Side:アインス


レグナートに埋め込まれた《ゴスペル》は破壊し、レグナートも正気を取り戻したので今回の竜騒動は取り敢えず一段落か……メイベル市長は『古代竜も私達と同じく被害者なのだから、償いの必要はない』と言っていたが、レグナートからの『誠意』は受け取る事にしたようだ。……街の復興には其れなりの金も必要と言う事を考えると、レグナートが寄越したゴルティアの結晶は有難いモノだろうからね。

ルグラン爺さんは、『今回の竜騒動は本当にご苦労じゃったな。まさに遊撃士協会の面目躍如と言った所じゃぞ』と言ってくれたが、手放しで喜ぶ事が出来ないのもまた事実だ。
結局のところ実験は阻止出来なかったし、此れで五つの地方全てで実験が行われた事になる訳だからな。



「《剣帝》レーヴェは、この実験が終わったら次の段階へ移るって言ってたわ。《結社》が如何動くのか、ちゃんと見極めて行かないと!」

「其れなんじゃが……ワシに一つ提案がある。お前さん達……此処等で少しばかり、骨休みをせんか?」

「「「え?」」」



だが此処でルグラン爺さんからまさかの骨休めの提案が……曰く『連戦続きでは身も心も疲れ果ててしまう。竜の一件で軍の警戒が一層厳しくなり、その分此方には余裕が出来た。』との事だ。
言わんとしている事は分かるがルグラン爺さん、《結社》は何時またどこで何をしでかすか分からないのもまた事実。そんな時に休んでいると言うのは如何かと思うのだが……?



「実はな、如何やらクルツ達が連中の拠点に目星を付けたらしいんじゃ。」

「なに……?」

「目星って、結社のアジトが分かったの!?」

「うむ。数日中には確かな情報が入る筈じゃ!
 そうなればまた一気に忙しくなる……じゃから今、休める内にしっかり休んでおいて貰いたいんんじゃよ。」



成程、其れならば確かに今はゆっくりと体を休めておくべきなのかもしれないな?
《結社》の動向が掴めない状況であるのならば休んでいる事など出来ないが、拠点が判明すると言うのであれば話は別だ。拠点が明らかになってしまえば、此れまで後手に回っていた此方が初めて攻勢に出る事が出来るからな……其の時に最大の力を発揮する為にも、今は休むべきか。
『真のプロとは、休むべき時にしっかり休んで、必要な時に常に十全の力を発揮出来るようにしておくものであり、休まずに只只管働くのは二流の仕事馬鹿だ。』と言う言葉を聞いた事があるからね。










夜天宿した太陽の娘 軌跡116
『休暇進呈とラヴェンヌ村での一幕』









その休暇は、メイベル市長が『ボースが誇る最高の宿を手配しますわ。其処でゆっくり疲れを癒して下さい。』と、如何やら川蝉亭に宿を取ってくれたみたいなのだが、アガットは『ラヴェンヌ村にも竜の依頼品を届けなきゃいけねぇし。』と言って辞退し、ティータも『砕けちゃったけど、新型のゴスペルの現物が手に入ったから、一度ツァイスに戻ってお爺ちゃんの手助けをしたい。ゴスペルの謎は私達が絶対解いてみせるから!』と言って矢張り辞退。
とは言え、アガットは兎も角、ティータをツァイスまで一人でと言うのは流石に気が引けるから、私達が一緒について行くかエステル?



「そうね、そうしましょアインス。」

「いや、お前等は休暇に集中しろ。俺がツァイスまで送ってやるよ。」

「良いんですか、アガットさん!?」

「ついでに爺さんに重剣の仕様を聞いておきたいからな。ウルトラDX……ってやつ。
 そう言う訳だから、俺らの方は気にせずにゆっくりと休んで……なんだよその目は?」

「なんでって……なぁ?」

「いや、なんかもう……」

「とても仲睦まじく見えるモノで。」

「あの夜はよっぽどの事があったのね?」

「愛の伝道師として、嫉妬を感じずにはいられないよっ!」

「若いモンはえぇの~~!」



ティータが紅蓮の塔での一件以降アガットに懐いているのは知っていたが、今ではアガットの方もティータの事を何かと気に掛けているみたいじゃないか?流石にティータはまだまだ子供なので、アレだが……不良系兄貴分遊撃士と、純真無垢な少女と言うのは、全然アリな気がするな。
そんな私達の態度に、アガットは『付き合ってられねぇ』とばかりに、ティータは笑顔でギルドを後にし、その際にメイベル市長がアガットに何かを言いかけたのだが、アガットは其れに振り返らずに後ろ手に手を振るだけだった。
メイベル市長とアガットは何かあったのかと思ったら、エステルも同じ事を思っていたらしくて、メイベル市長に聞いたのだが……十年前の百日戦役が終わった直後に、アガットがメイベル市長の家を訪ねて来た事があり、当時の市長だったメイベル市長の父親に凄い剣幕で喰って掛かって来たらしい。
『地方全体を統括する市長が、何でラヴェンヌ村を見捨てたのか。』と……そして其れを見たメイベル市長は、一方的に父親を糾弾するアガットに頭に来て平手打ちをかましてしまったと……其れはまぁ、確かにちょっと気まずいな。

「だが、其れはある意味仕方ないのではないか?メイベル市長の父上は、きっと精一杯尽力したのだろう……だと言うのに、その父親が一方的に糾弾されたとなれば黙っている事が出来ないと言うのは道理だと、私は思うぞ?」

「えぇ、私も『父がドレだけ尽力したのか知らないクセに!』と思いましたが……でもここに来て、あの時彼が妹さんを亡くされていた事を初めて知りました。――私は、十年間もあの方を誤解していたのですね。」

「でも……其れはちゃんと言わなかったアガットにも責任があると思うわよ?」

「そう、ですわね。
 だから私は今まで思っていたんです、『如何でも良い』と。あの方の事なんて、私には関係ない事なのだ……と。
 ……本当にお馬鹿さんですわね。今ある問題は全て過去に起因すると言うのに……知らなければ、解決など出来る筈がないのに、ね。
 其れで……何とかして十年前の事を謝ろうとしたのですが……ダメでした。」

「大丈夫よ、市長の気持ちはアガットにも伝わっている筈だから。」

「男と言うのは、素直になれない困った生き物なのさ。」



お前は己の欲望に素直過ぎると思うがなオリビエよ。
しかし、今ある問題は全て過去に起因するか……確かにその通りだな。ヨシュアが私達の前から居なくなってしまった『今』は、ヨシュアの『過去』に起因している訳だからな。
その過去があるから今に繋がっている訳だが、『今』はまだ見ぬ未来へと繋がっているのだから、『今』を如何動くかで幾らでも未来を変える事は出来るんだ……滅びの運命は変える事が出来ないと諦めていた私とは違い、我が主と小さな勇者達は決して諦めなかった結果、永遠に破壊を撒き散らす闇の書の運命を終わらす事に成功したのだからね。
だから、私達もヨシュアを連れ戻すと言う『未来』を掴むために、『今』を生きねばだな。



《アインス……そうよね!!》

《そして其の未来を掴むためにも、今は休暇を楽しむとしようじゃないか?……川蝉亭は釣りも出来た筈だから、久しぶりにやるか?どうせなら、ヴァレリア湖の主釣りに挑戦してみようじゃないか。》

《主釣り……良いわね!一番の大物を釣り上げてやるわ!そんでもって、川蝉亭で調理して貰いましょ!!》

《いや、主だったらリリースしような?流石にヴァレリア湖の主を食べたら罰が当たると思うから……最悪の場合、私達が人魚になって水の中でしか生きられない存在になってしまうかもしれん。》

《か、下半身が魚になるのは流石に遠慮したいわね。》



取り敢えず、川蝉亭で釣りをするのは決定事項と言う事で。
そして、この時の釣りが、後のエステルの『爆釣伝説』の幕開けになるとは、この時の私もエステルも全く思っていなかったのだけれどね……まぁ、其れに関しては特に詳しく語る事でもないけどね。








――――――








Side:アガット


村長に竜からの依頼品を届ける序に墓参りでもと思ったんだが、ティータも一緒に付いて来ちまったか……ま、当然か。俺からあんな話を聞かされちまったコイツが、墓参りに一緒に来ないなんて事はしないだろうからな。ったく、悪かったな付き合わせちまってよ?



「ううん、私もちゃんと挨拶したかったから。ミーシャさんに……」

「そうか……」

ってな訳で慰霊碑と墓石があるラヴェンヌ村の高台までやって来たんだが、其処には慰霊碑の前で膝を付いて祈りを捧げてる奴が……アイツは、モルガン将軍?アンタ……如何言う風の吹き回しだ?



「いや……ワシは別に……」

「ん?」

その花は……そうか、そう言う事だったのかよ――毎年そんな風に花を捧げてる奴が居るなーーとは思ってたたけどよ……そうかい、この花はアンタが捧げてくれてた訳か。
……なんか微妙な空気になっちまったが、其処はティータが『私達も一緒にお花を供えて良いですか?』って聞いた事でリセットってか。ガキの純粋さってのはこう言う時に助かるぜ。



「お主は言っておったな、ワシ等は何時も間に合わんと……」

「アレはその……ガキみてぇな八つ当たりだ、気にしねぇでくれ。」

「いや……其れも一理あると思ってな。
 膨大な物や情報を処理する為に、軍は巨大かつ細分化した組織へと進化して来た……が、その弊害で遊撃士のような臨機応変さが失われてしまったのは紛れもない事実だ。」

「けど、アンタ等の組織力のおかげで竜を居場所を特定する事が出来たんだろ?軍の体制全部が間違ってるって訳じゃねぇさ……」

遊撃士に軍の真似は出来ねぇが、逆に軍だって遊撃士と同じ様に動けるって訳じゃねぇんだ……其れでも、お互いに守りてぇモノ、守るべきモノってのは同じなんだからよ、必要に応じて今回みたいに協力すりゃ、其れで良いんじゃねぇのか?



「うむ、そうする事で互いを補い正しくあらんと確かめ合う……其れが多分、ワシ等の関係の正しい在り方なのだろう。」

「へへ……だよな!」









「……ふふ、和やかなところ悪いが、少し邪魔させて貰うぞ?」








!!この声は……テメェは、《剣帝》レオンハルト!!テメェ、一体如何言う心算だオラァ!!



「此処は死者の眠る場所……やるべき事は一つだ。」

「なに……?」

コイツ、この前とは違って闘気も殺気もまるで感じねぇ……あの金色の剣も持ってねぇみたいだし、剣の代わりに持ってるのは花束?しかもソイツを慰霊碑に供えて祈りを捧げるって、意味が分からねぇぞ?
……いや、そういやレグナートは、この野郎は寧ろ被害を大きくしないようにしてたとか言ってやがったな?《結社》の《執行者》ってのはトンデモねぇ力を持ったヤバい思考形態の連中かと思ったが、コイツは違うってのか?
モルガン将軍も不思議に思ったらしく、コイツに色々聞いてるが、『俺は俺の命ずるまま、《結社》の手足として動いている。』とかテメェの本心を語る気はねぇみたいだな。



「だが、お主の意志は《結社》の其れとは違うのではないか?
 先の件でも被害が大きくならぬよう竜を抑えたそうだな?だとすればその行為は我々と同じ……「将軍閣下!」……む?」

「貴方方と同じにしないでもらおう!《ハーメルの沈黙》を強いられた貴方方と!!」



って何だぁ?イキナリ感情露わにしやがったなこの野郎?
ハーメルって、確か昔ラヴェンヌと交流のあった帝国側の村の事か?……ってオイ!!
……コートを翻して行っちまったか。もしも何かしでかしてくれやがったら、其れこそ相討ち覚悟でブッ飛ばしてやる所だったんだが、ミーシャに、死んじまった村の連中に祈りを捧げただけの奴にそんな事は出来ねぇな。
にしても、良く分からねぇ野郎だぜ。



「あの人、ずっと寂しそうな眼をしていましたね。」

「……おい、モルガン将軍。アンタ何か知ってんのか?ハーメル村……何でアイツからその名が出て来る?」

「其れは、ワシの口から言う事は出来ん。
 ただ、もしもワシの想像が当たっているのであれば、あの男、余程の地獄を見たに違いない。……そう、お主が十年前に見た以上の地獄を、な。」



何だよ其れは……!
十年前のラヴェンヌ村の惨状は、其れこそ地獄其の物だったが、あの野郎は其れ以上の地獄を見たってのか?……だとしたらあの野郎、心に一体ドレだけの傷を負ってやがんだ……如何やら《執行者》ってのは、単純にクソッタレな悪人で済ます事は出来ねぇみてぇだな……!













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