨシュア、すまねぇ助けて貰って……」



取り敢えずミックは無事みたいだな。
転んだ際に軽く擦りむいたりはしたみたいだが、其れ以外は特に大きな怪我をしている訳ではないみたいだ……こう言っては何だが、訓練された魔獣から此処まで無傷で逃げて来たと言うのは凄い事なのではないだろうか?人間は命の危機に直面すると眠れる潜在能力が覚醒するとは言うが、ミックもそうだったのかも知れないな。
エステルは呆れた顔で、また授業をサボっていたであろうミックに苦言を呈したが、当のミックはサボりは否定しなかったが、如何やら只サボり目的で学園外までやって来た訳ではないみたいだな?
ヨシュアが事情を聞いてみると、ミックは何時もの様に授業をサボろうとしていたのだが、其処にイキナリ赤い装束を纏った武装集団が現れたらしい。
赤い装束の武装集団……実際に見て見ないと分からないが、恐らくだが……



「其れってまさか……結社の兵士なんじゃないの!?」

「分からねぇよそんな事!……でも、用務員のオッサンがそいつ等を止めようとしたんだけど……そ、そいつ等、銃でオッサンを……!
 其れを見たら俺、頭が真っ白になっちゃって……助けを呼ぼうと此処まで逃げて来たんだけど……」



エステルの問いには答えを持ち合わせてなかったミックだったが、学園の危機を外に知らせる為に此処まで頑張って逃げて来たのか……うん、よく頑張った。そして良くぞ学園の危機を知らせてくれた。
後は私達遊撃士に任せてくれ……結社の襲撃を受けたジェニス王立学園は必ず取り戻してやる。クローゼの母校と言うだけでなく、学園はエステルとヨシュアと私が短いながらも学園生活と言うモノを過ごした場所だからな……介入しない理由はない。
先ずは学園の状況を知りたい所だが……



「エステル、アインス、彼と一緒にルーアンの街に行ってくれるかい?」

「え?」

「ふむ、その心は?」

「協会に連絡して、出来れば応援を連れて来て欲しい。其の間に僕が学園内の様子を調べておくよ。」



ふむ、其れは悪くないな?
剣帝をして『隠れているお前を見つけ出すのは容易ではない』と言う位だから、ヨシュアが隠形の力を全開にすれば学園の様子を調べる位は造作もない事だろうな。
ミックは『一人でなんて危険だ!』と言っていたが、ヨシュアは『だからこそ現状を正確に把握する必要がある。偵察だけなら単独で行動した方が成功率は高くなる』と言ってミックを納得させてた。



「ヨシュア、一つだけ確認。あの時の約束……覚えてる?」

「大丈夫!絶対に忘れないから。」

「分かった。気を付けてねヨシュア。」



そんなヨシュアに、エステルは再会した時の約束を覚えているかと問い、ヨシュアは絶対に忘れないと答えた……ならばヨシュアが無茶をして単独で突撃する事はあるまい。
もしも心配だったら、監視兼サポートナビ兼通信機の魔力人形『ミニアインス』を置いて行く心算だったのだが、此れならば必要ないだろうね……いや、通信機能限定の魔力人形は置いておくとするか。
私としか通信できない魔力人形故に、各地の支部には置けないが、此の状況では貴重な通信手段にはなるからな。

さてと、其れでは協会に行って今回の件を報告して、援軍を要請するとするか!……ジル、ハンス、そして学園の生徒達よ今暫く耐えてくれ、必ず助け出すからな……!









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