Side:アインス


ヨシュアと合流した私達はボース地方には戻らずに王都グランセルを訪れて、アリシア女王に此れまでの顛末を報告する事にした……若しかしたらクローゼに会えるのではないかと期待したが、クローゼは居なかったか残念。

ヨシュアが此れまでの事をアリシア女王に報告し、其れを聞いたモルガンが王国全土の警備体制を強化すると言い、アリシア女王も其れを承諾したのが……コイツは本当に初めて会った時とは別人のようになったな?或はこちらが本来のモルガンなのかも知れん。
レグナートの一件の際にアガットから手厳しい罵声を浴びせられたと言うのも一役買っているかも知れないけれどね。



「エステルさん、アインスさん、ヨシュア殿。本当にご苦労様でしたね?貴重な情報を良く知らせてくれました。」

「い、いえ!当然の報告をしただけですし……」

「いいえ……正直もっと早い段階で伝えるべきでした。
 空賊艇強奪の件も含めて、本当に申し訳ありませんでした……裁きを受ける覚悟は出来ています。」



さて、私達の労をねぎらってくれたアリシア女王に対し、ヨシュアはもっと早く伝えるべきだったと言って、空賊艇強奪の件も含めて自分が受けるべき裁きはキッチリ受ける覚悟であるみたいだ……確かに全く無関係な第三者から見れば、ヨシュアのした事は立派な犯罪行為に当たる訳だし、罪には罰が必要なのだが、ヨシュアが裏で暗躍して居なかったらアリシア女王もモルガンも結社の次なる動きを察知する事は出来なかった。
其れを考えると、ヨシュアを罰すると言うのは何か違う気がするが、果たしてアリシア女王はどんな沙汰を下すのか……



「ふむ……陛下、いかがいたしますか?」

「そうですね……では、超法規的措置になりますが、今回ヨシュア殿が明らかにした結社に関する様々な情報、其れをもって過去の行為は不問としましょう。」



成程、そう来たか。
恐らくだがアリシア女王もヨシュアの事情をある程度は察しているのだろう……だからこそ、安易な罰を与える事を良しとしなかったと言ったところだと思うが、其れが出来たのはアリシア女王だからだな。
真に国を思い、民を思っているアリシア女王だから何れ此の国の未来を担う若者を、それも国にとって重要な情報を齎してくれた存在を罰しなかった……此れが独裁国家だったら、情報を得るだけ得てから国家反逆罪で死刑とか普通にやりそうだからね。
なんと言うか、リベールの王様が優しい女王様で本当に良かった。そう実感したな。










夜天宿した太陽の娘 軌跡124
『家出息子の帰還。そして動き出す闇』









この沙汰はヨシュアにとっては予想外だったらしく、其れを受け入れられないようだったが、アリシア女王はそんなヨシュアに『もし、貴方が今すぐ自分の罪を罰して欲しいと言うのならば……牢に投獄される事で貴方の気が済むと言うのであればそうしましょう。』と言った上で、ヨシュアを諭してくれた。
ヨシュアのした事はヨシュア自身が一番分かっている……其れでもヨシュア似は此処でやらねばならぬ事がある。ならば今やるべき事を正しく真っ直ぐにやり抜く事こそが、己の過去に報いる唯一の方法である、か。
アリシア女王は『私はそう思っています』と言っていたが、其れは真理かもしれん。
私自身も、結社の魔の手からリベールを守ってこそ、数多の世界を滅ぼして来た過去に報いる事が出来るのかも……若しかしたら、私はその過去に報いる為に此の世界に来てエステルに宿ったのかも知れないな。

さて、アリシア女王の話を聞いたヨシュアにはもう迷いはないみたいだな?



「アリシア女王陛下……はい、ありがとうございます。」

「……いいえ、礼には及びません。此の程度の裁量、《ハーメルの遺児》たる貴方への償いにもならないでしょうから。」

「え?償いって、ヨシュアに?女王様が?」
《アインス、如何言う事だろう?》

《……結社の要塞艦で聞いた剣帝の話を思い出せ。
 剣帝は、ハーメル村を襲ったのはリベールの兵ではなく単なる猟兵崩れの野盗だったが、帝国は其れを決して口外にしないようにと脅して来たと言っていただろう?
 ハーメル村の生き残りにそんな事をしたんだ、自作自演をしてまで戦争を吹っかけたリベールに対しても同様の事をしたとしてもオカシクは無いだろう?……もっともリベールに対しては脅しではなく、停戦協定の類を申し出たのだろうがな。》

《あ……》



エステルも気付いたのだろう。
そしてアリシア女王とモルガンから、百日戦役でリベールと帝国の間で何があったのか語られた……開戦の原因は剣帝から聞いていた通りだったが、終戦間近になって帝国は『リベールの兵がハーメル村の住民を虐殺した』と言う指摘を撤回して、即時停戦と講和を申し入れて来たとの事。但し、ハーメル村での一件について一切沈黙する事を条件に。……ハーメル村の生き残りには脅しをかけ、リベールに対しては『戦争は終わりにするから、その代わりハーメル村の事は聞いてくれるな』と言って来た訳か。どうしようもないクズだな。

アリシア女王は帝国内部で何が起きたのか想像は付いたが、戦争が長引けは王国は再び窮地に陥ると判断し帝国の条件を吞む事を決めた……だがそれは同時に真実の追及を放置したと言う事でもあるか。
クーデター事件の時に、剣帝がアリシア女王に『貴方に俺を憐れむ資格などない』と言ったのは、此の事だったのか……だが、真実を追求して戦争を長引かせてしまっては国が危機に陥る――真実か国と民か、難しい天秤の選択をしなければならなかったアリシア女王にとっては帝国の要求を呑むと言うのは国の為とは言え断腸の思いだっただろう。



「私は自国の安寧を優先して、背後にいる被害者達の無念を切り捨ててしまったのです。」

「……如何か、ご自分をお責めにならないで下さい。
 そもそもハーメルの虐殺には何の関係もない上に、自国の平和がかかっていたのです。国王としては当然の判断でしょう。」

「……ヨシュア殿。」

「この、リベールと言う国は凍てついた僕の心を癒してくれた第二の故郷とも言うべき地です。
 其の地を救った陛下のご決断と、守り抜いて下さったこの国の人達に……感謝こそすれ、恨みなどしません。」

「ありがとう……」



ヨシュアは剣帝とは異なる態度だったが、此れもヨシュアがリベールで暮らして来たからこそだろうな。……っと、何やら部屋の外が騒がしいような?



「……如何やらお二人を独占し過ぎたようですね?」

「エステルさん!アインスさん!ヨシュアさん!」

「みんな!」



部屋に入って来たのはクローゼとシュテルとシェラザードとオリビエ……とケビン神父か。
取り敢えず、先ずはクローゼとハグだな。クローゼは私に触れる事は出来ないが、私はクローゼに触れる事が出来るのでね……その横では、シェラザードが『アンタって娘は、結社に捕まったと思ったら如何してサラッと王都になんかに来てるのよ!』と言ってエステルの頬っぺたを引っ張っていた。
気持ちは分からなくもないがやめい。半実体化した状態でもエステルとは触角と味覚は共有してるからエステルの頬っぺたを伸ばされると私も痛いんだよ!少しは手加減しろ!!



「シェラザードさん、無事だったのですからその辺で……其れに……」

「そうね姫様……おかえりヨシュア。」

「うん、ただい……」

「あぁ、愛しのヨシュア君!此の日が来るのを待っていたよ!
 しかもしばらく見ないうちにスッカリイメチェンして!でもそのクールないでたちもまたステキさ!」



で、シェラザードがおかえりと言って、ヨシュアもただいまと返そうとしたところで被せて来たなオリビエ!マッタク持ってお前と言う奴は……確かに今のヨシュアは以前よりもクールないでたちなのは否定せんよ?この長い襟巻は隠密行動では逆に邪魔なのではないかと思ってしまうがな。
だがしかし、何時ものノリでヨシュアに迫るお前を見過ごす事は出来ないんだよなぁオリビエ?覚悟は良いな?



「へ?アインス君?エステル君?」

「お~~……オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

「ヨシュアに何してんのよ、此のボケェ!!」

「お見事なコンビネーションです。ヒット数は百三を記録しました。」



私が無敵移動技でオリビエの背後に回ると、其処から私は突きのラッシュ!エステルは棒術でのタコ殴りでオリビエをフルボッコにして、トドメはダブルキン肉バスターだ。ヒット数のカウントお疲れ様だシュテル。
普通なら一撃必殺技なのだが、此れを喰らっても『中々に刺激的なコンボだったよ』と言うとかオリビエは割と不死身なのかも知れないな。……否、コイツはそもそもにして殺しても死なないか。



「あの、オリビエさん……貴方は……」

「失礼します閣下。」



ヨシュアがオリビエに何か言い掛けたところで部屋に入って来たのはカシウスだった。……こうして直接会うのはツァイスでの一件以来だが元気そうで安心したよ。尤もお前が如何にかなる事は想像出来んがな……本気でお前は無敵の親父殿だと思っても罰は当たるまいな。
モルガンは『レイストン要塞で警戒態勢の総指揮を執っていたのではないか?』と言ったが、カシウスが此処に来たのもその件であるみたいだ……尤もそれは表向きの理由だろうがな。



「陛下、王国軍第一種警戒態勢の発令に際し、各方面への指示が完了した事を此処にご報告いたします。」

「そんな事を伝えに態々……」

「ご苦労様でしたカシウス殿。では、今日の任務は此れで終わりにして構いませんよ。」

「……は。
 エステル、アインス、其れからヨシュア……三人とも結社に関する貴重な情報を良く持ち帰ってくれた。
 おかげで軍も幾何かの準備対策がとれそうだ。軍作戦本部長として礼を言う。……さてと、陛下のお許しも出た事だし、此処からは父親としての義務を果たさせて貰うぞ。」



父親としても義務を果たす。其れが此処に来た本当の理由だろうな。
エステルは褒めて貰えるかと思っているみたいだし、クローゼもそう言った光景を想像しているのか笑顔なのだが……カシウスが果たすべき父親としての義務と言うのはそんなモノでは無いだろうね。



――バチン!!



ヨシュアに近付いたカシウスは手を振り上げると、ヨシュアの頬を結構な力で張り飛ばした……物凄い音がしたが、アレでも幾分は手加減をしているのだろうな。カシウスの本気のビンタならば、歯の一本が折れてもおかしくないからね。
……と言うか、私も再会したら説教してやる心算だったのが再会出来た事の方が嬉しくてすっかり忘れていたな?……こう言うのは矢張り父親の役目と言う奴なのかも知れん。

ヨシュアが張られた事にエステルは驚いていたが、ヨシュアは『家出息子には当然のお仕置きだから』と受け入れていた……此れ位は覚悟していたと言う事だろうね。



「そう言う事だ。
 自分がドレだけ皆に心配を掛けていたか実感できたか?」

「うん……皆僕なんかの為に……なんて思ったらダメなんだよね。」

「良いかヨシュア、人は様々なモノに影響を受けて生きて行く存在だが、逆に生きて行くだけで様々なモノに影響を与えて行く。
 其れこそが『縁』であり、『縁』は深まれば『絆』となる。そして、一度結ばれた『絆』は決して途切れる事がないモノなんだ……今回の事で、お前もその強さ、実感しただろう?」

「うん……正直侮ってた。
 確かに僕は、何も見えてなかったみたいだ。」

「其れが見えたのなら、家出した甲斐もあっただろう―――――此のバカ息子め!本当に良く帰って来たな!」



縁はやがて絆になり、一度結ばれた絆は決して途切れる事がないか……どこぞの最強デュエリストも似たような事を言っていたが、其れはある意味で真理かもしれん。
あの世界では消滅してしまった私だが、だからと言って主や将達との絆が切れたとは思っていない……寧ろ絆が繋がっているからこそ此の世界でもレヴィやシュテルと出会えたのではないかと思える位だからね。

カシウスはそう言ってヨシュアを抱きしめたと言う実に感動的な場面なのだが、その感動に浸ってばかりもいられまい。



「皆ありがとう!心配かけてごめんね!アタシ達はもう、大丈夫!」



感動の涙を拭いて、エステルが声を上げたか……本当にエステルは心が強い。そして、感動の余韻に浸っている場合ではないと判断して場の空気を変えてしまうのだから、矢張り生まれ持ってのリーダーの気質なのかも知れないな。

「だが、リベール王国はまだ大丈夫ではない……そうなんだよなヨシュア?」

「うん。
 結社が推し進める『福音計画』は、既に第三段階に入ってる。恐らくそれはリベールに大きな災いをもたらすものだ。」

「そんな事を、此の国でさせる訳には絶対に行かん。」

「だから皆、力を貸して!アタシ達のリベール王国を守り抜くために!!」



故に、その言葉には不思議なパワーがある。
カリスマ性とはまた違うが、エステルの言葉には決して根拠がある訳ではないのに『コイツが言うのであれば』と言う、他者を引っ張る力がある……もしかしたらあの外道は其れを利用する心算だったのかもしれんな。



「失礼します!
 王都を除いた五大都市近郊に人形兵器と思われる魔獣の群れが現れました!
 また、各地の関所にも装甲を纏った猛獣と紅蓮の兵士が現れました!」



と、此処でユリアが登場して、リベール各地に人形兵器と思われる魔獣と、武装した猛獣、そして紅蓮の兵士が現れたと報告して来た……紅蓮の兵士と言うのは間違いなく《結社》の兵だろうな。

《結社》め、このタイミングで仕掛けて来たか……!!!










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