Side:アインス


《結社》が動き出したか。
ユリアの報告によれば既にリベール全土に《結社》の兵士が現れたと言う事だ……現在は各守備隊が応戦に当たっているとの事だが、其れも何時まで持つか分からん。
軍だけで対処出来る事態ではないな……何よりも《結社》が関わっていると言うのであれば遊撃士としても放っておく事は出来ないからな。



「モルガン将軍、相手が《結社》なら、アタシ達遊撃士も黙ってられないわ!アタシ達も行くわよ!」

「うむ……お主の言う事も分からんではないが、しかし逆に言えばお主達遊撃士も我等軍と共に動いている場合ではなく、独自に動いた方が良いのではないか?
 軍には軍の、遊撃士には遊撃士のやるべき事があるであろう?」

「……モルガン、お前クーデター事件の時の記憶ちゃんとあるか?」

「イキナリ何を聞いておる?そんなモノは勿論あるに……あるに……むぅ、所々思い出せん事もあるな?特に遊撃士となったお主等と初めて会った辺りの記憶がハッキリせん。
 だが、其れが如何した?」

「いや、初めて会った時は遊撃士を毛嫌いしているいけ好かん爺だったのが随分と変わったと思って、若しかしたらあの時のお前は偽物か或は結社によって操られていたのではないかと思ったのだが……如何やら、無意識の内に結社に操られてたみたいだなお前も。」

「なんと、まさかそんな事が!!オノレ結社め、このワシを手駒にするとは余計に許さん!」



空賊事件の際の私達の逮捕も、あの腐れ外道が事を万全に進める為には一時的に私達の動きを封じておいた方が好都合だったと考えらえるし、軍と遊撃士は協力し合わない方が良かっただろうからな。
尤も、今は遊撃士と軍は協力し合える関係になっているのだが、其れを妨害してこなかったと言う事は今や遊撃士と軍が協力した所で結社には脅威たり得ないと言う事なのだろうが。

さて其れは其れとして、都市の防衛や各地の関所の方は軍に任せるとして、私達は如何動いたモノだろうな?



「其れなんやけど、試しに四輪の塔へ行ってみる……ちゅーのは如何やろか?」



と、此処でケビンが提案をしてくれたが、四輪の塔か……確かにあそこは古代の遺跡特有の不思議な力を感じるから、其処に結社が目を付けていたとしても不思議はないな?
何もなければそれで構わないし、何か見付ける事が出来れば儲けモノ……行ってみる価値はあるかも知れん。










夜天宿した太陽の娘 軌跡125
『四輪の塔の異変。軍からの正式依頼』









とは言え、四輪の塔が結社と何か関係があるのか?



「確か結社は七の至宝の一つ《輝く環》を手に入れる為に、リシャール大佐を操ってグランセル城の地下で《ゴスペル》を使って封印を解こうとしたんやっけな?
 そやけど肝心の《輝く環》は其処には無かったし、何かが起きた筈なんやけど結局何が起きたか分からんかったんよな?」

「其れでも結社にとっては成功だったらしい。
 福音計画の第一段階は、『環』に至る『門』を開ける事……だと言っていたけど。」



クーデター事件が福音計画の第一段階で其れは成功し、計画の第二段階は此れまで私達が遭遇して来た新型《ゴスペル》の稼働実験であり、そして其れも完了したと言う事は、結社の次の一手は何でしょう?早押しでお答えください。



「その《ゴスペル》を使って、また何かの封印を解こうとしている……?」

「順当に考えればそうなるでしょうね……時に、誰かこのネコ達を何とかして下さい。お城に入る前に全て追い払った筈なのですが、気付けばこのような事態になっているのですが何故でしょう?」

「いや、本当にどこから入って来たのさこのネコ達は!?……そして、今更だけど君は誰?」

「そう言えば名乗っていませんでしたねヨシュア・ブライト。私はシュテル・ザ・デストラクター。理を司るマテリアルで、以前彼方にお世話になった力のマテリアルであるレヴィと対を成す存在です。」



此処でまさかのシュテルがヨシュアに自己紹介……エステルが自分の事を探しているのは知っていても、シュテルの存在までは知らなかったのだなヨシュアも。
取り敢えずシュテルに群がっていたネコ達は、ヨシュアが『魔眼』を使ってお帰り頂いた。
気を取り直して、エステルの答えにケビンも同意し、『俺もそんな気がしたんで、ぐるりと王国を回って調べてみたんやけど、翡翠の塔、琥珀の塔、紺碧の塔、紅蓮の塔、四つの塔全てで気になる事が起きていたんや』と言って来た。
なんでも、四つの塔の頂上にある正体不明の古代装置に光が灯って動いていたとの事……私達が以前訪れた時には光ったり動いたりはしていなかったが、其れは確かに気になる事ではあるな?



《正体不明の古代装置に光が灯って動いていた……アインスが元居た世界だと、この後何が起きるのかしら?》

《創作の話にはなるが、塔に封印されていた何かが目覚めると言うのが王道だな。目覚めるのは古代兵器だったり、太古に封印された怪物だったりと違いはあるが。》

《って事は、ヤッパリ封印された何かが目を覚ます可能性があるのよね?》

《まぁ、否定はせん。だが塔は四つなので、エクゾディアの封印解除だけは有り得ないがな。》

果たして、一体何が起きているのかだが……



「謎の古代装置が光って動いているだけやったら大した事やなかったんやけど、調査していくうちに一つ分かった事があってな……此れはユリア大尉から教えてもろたんやけど、城の地下でゴスペルが使われた後、機械の化物が現れる直前に妙な出来事があったそうやな?」

「確か、大きな柱が動いたり誰かの声が何か言っていたような……」

「その声は、『第一結界の消滅』と『デバイスタワーの起動』と言っていたわね。」

「そんでもって、四つの塔の装置が動き始めたんも、正に城の地下でゴスペルが使われた時間だったらしいんや。」

「では、『デバイスタワーの起動』と言うのは、四輪の塔の屋上にある装置の起動を意味していたと?」



確かにそう考えると辻褄は合うな?
グランセル城の地下には《第一結界》を作り出すモノが備わっていたが、其れはリシャールが《ゴスペル》を使った事で《第一結界》は消滅してしまった。
そう言う事か。



「そう仮定すると、新たな結界を発生させる為に《デバイスタワー》である四輪の塔が起動したと言えるのかもしれませんね?」

「だから結社は、その結界を消滅させる為に、デバイスタワーである《四輪の塔》で新しい《ゴスペル》を使おうとしている……!」

「確かに理に適ってる……けど、其処までを個人で導き出せる情報源と分析力――ケビンさん、貴方は一体何者なんですか?」



一応の仮説が成り立ったところでヨシュアがケビンに素性を尋ねたが、確かにケビンはあの外道ほどではないが結社が関係していた事件のあった場所にタイミングが良い程に現れていたからな?……私からも問おう、お前は何者だケビン・グラハム?



「今更感ハンパないけど……改めて自己紹介させて貰いますわ。
 俺の名はケビン・グラハム――七耀教会《星杯騎士団》に所属する神父です。」

「「「「星杯騎士団?」」」」


なんとも聞き慣れないモノだな?
私とエステルだけでなくクローゼとシェラザード、果てはヨシュアもが初めて聞く名であるみたいだが……オリビエは知っているみたいだったな?
オリビエの話を聞く限りでは、星杯騎士団とはアーティファクトの調査と回収を行う超精鋭組織で、非公開ながら選ばれるメンバーは可成りの凄腕であるとの事……成程、其れならばグリューネ門で現れた機械兵を一撃で倒したのも、カノーネのオルグイユに搭載されていたゴスペルを破壊してのけたと言うのも納得だ。そして武器はボウガン……アーチャーだったか。



「アインスちゃん、何やねんアーチャーって?」

「超凄腕の射手に対する最上級の称号だ。そして、射手の英雄を示す称号でもある。」

「そら流石に過大評価やで?
 実は最近大陸各地で《七の至宝》の情報を集めて回ってる連中が居るらしくて、教会でも目を光らせてたとこなんですわ。
 そんな折に、リベールの方で伝説のアーティファクト《輝く環》の話が入って来たんやけど、凄腕の騎士はぜ~んぶ出払ってしもてて、なんで新人の俺が真偽を確かめるべく派遣された訳です。
 そやからホンマは一人でやらなあかん仕事なんやけどね、俺は騎士団でもペーペーの新人やし、エステルちゃん等と何度も一緒に行動させてもろたし、《輝く環》とか結社とか目指すモンも同じやったし……俺はリベールの人間とちゃうけども、なんか協力させて貰えへんかな?」



新人のペーペーと言う割には戦い慣れている様に感じたが、ケビンにはケビンの事情があるのだろう――嘘は言っていないが、大事な事は言っていない、そんな所か。
だが、敵でないのならば其れで良い――立場は如何であれ、味方が多いに越した事はないからな。



「ありがとうケビンさん!此方からもお願いするわ!」

「おおきに!宜しく頼むわ♡」

「決まりのようだな。
 四輪の塔の異変の調査と解決を遊撃士協会にお願いする!此れは軍からの正式な依頼だ!」

「うん!分かったわ!!」

「その依頼、しかと受け取ったぞ、カシウス・ブライト准将殿!」

王国軍からの正式な依頼とあらば、其れこそ必要な時には軍と遊撃士協会が連携を取るのも円滑に行える……カシウスも其れを見越して軍からの正式な依頼としたのだろうな。此の頭の切れ具合には、頭が上がらんな。



「王国軍も負けてられんぞ!皆一丸となってリベールを救うのだ!」

「はい!」


「皆さん、どうかお願いします……!」

「任せておけクローゼ!」

私とエステルのコンビは可成り強いが、其処にヨシュアが戻って来て強力コンビは最強無敵のトリオになったから余程の相手が出てこない限りは負ける事はないし、更に其処にシュテルとシェラードとケビン、オリビエも居るんだ。きっと何とかなるさ。



と言う訳で城から出て四輪の塔に向かう訳だが、ヨシュアから『四輪の塔には結社の執行者が来ている可能性が充分に考えられる』と言われたので、アガットやジンの手を借りるべく、先ずは協会に導力通信で連絡して貰う事に。
アガットとジンの協力が得られれば心強いからな。
……っと、そう言えばいつもはこんな場面では誰よりもハイテンションになるオリビエが大人しいな?何時の間にか随分と後ろに居るし。
エステルも『早く来ないと置いてっちゃうわよ~~!』と言ったが、返って来たのは意外にも『あぁ、そうしてくれたまえ』との答えだった。如何したんだお前?らしくもない。



「僕は此処等でお暇するよ。そろそろ帝国に帰らねばならないのでね。」



帝国に……随分とイキナリと思ったのだが、本当はもう少し早く帰国する予定だったのが、私とエステルが結社に攫われてしまったので予定を延ばして滞在していただけだったとの事。そして、オリビエには帝国でやる事がある、か。



「そっか、ごめんねアタシ達のせいで。」

「気にする事はない!おかげで愛しのヨシュア君にも再会出来たしね♡」

「お前と言う奴は……最後位ちゃんとお別れできんのか?」

「……エステル君、アインス君、ヨシュア君、其れにシェラ君とシュテル君も……色々と大変だろうが気を付けて行ってくると良い。
 このオリビエ、帝国の空から君達の幸運を祈っているよ。」

「……うん、ありがとう!!」



真面な挨拶、やれば出来るじゃないかマッタク。
何時ものおちゃらけたオリビエと、今のオリビエは果たして何方が本当の姿で何方が仮面なのか……或はどちらも仮面なのか。まぁ、今は関係ないか。
先ずはアガットとジンの協力を取り付けた上で四輪の塔に、だな!








――――――








Side:オリビエ


さようなら、愛すべき友人達。
そして今度相まみえた時は、お互い敵同士と言う訳だ……くれぐれも結社に後れを取らないでくれたまえよ。










 To Be Continuity 





キャラクター設定