Side:アインス


カルナ、グラッツ、アネラスの三人が《結社》の傀儡となってしまったと言うのは嬉しくない事だが、先ずはこの三人の正気を取り戻す事が最優先だな?
ならば今回は、私はスタンド状態で対応するのがベターだろうな。



《結社の手駒になってるなら、その状態のアインスに攻撃する事も出来るんじゃないの?》

《確かにそうだが、その可能性は低いと思っている。
 カルナ達が勝てば問題ないが、負けた場合には《結社》の技術を流出する事になるから、カルナ達は半実体化した私にダメージを与える術は持って居ないと考えた方が良い。》

《成程ね。
 にしても、カルナさんもアネラスさんもグラッツさんもやっぱり滅茶苦茶強い……だけどアタシだって負けてなんかいられない!!》



あぁ、そうだな。
私とお前は一心同体だから、お前の想いは誰よりも良く分かる……皆を助けたい、皆を守りたいと言うお前のその想いは、意思なく振り下ろされる剣先よりも、ずっと何倍も強い!
そして、其れは私とて同じ事……故に私は!



「アタシ達は、絶対に負けない!!」



シェラザードの鞭攻撃、オリビエの導力銃とシュテルの誘導弾での牽制でカルナ達を一箇所に集め、トドメは地属性と火属性の力を宿したエステルの超爆裂金剛撃と、私のオラオラのラッシュだ。……流石に本気のラッシュだと大怪我させるので、大幅に手加減はしたけれどね。
そしてこの攻撃でカルナ達の体勢が完全に崩れて無防備になった。チャンスだケビン!



「よっしゃ、俺の出番やな!!」



此処でケビンの術が発動。
其れを受けてカルナ達はその場に座り込んでしまったが……さて、巧く行っただろうか?



「……悪い……迷惑、掛けたみたいだな。」



巧く行ったみたいだな。全員無事に洗脳解除だ。――とは言え、全員完全に息が上がっている……戦った事による疲労ではなく、洗脳解除による負荷か、或は自分の意思とは無関係に身体を動かしたせいか……何れにしても、精神操作系の術と言うのは、掛けられても解除されても対象者に対しての負荷が大きいと言う事みたいだな。










夜天宿した太陽の娘 軌跡119
『洗脳解除!情報ゲット!そして……?』









カルナ達に状況を理解出来るか聞いてみると、如何やらカルナ達は《結社》に捕まった後、意識を奪われた上で『侵入者を撃退せよ』と命じられていたらしい……一応操られていた時の記憶もあるみたいだな。
グラッツはクルツも捕まってるのかと心配していたが、エステルがボースで休んでいると言う事を伝えたら安心したようだ。



「さぁ!早くここから脱出しましょう!人の気配が無い今がチャンスだわ!!」

「人気が無いってシェラザード、そんな馬鹿な!此処には執行者の他にも兵士や研究員が何十人も居た筈だよ!?」

「そうなのですか?ですが今現在此処には人の気配を感じる事は出来ません……猫の気配は何故か物凄く感じるのですが。如何しましょうか此れ?」

「「「「「「「「「「にゃ~~~ん。」」」」」」」」」」×物凄く沢山



何故此処でネコ寄せのスキルを発動したシュテル。
と言うか、此の場所に此れだけの数の猫が居た事に先ず驚きだ……取り敢えず、猫は癒しだがこの状況ではいても邪魔なだけなので、ネコ達よ即刻此の場から立ち去れ!立ち去らない場合は、ネコ鍋にするぞ!!
と、思い切り威圧したら蜘蛛の子散らすように逃げて行ったか……愛玩動物になっているとは言え野性の本能が色濃く残っているのがネコだ。勝つ事の出来ない相手を前にしたら逃げるしか選択肢はない訳だ。

しかし、執行者の他に兵士や研究員が何十人も居た筈なのに、今はもぬけの殻……如何にも奇妙だな?クルツ達に此の場所を嗅ぎ付けられた事で此の場を放棄したとも考えられるが、そうであるのならばカルナ達を操って侵入者を排除させる必要はない筈だ。見られて困る情報は全て削除してしまえば良いだけの話だからな。
もっと言うのであれば、カルナ達を其のまま攫って、洗脳して《結社》の駒として使う事も出来ただろう……にも拘らず、カルナ達は操られた状態で此の場に残されてた。まるで私達が此処に来る事を予測していたかのように。
深読みをしたらキリがないが、此れまでの《結社》の動向を考えると、読んで読み過ぎると言う事は無いだろうさ……連中は此れまで、私達の予想の一歩先を行っていたのだからね。



「そ、そうだエステルちゃん!
 あ、あのね……私、皆とはぐれて兵士から逃げてる最中にね……ヨシュア君を見掛けたの!!」



っと、此処でアネラスから特大級の、其れこそニトロ級、いや水爆級、寧ろ核爆級の爆弾が投下された!此処でヨシュアを見た、だと?
アネラスが言うには、アネラスが包囲された時に突然現れて包囲を崩してくれたとの事。顔は確認出来なかったが、『あの服と黒髪はヨシュア君で間違いないと思う』か……確かに、ヨシュアのような黒髪はリベールでは珍しいからな。……と言うか、ヨシュア以外の黒髪はカルナしか知らん。
其れでアネラス、ヨシュアは何処に行ったんだ?



「其れは分かんないです。私、結局その後直ぐに捕まっちゃいましたから。
 あっ、でもこの建物、屋上に飛行船の発着場があるんです。兵士と研究員はそっちに向かっていたから、若しかしたら!……エステルちゃん?」

「あっ!うん、ゴメン!ボーっとしてる場合じゃないわよね!
 一番の目的は要救助者の全員確保!後は皆を安全に脱出させて……」

「そうそう、其れが遊撃士としての正しい判断……ってそうじゃねぇだろ!馬鹿かお前は!!此れ以上足引っ張らせんじゃねぇよ!!」

「アタシ達は先に船着き場で待ってるからね。」

「ヨシュア君の事、宜しく頼んだよ。」



此れはまた、何とも粋な計らいをしてくれたモノだな?ならば、今は其れに甘えさせて貰おう。――此の場にヨシュアが居ると言うのであれば、私もエステルも其れを探さないと言う選択肢はないからな。
如何やら、再会の時は近いみたいだが……心の準備は出来ているかエステル?



《モチのロンよ……!!》

《ふ、聞くだけ愚問だったな。》

其処からは施設内を散策しながらヨシュアを探す事に。
途中で機械兵が襲ってきたりもしたが、其れは現れた瞬間に速攻で滅殺した……普通に戦ったら苦戦したかもしれないが、機械に過剰電流は禁物なので、雷属性の最強魔法『サンダーボルト』を叩き込んでやったら見事にショートしてしまったな。



「ヨシュア、こんな所に来てたんだ。
 結社のアジトに乗り込んだりして、ヨシュアは何をしようとしているの?」

「さてな、其れはヨシュアにしか分からんさ……っと、此処でルートが分岐か。さて、如何したモノか?」

「アタシとオリビエとシュテルはこっちを探してみるわ!屋上で落ち合いましょう!!」

「うん!!」



此処はシェラザードの機転でチームを分けてそれぞれの道を進む事に。
シェラードとオリビエとシュテル、そして私とエステルとケビン……まぁ、互いに三人のチームではあるか。半実体化の私を一人とカウントして良いのかは微妙な所ではあるがな。
其のまま突き進み、辿り着いたのは大きな部屋だった。
その床には蛇が描かれた紋章が……その紋章では蛇は自らの尾を喰らっている……ウロボロスの名に違わぬ紋章と言う事か。……尤も、ウロボロスは未来に待ち受けている己の破滅の象徴でもあるのだがな。
まぁ、其れは其れとしてな~~んか見えるぞ?あの服と黒髪……若しかしてヨシュアか!



「ヨシュア!ヨシュア!確りして!……っ!なんで、どうしてこんなに冷たいの……ねぇ!ヨシュア!起きてってば……!!」



エステルの手を通して伝わって来るが、このヨシュアはまるで死人のように冷たい……いや、そもそも生気を感じないどころか、生き物の気配すら感じない……コイツ、若しかして!!



「え、エステル……如何して君が……」

「あ……」

「エステル、代われぇぇぇ!!!」

「アカン、離れろぉ!!」



――シュン!!



人格交代をするのと同時にケビンが叫び、直後にヨシュアが攻撃して来たか……!いや、コイツはヨシュアじゃない、ヨシュアに良く似たロボットか!!



《アインス、何で交代するのよ!》

《偽物とは言え、ヨシュアの姿をした奴をお前に破壊させるのは忍びないからな……相当業腹モノだろうが、その怒りは本来ぶつけるべき相手にぶつけるまで温存しておけ。
 そしてぶつける時は遠慮しないでぶつけてやれ。熨斗付きで三倍にしてな。》

《ぶつけるべき相手に……じゃあ、お言葉に甘えさせて貰うわ。》



さてと、人形が相手では大凡満足出来そうにないな?
この動きは確かにヨシュア其の物だ。スピードも申し分ないし、双剣の使い方も見事なモノだが、所詮はインストールされたヨシュアのデータを再生しているに過ぎん。
本物のヨシュアならば正面からだけでなく死角からの攻撃、此方の虚を突く行動を織り交ぜながら盤面を自分の有利に進めて行くからな……ヨシュア最速の『絶影』も、偽物では精々『目にも止まらない速さ』が限界か。本物の『絶影』は『目にも映らない速さ』だからな……本物のヨシュアの『絶影』は私でも完璧に捉える事は出来んからな。
だが、『目にも止まらぬ速さ』であれば私ならば十分対処出来る!
再び絶影を放って来た所に、トラップカード『闇の呪縛』!と言う名のチェーンバインドで拘束し、その周囲にブラッディダガーを配置して『見えている事が逆に恐怖だろう?』と言う状況にしてから……

「ロードローラーだ!!」

《ちょっと待ってアインス、其れどこから持って来たの!?》

《外にあったやつを此の部屋に転移魔法で転送した。そして此れは厳密に言うとロードローラーじゃなくてフォークリフトだな。》

で、フォークリフトで偽物を潰した後で配置していたブラッディダガーを一斉掃射してフォークリフトを爆発させて、人形を粉砕!玉砕!!大喝采!!!ってな……マッタク持って下らん事をしてくれたモノだ。
エステルも相当にお冠だがな、私にとってもヨシュアは大事な家族だ……その家族を利用されて黙っていられるか!!


「「一体お前達(アンタ達)は、私達(アタシ達)に何がしたいんだ!」のよ!!」


エステルとハモってしまった、其れほどエステルも同じ思いだったと言う事だろう……と言うか、ハモったと同時に強制的にエステルが表に出て、私はスタンド状態にされてしまったからね。意識的に強制交換は出来ずとも、気持ちが昂ったその時は強制的に表に出る事が出来るみたいだな。



「はは、簡単過ぎるゲームだったかな?
 だが、君達の反応は中々楽しかった……お礼と言っては何だが……」



此れは、この声は聞き覚えがある……!
と、そう思った瞬間に床からガス……いや、此れは霧状の睡眠導入剤か!……エステルも其れに気付き、急いでケビンと共に部屋から出ようとしたのだが、其れよりも早く目に見えない隔壁が部屋を覆って脱出を妨げるか……!!
エステルが落ちても、私が表に出れば行動可能だが、麻酔銃を一発撃ち込まれたのとは訳が違う……部屋中に霧状の睡眠導入剤が満ちていては、流石の私でも耐え切る事は出来ん……クソ、全ては私達を捉える為の罠だったと言う訳か……まんまと、其れに……嵌ってしまった、か。



「君達を面白い場所に招待させて貰うよ。その後でゆっくりと、質問に答えてあげよう。」



私の意識が落ちる前に見たのは、ハッキリと顔は分からなかったが、悪意に満ち満ちた歪んだ笑顔だった……コイツ、間違いなく腐れ外道だな。








――――――








Side:シェラザード


私達が進んだ道は行き止まりになっていたから、引き返してエステル達が進んだ道の方に行ってみたんだけど、其処ではケビンさんが倒れていた!
慌てて起こしたら、『しもた!エステルちゃんとアインスちゃんは!?』って言うじゃない!
確かにエステルもアインスも居ない……部屋の奥にあった階段から、屋上に向かったのだけれど、一歩遅かった……!!

屋上からは飛行船が既に飛び立ち、その甲板にはエステルを抱き抱えた『剣帝』の姿が!……そして、其れだけじゃなく一緒に居たのは、アタシの記憶が正しければアルバ教授よね?あの貧乏教授、《結社》の一員だったのね……!!
でも、まさかこんな事になるだなんて……!!



「ブラスト……ファイヤー!!」

「……ふん。」



シュテルが飛行船を落とそうと砲撃を放ったけれど、其れも教授が指を鳴らした事で霧散してしまった……アイツ、如何やらトンデモナイ力を持って居るみたいだわ。
シュテルは飛んで追おうとしたけれど、単身で向かうのは危険過ぎるから此処は止めておいたけれど……でも、今の状況ではもうどうする事も出来ないわね?……何とかして助けに行かなければならないけれど、無事で居なさいよエステル、アインス……!










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