Side:アインス
竜が居るであろう場所に向かって歩を進めて辿り着いたのは大きな空洞であり、其処に竜はいた……微動だにしないが、此れは眠っているのか?だとしたら行き成りの好機到来なのだが、お前は如何思うエステル?
《眠ってるわよね此れは?……だったら、此れはチャンスじゃない?レーヴェの姿も見えないみたいだし。》
《そうだな、巧く行けば眠っている内にゴスペルを破壊する事も出来るだろう……尤も、其の為には竜を起こさないように近付いての一撃必殺が絶対に必要になる訳だがな。》
私の魔法ならば其れも出来るが、私の魔法は基本的に広域殲滅型だからピンポイントで狙うのには向いていないのでな……此処は矢張り、対ゴスペルの機能を備えた重剣に出張って貰った方が確実と言うモノだろう。
任せても良いかアガット?
「言われるまでもねぇ、先ずは俺が一人で接近する。巧く行きゃ其のまま《ゴスペル》ぶっ壊せんだろ。……大丈夫だ、心配すんな。」
「アガットさん……」
「……気を付けて!」
アガットは竜を起こさないように細心の注意を払いながら竜に近付いて行き、一足飛びで攻撃出来る距離まで来ると、一気に地面を蹴って力の限り重剣を《ゴスペル》に叩き付けた!
その一撃は、的確に《ゴスペル》に炸裂したようだが、その瞬間に《ゴスペル》が起動して同時に竜も目を覚ましてしまったか!大丈夫かアガット!!
「ヒビは入ったが破壊はマダだ!もう一度やってみる!手を貸してくれ!!」
「っ!勿論!!」
「あぁ、是非もない!!」
先程の一撃で破壊出来れば最高だったのだが、流石にそう簡単には行かないか……《ゴスペル》を装備させられた竜とは、何とも強大な相手ではあるが、あくまでも目的は竜の討伐ではなく《ゴスペル》の破壊だからな?ならば、其方に集中すればクリアはそう難しくない筈だ。
ならば私達は、重剣士が今度こそ《ゴスペル》を破壊出来るように全力で露払いをしてやるだけの事……さて、行くぞ。
夜天宿した太陽の娘 軌跡115
『竜との決着!明かされた実験の首謀者』
とは言え、この巨体を相手に真正面から額を狙うのは、砲弾が詰まった大砲に真っ向から挑むようなモノだから出来れば避けたい所だが……さて、如何したモノか?――と思ってる間に竜が炎のブレスを放って来たか。
まぁ、その炎は地属性アーツで錬成したタングステンカーバイトで防ぐ事が……
「ブラストファイヤー!!」
――ドッガァァァァァァン!!
「私の直射砲と相殺するとは、流石は竜の息吹と言ったところですね?其れとも竜の怒りと言うべきでしょうか?或は、バーストブレスでしょうか?」
「ポケモンか遊戯王かで統一しろシュテル……と言うか相殺するか普通?今のは絶対に防ぐ所だろうに……まぁ、其れは良いとして、さて如何したモノだろうな此れは?」
「……一瞬で良い、竜の動きを止めろ!!」
「アガット!?」
アガットは何か思いついたのか、足早に崖を駆け上って行く……成程、そう言う事か!!
如何やらシェラザードも気付いたらしく、ティータに『閃光弾みたいなモノはある?』と聞き、其れがあると分かると『其れを真上に打ち上げて!アタシ達が竜の動きを止めるから!』と指示を出した。……此れだけの事で、何をするか察して返事をしたティータも大したモノだよ。
ティータの準備が出来るまで、私達は竜の足止めだ。
今回は手数が欲しいので、私はスタンドモードだな……意外な事に、竜の攻撃は半実体化している私には無効だった。……如何やら、《ゴスペル》には半実体化した私に攻撃を有効にする機能はないみたいだな?
……逆に言うと、《結社》は《ゴスペル》とはまた別の物で『物理的に触れられない相手に触れる事が出来る装置』を開発したと言う事になる訳だが、マッタク持って本気で底が見えない連中だ。
だが、今回は無敵モードで行けると言うのは正直ありがたいな?何しろ相手は、竜なのだからね。
『ギャァァァァァァァ!!』
「無駄無駄無駄ぁ!効か~ぬ、効かぬわ~っはっは!!」
踏み付けにカウンターの昇龍拳!……普通の人間だったら、首から上が吹き飛んでバラバラになる技も、竜にはあまり効いていないのが少し複雑だ。
まぁ、私達の役目はあくまでも時間稼ぎだから良いのだがな。
そうこうしている内にアガットは崖の上に到着し、ティータの方も準備が出来たようだな?今だティータ!閃光弾、てぇぇぇぇ!!
「はい、行きます!!」
ティータが作った閃光弾は、竜の意識を引き付ける為に飛行時に大きな音が出るようになっていたらしく、其の音に釣られるように竜は上を向き、そして其処で閃光弾が炸裂して強烈な光が!!
私達は炸裂前に目を覆ったから大丈夫だが、真面に閃光を喰らった竜は目が眩んだ筈だ!一気に畳み掛ける!!
「行くわよ!!」
「狙わせて貰うよ!!」
「ディザスターヒート!!」
シェラザードの鞭術、オリビエの導力銃の攻撃、シュテルの三連射の直射砲……何れも竜にクリーンヒットしてその巨体を揺るがせたが、まだ足りない。
だから此れで竜を挫くぞエステル!既に棒術具の先には火、水、地、風の四属性を付与してあるから思い切りぶちかませ!!
「モチのロンよアインス!行っくわよーー!超必殺、轟爆滅殺金剛撃!!」
「此れで如何だ……喰らえ、破壊拳一閃!!」
火、水、地、風の四属性を宿したエステルの金剛撃と、時、幻、空の三属性を宿した私の拳を受けた竜は遂にダウンしたが此れで終わりじゃない……ブチかませアガットォォォ!!!
「ドォォリャァァァァァァ!!!」
崖の上から飛び降りたアガットは、重剣を真下に向けて竜の額の《ゴスペル》目掛けて突進し、その切っ先を《ゴスペル》に突き立てる!
重剣の重量に、アガットの体重、更に落下速度まで加わったこの一撃は、先程の一撃とは比べ物にならない破壊力がある……恐らく、単純な破壊力で言えば最低でも五倍はあるだろうね。
そして、其の攻撃は効果抜群で、《ゴスペル》は砕け散り、竜も完全にダウンしたか!
「アガットさん、大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ……如何やら、巧く行ったみてぇだな?」
「凄いわアガット!本当に、あの《ゴスペル》を壊しちゃうなんて!」
「剣帝に半殺しにされた上で復活してパワーアップしたか?瀕死から復活したらパワーアップするとか、サイヤ人かお前は……だが、此れで一件落着と言ったところかな?」
『見事だ。』
え?何だ、今の声は?……って、竜が!まだ動く事が出来たのか!!
『見事だ人の子よ……良くぞ、此の身を戒めから解き放ってくれた。』
「り、竜が……」
「喋った……!?」
いや、此れは竜が話したと言うよりも、私達の頭の中に直接語り掛けて来ていると言った方が正しいか?……流石は竜、人知を超えた事をアッサリとやってくれるモノだな。
『我が名はレグナート。この地に眠る竜の眷属だ。』
「あ、アタシはエステル・ブライト。ゆ……遊撃士よ。」
『ブライト……成程、道理で覚えのある匂いがする訳だ――お主、『剣聖』の娘だな?』
お前、カシウスを知っているのか?
『二十年前、最後に会った人間の一人だ。
剣の道を極めると言って無謀にも挑んで来た……勿論返り討ちにしてやったが、未だ壮健で居るのか?』
「う……うん……ピンピンしてるわ。な……なんか、すみません。」
「何やってんだ、あのオッサン……」
ホントに其れな。
剣の道を極める為とは言え、普通生身で挑むか竜に?……いや、そもそもにしてカシウスを普通の物差しで測る事其の物が間違っているか。下手したらカシウスは、全盛期の私とも互角に戦う事が出来るだろうからな。
全盛期の私は、其れこそ一人で結社を潰す事も出来ると思うのだが、其れと互角に戦えるって言う時点で大分人間辞めてるなあの親父は……此れはアレだ、伝説の親父『Mr.OYAZI』を襲名しろだな。
其れはまぁ良いとして……レグナートよ、私達はお前に挑みたくて此処に来た訳ではない。言葉が通じるのならば聞いてくれ……もうこれ以上、街や村を襲わないでくれ!
『無論その心算だ……アレは私の意思ではないのでな。
とは言え、私が被害を与えてしまった事に変わりはない……こんな事で良いのか自信は無いのだが……』
そう言うと、私とエステル、そしてアガットの手に何やら石が……マルガ鉱山で見た記憶があるような?と思っていたら、シェラザードが『ゴルティアの結晶じゃないの!?この大きさだと、一つ一千万ミラは下らないわよ!?』と言って来た……つまり、合計で最低三千万ミラと言う訳か。
レグナートは『街と村の長に、私が付けた爪痕のせめてもの代償として渡して貰えぬか?』と言ったのだが、そうなると被害の規模的にラヴェンヌ村に一つ、ボースに二つと言った所かな?或は、私の手の中にある結晶を真っ二つに割って平等に分けるか……後者にしておくか。
で、私もエステルも勿論届ける気は満々だったのだが、アガットは『ダメだな』と言い、レグナートも『矢張りモノでは伝わらぬか……』と少し寂しそうな感じになってしまったか――が、アガットは別に意地悪をしようとした訳でなく、単純に『プロの遊撃士である自分達を、只でこき使おうだなんて虫が良過ぎる』と言って運搬料を要求しただけだった。……確かに、遊撃士に何かを依頼するのであれば無料でと言うのは有り得ないか。遊撃士は慈善団体ではない、依頼者との契約によって仕事が成立するモノだからね。
『ふふ、では此れで頼めるかな?』
「……よし、契約成立だ。アンタの誠意は、責任を持って村長と市長に届けてやるよ!」
『うむ、くれぐれもよろしくな。』
レグナートがアガットに米粒ほどのゴルティアの結晶を渡して無事に契約成立だな。
……時にレグナート、お前が街を襲ったのは自分の意思ではないと言っていたが、そうなるとお前は操られていたと言う事になるのだが……
『うむ……私はあの漆黒の機に意思を奪われ、あの男に操られていただけだ。』
「やっぱり!
あのレーヴェって男は、貴方の額に《ゴスペル》を付けて、一体何の実験をしようとしていたの?」
『一応、誤解を解いておくが、私に漆黒の機を付けたのは銀の剣士ではないぞ。』
私の質問にレグナートが答え、更なる質問をエステルがしたのだが、返って来たのは予想外の答えだった……《ゴスペル》をレグナートに付けたのは剣帝ではないと?
レグナートが言うには、剣帝は被害が大きくなり過ぎないように手を尽くしたとか……寧ろ剣帝がレグナートの暴走を抑えなければ街や村を破壊し尽くすまで止まらなかったに違いないとはな?
『私にアレを付けたのは、『教授』と呼ばれていた得体の知れない力を持つ男。
教授の目的は只一つ……あの機が私に効くかどうかを見て完成度を確かめたかったのだろう。《輝く環》の《福音》としてのな。』
「此れはまた気になる単語が出て来たモノだな?《輝く環》と言えば、リシャールが求めた……正確に言えば求めさせられたモノじゃないか。
レグナート、お前は《輝く環》が如何言ったモノであるか知っているのか?」
『……其れは、何処にも無いがあまねく存在しているモノ。
無限の力と叡智と共に絶望を与える存在でもある……其れを前にした時、人は答えを出さなくてはならない。』
「……?其れって如何言う……」
「まるで太古の遺跡に残された碑文の様だな?」
『私から言えるのは此処までだ――さらばだ人の子よ。お主等が答えを出した時、私はもう一度姿を現そう。其の時が来るのを、待っているぞ。』
其れだけ言うとレグナートは大空へと飛び立ってしまった……あの感じでは、恐らくアルセイユでもその姿を捕らえる事になるだろう。間違いなくドロシーが大興奮でシャッターを切りまくるだろうな。
取り敢えず、レグナートに装着されていた《ゴスペル》は破壊したし、レグナートも正気を取り戻した訳だから今回の騒動は一段落と言った所だが、実験は剣帝が行ったモノではなく、其の更に裏に居る『教授』とやらが行ったモノだったのか……!
何者かは知らんが、竜ですら操る其の力は決して侮る事は出来ないモノであるのは間違いないし、此のまま《結社》を追っていれば何れ出会う事になる相手であるのは確定してると言えるからな……剣帝以上に、警戒しておいた方が良いかも知れん。
まぁ、取り敢えずは一段落付いた訳だし、報告の為にボースに戻るとするか。……レグナート、また会える日が来る事を願っているよ。
To Be Continuity 
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