Side:アインス
此処は一体何処だ?
周囲は暗い暗い闇……辛うじて、エステルの姿を確認する事は出来るが、其れ以外には何も確認出来ん……相当に深そうだな此の闇は?……だが、同時にこの光景は現実ではない事が分かった。現実世界で、これ程の闇が蔓延る事などないからね。
と言う事は、つまりこれはエステルの夢と言う事になるのだが……
「ヨシュア!!」
闇の中に居たのはエステルとヨシュアだった。
そのヨシュアに、エステルは『やっと会えた』と言って走って近付いて行ったのだが、ヨシュアは『エステル、もう良いんだ。』と言うと、右腕が捥げて落ち、『元々僕は壊れた人形だから。人間には戻れないから』と言うと今度は左腕が。
当然エステルはヨシュアに手を伸ばすが、『だからもう、良いんだよ。』と言うと、次の瞬間にヨシュアの身体はバラバラに……!!
「ありがとうエステル……さよなら……」
「い、いや……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
……此れはまた、何とも最悪な悪夢だな。
と言うか、ヨシュアがバラバラになるイメージをエステルが抱いてしまったのは、若しかして先刻の戦闘で偽ヨシュアをDIO様の必殺コンボで破壊したせいだったりするのだろうか?だとしたらエステルには物凄く申し訳ない事をした。炎属性の攻撃で、ヨシュア似の外装を焼き剥がしてから完全破壊するべきだったな。
とは言え、闇が崩れる……ショッキングな映像を見た事で、エステルの意識は一気に覚醒したみたいだ……薬で眠らされてしまった私達だったが、果てさて一体状況は如何なっているのか?
少なくとも棒術具は持ってないだろうから、場合によっては私が表に出るか、或はユニゾンする必要があるかも知れないな。
夜天宿した太陽の娘 軌跡120
『栄光の方舟で邂逅せしは外道教授』
目が覚めたかエステル?……中々に最悪な夢を見たようだな?
「夢……そっか、夢だったんだ。良かったぁ……って、アインスもあの夢を見ていたの?」
「何時もの夢とは違い、お前は私に気付いていなかったのか……まぁ、私も何が出来る訳でもなく、あの光景を第三者として見ている事しか出来なかった訳だがな。
其れでだ、此処は一体何処なんだレン?」
「え、レン?」
「うふふ、直ぐに私に気付くなんて流石ねアインス。」
お前は普通にしている心算なんだろうが、私には分かってしまうんだよ……子供故の残酷さをタップリと含んだ純粋な闇の気配と言うモノがな。尤も、エステルはお前と真逆の光属性だから、私が気付かずとも気付いたかも知れないがな。
「レン!?なんでこんな所に居るのよ!?」
「別にオカシイ事じゃないでしょう?此処は結社の拠点なんだから。」
結社の拠点……成程、クルツ達が見つけた拠点はダミーで、もっと言うのであればクルツ達を、最終的には私達を誘き出す為の餌だったと言う事か。
そして其の餌にまんまと釣られ、私とエステルは薬で眠らされた上で真の拠点に連れて来られたと言う訳だが……考えようによっては此れは好機と言えなくもないな?
私が表に出て本気を出せば此の拠点其の物を潰すのは多分簡単だ。《執行者》が出て来たら厄介だが、拠点の破壊をメインに行って執行者は牽制した上でトンズラする事は難しくない……《剣帝》が出て来たら話は別だがな。
とは言え、先ずは連中の目的を直接聞くと言うのも悪くはないか……其処から得られる情報もあるし、レンも『エステルとアインスに聞いて貰いたい話があって此処に招待したのよ。』と言っていたからね。
《アインス……如何しよう?》
《今はレンに付いて行くしかなかろう……そして得られるだけの情報を得た上で、此の拠点を破壊して脱出する。此れから向かう道中に、不可視の魔力爆弾を幾つかセットしておくよ。》
《因みにそれ、ドレ位の威力?》
《一個でトロイメライをお釈迦に出来るレベルだ。》
《うわ~お……》
レンに案内される形で拠点の内部を進みながら色々話をしてみたが、其れだけでも結構な情報を得る事が出来た。
此の拠点は《紅の方舟》グロリアスと言うらしく、『今どのあたりに居るのかはレンも分からない』と言った事から、グロリアスは《紅の方舟》と言う別称を考えると移動式の拠点……より正確に言うのであれば移動要塞と言った所だろうな。
「一応忠告しておくけど、変な気は起こさない方が身のためよ?一歩でも外に出ようものなら、エステルもアインスも確実に死んじゃうから。」
「ほう、私も死ぬのか?」
「えぇ、アインスも死んじゃうわ。」
「本当か?本当に私も死ぬのか?仮にエステルが死んだとしても、私が生きている限りはこの身体は私が受け継いで生き続ける。
そもそもにして、精神体である私をどうやって殺す心算だ?半実体化した私に対しての攻撃手段を持っているようだが、半実体化を解いてエステルの意識の奥に引っ込んだ私に対してどうやってダメージを与える心算だお前達は?深層心理にまで引っ込めば現実世界の一切の干渉を受けなくなるんだぞ私もエステルも。其れでも私が死ぬと言い切れるのかお前は?その根拠は何だ?もしかして根拠はないのか?だとしたら、私は絶対に死なんぞ。
と言う事で、私は死なない事になりました!はい、決定!決定~~!!」
「あ、アインスは死なないかも。」
「レン、アタシが言うのも何だけどやり込められないで。其れから大人気ないわよアインス。」
大人気なくて結構。
レンの事は嫌いではないが、人を喰ったような態度には少々如何かと思う事もあるので、少しばかりお仕置きと言う奴だ……あまり大人を馬鹿にしない事だってね。
その後もレンに案内されて辿り着いたのは《聖堂》なる場所……この先で《教授》が私とエステルを待っているとの事だったので、中に入ったのだが、其処には巨大なパイプオルガンが存在し、そのパイプオルガンを奏でている者が一人。
そうか、お前が《教授》だったと言う訳か!!
「ようこそ《紅の方舟》グロリアスへ。久しぶりだね、エステル君。そしてアインス君。」
「やっと思い出せた……!」
「矢張りお前だったのだな、アルバ教授……!」
「ほう?軽く封印していたとは言え、自力で思い出してしまうとは、流石は《剣聖》の娘と、其れに宿った第二人格と言った所かな?
因みに本当の名前はゲオルグ・ワイスマンと言う。《身喰らう蛇》を管理する《蛇の使途》の一柱を任されている――君達とは一度ゆっくりと話をしたいと思っていたのだよ……特にアインス君、後天的にエステル君の第二人格として宿った君とはね。」
「そうか……私も少しばかりお前には興味があるな?
永き眠りと刹那の覚醒をもってして千年を生きて来た私だがな、貴様のように相対するだけで嫌悪感を感じる外道には初めて会った……ある意味で貴重な体験をしているよ。
アルバ教授の時は巧く隠していたみたいだが、貧乏な考古学教授の皮が剥がれたお前は、此の上ない外道の波動をひしひしと感じるからな……いっその事、拷問ソムリエを召喚して外法の裁きを与えたい位だ。伊集院の旦那に裁かれてしまえ。」
「此れは何とも辛辣な事だね。だが、君達も私に聞きたい事があるのではないかね。」
「聞きたい事か……其れは勿論あるよなエステル?」
「えぇ、沢山あるわ!」
と言う訳で、BGMスタートォ!!
~タ~タラタ~タタタ~~(クリティウスの牙前奏)
此処からはずっと私達のターンってね。
エステルはワイスマンの肩書から、《結社》の最高幹部である事を推測し、リシャールを唆してクーデターを起こさせたのも、ゴスペルを使って各地で騒ぎを起こしたのも、全部コイツの仕業だったと推測したが、其れは正解だろうな。
ワイスマンも、其れを否定せずに『全ては福音計画の為』だと言ってくれたからな……尤も、福音計画の詳細については語らず、計画が第三段階まで移行し、もうすぐその正体が万人に知れ渡る事になるか……まぁ、《結社》の目的については此れ以上コイツから引き出す事は出来なさそうだ。
だが、私達が知りたい本当の事はお前達の目的なんかじゃない……単刀直入に言うぞ?ヨシュアは何処に居る?嘘偽りなく答えろ。
「アインス……でも、確かに其れが一番聞きたい事だわ。ヨシュアは、何処に居るの?」
「残念ながら、其れは私にも分からない。空賊達と何か画策しているようだが、今一動きがつかめなくてね。
ヨシュアの能力は隠密行動と対集団戦に特化されている。その方面で彼を出し抜くのは略不可能だろう――其のように調整したのは私なのだが、予想以上の仕上がりだった様だ。」
「アンタ、まさか……」
「あぁ、そんな怖い顔をしないでくれたまえ。己の実験の結果を気に掛けるのは研究者として当然の事だろう?」
「実験、だと?」
「何分、崩壊した心を再構築するなど、私にとっても初めての試みだったのでね。」
崩壊した心の再構築?……そう言えば、ヨシュアは『魔法使いによって新たな心を手に入れた男の子は、人殺しに作り変えられてしまいました』と、あの時話してくれたが、その魔法使いがコイツと言う訳か!
エステルも其れに気付き、生誕祭で擦れ違った時、コイツもヨシュアとも会っていたと言っていたのを思い出し、あの時何を言ったのか問うたのだが、返って来たのは外道極まりない答えだった。
簡潔に言えば、コイツはヨシュアに『真実』を教えたんだ。
カシウスが連れて来た時、ヨシュアは既に記憶を操作され、無意識の内にスパイとして《結社》に情報を送っていた事、そしてその情報によってクーデターが成功し《結社》の計画の準備が整ったと言う事を……成程、漸く分かったよ。何故ヨシュアが私達の前から、エステルの前から姿を消したのかが。
「其れについては悪かったと思っているよ。
其のまま素知らぬ顔で君達と暮らせば良いと勧めておいたのだが、フフ、親切心が逆に仇となったかな?」
「よくも、そんな事が言えるわね……そんな道を選ぶしかないようにヨシュアを追い詰めたくせに……!
全部……全部!!アンタのせいじゃないかぁ!!」
この腐れ外道が……だが、気持ちは分かるが交代させて貰うぞエステル。
――バシュン!!
《ちょ、何でよアインス!!》
《剣帝が居る。いや、剣帝だけでなく他の執行者もな。お前があそこで外道に殴り掛かった所で、返り討ちにされてお終いだ……無駄にダメージを受ける事も無いだろうから、止める意味で交代させて貰ったよ。》
「其処に居るんだろう、《剣帝》?其れに、《怪盗紳士》、《痩せ狼》、《幻惑の鈴》……直接会うのは初めてだが、《道化師》も……そして部屋の外には《殲滅天使》か。《執行者》がこれだけ揃うとは、此れは流石に私でも少々分が悪いか。
《剣帝》さえ居なければ強行突破はギリギリ可能だが、《剣帝》が居たのではそれも難しいか。」
私がそう言うと、隠れていた執行者達が姿を現した。燕尾服を纏ったアイツは見た事がないが、アイツがシェラザードの言っていた《道化師》カンパネルラなのだろうな。
「……俺の評価は随分と高いみたいだな?」
「《執行者》の中で私を倒したのは、不完全な状態の私であったとは言えお前だけだからな……いやぁ、あの一撃は強烈だった。私の千年の記憶の中でも、お前は此れまで戦った相手の中では三番目に強い。」
「俺が三番目か……では、一番と二番は誰だ?」
「二番目はカシウスだな。昔ドラゴンとも遣り合ったと言うのは伊達ではない。
一番は高町なのはと言う、此処とは違う世界に存在した少女だな……まだまだ粗削りだったが暴走状態の私に喰らい付いて来ただけでなく、彼女の最大の必殺技は星をも砕く破壊力があったからね。因みに私と戦った時、まだ九歳。多分レンになら勝てると思う。」
「その少女は、本当に人間なのか?」
「其の子だけでなく、其の子の家族がそもそも人間か怪しいがな……其の子の父親は、私と共に生きて来た騎士を圧倒して見せたからな。そして、戦闘能力は皆無なのに、その家のヒエラルキーの頂点に君臨していた母親が最強過ぎるんだ。」
「母は強し、か。」
「そう言う事なのだろうなきっと。」
よもや、私の話に付き合ってくれるとは思わなかったが、《剣帝》は意外と親しみ易い奴なのかも知れん……何だって、《結社》なんぞに身を置いて、こんな腐れ外道に従っているのか謎だな。
「もう、教授ったら引っ張り過ぎよ?早くエステルとアインスに、例の話をして上げて?」
「フフ、そうだったね。
では本題に入るとしよう……エステル君、アインス君、君達に此処に来て貰ったのは、是非聞いて欲しい話があるからだ。」
「私達に聞いて欲しい話、だと?」
「如何だろうエステル君、アインス君、《身喰らう蛇》に、君達も入ってみる気はないかい?」
本題と言うので何かと思ったら、まさかの私とエステルと《結社》にスカウトするだと?――伊達や酔狂で言っていると言う訳ではなさそうだが、コイツ一体何を考えている?
何故私とエステルを《結社》に誘う?その理由はなんだ?……この外道、マダマダよからん事を考えているみたいだな……!
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