Side:アインス


剣帝は『逃げようとは思うなよ?』と言ったが、其れは逆にフラグだ。
だから、私は全力で其のフラグを圧し折る……取り敢えず、窓に向かって膝!肘!前、横、後蹴りの嵐!!そしてトドメは~~……フルチャージのヒートドライブ(ガード不可)だ!!吹き飛べぇ!!



――グワッシャ~~~~~~ン!!



「派手に行ったわねアインス?」

「どうせやるなら派手に行こうじゃないかエステル?
 其れに、ド派手に音を出してやれば部屋の前に居る監視のための兵も中を確認せざるを得ない……だから、入って来た所を叩く!!」

「オッケー!」



予想通り、大音に驚いた兵が部屋の中に入って来たが、先ずはエステルが先に入って来た兵を凶器攻撃の基本中の基本である椅子攻撃を喰らわせて一撃でスタンさせ、其れに驚いた二人目は行動に移る前に私がアッパーカットを叩き込んで気絶させる。
完璧に顎にヒットさせたからアレは当分目を覚まさないだろうな。

さてと、此れで此の部屋からは出る事が出来る訳だが、私は兎も角エステルには武器が必要だな?棒術具はないが……警備兵の持っていた槍の槍先を折ってしまえば棒術具の代わりになるか。
如何だエステル?



「うん、あんまり違和感はないかな?槍先がないからどっちかに重心が偏るって事もないし、何時もの棒術具と同じ感覚で扱えそうだわ。」

「ならば良かった……さて、急ごう。
 私達が脱走した事は直にバレる……その前に此処から脱出しなくてはならないからね。」

「うん、行きましょ!もう一度ヨシュアに会うまでは、アタシは絶対に諦めないんだから!!」

「その意気や良し!」

施設内に設置した魔力爆弾を起動するのは出口を見つけてからの方が良いだろう……今此処で爆発させて施設を破壊しても、脱出路が無ければ私とエステルも瓦礫の下敷きになってしまうからな。
……人格交代をすれば大丈夫だろうが、其れでも一応安全第一でね。










夜天宿した太陽の娘 軌跡122
『方舟からの脱出劇~再会せし太陽と漆黒~』









部屋から脱出したとは言え、此処はまだ敵のアジトのまっただ中であり、地の利に関しても私達は不利だ……認識阻害の魔法を使っているとは言っても、あの教授の事だから私の魔法に関しても何らかの対策をしていると考えた方が良いから過信は出来ん。
いっその事直射砲撃で強引に脱出路を作ってやった方が良いのではないかとすら思ってしまうよ……さて、如何したモノだろうな?



「ねぇ、アインス。この建物って敷地は広そうだけど高さは二、三階建って感じよね?
 だったら出口を探して動き回るよりも、いっそ上へ……屋上に出ちゃうって言うのは如何かしら?屋上に出ちゃえば、アインスと人格交代して飛んで逃げる事も出来るわよね?
 割った窓からだとガラスとか危ないからさっきは言わなかったけど。」

「あぁ、確かに其れは可能だが……その発想は無かった。……と言うか、私でも気付かなかった事に気付くとは随分と冴えてるじゃないかエステル?此れも恋する乙女の力と言うモノか?
 ヨシュアにもう一度会う為に絶対に諦めない、その思いがまだ覚醒し切って居ないお前の潜在能力を解放したのか?」

「それって褒めてるの?って言うか、何で飛んで逃げるって言う選択肢を排除してる訳?」

「最近空を飛んでないので、少しばかり自分が空を飛ぶ事が出来ると言う事を忘れていた……そうだったな、私は人格交代をすれば空を飛べるんだった。
 ならばお前の言う通り屋上に出てみるとしよう。屋上に出たら人格交代をして空を飛んでそれでおさらばだ。そして、アジトから離脱したら一斉に仕掛けた魔力爆弾を爆発させてアジトを木っ端微塵にするとしよう、そうしよう。」

「其れは流石にやり過ぎな気がするんだけど……因みに仕掛けた魔力爆弾を全部爆発させたらどうなるの?」

「アジトが木っ端微塵になるだけじゃなく、アジトが存在して場所には小型の隕石が落ちたのと同じ位のクレーターが出来るだろうな……若しかしたら地図上から陸地が少しばかり消える事になるかも知れん。
 そう、最終戦争が起きたかの如く!因みに、最終戦争は発動した方が大抵負ける。」

「何の話よ……」

「遊戯な王様のカードゲームの話だな。」

其れは兎も角、確かにエステルの言うように出口を探して歩き回るよりも、屋上に出てしまった方が脱出は容易だな……と言う訳で屋上を目指したのだが、矢張りと言うか何と言うか私の魔法にはある程度の対策がされていたらしく、認識阻害の魔法を使っていたにも関わらず兵に見つかってしまったのだが、雑兵では私とエステルの敵ではないのでスタンドモードで圧倒した。
半実体化した私に対してダメージを与える手段を持ってはいるのだろうが、雑兵風情の攻撃を受けるほど私は間抜けではないから、コイツ等程度ならばエステルとの波状攻撃が出来るスタンドモードの方が断然強い。

そして、屋上に辿り着いたのだが、外に出た瞬間に物凄い風圧が!
東京ドームの中から外に出た時と同じ位の風圧だが、其れはつまりアジト内と外とで大きな気圧の差があると言う事なのだが……まさか空の上だったとは。結社のアジトは超大型の飛行船だったと言う事か。

だが、此れは少しばかり拙いな?
飛行船ならば甲板に出ても大丈夫な様に導力による不可視のバリアが張られていて空気の薄い高度でも酸欠にならずに済むし、超低温も大丈夫なのだが、この高度では飛んで逃げる事は出来んぞ?



「なんでよ?アースガード使えば行けるんじゃない?」

「アースガードは、あくまでもダメージを無効にするだけで、酸素の薄さまでは無効に出来ん……酸素濃度が通常値の高度まで自由落下するにしても、其れは其れで途中で酸欠になって意識が無くなって地面とキスしてデッドエンドだ。この高度だと、仮に加速を付けて落下したとしても酸欠になる方が早いし、そもそもにして気温も低すぎるから低体温症による意識消失も有り得るから止めた方が良い。
 パラシュートがあれば脱出出来るかも知れないが、その場合でも意識がある内にパラシュートを開いたとして、パラシュートが開いた直後に大きく上昇して酸素の薄い場所に引き上げられるから酸欠と低体温症になって意識を失うだろう。
 しかもパラシュートの場合効果速度がゆっくりだから降下中にまた回収されてしまう可能性もゼロではない……魔力爆弾を起動したとしても、リスクの方が大き過ぎる……さてと、如何したモノか?」



「居たぞ、甲板だ!!」



ちぃ、見つかったか!
直ぐに引き返そうとしたが、其方からも追手が……挟み撃ちにされたか!
普通ならば絶体絶命の状況なのだが、太陽の娘と夜天の祝福、絶対的な光と闇が同居している私とエステルの前には雑兵が何人来ようと大した脅威ではない……太陽の業火に焼かれるか、それとも深き闇に沈むか、何方かを選ぶが良い。



「何方も選ばない……君達は此処で我々に捕らわれるのだよエステル君、アインス君!」



この声は……!
私達の前に現れたのは、気障ったらしい青髪の男……何処かで見た記憶があるのだが如何にも思い出せん……エステル、お前コイツの事覚えてる?



《見覚えはあるんだけど……誰だっけ?》

《お前も覚えてないか……ならば言うべき事は只一つ!其れではご一緒に!せーの!!》

「「アンタ、誰だっけ?」」

「のわ!忘れただと!この僕を!
 僕はギルバート!ダルモア市長の側近だった者だ!」



ギルバート……あぁ、そう言えば居たなそんな奴が。
灯台で猟兵に撃たれて病院送りになった筈だったが、退院後に《結社》の一員になっていたのか……お前程度の奴が《結社》の一員とは、《結社》は深刻な人手不足と見えるな?
貴様程度が私とエステルを捕らえるだと?冗談も休み休み言え。貴様と雑魚程度、私とエステルが本気を出せばカップラーメン一個分の調理時間があれば全員滅殺出来る……試してみるか?



「この……者ども、掛かれ!!」

「……雑魚が、身の程を知れ。」

「アンタ等なんてアタシ達の敵じゃないわ!今の内にエイドスに祈りなさい!!」










――雑魚共を殲滅中だ、少し待っていてくれ。












此れで決めるぞエステル!



「うん!行くわよ、キン肉バスター!」

「マッスルリベンジャー!」

私はギルバートにマッスルリベンジャーを極め、エステルは雑兵の一人にキン肉バスターを極めて、マッスルリベンジャーを極めている私の肩に着地して其のまま一気に甲板に叩きつける!
これぞキン肉マンとキン肉マンスーパーフェニックスによる幻のツープラトン『マッスル・ディスティネーション』!その破壊力はマッスルドッキング以上だから大凡耐えきる事は出来まい。

だが、コイツ等を処理しても雑魚はマダマダ沸いて来るか……上等だ、KOされたい奴から掛かって来るが良い!



「来るなら来なさいよ!雑魚がいくら来たって、アタシ達の敵じゃないんだから!!」









「マッタク、君もアインスも相変わらず無茶をするね……まぁ、アインスの力を考えたら多少の無茶はまかり通るのかも知れないけど。」









新たに現れた雑魚を倒そうと思った所で、兵の一人が擦れ違いざまにそんな事を言ったかと思うと、次の瞬間には雑兵共が甲板に倒れ伏していた。
私でも完全には捉え切れない神速の二刀流……お前は……!



「も、若しかしてヨ……」




「……ようやく姿を現したか。」



っと、此処で剣帝のお出ましか……!
私達が此処に来る事を予想していたと言う訳か?……いや、剣帝の狙いは――



「この方舟に潜入している事は大方予想していたが、其れだけでは隠れているお前を見つけ出す事は不可能だからな。
 だが、隠形と言うモノは一度確認されたら終わりだ……お前は最大の武器を失った。さぁ、この《剣帝》相手に如何戦う心算だ?」

「流石に、レーヴェと剣を交えて勝てるとは思ってないよ。」



ヨシュアか。
剣帝とヨシュアは色々と話をしていたが、その内容は私にもエステルにも良く分からないモノだったな……一先ず分かった事は、剣帝が結社に残って外道の手伝いをしている事とヨシュアの件は関係がない。
剣帝が結社に残っているのは、剣帝自身の望みのため。
剣帝は世界を試す事にした……うむ、マッタク分からん。特に最後の世界を試すと言うのが本当に分からんな。

にしても状況はあまり良くはないな?
私が表に出てヨシュアと力を合わせたとしても剣帝を完全に倒し切る事は難しい……寧ろ戦いが長引けばそれだけ此方の方が不利になる……脱出の手段がない状態で艦内に設置した魔力爆弾を起動するのは其れこそ自殺行為だしな。



「お前には三つの選択肢がある。
 娘達と共に投降するか、娘達を守ってここで果てるか、娘達を見捨てて一人逃れるか……さぁ、選ぶが良い。」

「……悪いけど、四つ目の選択肢を選ばせて貰うよ。」



此の状況で三択を迫ってきた剣帝に対し、ヨシュアはヘルメットを脱ぎ捨てると『四つ目の選択肢』を選ぶと言った次の瞬間、艦が大きく揺れた……此れは、爆発?
だが、私は魔力爆弾を炸裂させてはいない……と言う事はヨシュアか!



「……やってくれたな?まさか認証が必要な機関部にまで侵入したのか?」

「二十二基全てのエンジンに異なる細工をさせて貰った。放っておいたらこの船は海の藻屑と化すだろうね。
 教授たちの居ない今、解除出来るのはレーヴェだけだ。」

「計画を阻止するための最後の切り札と言う訳か……其れを此処で切ってしまうと言う意味……その欺瞞から何時までお前は逃げ続ける心算だ?
 ……まぁ良い。今度会う時までに答えを用意しておくが良い。楽しみにしているぞ。」



矢張りヨシュアだったか……取り敢えずまぁ、此の場は何とかなったな。
と言うかお前は何をしている?会えたんだぞ、ヨシュアに。



「あ、うん……あの……よ、ヨシュア……」

「……船倉の格納庫に飛行艇を確保してある。一刻も早くここから脱出しよう。」

「ヨシュア……」

「……話はその後だ。」

「……分かった。」



まぁ、確かに今は此処から脱出するのが先決だな。
ヨシュアの案内で艦内を進んで行ったのだが、流石に剣帝が『隠れているお前を見つけ出すのは不可能』と言っただけの事はあり、兵士に見つかる事は無かった。
そうして船倉の格納庫まで辿り着き、後は脱出用の船に乗るだけなのだが……何用だ道化師?



「あ~らら、バレちゃった?
 ヨシュアには気付かれるとは思ったんだけど、おねーさんも結構鋭いね?」

「態と気付かれるように少しばかり気配を発していてどの口がほざく。道化師は道化師らしく、観客を楽しませる為に滑稽に踊って居るべきではないかと思うがな?」

「……僕の動きを読んで居たのかカンパネルラ……」

「うふふ、此れでも僕は計画の見届け役だからね。他の連中よりも色々と気付く事が多いのさ♡
 だから、見届け役として最後まで見届けさせて貰うよ……再会した少女と少年を待ち受けるのは喜びか、それとも絶望か……それじゃあ皆さん、近い内にまた会おう♡じゃ~ね~~。」



――どろん!



「き、消えた?何だったのあの人?」

「道化師と言うよりも奇術師だなアイツは……」

「……行こう。」

「え?あ、うん。」



取り敢えず、無事に脱出用の飛空艇に乗り込んで船から脱出――と同時に艦内に設置した魔力爆弾は解除した。
ヨシュアがエンジンに施した細工で充分な効果はあったみたいだし、船から脱出したのならば此れ以上はやり過ぎだろうからな。
其れは其れとして、当然追手がやって来たが、ヨシュアが言うにはこの飛空艇には武器の類が搭載されていないとの事なので、私が甲板に出て直射砲撃で迎撃してやった……エステルに『やり過ぎない事!』と釘を刺されたので機関部だけを破壊する程度に威力を抑えたが、其れでも矢張り強いなディバインバスター。
本体を粉々にした訳ではないので、機体が落ちる前にパイロットはパラシュートで脱出したみたいだから少なくとも命に別状はないだろう。







――――――








Side:エステル


うまく逃げられた、のかな?ねぇヨシュア……



「揺れるよ、気を付けて。」



ヨシュアが居る。本当に其処に居る……夢みたい。
やっと、やっとヨシュアに会えた……これでもう、なにも――



其れから暫くして、飛空艇はルーアンの近くの海岸に着水した……やっと着いたね……やっと、戻って来た。ねぇヨシュア、アタシは……



「……お別れだ、エステル。」



でも、其処でヨシュアの口から出て来たのは別れの言葉だった。
正直な事を言えば、そう来るんじゃないかとは思ってたわ……だけど、今度はもうアタシの、アタシ達の前から居なくなったりさせない!今度は絶対に離さないんだから!!










 To Be Continuity 





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