Side:アインス


外道教授は予想外の提案をして来た……私とエステルに身喰らう蛇の一員にならないかと言うのは中々に興味深い話だが、この外道の事だから絶対に裏が有るに決まっている。
貴様、何を考えている?



「いや、此れは君達にとっても悪い話ではないと思うのだよ。
 先ずは執行者候補として、だが丁重に迎え入れさせて頂こう。」

「ふ……《執行者》の存在を感知してエステルと交代したが、此れは交代して正解だったかも知れん。エステルの遊撃士としての実力は、今や若手のトップと言っても過言ではないが、駆け引きの類はあまり得意ではないからな。
 お前のような外道との駆け引きは、千年もの間に数え切れない外道を見て来た私の方が適任だった訳だ。」

「外道か、まぁ否定はするまい。
 だが私が外道であるか否かよりも大事な事があるだろう?君達の目的を思い出してみたまえ……君達の目的はヨシュアと再会する事だった筈。ならば、君達が結社に入ればヨシュアも意地を張らずに戻って来るだろう。
 君達の望みは直ぐにでも叶えられると言う訳だ。」

「確かにそうかも知れんな。少なくともヨシュアはエステルが《結社》の一員となったと知ったら黙ってはいまい。
 だがお前の本当の目的は何らかの方法で私とエステルを分離した上でエステルの心を壊した後に再構築して己の手駒と化し、そのエステルを餌にヨシュアをおびき寄せて、人形となったエステルをヨシュアに見せる事でヨシュアの心を完全に壊して再び自分の手駒にする心算だろう?そもそもにして、お前の下で働くなど反吐が出る。剣帝の直属の部下と言うのであればまだ考える余地があったかも知れんがな。」

序に執行者の皆さんに質問、お前達は教授の部下なのか?



「部下と言う訳ではない。
 まぁ、蛇の使途は執行者よりも立場は上だが、俺達は教授によって福音計画の為に集められただけで部下ではなく協力者と言う立場だ。」

「協力者か……では続いての質問、この教授の部下になるくらいなら死んだ方がマシだと思う人挙手。」



――バッ!!



この質問に関しては、レン以外の全員が挙手……怪盗紳士に至っては左手を腰に当てて、右手をピンッと真っ直ぐ伸ばすと言うお手本のような挙手をしてくれた。……いや、人望ないなお前。



「……嫌われるのは慣れているのでこの程度如何と言う事はないが……まぁ良い。
 君の予想もないとは言い切れないが、必ずしもそうであると言う訳でもない……君達が望むのであれば、剣帝の下に付ける事も検討しよう。まぁ、今すぐ決めろと言う訳ではない。
 我々はこの後しばらく艦を留守にする必要があるのでね。帰ってきたその時にでも返事を聞かせて貰うとしよう。」



……嫌われるのには慣れてると言う時点で、コイツも大概だな。
だが、取り敢えず返答までの猶予があると言うのは嬉しい事ではある。この間に、エステルと作戦会議でもするか。










夜天宿した太陽の娘 軌跡121
『闇を知り、されど太陽は輝きを失わず』









外道教授が去った後、エステルと交代し、私達はグロリアスの一室に連れて来られて其処に閉じ込められた……あの兵士達程度ならば滅殺するのに難は無いが、今は大人しくしているべきだと判断してこうなっている。



《ねぇ、アインス。アタシが結社に入ればヨシュアと再会出来るのかな?》

《可能性はゼロではないだろうな。
 だが、結社に入ってヨシュアと再会する為には、あの外道教授以外の誰かの傘下に入らなければならないだろう。あの外道教授の傘下に入ったらさっき言ったように私とお前は分離され、お前はアイツの手駒となってヨシュアをおびき寄せる餌にされるだろうからな。
 もしも、結社に入るのであれば外道教授以外の誰かの傘下に入り、仲間になったフリをして内情を探り、ヨシュアがやってきたタイミングで一緒に結社から脱出するのがベターだろう……だが、お前は其れを望んで居ないだろう?》

《うん。
 私が結社に入ったからって、ヨシュアが結社に戻って来る筈がない。だって、ヨシュアはもう結社の人間じゃないんだから。……って言いたいけど、少し不安なの。
 ヨシュアは自分の事を、『魔法使いに心を作り直された人形』って言ってた……だから、不安なの。ヨシュアが実は結社に戻って来ちゃうんじゃないかって。》

《成程な……だが、お前が結社に入ってヨシュアが結社に戻ってくると言うのであれば、お前が教授の手駒になっていない事が前提ではあるが其れは悪い事ではないんじゃないか?
 だって、お前の事が心配でヨシュアは結社に戻ってくるのだろうからな……心の壊れた人形では、そんな事は出来ん。
 お前が結社に入った事でヨシュアが結社に戻ってくると言うのであれば、其れこそがヨシュアが心の壊れた人形ではなく、エステル・ブライトと言う少女を愛している少年だと言う事の証明に他ならない。違うか?》

《ヨヨヨ、ヨシュアがアタシを愛してるって……!!》

《其れに関しては絶対間違いないって言い切れるぞ私は。なんならエイドスだけでなく、三幻神に三邪神に三幻魔、地縛神に三極神に時械神、果てはホルアクティにだって誓ってでもな!
 そもそもにして、睡眠導入剤を確実に飲ませる為とは言え、愛していない女性とキスなんぞ出来るかぁ!あのキスは私達を確実に眠らせると言う目的だけでなく、私達の前から去るヨシュアが、最初で最後となるお前への愛の表現だったのではないかと私は思っている!そして其れはきっと正しい!》

そして、エステルを心から愛しているからこそヨシュアはエステルの元から去った訳だ……『愛する者を危険から遠ざけたい』と言う思いは間違いではないのだが、お前が居なくなる事でエステルがドレだけ悲しむのか、其処までは考えていなかっただろうお前は。



「邪魔をするぞ。」



そんな中、部屋にやって来たのは剣帝だった……エステルは警戒したが、取り敢えず敵意はないようだな?……お前は、教授と一緒には出掛けなかったのか?



「出掛けるのは、教授と俺以外の執行者だ。」

「ほとんど全員じゃない!そんな大勢で何をする心算なの!?」

「……其れを知りたければ教授の誘いに応じたらどうだ?そうすれば一通りの情報は得られるだろう。」

「…………」

「答えは出ているが、迷いがある……と言った所か?」

「アンタにアタシ等の何が分かるって言うのよ!」

「そうだな、俺個人の意見としては……お前達は到底結社に向いているとは思えない。
 能力的にはお前は多少の可能性を秘めているし、アインスに関しては問題ないが……だが、結社と関わるには少なくともエステル・ブライト、お前の闇はあまりにも小さすぎる。」

「ならば私の闇は如何だ?」

「……お前の闇は逆に大き過ぎる。一体どんな人生を送ってきたらそれ程の闇を身に宿せるのか……」

「永き眠りと刹那の覚醒を繰り返して千年の時を生き、刹那の覚醒の度に世界を滅ぼして来たからな私は……果たして千年の間にドレだけの世界を滅ぼし、そしてどれだけの命を奪って来たのか最早分からん。
 言うなれば、私は存在其の物が破壊神と言える訳だが、その破壊の力を今は此の世界の為に使おうと思っている……其れでも私は圧倒的に闇属性だがな。因みにエステルは圧倒的な光属性だ。
 そして光と闇が同居している私達はカオスの力が宿っている!そう、私達は伝説の剣闘士であるカオス・ソルジャーなんだよ!」

「一つの魂は光を導き、一つの魂は闇を誘う!やがて二つの魂は、カオスの力を呼び覚ます!」

「走れ、暗黒騎士ガイア!カオスのフィールドを駆け抜け、超戦士の力を得よ!儀式召喚!降臨せよ『カオス・ソルジャー』!!」

「……何を言っている?」

「気にするな、ちょっとした茶番だ。」

さて、剣帝が言うには、『結社に属する者は皆何らかの闇を背負っている』との事……其れは教授だけでなく剣帝を始めとした執行者、そしてヨシュアもだ……ヨシュアも相当な闇を背負っているのは、女王生誕祭の時に知ったがな。
其れを聞いたエステルは、剣帝にヨシュアとの関係を聞いた。



「ヨシュアはずっとロランス少尉の事を気にしていたわ。
 あのヨシュアがロランス少尉の事になると途端に冷静さを失って……顔は分から無いけど、きっと誰だか分かってたんだと思う。
 貴方とヨシュアの間には、結社の仲間ってだけじゃない何かがある気がするの……其れは一体何?」

「……其れを知ったら、お前は真っ白なままではいられなくなる。
 其れを知ると言う事は、ヨシュアや俺達の居る闇の領域をのぞき込む事になる……その覚悟がお前にあるのか?」

「うん!」



剣帝はエステルに『闇の領域をのぞき込む覚悟はあるか』と聞いて来たが、エステルは迷う事無く秒で返事をした。勿論私も同じ気持ちだがな。



「アタシは、ヨシュアの辿って来た軌跡を如何しても知っておきたい。その気持ちだけは本物だから……だから、教えて。」

「……良いだろう。」



その思いが伝わったのか、剣帝は自分とヨシュアの過去を話してくれたのだが、此れは中々に壮絶なモノだった。
剣帝は今から十年前、ハーメルと言う村で遊撃士を目指して日々トレーニングをしていて、そのトレーニングには常に幼い頃のヨシュアとその姉であるカリンが付き添っていて、とても充実した日々を送っていたらしい。
剣帝とカリンは所謂恋人関係で、剣帝もカリンの弟であるヨシュアの事を自分の弟の様に可愛がっていたのだが、その日常は突如として崩壊した。
ある日の深夜に火事が発生し、ハーメルの村人達は家事の消火作業に当たったのだが、その最中に村人の一人が銃で頭を撃ち抜かれ、其れを皮切りにハーメルの村人は次々と武装した兵士によって惨殺されて行ったらしい。
老人に子供、そして成人男性は問答無用で殺されたが、年若い女性は純潔を穢された上で殺されたとの事……聞いているだけで胸糞が悪くなる話だなマッタク。
剣帝はヨシュアとカリンだけは絶対に護ろうとして村からの脱出を試みたのだが、その途中で見つかり、ヨシュアとカリンを逃がし、自分は追手の相手をして、ヨシュア達と合流したが、其処で目にしたのは、死した兵士と、背中を血に染めながらもヨシュアを護っていたカリンの姿だった……そして、その後カリンは死んでしまったか。



「なんで、どうしてそんな事に……」

「村を襲った男達は、リベール製の導力銃を装備していた。」

「え?」

「王国製の銃を銃を携えた襲撃者によって起こされた帝国領内での惨劇……其れは帝国が侵略戦争を始める格好の口実だった。
 その直後、エレボニア帝国はリベール王国への進行を開始する。……十年前の戦争、百日戦役はそうして始まったんだ。」

「私は直接その戦争を体験した訳ではないが……其れが十年前の戦争が始まった原因か。だが、そいつ等は本当にリベールの兵隊だったのか?」

「俺達は帝国軍からそう聞かされた。
 ……だが、帝国軍の敗戦で百日戦役が終わった時、俺達は全く別の説明を受けた――村を襲った者達はリベールの兵ではなく、単なる猟兵団崩れの野盗達だったと。
 そして軍はハーメルへの道を完全に封鎖し、事件について決して口外にしないよう俺達を脅した。」

「なんで、そんな……それってまるで……」

「全ては帝国が企てたリベールを侵攻するためのシナリオだった……そう言う事だな剣帝?」

「あぁ、其の通りだ。
 他国に戦争を仕掛けるためだけに自国の、何の罪もない村人を惨殺し、しかし自作自演が露呈するや否やなりふり構わず己の汚行をなかった事にした……此れが『ハーメルの悲劇』の真相だ。」



マッタク持ってやり切れん話だな其れは。
地獄のような光景ならば私も何度も見て来たが、私の場合は自ら作り出した地獄絵図だったが、剣帝の場合は見たくもなかった地獄絵図を見せられた上に其れをなかった事にされたのだ、其の時に感じた虚無感と怒りは果たしてドレだけだったか想像もつかんな。
だが、剣帝以上に深刻だったのがヨシュアだったらしい。
剣帝が言うには、そんな日々の中でヨシュアの心は完全に壊れ、言葉を失い表情も消え、ハーモニカ以外に興味を示さずに痩せ衰えて行ったらしいのだが、そんなヨシュアと剣帝の前にあの外道教授が現れ、ヨシュアを奴に預けて剣帝は身喰らう蛇の一員となり、二年後にヨシャアも同じ道を辿る事になった、か。

「其れが、お前とヨシュアの抱えている闇か?」

「その通りだアインス・ブライト。
 そしてエステル・ブライト、お前とヨシュアの間にどんな断絶があるのか理解出来たか?」

「……うん。」



此れだけの話を聞いてしまったら、普通ならばヨシュアと己にドレだけの違いがあるのかを理解し、ヨシュアの事を諦めると言う事になるのだろうが、エステルはそうではない。
寧ろ、エステル・ブライトと言う少女は真実を知れば知るほど己の決意が固くなる少女だからな!



「あの、剣帝……ありがとう、ヨシュアの過去を教えてくれて。
 貴方にとっても……辛い過去をちゃんと話してくれて。……おかげでやっと、全てが見えてきた気がする。」

「なに?」



エステルの言葉に剣帝も怪訝そうな顔をするが……さぁ、高らかに宣言するんだエステル!己が選んだ道を!己の決意を!!



「教授の誘いは今此処で断らせて貰うわ。アタシは身喰らう蛇には入らない!アタシがヨシュアを追い続ける限り絶対にね!!」

「そして其れは私も同様だ……何よりも、自らの身を喰らう蛇は何れ自ら其の身を亡ぼすからな。先の見えている組織に身を置くなど、其れこそ時間の無駄と言うモノだ。」

「……事が成れば父親の元に帰してやる事も出来るだろう。其処までは此処で大人しくしているが良い……言っておくが、逃げようなどと考えるなよ?」



エステルの言葉に驚きの表情を浮かべた剣帝だったが、其れも一瞬の事で次の瞬間にはまるで妹の成長を喜ぶ兄のような優しい笑みを薄くではあるが浮かべていた……アレは、悪人に出来る表情ではないな?
少なくとも剣帝本人は悪人ではなく、ヨシュアの事があったから《結社》の一員として働いているに過ぎないと言った所かも知れん。

しかし、『逃げようなどと考えるな』か……知っているか剣帝、其れはフラグと言うんだぞ?さて、如何するエステル?



「折角フラグを建ててくれたんだから、其れを回収するのが礼儀よね!」

「其の通りだ……其れじゃ、始めるとするか!」

主演エステル・ブライト&アインス・ブライトのダブル主人公による、一世一代の大脱出劇と言うモノをな……!!










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