Side:アインス
クローゼと別れてから色々調べてみたが、結局のところ王都全土でオーブメントが動かないと言う事しか分からなかったか……此れと言った成果を上げる事は出来なかったが、日頃どれだけオーブメントの恩恵を受けて来たのかを実感する事は出来たな。
「本当にそうよね……他の皆は如何しているかしら?
ロレントやボース、他の地方は如何なっているのかしら……結社の目的は《輝く環》を空に浮かべるだけじゃないわよね?
此れから先何が起きるんだろう?そしてアタシ達は一体何が出来るんだろう?」
「エステル……」
「……だめだめ!まだ何にもやれてないうちから……!
……兎に角、明日も頑張る!きっと絶対解決の糸口はある筈なんだから!」
その思いは大事だぞエステル。
今みたいな異常事態が起きた時には何を如何するのが正解なのかは誰にも分からないが、だからこそ先ずは出来る限りの事を全てやってみる事が割と重要になって来るからね?
そして解決する方法は必ずあるだろうさ――其れがなければ結社もまた導力を使う事が出来なくなる訳なのだからね。
――かららん♪
――とん♪とん♪
――ドン!ドン!ドンドンドンドン!!
っと、ギルドの扉を叩く音が……こんな時間に一体誰だ?
エルナンも『こんな夜中に』と言って対応に向かったのだが……
「はい。
すみません、遊撃士協会王都支部の本日の営業は……」
「よぉ、夜分遅くにスマナイな。」
「あ、貴方は……!」
其処には予想外の人物が居た――王都でのレンのお茶会以来だな、ジン!
夜天宿した太陽の娘 軌跡128
『Hoffnung im Land der Verwirrung』
まさかお前が訪ねて来るとは思わなかったが、王都に居たのか?
「いや、ツァイスを出て、今王都に着いた所だ。
もちっと早く来たかったんだが、道中めんどくさい事になっててな……さぁ着いたぞ。此処からはお前さんの出番だ!」
「はい!」
と、ジンと一緒にギルドに入って来たのはティータだったか。
エステルは何故ティータがジンと一緒に居るのかを聞いたが、ティータは『先ずはやらなきゃいけない仕事があるので』と言っていたのだが、視線の先にヨシュアの姿を見付けると、『ヨ、ヨシュアお兄ちゃん!?』と驚き、ヨシュアも申し訳なさそうに手を振っていた。
だが、ヨシュアの姿を見ただけでもティータには笑顔が宿るか……ティータもヨシュアの事を心配していたからな――エステルと言う元気系美少女、クローゼと言う清純派美少女、そしてティータと言う将来有望な美少女に心配されるとか、モテない男性諸氏からは『爆発しろこの野郎!』と言われるかも知れんなヨシュアは。
「あ、あの、導力通信機を触らせて貰っても良いですか?」
本当ならばヨシュアに抱き付きたい所だったろうが、其れを堪えて自分のすべき事を優先したティータは凄いな……この歳にして既に技術者としての心構えが出来ているとは、ラッセル博士も優秀な後任が出来た事に安堵している事だろうね。
とは言っても、王都では大規模な導力停止現象が起きて、通信機も全く機能していないのだが、その通信機を果たしてどうするのか?
エルナンの許可を貰ったティータはドライバーで通信機の蓋を開けると、ジンが持って来た荷物から何かを取り出してティータに渡す……何かの装置のようだがアレは一体何なのか?
ティータは其の装置を通信機に取り付けて……エステル、お前ティータが何をしてるのか分かるか?
《いんや全然マッタク。アイナさんの酒の限界量がドレ位なのかと同じ位に分からないわ。》
《成程、其れは絶対に分からんな。》
アイナのアルコール分解能力は、此の世界の七不思議の一つと言っても良い位に理解不能だからな……アイナならばロシア製のアルコール度数90%のウォッカを一瓶開けてもきっと酔わないのだろうね。
でだ、謎の装置を付けた通信機でティータはツァイスに連絡を入れたみたいなのだが……なんと見事にツァイスに繋がり、ラッセル博士が通信機の向こうで返事をしてくれた。
「若しかしてラッセル博士なの?……ツァイスじゃ、導力停止現象は起きてない、とか?」
『とんでもない!!そのせいで市民が連日中央工房に押しかけて来て大変なんじゃぞ!』
「で、でも其れじゃあどうして導力通信機が使えるの?」
『零力場発生器じゃよ。』
零力場発生器……聞き慣れないものだが、如何やらだいぶ前からカシウスから依頼があってずっと開発をしていたらしい――と言う事は、カシウスは何れ此の事態が起こる事を予測していたという訳か。
全く、その眼力の鋭さには感服するしかないな。
そして、ラッセル博士から装置の説明がされたのだが、エステルだけでなくシェラザードも、『知のマテリアル』であるところのシュテルも、何よりも私自身が全く持って何を言ってるのか理解出来なかった……専門職の専門用語は、未知の外国語の如くだ。
「其れはつまり、導力停止現象を阻止出来ると言う事ですか!?」
だがヨシュアには分かったらしく、如何やらこの装置は導力停止現象を阻止する力があるらしい。
ラッセル博士もヨシュアの問いに肯定の意を示すと、導力停止現象について説明してくれた。
此れまでは《ゴスペル》単体の力で導力停止現象が起きると考えていたのだが、《結社》の実験と新型《ゴスペル》のサンプルを解析した結果、何か別の物質が《ゴスペル》を通じてオーブメントの導力を吸収しているのではないか……との説に辿り着いた、か。
「えっと、つまり《ゴスペル》が周りの導力を吸い取っちゃうから導力停止現象が起きるって事?」
『そうじゃ。しかしそれだと、吸い取った導力は何処に何処に流れているのかが謎だったんじゃが……此処に至って漸く明らかになりおったわい。』
「《輝く環》、か……」
恐らくは、アレが封じられていた今までは《ゴスペル》と言う小さな端末を通してでしか導力を吸収出来ず、影響も狭い範囲で済んでいたが、封印が解除されて本体が力を発揮出来るようになった事で導力停止現象が一気に広まってしまったのだろう。
ラッセル博士、導力停止現象は王国のどの程度の範囲まで広がっていそうなんだ?
『恐らくじゃが王国全土に及んでおるじゃろう……リベールにある、ありとあらゆるオーブメントが動かなくなってるじゃろう。』
「リ、リベール全土……」
「そんなトンデモナイ事になっているのね……」
王都とツァイスだけでなくリベール全土となると、其れこそ国の存続すら危ぶまれる事態だ……だが、ラッセル博士が開発した《零力場発生装置》には《環》の干渉を阻止する働きがあり、此の装置を設置したオーブメントは問題なく動かす事が出来るらしい。
「すっごいじゃないラッセル博士!其れで導力停止現象は全部解決出来るって訳ね!」
『いや、残念ながら其処まで都合よくはない。
この試作品が守れる範囲は精々両手で持てる程度の大きさのオーブメントじゃ。数も十六個しか完成できなんだ。』
「十六個……其れだけじゃ流石に王国全土のオーブメントを動かすのは無理よね……」
だが、矢張りそう簡単には行かないか。
守れる範囲は狭く、数も十六個では到底王国全土のオーブメントを動かすのは不可能だが、十六個もあるのであれば……
「「それだけあれば、王国全土を一つに繋ぐ事は出来る!」」
っと、ヨシュアも同じ意見だったか。
エルナンも合点が行ったらしく、『其れだけの数があれば王国各地にある主要施設の通信機能を回復出来ますね。』と言い、エステルは『全部通信機に使っちゃうの?』と疑問みたいだったが、『混乱の最中で最も重要なのは、何をおいても素早く正確な情報なんです。何処かで結社が現れて、誰かが助けを求めたとしても、其れを知る術がなければ対処する事が出来ませんから。』と説明されると納得できたみたいだな。
そして逆に言うのであれば、《輝く環》を如何にか出来る方法が見つかった時、皆に早急に連絡を回せれば即時解決も可能と言う事になるからね。
『うむ、アインスの言う通りじゃ。皆が一つに繋がっておれば、《結社》の連中なぞ恐るるに足らん!
大丈夫!此れまでもそうやって皆でリベールの危機を乗り越えて来たんじゃ!
今もきっと、皆夫々がこの危機を乗り越える為に行動を起こしている筈じゃ!ソイツが一つに纏まれば、ワシ等に不可能なんてモノは無いわい!』
「うん!!」
皆の結束が困難に打ち勝つか……確かにその通りだな。
王国全土で、恐らく夫々が夫々の立場で己に出来る事を精一杯やっていて、其れが歯車の様にぴたりと組み合わさった時に困難を解決する事が出来るのだろう――そして、その数々の歯車のキーパーツ、『遊星歯車』の役目を担っているのがエステルなのだろうな。
エステルの行動が周囲に与える影響は決して小さくない。ともすれば、事件解決のトリガーになる事すらあったからね……一度はその歯車から外れてしまったヨシュアをも再び歯車に組み込み直してしまったのだから。
「時にティータ、零力場発生装置を設置した通信機は王都とツァイスだけか?」
「ううん、其れだけじゃなくて王国軍のレイストン要塞とセントハイム門の通信機は繋げて来たよアインスお姉ちゃん!
残りの場所にも急ピッチで設置して来るから、もうちょっとだけ……待っててね!」
「先ずは王都とツァイス周辺を繋いだか、良い判断だティータ。」
「確かにね……ねぇティータ、その零力場何とかってやつ、アタシにも設置のやり方を教えてくれない!?」
っと、此処でエステルが零力場発生装置の設置方法をティータに教わると来たか。
確かに設置出来る人間は多い方が良いに越した事はないだろうさ?其れだけ王国全土の通信機能の復旧が早まると言う事だからね――だが、そう言う事であればエステルだけでなくシュテルにも設置方法を教えてやってくれティータ。
シュテルは『知のマテリアル』だから理解力も早くて設置方法を覚えるなど朝飯前だろうから、シュテルにはシェラザードと共に当初の予定通りロレント地方に向かって貰う心算だからね。
そう言う訳で急遽ティータによる『零力場発生装置設置講座』が開かれる事になり、エステルとシュテル、そしてエステルを補助する意味でヨシュアが受講する事になった……正遊撃士になってからエステルも大切な事は完璧に覚えるようにはなったが、其れでもヨシュアは万が一の保険としてな。
「ところでジン、道中めんどくさい事になっていたと言っていたが、何があった?」
「いやなに、街道に出てくる魔獣が尋常じゃなくてな……倒しても倒しても湧いて来るから街道を進むだけでも一苦労だったって訳だ。」
街道に尋常じゃない数の魔獣が現れた、か。
其れもまた《輝く環》の影響なのだろうが、其れを考えるとルーアンに向かうのも一筋縄では行かない……なんて事はないか。
エステルの棒術は全てが一撃必殺の破壊力な上に私の魔法を付与すれば更に威力は上がるし、ヨシュアのスピードは魔獣如きには捉えられない上に隠形の奥義の暗殺術も駆使すれば魔獣など塵芥に過ぎんし、そもそもにして私が広域殲滅魔法を使えば其れこそ魔獣がドレだけ襲い掛かって来ても一撃滅殺だからな?仮に広域魔法での打ち漏らしがあったとしても、エステルとヨシュアならば其れも余裕で狩るだろうからね。
私とエステル、ヨシュアのチームは其れこそ無敵にして最強かもしれないな……其れでは、その最強チームで向かうとしようか、ルーアンにな!
To Be Continuity 
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