Side:ジョゼット


リベールの上空に突然現れた大きな浮島……ドルン兄が言うにはドレだけ小さく見積もっても5000アージュはあるって事だったけど、此れは何か変だ。
昨日はあんなのはなかったのに、アレが現れてからリベールからの導力通信がマッタク入って来ないのもアレのせいなんじゃ……まさかアレがヨシュアが阻止しようとしていた結社の計画……なのかな?

「もしも、結社の連中があの浮遊都市を甦らせちゃったとしたら……」

「あそこには……ドデカイお宝がわんさと眠ってるに違いねぇな。」

「え?」

「キール!ジョゼット!野郎共!!此のまま浮遊都市に乗り込むぞ!!」

「「「「「「「「「「えぇ~~~~!?」」」」」」」」」」


「ちょ、本気なのドルン兄!?」

「あたぼうよ!こちとら天下の空賊だぞ!」

「勘弁してくれよ~~。流石にアレは俺達の手には負えないぜ?」



キール兄の言う通りなんだけど、ドルン兄は一度決めたら絶対に其れをやるからなぁ……此れは覚悟を決めないとだよね――と思ったら光の波みたいのが浮遊都市から放たれて……そして山猫号が高度を下げ始めたぁ!?



「なんだ、故障か!?」

「お頭!大変だ!いきなり導力機関が停止しちまった!!」

「なんだと!?」

「お頭ぁ、飛翔機関がぁ!!」

「反重力フィールド、ドンドン低下しています!」

「そして序に舵も無反応と来た……」

「ちょっと待ってよキール兄、其れって……」

「あぁ……俺達に出来る事は一つしかない……此のまま天に召されないように、女神に祈るくらいかな……」

「うっそだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

そのまま山猫号は落下!!
なんだってこんな事になるんだよぉ!!こんな事になるんだったら、せめてヨシュアに告白しとけばよかったぁ!!
其れでは皆さんご一緒に、やな感じーーーーーーー!!










夜天宿した太陽の娘 軌跡127
『導力停止現象?混迷の大地!』









Side:アインス


《輝く環》……アレが現れ、強烈な光を放った後に起きたのはあらゆるオーブメントが作動しなくなると言う異常事態だった。
オーブメントは戦術オーブメントだけでなく生活のあらゆる場に使われているモノだから、其れが作動しなくなると言うのは日常生活そのものが立ち行かなくなるのと同じ事だから、当然市民は困惑して遊撃士協会に依頼に来たのだが、其れの対応をしている内にエステルがバッテリー切れを起こし、私が代わりに対応する事になった訳だ。



「エステルに限界が来ても、君は平気なんだねアインス?」

「以前の、人格交代しても髪の色が変わるだけの時はエステルがダウンすると私もだったのだが、今の状態になってからはそんな事もなくなったよ。
 エステルが限界を迎えて意識が落ちても、私の意識が起きていれば自動的に人格交代をして私になるからな……そして私が表に出ている状態だと身体の耐久力が嘗ての私に限りなく近くなるから大抵の事では限界が来る事もない。
 であるにも拘らず、エステルの意識が覚醒して身体の所有権を返した際にはエステルの肉体疲労は回復しているのだから、最早此の身体がどんな構造になっているのかは私にも分からん。」

「解析魔法で調べてみたところ、アインスのステータスはHP#6*7万、物理攻撃9@9$、物理防御&9\+、魔法攻撃9*#9、魔法防御9@$9、素早さ#99%との事ですが、見事にバグってますね。」



オイコラシュテル、私はウィルスバグか何かか?まぁ、私のステータスが些かバグっているのは否定出来んが。
何れにしても《輝く環》は何とかしなくてはならんだろう……今のリベールは言うなれば王国全土が大規模停電に見舞われた状態であるのだからな。
とは言ってもアレは私の力を100倍にした攻撃をも防ぐだけの防御力があるから外部から破壊するのは略不可能故、乗り込んで中から破壊するしかないのだが、全てのオーブメントが作動しないと言う事は飛行船を飛ばす事も出来んから現状ではアレに乗り込む手段はない。
アーツはダメだが魔法は大丈夫みたいなので、私とシュテルだけは空を飛んで乗り込む事は出来るが、もしもあそこに結社の兵士が……執行者が居たら私とシュテルだけでは些か厳しいだろう。
《怪盗紳士》、《痩せ狼》、《幻惑の鈴》、《殲滅天使》はシュテルとのコンビで退ける事は出来るだろうが、《剣帝》だけはシュテルとのコンビでも突破するのは難しいだろう。
エステルが私と同様に半実体化を出来るようになれば、私が表に出ている時に半実体化したエステルを私にユニゾンするリバースユニゾンで、エステルの力を私に加算ではなく乗算する事も出来るのだが、其れは出来ないからな。



「ユニゾンって、なに?」

「そう言えばお前は知らないのだったなヨシュア。
 お前が私達の元から去った後にエステルと私が会得した強化状態だ。エステルに半実体化した私を融合する事でエステルに私の力を上乗せするんだが、ユニゾン状態のエステルは髪がアッシュブロンドになって、瞳はアイスブルーになる。
 何時ものエステルとは違う魅力があるぞ。」

「うん、其れは是非とも一度見てみたい。」



好きになった女の子の何時もとは違う一面を見て見たいとは、矢張りお前も男の子なのだなヨシュア――まぁ、再会した時にエステルから『あの時のやり直し』を要求されて、其れに応じようとした訳だからな。
……あの日のやり直しは絶対に必要だったのだが、其れを邪魔したジョゼットは許すまじだ。次に会ったその時は、エステルに変わって私が一発喰らわせてやっても罰は当たらんだろうな。



《ん……》

《おっと、目が覚めたかエステル?おはよう寝坊助。》

《アインス?……えっと、何があったんだっけか?》

《ヴァレリア湖の上空に《輝く環》と思われる巨大な浮遊物体が現れ、其処から光の波みたいなモノが発せられた後で、あらゆるオーブメントが作動しなくなってしまい、其れに困っている市民の人達が遊撃士協会に押しかけて来て、其れの対応に追われている内にお前に限界が来たんだ。
 で、その後は私が表に出て対応に当たっていたと言う訳さ。》

《ごめんごめん!こんな時に!!》

《いや、こんな事が起きたのは王国でも初めての事だろうから、その対応をしている内に体力の限界が来ても仕方あるまい……だが、此の状況を何時までも続けておく事が出来んのもまた事実だ。》

エステルが起きたのでエステルに表に出て貰って、私は半実体化状態になり、簡単ではあるが朝食を摂ってから行動開始だ。
朝食はパンとコーヒーだったが、エステルはエネルギー切れが起きないようにパンにはたっぷりのバターを塗ってからジャムを厚く塗り、コーヒーには角砂糖を四個ぶち込んでクリームを三つ投入していたので、此れならば確かにエネルギーは充分充填されただろうな。

食事を終えて一階に行くと、エルナンが書類と睨めっこしていた……私達は休む事が出来たが、お前は休めたのか?



「えぇ、丁度今受け付け業務を一旦休憩させて貰っているところなんですよ――其れよりも、協会にいらした市民の皆さんからの話から、断片的ではありますが現在の状況が見えてきました。」



現在の状況が……確かに現状把握は大事だな。
エルナンによれば、やはり一番大きな問題は《輝く環》が現れたと同時に起こった導力停止現象との事でその規模はグランセル市内全域に及ぶか。
王都にあるオーブメントは例外なく全て動かず、インフラの停止による不安の声が大きく早急に解消せねばならないが、被害が広範囲に渡る為に王都支部だけでは対処出来ず、加えて導力通信が出来ない為に各方面との連絡も取れず最善の対策も立てられないと来たモノだ……間違いなく結社が絡んだ非常事態なのだが、奴らが此処までする理由はなんだ?
確かに導力が停止してしまえば誰もあそこに飛んで行く事は出来なくなるが、其れならば飛空艇などを狙い撃ちにすればいいだけで、生活インフラの停止まで起こす必要は皆無である筈だ……否、あの外道の計画なのだから全く無関係な人々をも巻き込んでその苦しむ様を高みの見物してもオカシクはないか?……奴は真の外道だ。悪人だ悪党だ、吐瀉物以下の匂いがプンプンするな。

兎に角今はより正確な現状把握が必要だと言う事だな?



「そうなります。其れと今回の件も我々遊撃士協会だけであたるのではなく、特に国や軍との連携が必要不可欠だと思います。
 現時点で知り得た情報や市民からの要望を纏めておいたので、早急に関係者に届けて貰えると助かります――恐らくは結社が絡んだ異常事態ではありますが焦らないで。
 自分達が出来る事、すべき事を見極めながら一歩ずつ進んで行きましょう。」

「大変な時こそ焦らずに一歩一歩確実に……千里の道も一歩から、或は急がば回れでしょうか?」



シュテル、其れは微妙にあっているような外れているような……それにしても《輝く環》、アレがそもそもの原因なのだよな……



「ねぇ、ふと思ったんだけどお父さんに頼んでレグナートにあそこまで運んでもらうってのは如何かしら?古代竜なら導力停止とか関係なく飛ぶ事が出来るんじゃないかしら?」

「ちょっと待ってエステル、古代竜って何?そしてなんで父さんが?」

「あれ、言ってなかったっけか?古代竜のレグナートってのが居るんだけど、お父さんって昔レグナートと戦った事があるんだって。流石に勝つ事は出来なかったらしいけど。」

「其れは流石に知らなかったよ……何してるのさ父さん。」



ホントにな。
だが、其れは止めておいた方が良い――と言うよりも無理だと思うぞ?レグナートは今何処にいるかも分からないし、そもそも私達はまだレグナートの言っていた『答え』を出していないからな。何らかの『答え』を出した時にまた現れると言っていた事を考えると協力を取り付けるのは難しい筈だ。



「言われてみれば其れもそうね……って、そう言えばケビンさんは?」



で、エステルはケビンが居ない事に気付いたが、ヨシュアがケビンは早くに教会に向かい、現状の確認や今後の方針を大司教様と話し合うらしいと言う事を教えてやったら、納得したようだ。
そして其の後、不安を覚えた市民からの質問攻めにあったが、其れエステルが『大丈夫!絶対に何とかしてみせるから!』と現状では全く根拠はないが不安を払拭するには充分な力を持った一言を言った後で、シェラザードが『御用は教会内でお聞きした後、必ず適切に対処しますので、焦らずに受け付けが再開するまでもうしばらくお待ち下さい。』とスマートに〆たか。



「御用……ゴヨウ・ガーディアンの効果であの浮遊都市のコントロールを奪取できないでしょうか?」

「ゴヨウは強力なシンクロモンスターだが、其れでもあれを戦闘破壊するのは無理だからコントロールの奪取は出来ないだろう。」

その後は王都の各地を見て回ったのだが、矢張り市民の不安は大きいな。
流通が滞った事でマーケットの商品も品薄になり、食べるモノにも不安が広がっている……缶詰のような備蓄食料にも限りはあるからね――そしてやって来た王城の前はギルド以上の人が。
まぁ、此の状況では女王様なら助けてくれると思っても仕方ないか。



「あ、アインスさん……エステルさん。」

「クローゼ。そっちはどんな感じだ?」

「グランセルは城内も城外も大混乱状態です。
 突然オーブメントが動かなくなって城の設備が使えなくなってしまって……しかも其れはグランセル城だけでなく、同じ事が城下町の広い範囲で起こっているみたいなんです。
 市民の皆さんが窮状を訴えに来られているのですが未だに対策が立てられず……何を如何して差し上げたらいいのか……」

「クローゼ……取り敢えず落ち込まんと笑え。こう言う状況であるからこそ暗い顔をせずに明るい笑顔で居る事が大事だ。心からの笑顔は、其れだけで無条件に人々に安心感を与えるモノだからね。」

「そうです、笑顔は大事です……と言う事で笑ってみたのですが、見事に顔の筋肉が攣って元に戻らくなってしまいました。如何しましょうか此れ?」

「エステル、ヨシュア、シュテルの頬を思い切り捻ってやれ。」

「「ホイッとな。」」

「ふむ、地味に痛いですね此れは。」

「笑顔ですか……確かに思いつめた顔をしているよりはいいかも知れませんね。
 其れよりも、この事態の原因は矢張りあの上空の浮遊島のせいなのでしょうか?」

「恐らくと言うか略確実にな。」

此れまでの経緯から考えても、アレが結社が求めていた《輝く環》であると見て間違いあるまいな……100倍にした私の攻撃すら防ぐその防御力は恐れ入るがね。



「アレが《輝く環》……あ、あんな高い所に……」

「そうだクローゼ!アルセイユを動かせないかしら?
 リベール王家が誇る世界最高峰の高速飛行船よ!アルセイユであの浮島に乗り込めば、問題を一気に解決出来るかも!」



此処でエステルがアルセイユを使う事を思い付いたのだが、クローゼは『導力通信が使えないのでアルセイユが今どこにあるかも分からないんです』と言って、更に『アルセイユは女王の船なので私の一存で動かす事は出来ません。お祖母様に尋ねてみる必要がありますが、今はとても立て込んでいますので直ぐに得られるかどうか……』と申し訳なさそうな様子だったので、エステルも『クローゼが謝る事じゃないのよ?』とフォローしていた。



「其れに、アルセイユはオーブメント技術の結晶みたいなモノだからね、導力停止現象の影響を受けない筈はないと思うよ?多分真っ先に停止する。」

「あ、そっか。」



まぁ、最新式の導力エンジンを搭載したアルセイユは動かないだろうが、其れを聞いたクローゼは『若しかしたらレイストン要塞ならまだ動ける軍艦があるかも』と言って自ら確かめに行こうとしたのだが、其れはシェラザードが止めた。



「落ち着いて姫様。
 何かしたいと焦る気持ちは分かるけれど、其れは今貴女がすべき事かしら?王家を頼って集まった国民に背を向けてまで。」



何かしたいと焦るのは分かるが、此れはシェラザードの言う事が正しいな。
今お前がすべき事は、王家を頼って集まった国民に背を向ける事ではなく、王家の人間として其れに向き合う事だろう?――遊撃協会に集まった市民の意見を渡しておくから何かの参考にしてくれ。

「大丈夫だ。今回もきっとみんなの力で何とか出来る……だよなエステル?」

「モチのロンよ!だから今は焦らないで!自分が夫々で切る事をしっかり考えて、一緒に乗り越えよう!」

「は、はい!」



うん、いい返事だ。
何か分かったら追って連絡する!



「はい!」



さてと、正確な現状把握の続きと行くとするか!








――――――








Side:クローゼ


自分に出来る事をしっかり考えて一歩ずつ……エステルさんの言った事には共感出来るのですが、私に出来る事とは一体何なのでしょうか?
クローゼ・リンツとして出来る事なのか、それともクローディア・フォン・アウスレーゼに出来る事なのか……其れによって変わって来そうな気がしますけれど、確かに私に出来る事が何なのかも分からないのでは何も出来ませんね……私がすべき事、其れを見極めないとですね。










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