Side:アインス


瀕死の状態で発見されたクルツだったが、ケビンの治療によって一命は取り留めたか……正直な事を言うと『もうダメか』と思っていたから、一命を取り留めたと言う事にはホッとしている。
お前には感謝しても感謝しきれんなケビン。



「うおっとぉ、そないにドストレートに感謝されると、おちゃらける事も出来へんな?
 ……まぁ、実際の所俺の治療術なんてのは補助効果に過ぎん。ホンマに強いんはこのお兄さんや……普通の人間やったら、とっくに女神様に召されてしもとるわ……」

「《方術使い》クルツ・ナルダン。
 リベール王国で屈指の実力を誇る遊撃士だと聞いているが……そんな彼の身に何が起きたのか……」

「《結社》とやらの拠点を突き止め、単身で乗り込んで返り討ちにあったと考えるのが妥当かも知れませんが、リベール王国屈指の実力者だと言うこの方が、そのような無謀な事をするとは思えません。
 恐らくですが、共に乗り込んだ仲間も居た筈だと考えた方が良いと思います。」

「……その予想は大当たりよシュテル。」



シュテルの予想を肯定したのはシェラザードだった。
ルグラン爺さんに連絡を入れて詳しい話を聞いたとの事だったが、クルツは確かに《結社》の拠点に乗り込んだのだが、シュテルの予想通り単身ではなく、カルナとグラッツ、そしてアネラスを加えた四人で其の場所に向かったとの事。
その状況でクルツだけが瀕死の状態で戻って来たと言う此の状況……最悪の可能性が頭をよぎるのは致し方ないと言うモノか……!
エステルも他の三人の事を心配しているが、何にしても《結社》の拠点と思われる場所が何処にあるのか分からない限り、現状で打てる手はマッタク無い状況だ。――冒険者として前人未到の地に挑むのはロマンだが、何処にあるかも分からない敵地に乗り込もうと言うのは無謀でしかないからな。
クルツの意識が戻って、何か聞けると良いのだが。



「気付けに一発かましますか?副作用で、小麦肌の良い男になりますが。」

「止めろ、永眠してしまうわ。」

まぁ、シュテルの気付けが無くとも、クルツは程なくして目を覚ました訳だがな……アレだけの瀕死の重傷を負っていたら、普通ならば意識を取り戻すのに数日は掛かると思うのだが、真の一流と言うのはその辺も一般人とは違うのだろうな。
……絶対にありえない事だとは思うが、仮にカシウスが瀕死の重傷を負っても、アイツならばモノの一分もあれば完全復活しそうな気がしてならない。









夜天宿した太陽の娘 軌跡118
『判明した《結社》の拠点。いざ出陣!!』









意識が回復したクルツに何があったのかを聞いてみたのだが、如何にもクルツは何も覚えていないらしい。
其れに関してはシェラザードが『意識が戻ったばかりだから無理もない』と言ったが、ケビンが其れを否定し、『記憶が封印されている』と言って来た……『ゴッツイ悪意がまとわりついとるで……ソイツにとって知られたらアカン事を知ってしもたんやろな』か。まぁ、確かに《結社》にとって、拠点の場所が割れるのはあまり宜しくない事だろうからな。
だが、そうなると何故クルツの記憶を封印して生かしておいたんだ?拠点の場所を漏らさない為には、クルツを始末した方が確実だった筈だ……クルツが《結社》の予想以上に手強く、仕留めきる事が出来なかったので苦肉の策で記憶を封印したと考える事も出来なくはないが。



《記憶が封印されてるって……此れじゃ拠点が何処にあるのかも分からないわよアインス!》

《記憶の封印となると、ショックによる一時的な記憶喪失とは違うから外部ショックを与えて思い出させると言う力技も効果は無いだろう……寧ろその方法はトドメを刺しかねんからね。》

《アインスの力で何とかならない?》

《私は他者の記憶から、対象の望む幸せな夢を見せる事は出来ても、忘れている、或は思い出す事の出来ない記憶に関して干渉する事は出来ん……クルツの記憶に直接アクセスする事が出来れば、強引に記憶の封印を解く事も出来るかも知れないが、強引に記憶の封印を解いたら解いたで、他の記憶を吹っ飛ばしかねないからな。》

《あぁ、そりゃダメだわ。》



こんな遣り取りをしている間に、クルツはケビンに『教会関係者の君ならば、私に施されている記憶の封印を解く事が可能だろうか?』と聞き、ケビンは『いや、そやけど今は未だ身体への負担が大きい……』と返したのだが、クルツは『構わない!私には、共に行動していた仲間が居た筈だ……頼む、今すぐ思い出させてくれ。』と言う決意を聞いて、ケビンも記憶の封印を解く事を決めたようだ。
……記憶の封印を解くと言うのは、矢張り可成り身体に負担が掛かるモノだった様で、クルツも大分苦しんでいたが、如何やら必要な情報を思い出す事は出来た様だ。

取り戻した記憶によると、《結社》の拠点はヴァレリア湖北西の湖岸にあって、其処に《結社》の研究施設が秘密裏に建造されていたとの事……ヴァレリア湖の湖岸と言うのは人目について目立ちそうなモノだが、《結社》は施設の上空にダミー映像を展開し、地上から近づくと濃霧が発生するようにしてカムフラージュしていたらしい。
で、クルツはカルナ、グラッツ、アネラスと共に霧を抜けて研究施設に潜入したが、其処で《執行者》の待ち伏せにあって総崩れとなり、クルツだけが命辛々戻って来たと言う訳か……《執行者》の待ち伏せにあっても生きて帰って来たと言うのは正に幸運だな。
だが、だからこそよく生きて戻って来てくれたクルツ!



「アインスの言う通りよクルツさん!ありがとう、結社への手掛かりを見付けてくれて……生きて帰って来てくれて……!
 安心して!皆は絶対に助け出して見せるわ!!アタシ達に任せて!!」

「エステル君……宜しく、頼む……」



其れだけ言うと、クルツは安堵したのか気を失ってしまった……だが、此れでやるべき事が見えて来たな?――だが、分かってると思うがエステル。



「みなまで言わないでよアインス……言われなくても分かってるわ、此れまでよりもずっと危険だって言う事は。
 でも、アネラスさん達の事を考えたら一刻の猶予も無いわ……其れに、何時かは必ず《結社》と対決する事になるって覚悟はしてた――其れが少しだけ早まっただけよ!」

「ふっ、違いない。」

「……短い休暇だったわね。」

「焼滅の力、揮う時が来たようですね。」



シュテルもやる気十分だな?
オリビエも『僕も付いて行っていいかなー?』とか抜かしていたが、シェラザードが『ダメって言っても聞かないでしょアンタは』とバッサリ……まぁ、ダメと言われて大人しく引き下がる魂じゃないからなオリビエは。
ケビンも『一緒に連れて行って貰おか?』と言い、其れは流石にと思ったエステルが『ダメよ。』と言ったのだが、『助けたアネラスちゃん達が、さっきみたいな術掛けられてたらどーすんの?』と言われては何も言えんな。
ケビンは少々胡散臭い所もあるが、カノーネの戦車を無力化したと言う実績もあるから実力的には申し分ないから大丈夫だろう……其れに、戦力は多くて困る事はないからな。



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仕度を終えてボートに乗り込み、目指すはヴァレリア湖の北西湖岸!
とは言っても、今回の目的はカルナ、グラッツ、アネラスの救出が最優先事項なので、深入りや余計な戦闘はせずに、全員の生還を第一に行動すべきだな……その過程で避ける事の出来ない戦闘は全力全開で敵を殲滅するけどね。
其のまま進んで行くと程なく霧が立ち込めて来たか……クルツの話通りだな。
普通ならば迷う所なのだろうが、クルツによって既に場所が割れているから霧が出たからと言って迷う事はない。真っ直ぐ進んで辿り着いたのは、何とも巨大な建物だった。
よもやリベールのど真ん中にこうも堂々と《結社》の拠点があるとはな……此れまで見つからなかったと言う事を考えると、其れを見付けてしまったクルツ達は流石と言うべきだろうね。

取り敢えず中に入ってみると、最初に入った部屋はまるで工場のようだった。
複数のベルトコンベアに機械の部品、そしてケビンに言われて気付いたのだが、アーネンベルクで私達を襲って来た機械兵器……ケビンが言うには現代の導力技術で造られたとの事だが、奴等はこんなモノまで研究していたと言うのか?



「結社がこんなものを研究していただなんて……何よ、此れを沢山作って戦争でも起こそうって言う訳?」

「いや……或は其れ以上の事を考えているのかも知れないよ?」



アーネンベルクで戦った機械兵器だけでなく、此の部屋にはグランセル城の地下で戦った巨大な機械獣『トロイメライ』が存在していた……あの事件の後行方が分からなくなったと聞いていたが、まさか結社が押収していたとはな?
もしも此れが量産されて世界にばら撒かれたとしたらトンデモナイ事になるのは間違いないか……



「どうして、こんなモノが此処に……」

「予想以上にヤバい施設だったみたいやね……」

「あぁ、其のようだな。
 早いところアネラス達を助け出して、早急に離脱した方が良さそうだ。」

「そして離脱の過程で可能であればあの巨大なロボット持って行くとしましょう。エルトリアに持って帰って、レストアして復興用マシーンとして活用する事にします。」

「古代のアーティファクトが復興用のマシーンとは贅沢極まりないな。」

しかし、この建物は不自然な程に人の気配がないな?
《結社》の拠点と言う割にはアッサリと入る事が出来たし、何よりも侵入者に対しての防犯ブザーすら鳴らないと言うのは幾ら何でも不用心過ぎると思うんだがな?……裏を返せば、それだけ見つからないと言う自信があるのだろうが、既にクルツ達に見つかってる上に、クルツを仕留め切れなかった以上は此の場所が割れているのは予想している筈だ。
にも拘らず、侵入者に対しての対応が何もないだけでなく、人の気配もしない……若しかして、此の場所が知られてしまった事で、《結社》は此の場所を捨てた……?

そんな事を考えながら施設内を巡り、一階の最奥部まで来たのだが……



「「「………」」」



其処には、クルツと共に拠点に突入した筈のカルナとグラッツとアネラスの姿があった。
三人とも怪我はないみたいだが……



「あ……カルナさん!」

「グラッツ!!」

「アネラスちゃんも……」

「よかった!皆無事だったのね!アタシ達もクルツさんから事情を聞いて……「待て、エステル!」……え?」

「何か様子が変だ!」



――ダッ!



と言った瞬間、アネラスが斬り込んで来た!
ル=ロックルでの合宿の時に散々見た攻撃だったのでエステルも回避出来たが、其の攻撃を皮切りにグラッツとカルナも攻撃して来たか……ハイライトが消えた子の瞳、完全に自我を失っているようだな此れは。



「其れって、あの時のレイヴンと同じって事よね?」

「あぁ、恐らくそうだと考えて間違いないだろう!――ケビン、彼等に掛けられている暗示を解く事は可能か?」

「アインスちゃん……モチのロンやで!任せとき、皆まとめて正気に戻したるわ!!」



ならば、任せる!
一気に暗示を解除できるよう、アネラス達を一箇所に纏めるのがベターだろうな……だが、お前達は実力が中々に高いので少しばかり荒っぽくなってしまうかも知れん。
お前達を助ける為の必要経費として、其処は容赦してくれ……さて、行くぞ!!














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