No Side


アインス達とオリビエが別れてから数時間後、夜の帳が降りた頃四輪の塔には不穏な影が降り立ってた。


「此方は《幻惑の鈴》。設置は完了したわ。」

「此方《怪盗紳士》。儀式開始まで待機する。」

「うふふ、《殲滅天使》よ。レンの準備も終わり。」

「《痩せ狼》だ。とっとと始めてくれや!」


其れは《結社》の《執行者》でありアインス達の前にも姿を現した、《幻惑の鈴》ルシオラ、《怪盗紳士》ブルブラン、《殲滅天使》レン、《痩せ狼》ヴァルターの四人だった。
四人は夫々異なる四輪の塔の頂上で何やら準備をしていたらしく、その準備が完了した旨を遥か上空の《結社》の飛空艇に居る『教授』こと《白面》のワイスマンに伝える。


「七耀の届かぬ闇の狭間に封結されし《環》よ!汝が《福音》を通じて現世の有様を眺めるが良い!」


そしてワイスマンは先が音叉のように分かれた巨大な杖を使って台座にセットされたゴスペルを起動すると、同時に四輪の塔の頂上にある謎の装置にセットされたゴスペルも起動し、謎の装置が光を放ち始める。
そしてその光はドンドン強くなり、やがて夜空に向かって一本の光の柱を、一瞬だけ放つのだった……










夜天宿した太陽の娘 軌跡126
『福音による封印解除。顕現せし《輝く環》』









Side:アインス


アガットとジンとは連絡を取る事が出来たので、ボース地方はアガットに、ツァイス地方はジンに任せる事が出来るな?となると、私達は如何動くかだ。
半実体化している私を含めれば人数は六人なので3・3で分けるのがベターだと思うのだが、さて如何分けるか?



「ロレントの翡翠の塔には、私とケビン神父とシュテルが向かうわ。二人とも其れで良いかしら?」

「俺は其れでえぇで。精々足引っ張らんように気張らせて貰いますわ♪」

「私も異論はありませんが……調査との事でしたが、もしも琥珀の塔とやらで《結社》が設置した何かがあった場合は其れを破壊しても構わないのでしょう?」

「いや、其れは止めた方が良いシュテル。
 琥珀の塔に何かが設置されていたとしても、教授なら其れを破壊して来る事を見越してどんな悪辣なトラップを仕掛けているか分からない……最悪の場合、破壊しようとした者が死ぬ可能性もあるからね。」

「そうですか、其れは残念です。……尤も私の場合、粉々に吹き飛んだとしても時間を掛ければこの身体を再構成する事が出来る訳ですが。」

「シュテルの身体ってどうなってるの?」

「この身は生身の肉体ではなく、高密度の導力エネルギーを此の形に固定していると思って頂ければ……故に、この身体が吹き飛ばされても構成素体である『核』が無事であれば空気中のエネルギーを集める事で復活が出来るのです。」

「『核』さえ無事なら事実上の不死身って事か……其れなら多少の無茶も出来るかも知れないけど、塔の崩壊とかに繋がる事態が起きるかもしれないからやっぱり破壊はなしの方向で。」

「了解いたしましたヨシュア・ブライト。」



相変わらず発想が物騒と言うか何と言うか……確かにマテリアルズは構成素体が無事なら幾らでも復活するからなぁ?王は二度、シュテルとレヴィは三度も消滅したのに復活しているからね。

取り敢えずシェラザード、ケビン、シュテルがロレントの翡翠の塔に向かう事になったので、私達はルーアンの紺碧の塔だな。
塔に《結社》の戦闘員、或は《執行者》が居たら戦闘は免れないが、相手が《剣帝》でない限りは負ける事だけはあるまい……私達が向かう先はルーアンと言う事を考えると、怪盗紳士が出てくる可能性が高いので、アイツとある意味では互角以上の戦いが出来るオリビエに居て欲しかったところではあるが、まぁ帝国に帰ってしまうのだから仕方ないな。



「如何してオリビエさん?」

「オリビエと怪盗紳士は、ルーアンでの一件の時に互いの美の価値観をぶつけて訳の分からない論争をかまして互いにライバルと認め合ったみたいなのよね……ある意味似た者同士なのかしら?」

「オリビエさんとブルブランが同族なのは否めないかな……《結社》に居た時から、僕はあの人の感覚が理解出来なかったけど。」

「理解出来る人の方が少ないと思うわヨシュア。」

「そうだな。エステル・ブライトを漢字で『江素輝無頼斗』って書いちゃうセンスくらい理解出来んだろうな。」

「……そのセンスで行くと、僕と君は如何なるのアインス?」

「お前は『夜主亜無頼斗』で、私は『亜韻栖無頼斗』だな。」

「うん、マッタク持って意味が分からないわ。」



だろうな。
向かう先は決まったので、エルナンが飛空艇のチケットを手配してくれるとの事……まぁ、其れが一番確実で速い移動手段だからな。ジークを巨大化する事が出来れば其方の方が速いのかもしれんが。



「《輝く環》を手に入れる為に、結社は入念に事を進めている筈です……如何かくれぐれも気を付けて――」



――カッ!!



っと、何だ?外で強烈な光が放たれたみたいだな?
稲妻のようにも見えたが、今宵は雲一つない夜空故、其れは考え辛い……いや、其れだけではなくヴァレリア湖の方角の上空に巨大な光の塊が現れただと?
しかもアレからは、闇の書の闇のような禍々しさはないが同等のプレッシャーを感じる……世界を終焉に導く力と同等のプレッシャーを放つとは、相当なモノだぞあの光の塊は……!



《アインス、あの光の塊は……》

《あぁ、相当にヤバい代物だな……下手をすればあの光はリベールどころか此の世界其の物を滅ぼしかねん。《結社》は世界を一度滅ぼした上で、自分達の理想郷を築く心算なのかもしれんな。》

《あんですってーーー!そんな事させられないわ、絶対に!!》

《あくまでも私の予測ではあるが、其れでも《結社》の目的を成就させる訳には行かん……四輪の塔よりもあの光の塊を何とかするのが先かもな。》

やがてその光の塊は弾け、中から何かが現れたのだが……なんだアレは?法螺貝を逆さまにしたような見た目だが、その大きさが凄まじいな?距離があるにも関わらずグランセル城と同じ大きさに見えると言う事は、実際の大きさはグランセル城の倍はあると見て良いだろうね。



「大きい……なんなのアレ?」

「まさか、アレが……」

「……うん、間違いない。」

「アレが《輝く環》……っちゅう事か……!」



アレが《輝く環》……『何処が環だ!』とは言ってはいけないのだろうが、アレが《結社》の目的か。……だが逆に言えば、アレがなくなってしまえば《結社》の目的は果たされないとも言える訳だ。
なら、やってみるか……覇ぁぁぁぁ……!!



「ちょ、何してるのアインス!?」

「アレが《結社》の目的であると言うのであれば、アレを破壊する事が出来れば《結社》の目論見は塵と消える……だから、破壊を試みる!喰らえ、最強無敵の合体戦士の必殺技!100倍ビックバンかめはめ波ぁ!!」

「アインスの力を100倍にしたら如何なるの?」



其れは余裕の全ステータスカンストした上でバグるだろうなぁ……多分アナライズでステータスを確認したらHPが9Xg00Adとか意味不明な表示になると
思うぞ?
そんな私の渾身の一撃を《輝く環》に向けて放ったのだが、其の攻撃は《輝く環》に届く前に霧散してしまったか……如何やら、《輝く環》には外的攻撃をシャットアウトするバリアが張られているみたいだな。

「私の攻撃を弾くとは……《輝く環》、伝説のアーティファクトと言うだけあるな。」

「まさか《結社》の目的が此れほどのモノだったとは……流石に此れは僕一人の手では余るかな?……《結社》の真の目的の達成を阻止する為にはエステル達との再会は絶対に必要な事だったと今なら断言出来る……!」

「ヨシュア……確かにヨシュア一人じゃ無理かもしれないけど、アタシ達が力を合わせれば結社の目的が何であろうと、最終的には何とか出来る筈よ!
 根拠は何って聞かれると困るけど、根拠なんて明確じゃなくても出来るのよ、アタシ達なら絶対に!」

「根拠はないって……けど、君のその思いがあるだけで僕も、他の皆も不思議とその気になっちゃうんだよね?僕も、そんな所に惹かれたんだけど。



其処は小声じゃなくて聞こえる声で言ってやれヨシュア……尤もそれはそれでエステルが瞬間湯沸かし器になってしまうだろうがな。

そしてその後、《輝く環》は強烈な光を放ち、其れは王国全土に波及する程のモノだった……攻撃性のモノでは無かったが、何かとても嫌な予感がするな?其れこそ、王国を根底から揺るがしかねない何かが。
出来るだけ早く、《輝く環》に乗り込む算段を付けるべきかも知れん。其れこそ、軍と連携して軍用の飛空艇を出して貰ってでもな。








――――――








Side:レオンハルト


《輝く環》は永き間異次元に封印されていたが、端末である《ゴスペル》があれば此方の次元に干渉出来ると言うのが教授の考えだったが、幾多もの実験を経て完成した真の《ゴスペル》は持ってして、教授の考えは正しかった事が証明された訳だ。

「《環》は真なる《福音》を通じて、己を繋ぐ《杭》を引き抜き、そして今昏き深淵より蘇った……か。」

「ククク、その通り。
 諸君のおかげで第三段階は無事完了した。『福音計画』は此れより最終段階へと移行する!」



《環》が顕現し、計画はいよいよ最終段階か。
計画の最終段階では、リベールに此れまでの実験とは比べ物にならない未曾有の危機が迫る事になるだろう。其れこそ、十年前の百日戦役に匹敵する程のな。
ヨシュア、そしてエステル・ブライトとアインス・ブライト……お前達は其の危機の中で如何動くか――希望を繋いで教授の目的を打ち破るのか、それとも成す術なく絶望の闇に沈むのか、其れを見届けさせて貰うぞ。
同時にヨシュア、グロリアスでのお前への問いに対する答え、其れを必ず俺に聞かせに来い。希望を繋ごうが、絶望の闇に沈もうが何方であってもだ。
其れはお前が果たすべき義務であり、俺が受け止めねばならぬモノなのだからな――だから必ずやって来い。カリンの為にも、絶対にな……!










 To Be Continuity 





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